【要請レポート】

第36回宮城自治研集会
第2分科会 ~生きる~「いのち」を守る

 佐賀市は、暮らしから発生するごみ・排水など「廃棄物であったものがエネルギーや資源として価値を生み出しながら循環するまち」をめざすべき将来像とした「バイオマス産業都市さが」の取り組みを進めています。これは単なるエネルギー政策でも環境政策でもなく、地域が抱える課題を解決するためのバイオマスの活用です。本レポートでは、特に藻類バイオマスの活用による新産業創出をめざした取り組みを紹介します。



バイオマス産業都市さが
―― 藻類によるまちづくり ――

佐賀県本部/佐賀市環境部・バイオマス産業都市推進課 北村 敦子

1. はじめに

 佐賀市は、暮らしから発生するごみ・排水など「廃棄物であったものがエネルギーや資源として価値を生み出しながら循環するまち」をめざすべき将来像としたバイオマス産業都市構想を策定し、2014年11月に国からバイオマス産業都市の選定を受けたところです。
 ごみ処理や排水処理のための既存施設をバイオマス活用の核施設と位置付け、構想におけるバイオマス活用プロジェクトを推進していくとともに、佐賀市が仲介役となり、市民・事業者・行政が連携を図ることで、新たなエネルギーや資源が地域内で循環するしくみを構築し、環境の保全と経済的な発展が両立するまち「バイオマス産業都市さが」の実現をめざしています。
 「佐賀市バイオマス産業都市構想」では下記に示す6つの事業化プロジェクトを立案し、バイオマスを活用した産業創出・育成を推進しており、特に藻類バイオマスを活用した新しい産業の創出に取り組んでいます。

(1) 清掃工場二酸化炭素分離回収事業
 清掃工場の排ガスから二酸化炭素を分離回収し、微細藻類の培養や農作物の栽培に活用することにより、産業の創出を図る。

(2) 木質バイオマス利活用事業
 温泉旅館などに木質バイオマスボイラーを導入し、地域の製材所から発生する端材などの木質バイオマスを活用する。

(3) 下水浄化センターエネルギー創出事業
 地域バイオマスの集約による電力自給率100%の下水処理施設の実現をめざす。

(4) 微細藻類培養によるマテリアル利用及び燃料製造事業
 清掃工場で発生する二酸化炭素や下水浄化センターで発生する二酸化炭素及び下水処理水を活用した微細藻類の培養を行うなど、微細藻類関連産業の集約をめざす。

(5) 家畜排せつ物と事業系食品残さとの混合堆肥化事業
 事業系食品残さと家畜排せつ物を混合し、良質の堆肥製造を行う。

(6) 事業系食品残さと有機性汚泥の混合利用事業
 事業系食品残さと有機性汚泥を混合し、エネルギー利用を行う。

2. 取り組みの背景

 佐賀市は、2005年10月と2007年10月の2度の市町村合併により、佐賀市内に4か所のごみ処理施設を有することとなりました。経費削減と発電電力の増加を目的として、4施設の中で唯一発電設備を備えた佐賀市清掃工場へのごみ処理機能の集約を計画しましたが、周辺自治会との合意に達したのは2012年11月であり、最初の合併から7年の歳月を要したことになります。
 ごみ処理施設や下水処理施設などは、市民生活に必要不可欠な施設でありながら、どちらかというと「迷惑施設」という捉え方をされていました。市側では、そのようなイメージを何とかして変えていかなければならないとの問題意識を持ち、この間、科学的なデータなども示しながら地元の理解を促すなどの努力を続けていました。
 佐賀市下水浄化センターでは海苔養殖に配慮し、下水処理をコントロールすることで、季節により、窒素やリンの値を調整する「季別運転」を行っています。また、下水汚泥の肥料化や下水処理の過程で発生する消化ガスによる発電を行ってきました。
 佐賀市清掃工場では、同じく、地域振興に貢献できる施設にするための取り組みとして、余熱の温水プールへの利用や発電電力の売電などを行ったりしていましたが、電力と熱以外で、より地域に役立つ施設にしていくための取り組みとして着目したのが二酸化炭素の活用でした。
 このような背景の下、佐賀市はバイオマス産業都市として、清掃工場(ごみ処理施設)や下水浄化センター(下水処理施設)を拠点とし、施設から生み出される二酸化炭素や下水処理水・脱水分離液などを活用した藻類産業の集積をめざし、「藻類によるまちづくり」に取り組みます。

