【自主レポート】

第36回宮城自治研集会
第6分科会 復興・再興・新興!! ~消滅でも創生でもない地域づくり~

 日本創成会議の消滅可能性都市の発表より、日本全国で大きな問題となっている人口減少問題ですが、国及び地方自治体からは2015年にこの問題を喫緊の課題として、さまざまな人口減少対策の計画が策定されました。この地方創生元年として、現在もっとも盛り上がっているこの課題に対し、本レポートでは各自治体が行っている施策を考察します。



人口減少問題に対して取るべき方策は


新潟県本部/自治研推進委員会・第3分科会(人口減少)

1. はじめに

 昨今人口減少問題が取りざたされている。特に、民間研究機関「日本創成会議」が2014(平成26)年5月に全国896自治体を、人口減により行政機能の維持が困難になる「消滅可能性都市」とするレポートを発表したことから、大きな注目を集めるようになった。
※ 「消滅可能性都市」……2040年時点に20~39歳の女性人口が半減する自治体。
 実際に県内の自治体の状況はどのようになっているのか。
 2015(平成27)年8月時点で2010(平成22)年の国勢調査時より人口が増えているのは聖籠町のみで、その他の自治体は軒並み減少している。中でも県内では30市町村中18市町村が「消滅可能性都市」としてあげられており、各自治体は早急な人口減対策を迫られている。

【2015年の対2010年比人口増減率】
(単位:人)
市町村名
(増減率順)
増減率2010年
国勢調査
2015年推計人口
(8月1日現在)
【参考】
2040年予測人口
聖籠町 1.38%13,72413,91412,338
新潟市▲0.64%811,901806,725668,345
粟島浦村▲1.37%366361180
湯沢町▲2.29%8,3968,2045,466
燕市▲2.32%81,87679,97462,613
刈羽村▲2.58%4,8004,6763,606
新発田市▲2.87%101,20298,29771,988
長岡市▲2.89%282,674274,513218,190
見附市▲3.28%41,86240,48731,440
三条市▲3.68%102,29298,52875,546
上越市▲3.78%203,899196,186155,979
弥彦村▲4.17%8,5828,2247,320
胎内市▲4.54%31,42429,99821,147
田上町▲4.72%12,79112,1878,125
阿賀野市▲4.76%45,56043,39233,172
柏崎市▲4.81%91,45187,04965,718
南魚沼市▲4.87%61,62458,62248,024
小千谷市▲5.74%38,60036,38328,370
五泉市▲5.92%54,55051,32337,169
加茂市▲6.36%29,76227,86818,816
村上市▲6.48%66,42762,12341,073
妙高市▲6.65%35,45733,10022,251
糸魚川市▲6.75%47,70244,48132,265
十日町市▲6.93%58,91154,82939,287
津南町▲7.66%10,88110,0486,670
魚沼市▲7.97%40,36137,14325,556
佐渡市▲8.75%62,72757,23837,109
出雲崎町▲8.95%4,9074,4682,743
関川村▲9.38%6,4385,8343,607
阿賀町▲12.05%13,30311,7006,805

 そんな新潟県だが、かつては人口日本一だったのはご存じだろうか。
 1888(明治21)年、新潟県の人口は約166万人、東京を30万人も上回っての1位であった。1893(明治26)年の調査でも1位であったが、その後じりじりと順位を下げ、現在は47都道府県中15位だ。
 なぜ、全国一だった人口順位が低下したのか。新潟大学教授だった故・古厩忠夫氏は著書の「裏日本」で、明治以降の近代化で工業化が進んだ太平洋側が農村労働力を吸引。工業化に遅れた北陸と山陰が最大の労働力供給源となり、人口最大の新潟県は大きく影響を受けたと指摘している。この人口流出により転入者より転出者が多い「社会減」の状態となり、それが現在も続いている。
 人口減のもう一つの要因が、死亡者数が出生数を上回る自然減である。
 新潟県では1999(平成11)年から自然減が始まり、社会減と相まって2014(平成26)年の人口動態では新潟は全国ワースト3位の人口減少数だ。
 どうして自然減となっているかひも解いてみると、2014(平成26)年の社会減5,606人中、18~24歳の若者が4,250人と8割近くを占める。これは年代から言って、進学就職のために若者が県外に出ていき、その後戻ってこない状況と推測される。この若者減少は婚姻にも影響し、県の資料では、1950(昭和25)年には2万組超が結婚したが、2014(平成26)年は9,954組と半数以下だ。婚姻率も全国平均より一貫して低い。
 また、婚姻が少なくなった要因の一つとして、貧困問題も挙げられる。最近は若者の非正規雇用化による貧困が叫ばれており、国立社会保障・人口問題研究所の第14回(2010年)出生動向基本調査のデータを分析すると、20~34歳の独身者男性の3割弱が年収200万円未満である。
 若者層の流出による子どもを産む世代の減少に加え、結婚を希望していても現在の収入から来る将来への不安により結婚できない人の増により子どもが減る。その少ない子どもが若者のうちに県外に出ていき、さらに子どもを産む世代が減る。この「負のスパイラル」が続いている。

【人口動態の推移】
(平成27年 新潟県人口移動調査より)

