【自主レポート】自治研活動部門奨励賞

第34回兵庫自治研集会
第13分科会 地域で再生可能な自然エネルギーを考える

 2011.3.11以降、再生可能な自然エネルギーの利活用によって、エネルギーの地産地消をめざす議論が全国で高まってきている。市民をはじめ地域の多様な主体の協働による小規模分散型の市民共同発電所を設置し、環境にやさしいエネルギーで得られた“富”をさらに地元経済の活性化に活用する、近江商人の経営哲学を継承する“三方よし”「東近江モデル」を再生日本のための地域密着型自立モデルとして提唱する。



クリーンエネルギーで地域を元気に
-売電収益を地域商品券で配布する市民共同発電所の取り組み-

滋賀県本部/東近江市職員組合 山本 享志・植田 光彦

1. はじめに

 2011.3.11は、人智を超えた自然災害を前に、人間が如何に無力であるかということを知らしめただけでなく、原子力や化石燃料に過度に依存した近代科学文明の限界、また市場経済万能主義にもとづく“拡大成長・大規模集約こそが良”とされるわが国の社会構造そのものに強く再考を促すこととなった。
 被災地における日常生活やその後の復旧にむけた現地の労苦は想像を絶する現実が今もなお続いている中で、地域に根ざした再生可能エネルギーの利活用を推進していくことは地域主権の観点からも重要である。
 国策任せでない適正規模・適正技術による“身の丈にあった”エネルギーの地産地消モデルを確立し、あわせて地元商工業の活性化を促すことが急務である。
 東近江市からはこれらの一助となるであろう多様な主体の連携による市民共同発電所と地域商品券流通のコラボレーションモデルを紹介し、全国への普及を提案したい。


2. 東近江市・東近江市職員組合の概要とこれまでの取り組み

 東近江市は、琵琶湖を抱える滋賀県の中東部に位置する面積約388km2、人口約12万人の内陸型工業地域と肥沃な農業地帯を併せ持つまちである。2005年と2006年の2度にわたって周辺の1市6町が合併し、現在の姿となった。
 現市長西澤久夫氏は自治労滋賀県本部書記長などを歴任し、自治研究活動の充実と行政施策への反映を主張してきた。就任した2009年度に当時の民主党政権(総務省)が提唱した環境と経済の共生により地域創富力を産み出すという『緑の分権改革』を具現化するため、部局横断的な政策を担う「緑の分権改革課」を新設。面積・人口規模・地理的特性から東近江市を「日本の1,000分の1スケール」と捉え、多様な地域主体と連携しながら「食」、「エネルギー」、「地域ケア」の自立をめざす「東近江モデル」の確立をめざしている。
 東近江市職員組合は、市の合併と時期を同じくして、2005年2月に結成。合併した1市6町のうち、1市5町が自治労加盟、1町が未組織であったが、合併対策委員会を組織し、規約や組合財産・人事の統合について調整を重ね、現在は組合員数約650人で組織する。
 結成当初より、自治労や連合など関連産別組織のみならず、地域住民との連携によるまちづくりや地域に根ざした公務員労働組合のあり方の議論や参加を求めることを目的に、執行部に「自治研究部」を設置。専任の執行委員3人を配置。これまで合併後のまちの姿を深く知るために地元学習ツアーを企画したり、5周年結成記念には地域主権をテーマにした市民公開講座を企画したりしてきた。また、組合員の自主研修を支援する「三人寄れば文殊の知恵」事業を公募で毎年実施し、成果の共有化や行政施策への反映を図ってきている。