【佐賀市清掃工場】
所在地佐賀市高木瀬町長瀬2369
敷地面積 50,600m2
竣 工2003年3月
ごみ処理能力 300t/日(100t/24h×3系列)
燃焼設備全連続ストーカ式燃焼炉
余熱利用設備蒸気タービン発電機 出力4,500kW
 高温水発生装置
 
【佐賀市下水浄化センター】
所在地佐賀市西与賀町高太郎2667
敷地面積90,221m2
竣 工1978年11月
汚水処理能力81,500m3/日
処理方式標準活性汚泥法(4池)
 担体投入活性汚泥法(3池)
排除方式分流式

3. 清掃工場二酸化炭素分離回収事業

(1) 事業概要
 ごみ処理施設からの二酸化炭素の分離回収は前例がないものであったため、2013年度に佐賀市、株式会社東芝、荏原環境プラント株式会社、九州電力株式会社の4者で共同研究を開始しました。2013年10月に佐賀市清掃工場内に、日量10kgの二酸化炭素を分離回収する試験装置を設置し、また、2014年10月には回収した二酸化炭素で野菜を栽培する植物工場(2坪のコンテナハウス)を併設し、二酸化炭素の回収にかかるコスト評価や回収した二酸化炭素の安全性の確認を行いました。
 佐賀市では、この2年間の研究成果を踏まえ、2015年度に環境省の補助を受け、実用レベルである日量10tの二酸化炭素を回収する設備の建設に着手し、2016年8月にこの設備が完成しました。回収した二酸化炭素は、佐賀市清掃工場に近接する約2haの土地に建設された株式会社アルビータの藻類培養施設へパイプラインによる供給を行っています。
 アルビータは、佐賀市清掃工場から供給される二酸化炭素を活用してヘマトコッカス藻を培養し、化粧品やサプリメントなどの原料となるアスタキサンチンを抽出する事業を始められています。

植物工場と二酸化炭素分離回収試験装置   佐賀市清掃工場周辺写真

(2) 二酸化炭素分離回収方法
 二酸化炭素を含んだ清掃工場の排ガスは、スクラバー(洗浄装置)で配管を傷める成分を取り除かれた後、吸収塔に導かれます。排ガス中の二酸化炭素は吸収塔に供給されているアミン水溶液に吸収され、二酸化炭素を取り除かれた排ガスは煙突から排出されます。
 一方、二酸化炭素を吸収したアミン水溶液は再生熱交換器という装置を経由して再生塔へ送られます。そして、リボイラで加熱されることによって吸収されていた二酸化炭素が分離されます。分離された二酸化炭素はコンデンサーでの冷却によって水分を除去されて回収されます。二酸化炭素が分離したアミン水溶液は再生熱交換器と冷却器を介して吸収塔へと送られ、再び排ガス中の二酸化炭素を吸収します。このサイクルを繰り返すことによって排ガスに含まれている二酸化炭素を連続的に分離回収します。

(3) 二酸化炭素分離回収事業フロー


(4)二酸化炭素分離回収設備

4. 下水浄化センターエネルギー創出事業

 佐賀市下水浄化センターでは、下水汚泥を消化発酵させた際に発生する消化ガスを回収し、消化ガスによる発電を行っており、施設使用電力の約40%を自家発電で補っています。この発電事業を発展させ、下水汚泥に食品系工場から生じる副生バイオマスなどの地域のバイオマスを混合し、消化ガスの発生量及び発生電力量の増加を図り、さらなる電力自給率の向上をめざす事業に取り組んでいます。地域バイオマスの混合は、一方では、下水処理施設における下水処理の負荷を高めることになるため、その対策として微細藻類を活用する計画です。
 佐賀市は2014年2月から世界で唯一ミドリムシの屋外大量培養技術を有する株式会社ユーグレナと藻類の培養に関する共同研究に取り組んでおり、藻類の一種であるミドリムシの培養に通常用いる培地と下水処理の過程で生じる脱水分離液がほぼ同等の生育効果を持つこと、ミドリムシが体内に脱水分離液中の窒素やリンを取り込むことを確認しています。

