【自主レポート】

第36回宮城自治研集会
第5分科会 まちムラの見方「見えているもの」と「見えていないもの」

 私は、地域が開設している「越前しらやまSATOYAMAスタジオ」(以下、しらやまスタジオ)において、地域の若者として、番組制作に関わっています。しらやまスタジオは、Ustreamやyoutube、地元FM局を通じて、越前市白山地区の魅力を発信している番組で、20代の若者が30~60代の力を借りながらどのような魅力発信ができるのか、他の地区の人たちに興味が持ってもらえるのか、日々考えながら行っています。そんなしらやまスタジオの活動内容と活動を通じて感じたことについて考察を行います。



伝えるのは地元愛!? しらやまスタジオ
~若者の地域活動参加をめざして~

福井県本部/越前市職員組合・自治研推進委員会 前田 利隆

1. はじめに

(1) 越前市の概況
 越前市は、福井県のほぼ中央に位置し、2005年10月に旧武生市と旧今立町が合併して誕生しました。
 面積は230.75km2であり、福井県域の5.5%を占めており、人口は83,149人で、世帯数は29,397世帯です(2016年7月1日現在)。
 本市の歴史は、継体大王伝承に見られるように大変古く、越の国と呼ばれた頃から拓けた地域で、旧武生市には「大化の改新」の頃に国府が置かれ、政治・経済・文化の中心地として栄えました。「源氏物語」の作者・紫式部が、越前国司として赴任した父・藤原為時とともに1年余り暮らした地でもあります。
 また、モノづくりが盛んで、越前和紙や越前打刃物、越前箪笥などの伝統産業から電子部品等のハイテク産業まで幅広い産業が集積し、福井県内有数の工業製造品等出荷額を誇る産業都市であります。

(2) 越前市白山地区
 越前市白山地区は越前市の西部に位置し、標高250m~350mの里山に囲まれた標高150m前後の小盆地です。この里山に注ぐ北陸特有の降水量により、豊富な水に恵まれています。自然の湧水と小さな浅いため池が点在し、全国的にも希少な生物多様性の自然環境に富んでいます。そのため日本の里100選に選ばれ、2004年には環境省から「里地里山保全再生モデル」の実施地域に指定されました。また、2013年には、地区内でコウノトリ2羽の飼育が開始され、2015年には卵から孵ったコウノトリ2羽の放鳥が行われました。
 しかし、自然豊か=田舎といったイメージからか、若者の流出が進み、少子高齢化と人口減少が加速しています。そんな中で、しらやま振興会では近年、地域の特性を生かし、都市部でのまちなか交流事業や、「しらやま大使」と「しらやまファンクラブ」事業、市民活動団体との連携を行うことで、地域の活性化に取り組んでいます。

越前市白山地区の位置
白山地区の風景
白山地区の特産品
しらやまスイカ

2. 地域や人の魅力を発信!! しらやまスタジオ☆

(1) しらやまスタジオとは
 私が住んでいる地域では、上記のとおり、都市部でのまちなか交流事業や、「しらやま大使」と「しらやまファンクラブ」事業、市民活動団体との連携を行うことで、地域の活性化に取り組んでいました。しかし、その取り組みは30~60代の人たちが中心となり活動を行っているものであり、20代の若者が参加し、活動を行っている事業がありませんでした。そこで、20代の若者の地域振興活動の受け皿とし、若者に地元愛や生活を行う場所として考えてもらうため、また、しらやまの魅力や振興会事業の紹介を幅広く行うためにUstreamやyoutube、地元FM局である「たんなん夢レディオFM79.1MHz」を媒体に2013年8月3日に「しらやまスタジオ」を開設しました。その中で、私は地域の若者として、番組制作の中心メンバーの一人として取り組むことになりました。

(2) たんなん夢レディオ
 特定非営利活動法人たんなん夢レディオは、福井県鯖江市およびその隣接地域を対象とする、NPOの運営によるコミュニティ放送局です。福井県では2番目に開局し、NPOによる直接経営の放送局としても北陸初のラジオ放送局です。誰のものでもなく、誰のものでもある電波を通して"市民自らが発信する力をつけよう"を理念として放送を行っています。


3. しらやまスタジオの取り組み事例

(1) レギュラー放送と出張放送
① レギュラー放送
 レギュラー放送については、下記のとおりです。
 放送日及び時間:毎月第2、第4日曜日 午後1時から午後1時59分まで
 放 送 媒 体:Ustream、たんなんFM79.1MHz、youtube(過去の放送)
 放 送 場 所:しらやまいこい館(コウノトリPR館)、白山地区内
 レギュラー放送は、たんなんFM79.1MHzの放送に合わせ、毎月2回しらやまいこい館より、白山地区のイベント紹介や自然、有名人紹介、特産品の紹介など、白山にゆかりのある内容を約1時間放送しています。
 放送内容については、放送日前の平日夜に打合せを行い、どのような内容にするのか、どのようなイベントが開催されているのか、いろいろな情報を集めた上で、決定しています。特にイベントがあれば、ビデオカメラやデジタルカメラを持っていき、イベントに参加する中で、主催者や参加者の生の声を取材し、時には、スタジオへ生出演していただくこともあります。
 また、出演者には楽しく番組に出て欲しいとのことから、放送前に主な質問事項や放送の流れを打合せし、それ以外は自由に発言してもらうようにするなど、手軽に出演できるラジオ番組をめざし、制作しています。