3. 市民共同発電所の導入経過と現状

【市民共同発電所1号機】
 市民共同発電所とは有志が少しずつ資金を持ち寄り、公共施設の屋根などを借りて太陽光発電システムを設置。
 売電して得られた富をみんなで分け合うというものであり、アパートや借家在住であっても太陽光発電システムの恩恵を受けることが可能であり、また設置した施設は非常時に緊急用電源が常に確保できるというメリットもある。 
 本年7月からの全量買取制度の施行により、富の再分配やクリーンな地域エネルギーづくりに多くの市民が関与も期待できる。
 東近江市で初めて市民共同発電所が設置されたのは2003年12月。合併前の旧八日市市においてである。
 当時、市の「新エネルギービジョン」策定に関わった推進会議のメンバーが中心となり、66の市民有志・団体が資金を出し、5.99kWの太陽光発電システムを市内にある農産物直売施設の屋根に設置した。
 これは単に売電益を分かち合うだけでなく、自然エネルギー活用の手法をひろく一般に可視化したモデルである。
 合併後の2010年1月に地元FM局の屋根に設置した出力4.3kWの2号機は、29の個人・団体から協力を頂いた。この2号機には新たに2つのアイデアが加えられている。一つは持続可能な自然エネルギー活用の可視化をさらにすすめるためにスマートメーターを設置し、さらに5分毎に直近の発電量をツイッターで誰でも確認できるようにしたこと。
 もう一つは、売電益を地元商店で流通可能な「三方よし商品券(地域商品券)」で分配したことである。
【市民共同発電所2号機】
 これによって、“東近江市に降り注ぐ自然エネルギーによって得られた富を、エコ活動に取り組む市民の手によって地元の商工業振興に役立てる”というモデルを確立し、また市民・商工団体行政の連携によって、“自然エネルギーの利活用は地域経済の活性化にもつながる”ということを実証することが可能となった。
 このアイデアの実現には、商品券の発行管理や取り扱い商店の拡大など地元商工団体の連携と協力に拠るところが大であった。
 運営については、それぞれの発電所ごとに組合を組織し、資金や売電益の分担額を決定している。さらに非営利の任意市民団体であるコミュニティビジネス推進協議会がこれら両組合の諸調整や運営コンサルティングを行なっている。


4. 「三方よし商品券(地域商品券)」展開の現状と近江商人の哲学

 地域商品券の活用による地元経済の活性化は、これまでも政府主導のものから地元商工団体によるものまで数多くの試行がなされてきたが、多くは一過性の税の再分配の域に留まり、地域経済にとって持続性のある政策とはなり得なかった感がある。
 東近江市においてもクリーンなエネルギーによって得られた富を地域に循環するしくみを模索していたが、2009年7月より市内の商工団体(1商工会議所・6商工会)と連携し、これまで現金で支給していた太陽光発電システム設置補助金を地域商品券にて交付する方式に転換した。
 この地域商品券は、近江商人の経営哲学を継承する思いをこめて「三方よし商品券」と命名。市内の400あまりの商店などで引き換え可能とし、さらに交付日より6カ月間の有効期限を設定した。
 これは商品券の価値を揮発性にすることによって、地域内での経済循環速度が加速すると見込んだためである。2010年には前述の市民共同発電所が売電によって得られた富をこの三方よし商品券にて資金提供者に還元する方式を採用し、環境と経済の共生モデルを確立した。
 三方よし商品券の交換可能店舗の拡大や独自の付加サービスの提供については、現在、商工団体を中心に検討が進められているが、市においてもこれまで現金支給であった既存の補助金や交付金、激励金や謝礼について、三方よし商品券への転換を緑の分権改革課が中心となり部局横断的に検討を進めた。
 結果、議会での議決や条例改正を要しない約230万円分をわずか3ヶ月間で商品券に転換することができた。これらの可能性についての検討も現在引き続き進められている。
 かつて全国で活躍した数多くの近江商人が経営のモットーとしたのは、“売り手よし・買い手よし”だけでなく“世間よし”を追求する「三方よし」である。これは単に当事者のみが利を得るのではなく、社会全体の向上に寄与しなければならないとする今日のCSRの先駆とも言える思想である。
 また日常生活や仕事の面では“しまつする”姿勢が何よりも重視された。「しまつする」とは、今や国際語にもなった“MOTTAINAI(もったいない)”と同義であり、単なる節約やケチではなく、人・モノ・コトが本来持つ価値を最大限に活用し、ムダを出さないというライフスタイルの提案であり、今日の「3R」や「持続可能な社会づくり」に通じるものである。
 私達は、この先人の精神遺産を少なからず引き継ぐものとしてこのモデルを位置づけている。