 
消化ガス発電設備

 この成果を踏まえ、2015年度から、下水処理の過程で発生する消化ガスから二酸化炭素を分離回収し、脱水分離液中の窒素やリンとともにミドリムシの培養に活用することにより、二酸化炭素の活用効率、ミドリムシの生産量や品質、脱水分離液返流負荷の低減効果等を研究する実証事業に取り組んでいます。
 この事業は、国土交通省の下水道革新的技術実証事業(B-DASHプロジェクト)の採択を受け、佐賀市、株式会社東芝、株式会社ユーグレナ、日環特殊株式会社、株式会社日水コン、日本下水道事業団の6者により実施するものです。

 
下水浄化センター周辺写真   下水道革新的技術実証事業(B-DASHプロジェクト)

5. 藻類関連産業の集積

(1) 藻類バイオマス活用の効果
 このように当市では、清掃工場で発生する二酸化炭素や下水浄化センターで発生する二酸化炭素及び脱水分離液を用い、微細藻類の低コストかつ効率的な生産方法を確立することで微細藻類関連産業の集約をめざしています。
 バイオマスを活用した産業は、生産に必要な資源を域内から調達できるため、生産段階における資金の域外への流失が少ないというメリットがあります。バイオマスの中でも、特に藻類産業に関連する施設は全国に例がない地域資源となるため、これらの施設を観光の振興に活用することもできます。
 また、微細藻類は、食料や化粧品の原料として活用されているほか、肥料、飼料の原料として、さらに、微細藻類から抽出・精製されるオイルはバイオ燃料としての研究が進んでおり広い分野での活用が期待されているため、大きな経済波及効果が得られるものと考えています。

(2) 藻類研究開発機関と藻類産業推進組織
 佐賀市がめざす藻類関連産業の集積は、藻類の培養(第1次産業)から有効成分の抽出・製品加工(第2次産業)、流通・販売(第3次産業)までの6次産業化を視野に入れたものです。技術的に発展途上であり、その用途においても未開拓の分野が多いといわれている藻類産業を持続可能なものにするためには、市場ニーズに対応した藻類の選抜と培養方法の確立、藻類からの効率的な成分の抽出・精製方法の確立など、関連技術の開発と連携する必要があり、そのような技術面をサポートする研究施設の設置が必要です。
 そこで、佐賀市、地元の佐賀大学、国内の藻類研究を先導している筑波大学の三者で、佐賀市に藻類の共同研究開発機関を設置する方向で検討を始めたところ、2015年12月に基本合意に達し、2016年8月には三者による「藻類バイオマスの活用に関する開発研究協定」の調印式を執り行いました。現在、藻類開発研究機関の設置に関して関係者間の協議を進めている状況であり、これと併せて、産学官で構成する藻類産業推進のための組織を立ち上げることにより、藻類関連産業が地域に根付いた産業として確立・発展するような仕組みを構築します。

6. まとめ

 2016年8月に佐賀市清掃工場近接の2haの土地における藻類培養事業が開始されました。そして、隣接する21haの用地においても藻類培養施設を建設すべく法手続きに着手する予定であり、この土地を藻類培養事業地とする計画が実現すれば、世界規模の施設となると考えています。
 バイオマス産業都市とは単なるエネルギー政策でも環境政策でもなく、地域が抱える課題を解決するためのバイオマスの活用であり、藻類バイオマスを活用した新たな産業の育成により新技術分野やその関連産業の企業誘致を進め、雇用の創出を図るなど、佐賀市の地方創生策のひとつとして取り組みます。
 当初から「2020年、佐賀空港からバイオ燃料の飛行機で東京に行こう」を目標に掲げ、「バイオマス産業都市さが」としての事業に取り組んできました。今後も実用レベルでの藻類燃料化の実現に貢献できるよう佐賀市における「藻類によるまちづくり」を進め、培養・抽出・加工などの一連の事業展開と研究開発が相互に連携することにより、佐賀の特色を活かした藻類産業が当地における一大産業へと成熟・発展するような取り組みをめざします。