【自主レポート】

第36回宮城自治研集会
第1分科会 ~生きる~「いのち」を育む・いかす、支えあう

 今や100人に1人が精神の病気を抱え、さらに7人に1人はうつ病にかかると言われるストレス社会となっている。自分とは無関係と思っていたが、実際に精神の病気及び精神障がいのある方と接した時にその症状や行動に驚いてしまい、また、自分の精神障がいに対する知識や理解の無さ、不十分な対応に後悔した。福祉業務に携わりまだ数ヶ月であるが、レポート作成を通して理解を深めるとともに玖珠町における課題について考えたい。



精神障がい者に対する玖珠町での取り組みと課題


大分県本部/玖珠町職員労働組合 松園 敬心

 精神の病や精神障がいは、周りから見て分かりにくいため十分な理解をされていないのが現状である。まず、精神障がい者が一定の精神障がいの状態であることを証する手段として精神障害者保健福祉手帳がある。

1. 精神障害者保健福祉手帳

 精神障害者保健福祉手帳とは、一定程度の精神障がいの状態にあることを認定するものである。

(1) 対象となる方
 何らかの精神疾患(てんかん、発達障がいなどを含む)により、長期にわたり日常生活又は社会生活への制約がある方を対象としている。
 対象となるのは全ての精神疾患で、以下のようなものが含まれる。
・統合失調症
・うつ病、そううつ病などの気分障害
・てんかん
・薬物やアルコールによる急性中毒又はその依存症
・高次脳機能障害
・発達障がい(自閉症、学習障がい、注意欠陥多動性障がい等)
・その他の精神疾患(ストレス関連障がい等)
 ただし、知的障がいがあり、上記の精神疾患がない方については、療育手帳制度があるため、手帳の対象とはならない。(知的障がいと精神疾患を両方有する場合は、両方の手帳を受けることができる。)また、手帳を受けるためには、その精神疾患による初診から6ヶ月以上経過していることが必要になる。
 精神状態が快方に向かった場合など、諸事情で更新申請をしない場合、申請をしても不支給の認定を受けた場合は、手帳は自治体へ速やかに返還することとなり、有効期限後は効力を失う。手帳が失効した場合は、都道府県知事が記載する精神障害者保健福祉手帳交付台帳から個人記録は削除される。
 精神障害者保健福祉手帳の等級は、1級から3級まで定められている。

1級 精神障がいであって、日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度のもの
(概ね障害年金1級に相当)
2級 精神障がいであって、日常生活において著しい制限を受けるか、または日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のもの
(概ね障害年金2級に相当)
3級 精神障がいであって、日常生活もしくは社会生活が制限を受けるか、または日常生活もしくは社会生活に制限を加えることを必要とする程度のもの
(概ね障害年金3級に相当)

(2) 精神障害者保健福祉手帳の所持者数
 玖珠町の精神保健福祉手帳の所持者は、2013(平成25)年末現在で66人となっている。年々増加傾向にあり、2008(平成20)年度から2013(平成25)年度の6年間で13人増加している。等級別では「2級」が最も多く、全体の半数以上を占めている。
H20年度H21年度H22年度H23年度H24年度H25年度


1級
2級414439534249
3級13121212
資料:玖珠町福祉保健課(各年度末現在)

(3) 受けられるサービス
 精神障害者保健福祉手帳を所持していれば次のようなサービスを受けることができる。

<全国一律のサービス>
  公共料金等の割引
   ・NHK受信料の減免
  税金の控除・減免
   ・所得税、住民税の控除
   ・相続税の控除
   ・自動車税・自動車取得税の軽減(手帳1級が対象)
  その他
   ・手帳所持者を事業所が雇用した場合の障がい者雇用率へのカウント
   ・障がい者職場適応訓練の実施

<地域・事業者により実施されていることがあるサービス>
  公共料金等の割引
   ・携帯電話料金の割引
   ・上下水道料金の割引
   ・重度心身障がい者医療費助成(1級)
   ・公共施設の入場料等の割引
  手当の支給など
   ・通所交通費の助成
   ・軽自動車税の減免
  その他
   ・公営住宅の優先入居

 上記のようなサービスがあるなかで玖珠町独自の取り組みがある。


2. 玖珠町精神障がい者通院助成手当(平成23(2011)年4月1日玖珠町告示第169号)

<目 的>
 在宅で生活を送る精神障がい者に対し、通院助成手当(以下「手当」)を支給することにより、デイケアの促進、外出の促進、ひいては社会参加の促進を図ることを目的としている。

<支給要件>
 ① 玖珠町に3ヶ月以上居住し、住民基本台帳法(昭和42(1967)年法律第81号)第5条の規定により住民基本台帳に記録されている者
 ② 精神障がい者
 (精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(昭和25(1950)年法律第123号)第45条第2項の規定により精神障害者保健福祉手帳の交付を受けた者をいう)
 ※生活保護受給者はこの助成を受けられない。

<手当支給額>
  精神障がい者1人につき  
   ・1級     年額 12,000円
   ・2級及び3級 年額  6,000円
<支給実績>
等 級2013年度2014年度
1級対象者数3人対象者数1人
支給額36,000円支給額12,000円
2~3級対象者数48人対象者数48人
支給額273,000円支給額263,500円
合 計309,000円合 計275,500円
※ 年度途中の新規支給対象者は支給要件を満たした日の属する月から支給されるため、対象者数の増減の結果前年度と同じ対象者数であっても支給額に違いが出る。