5. 職員組合の参画と組合員の意識

 東近江市職員組合は結成当初より地域に根ざした住民との共同参画を活動の基本としている。よって、“住民の信頼に応え得る行政サービス実現のため”という言葉を要求や行動の前に必ず置くことを基本としている。
 組合員の賃金・労働条件の改善は組合活動の基本であるが、時勢を的確に捉えた行政サービスを提供するための団結であり要求行動でなければ地域住民の信頼を得ることは叶わず、また公務員労働組合としての存在価値はないと考えるからである。
 「市民共同発電所」、「三方よし商品券」は、部局を横断した俯瞰的な視野を持ちながら、多様な主体性を持つ市民や団体との連携を試みた現場組合員の存在なしには実現し得なかった施策である。
 市民共同発電所については、現在2ケ所あるが、東近江市職員組合は稼動当初より組合費の中から資金提供を行っている。約650人の全組合員が市民共同発電所に参加していることになる。
 また三方よし商品券については2012年の定期大会以降、全組合員へ配布する大会記念品をはじめ、各種組合行事の景品を一部三方よし商品券に転換した。これにより組合員への制度周知を図るとともに、約70万円を超える組合予算が地元協働の名の下、地域に循環することとなった。


6. 課題と展望

 メガソーラー誘致にむけた議論が地方で活性化している。遊休地・耕作放棄地の有効活用という点では期待できる施策ではあるが、建設前後の地域への経済効果や天候に左右されやすい大容量の電気の活用法については解決すべき課題も存在する。用法を誤ると地方から都市への富の流出をさらに招くことにもなりかねない。
【「ぎんりんBiz」イメージ図】
 東近江市が、職員組合をはじめ多様な主体性を持つ市民との連携により構築したこれらの取り組みは、非常にささやかな一歩ではあるが、エネルギーの地産地消、そして万一に備えた小規模分散自立型エネルギーの確保につながるものであり、また設置やメンテナンス、そして運用管理についてはシステムが簡便なために地元の雇用も期待できる仕組みとなっている。
 2010年10月、東近江市では太陽光発電システムで充電できるスポットを市内に数箇所設置し、電動アシスト自転車で市街地を移動しながら、スポットで充電済みのバッテリーを交換する移動スタイル『ぎんりんBiz』として提唱。これは、商工団体と市内にある太陽光パネル製造メーカーとの連携で具現化し、現在主に市職員の公用車代わりとして福祉部局の訪問調査や建設管理部局の現場立会業務などを中心に活用している。
 本年6月には、東近江市は公共施設の屋根を条件付きで貸し出す条例改正を行った。これは、市民共同発電所の普及を行政施策として支援することを目的としたものである。
 巷間で言われる“失われた20年”の価値観を支配した成果主義・市場経済原理主義は、まがりなりにも安定していた国民生活の中で“一億総中流意識”構造を解体させ、「個」の孤立や「持つものと持たざる者の格差」の固定化を加速させることとなった。これにより地方経済はますます疲弊している。
 また多発する自然災害と連動した人災は、核や化石燃料に過度に依存した現代文明への警告でもある。
 政府や政策決定者に対して疑問の声を上げたり、対案提示をしたりしていくことは組合運動の基本であり、重要ではあるが、「エネルギー」や「食」、「地域ケア」についてはいつまでも国策任せではなく、ささやかではあっても“身の丈にあった”地域密着型自立モデルの構築が必要であり、まちの姿(特に現場)をよく知る組合員の積極的な関与、地域住民との協働が今後ますます地域では必要であると考える。