 
しらやまスタジオとは?   番組の様子

② 出張放送
 しらやまスタジオでは、レギュラー放送以外にも、白山地区内で放送を行っています。
 ア しらやま夏祭り
 白山地区では、毎年8月第1土曜日にしらやま夏祭を開催しています。しらやまスタジオではサテライトスタジオを臨時開設し、放送を行っています。夏祭りでは、キッズダンスや地区の特産品販売、町内対抗盆踊りなど様々な内容をリアルタイムで放送し、地区外の人でも楽しめるような内容で放送しています。
 イ 福井新聞社コウノトリ支局
 白山地区で2009年に開所した福井新聞社コウノトリ支局では、新聞記者が白山地区に根をおろし、地域の人たちとともに里地里山の魅力や課題を考え発信を行っていました。残念ながら2016年3月をもって、コウノトリ支局は閉所してしまいましたが、2014年から3年間、しらやまスタジオも支局内にサテライトスタジオを開設し、新聞記者の人たちにも出演いただきました。
 コウノトリ支局からの放送は特に緊張したもので、若者の地域参加や女性から見た白山の魅力についてなど普段は扱わない様な内容で放送をお送りしました。その時福井新聞社の記者から言われた言葉で、「いい意味で練習の様な本番」は堅苦しくない、ゆるいラジオ放送をめざす、しらやまスタジオを象徴する言葉として、番組内でもよく使用しています。
 ウ ほたるカフェ
 毎年6月の土曜日、日曜日に廃校になった小学校分校校舎を利用し開催される「ほたるカフェ」にもサテライトスタジオを開設しています。ほたるカフェでは、各種ワークショップの様子やミニコンサートなどの様子を放送し、ほたるカフェに来た人達へインタビューを行っています。

(2) しらやま夏祭りでの司会
 これまで、夏祭りの司会はプロの司会者に依頼していました。しかし、夏祭りの経費削減やしらやまスタジオの地区内での認知度の向上を目的に、しらやま夏祭りの司会を2014年から行っています。実際、しらやまスタジオでは2013年から1年間放送を行いましたが、放送は地区外に向けたものがほとんどで、地区内の人達へ知ってもらう手段がほとんど無かったため、夏祭りの司会を行うことにより、地元の方へのラジオ番組の出演依頼をしやすくなりました。
 また、「いつもラジオ頑張ってるね」などの言葉をいただくことも増え、地区や町内の行事への参加へのハードルが下がっていることや、ラジオ番組へのモチベーションの維持にもなっています。
 
コウノトリ支局より   夏祭りより
 
ほたるカフェより

(3) 放送開始からの視聴数推移
 放送開始からのレギュラー放送視聴数の推移はのとおりです。
 ラジオの視聴数については、把握できないため、レギュラー放送のyoutube視聴数を整理しました。(2016年5月20日現在)視聴数については、年々少しずつではありますが増加傾向にあります。2016年の放送に入ると、放送を見て実際に白山地区へ県外の方が来てくれるなど、大変嬉しい出来事もありました。
 また、今までで一番視聴された放送はイノシシの解体をインタビューしたもので、約27万回視聴され、田舎での暮らしや、ジビエに関する情報がニーズに合っているものと考えられます。
 今後は、更に視聴者数を増やせるように番組内容等を魅力あるものにしていくためにも、メンバーで考えていく必要があります。

図 レギュラー放送視聴数の推移


4. 今後の課題と方向性

 今後の課題としては、活動が主に日曜日ということもあり、休みが合わなかったり、都合がつかなかったりと、もっと参加しやすい土台づくりを進める必要があります。また、情報発信拠点として視聴者数の増加や、白山地区への交流人口の増加に寄与するための活動を行っていく必要があります。そのためにも、白山地区の魅力の開拓や新規メンバーの加入に今後は力を入れていくことが大切であり、必要なことであると考えています。


5. おわりに

 しらやまスタジオとして活動を始めて約3年が経ちました。当初は、1年間放送のネタが続くのかとても不安になることがありましたが、地元の魅力として何が発信できるのかと考えるといろいろなアイディアが浮かんだり、活動することにより、地元の人達から情報が集まってきたことで、何とか最初の1年をやり遂げることができました。2年目以降は1年目をベースに更にパワーアップした放送をと頑張っていますが、どうしてもマンネリな部分が出てきてしまいます。地区の行事は、毎年決まったものが多いため仕方がないことですが、地区の方々の参加でマンネリを打破できないか模索中です。
 しらやまスタジオの活動を通じて感じたことがあります。若者が地区の行事に出てこないのは、そこで何が行われているかよくわかっていないからではないかということです。その地区の特色やどんな人が住んでいるか、そして、活動しているかをしらやまスタジオの活動の中でたくさんのことを知り、感じることで、少しでも若者が行事に参加するハードルを下げることができるのではと考えています。そのためにも、4年目、5年目と続けていき、新しい若者をメンバーとして迎え入れ、地区内外の人達から愛される放送作りを続けていけたらと思います。