 玖珠町には精神障がい者が通院する医療機関がなく、通院に負担が生じている現状からこの取り組みは今後も続ける必要がある。
 このような取り組みがある一方で精神障がい者をめぐる環境について課題もある。


3. 「精神障がい者相談員」の設置

 相談員制度が県から権限移譲となり、玖珠町では身体及び知的障がい者相談員の設置はできているが、精神障がい者相談員の設置ができていない状態にある。
<身体及び知的障がいにおける相談員制度>
 原則として、身体障がい者相談員は身体障がいのある方に、知的障がい者相談員は知的障がいのある方の保護者の方に、各市町村長が委嘱している。相談員は、同じ障がい者または障がい者の家族の立場で自らの経験を生かして、障がいのある方やその家族の相談に応じている。
 玖珠町では身体障がい者相談員は3人、知的障がい者相談員は1人委嘱されて活動している。
<精神障がいにおける相談員制度の現状>
 玖珠町では2012(平成24)年度から身体及び知的障がい者相談員を設置したものの、精神障がい者相談員の設置は行っていない。
 全国的に見ても、現在、身体障がい者相談員、知的障がい者相談員は、それぞれ、身体障害者福祉法、知的障害者福祉法に規定されているが、精神障がい者や家族が相談にのる制度はない。精神保健福祉法上に相談員制度が設けられているが、他障がいのような仲間という立場での相談員とは違い、行政職が担う相談員の制度となっている。
 同じ体験をした家族・当事者が相談することで、孤立していた人は安心して自分の胸の内を話すことができ、相談をきっかけに仲間の会への参加につながる人もいる。現状の障がい者の相談機関で精神障がいにかかわる相談は増えており、精神障がい者や家族のニーズは極めて多いにもかかわらず、相談の受け手が少なく困っている状態である。精神障がいについて同じ体験をした仲間の立場で相談ができる相談員が必要とされている。玖珠町においても年々精神障害者保健福祉手帳所持者が増加していることから、相談員の設置は検討すべきものとなっている。


4. 相談員設置の検討に向けて

<相談員の意義>
 私は相談員の意義を次のように考える。同じ体験を共有することで、安心感、親近感をもって相談ができ、かつ体験の共有者としての出会いをもたらす。専門家や医学書では理解できなかったこと、受け入れられなかったことが体験者としての家族から具体的な情報を得ることにより納得でき、また病気・障がいの「受容」への手助けが得られ、苦しみの中に慰めと希望を見出すこともある。お互いを助け合う育て合う場の発見ともなるだろう。

<必要性>
 2013(平成25)年に成立された「障害者差別解消法」の観点から考えても、身体・知的障がいには相談員制度があるのに対し、精神障がいにはない状態はその意に反している。また、年々増加している相談数、精神障害者福祉保健手帳所持者数をみても、相談員の必要性は高いと考える。
<相談員の要件>
 他障がいの相談員要件を参考にすると以下の要件が考えられる。
  ① 人格識見が高く、社会的信望があること
  ② 精神に障がいのある者の福祉の増進に熱意を有し、奉仕的に活動ができること
  ③ その地域の実情に精通していること
  ④ 民間篤志家として相談できる者であること
<活動内容>
 相談員の活動は、次の内容が考えられる。
  ① 精神障がい者の医療、金銭、余暇等の日常生活に関する相談を行うこと。
  ② 精神障がい者の社会復帰に関する相談を行うこと。
  ③ 精神障がい者に対する正しい知識の普及に努めること。
  ④ その他上記に関連する業務を行うこと。
<注意点>
 体験共有者ゆえ、個人的体験の押し付けには注意が必要である。傾聴と受容が重要ではあるが、相談者が必要としている点を把握・整理して医療・保健関係者に結びつけることや相談に応じることが大切である。相談員設置にあたっては相談員養成の研修会を定期的に開催することも必要であろう。
 その他検討事項
  ・相談員の数
  ・報酬および任期
  ・関係機関との連携体制
  ・委託書、相談員としての身分証明証などの様式
 2012(平成24)年6月に成立した障害者総合支援法の附帯決議のなかでも、「精神障害者やその家族が行う相談の在り方等の支援施策について、早急に検討を行うこと」が課題となっている。上記の内容をさらに調査研究し三障がい(身体・知的・精神)すべての相談が受けられる制度を検討する必要がある。


5. おわりに

 精神の病や精神障がいは、周りから見て分かりにくいため十分な理解をされていないのが現状である。精神障がいは疾患と障がいが共存しており、気分が沈む、意欲が出にくい、考えがまとまりにくい等の精神症状により、労働や日常生活、対人関係等生活に障がいが生じる。さらに、資格の制限・就職や結婚への影響等、社会的に様々な不利益を被る場合もある。そのため、医療だけでなく福祉の対象として捉える必要がでてくる。個人の精神障がいに対する理解を深めることはもちろん、障がいのある方への経済的な支援や相談員の設置など社会全体で障がい者やその家族を孤立させず支えていく必要がある。
 今回の調査を通して、身体・知的障がいと比べて精神障がいにおいては法や支援制度の整備が遅れているように感じた。福祉業務に携わるようになってまだ間もないため、浅はかな調査となってしまったが今後も調査研究を重ね障がいのある方にとってよりよい社会になるよう努めていきたい。