 人口が減少し続ければ、都市そのものが消滅しかねない。このような待ったなしの人口減少問題について、国では、日本全体、特に地方の人口の減少に歯止めをかけるとともに、東京圏への人口一極集中を是正し、将来にわたって活力ある日本社会を維持していくことを目的として、「まち・ひと・しごと創生長期ビジョン」及び今後5か年の目標や施策の基本的方向、具体的な施策をまとめた「まち・ひと・しごと創生総合戦略」をそれぞれ策定し、総合的な取り組み、いわゆる地方創生を進めている。
 一方、新潟県では、独自に人口減対策に係る課題について、部局横断的に連携して取り組むため、2013(平成25)年3月に「新潟県人口問題対策会議」を立ち上げて議論し、人口減対策を主眼に置いた最上位の行政計画である新潟県「夢おこし」政策プラン(以下「政策プラン」という。)を策定。その後制定されたまち・ひと・しごと創生法に基づく「新潟県人口ビジョン」並びに「新潟県創生総合戦略」を政策プランの基本理念・政策目標を踏襲しつつ再構成し、政策プランの一部として2015(平成27)年10月に策定した。これにより人口問題を中心とした地方創生に積極的に取り組んでいる。
 このように注目度の高まっている問題ではあるが、県内の人口減少に歯止めはかかっていない。この問題は幅広い分野に及ぶものだが、私たち分科会では、人口減少の大きな課題として4つの主要課題(結婚に繋がる機会、育児環境、貧困問題、人口流出)に絞り考察した。

2. 主要課題ごとの考察

(1) 結婚に繋がる機会(婚活支援)
① 現 状
 人口減少、特に少子化については出生率の低下が要因となっているが、その出生率の低下を引き起こしているのが未婚化・晩婚化の進行によるものが大きい。
 2010年(平成22年)の国勢調査によると、25~39歳の未婚率は男女ともに1980年(昭和55年)から引き続き上昇している。生涯未婚率については30年前と比較すると、男性は2.6%(1980年)から20.1%(2010年)、女性は4.5%(1980年)から10.6%(2010年)へ上昇している。また、平均初婚年齢は、2012年(平成24年)で、男性が30.8歳、女性が29.2歳と上昇傾向となっており、結婚年齢が高くなるほど晩婚化が進行しているといえる。1980年には、男性が27.8歳、女性が25.2歳であり、約30年間で、男性は3.0歳、女性は4.0歳、平均初婚年齢が上昇していることになる。
 未婚化・晩婚化の要因は、個人の結婚に対する考え方の変化やライフスタイルの変化、社会経済環境の変化など様々ではあるが、2013年(平成25年)に実施された内閣府の「家族と地域における子育てに関する意識調査」の結果によると、将来の結婚の意思について「いずれは結婚したい」「2~3年以内に結婚したい」「すぐにでも結婚したい」という回答者をあわせると、7割以上の人が「結婚したい」と回答している。
 年収が婚姻状況に与える影響も大きい。特に男性では年収が上がるほど既婚率が高くなっており、25~39歳の既婚率は、年収が200万~300万円では14.6%であるが、300万~400万円で26.0%、400万~500万円で32.1%、500万~600万円で36.3%となっている。
 このような背景により、少子化、特に未婚化・晩婚化への目に見える特効薬として、県内のみならず全国の自治体で婚活支援事業に取り組む自治体が増加した。
② 現状の分析
 新潟県内においても、婚活支援事業に取り組む自治体は増加している。県は「にいがた出会いサポート事業」として出会いの場の提供と、『「あなたの婚活」応援プロジェクト』として世話焼き機能を付加した出会いの場の提供を支援している。
 市町村においては、26の市町村が婚活イベントを主催、後援、あるいは補助することにより、出会いの場を提供している。また、7市で結婚に関する支援・マッチングなどを行う事業を実施している。そのほか、市主催の出会いの場がきっかけとなって成婚した方へのお祝いを交付する制度や、結婚相談所に入会する際に入会金を支援する制度、同窓会の経費の一部を助成する制度などもある。
 各自治体が少子化対策として様々な婚活支援策を講じているが、成果については取り組む事業により異なっている。自治体が関与する出会いパーティなどの婚活イベントは多く開催され、そこでカップルも多く成立しているが、交際・結婚に至っているか、といった状況は正確に把握できていない。交際については個人のことであり追跡調査が難しいこともあるが、多くはカップル成立から実際の交際までに結びついていないのが現状である。しかし、結婚に関する支援・マッチングなどを行う自治体、例えば小千谷市では、2009(平成21)年度より「ときめきめぐりあい推進事業」として、登録した会員間での1対1のお見合い等の事業を実施しているが、2015(平成27)年6月までの6年間に25組の結婚が成立している。さらに、婚活イベント後のカップルに対し相談などの「世話焼き」を行った場合、交際に至る割合が高い傾向にある。
 自治体ごとに婚活支援策を講じることには課題がある。女性が働く職場の多くは新潟市などの都市に集中し、都市から離れるほど集客に苦慮する傾向がある。また、自治体の婚活イベントではそれぞれの自治体の枠を超えた事業を展開しにくいため、これにより広告・集客が地域で限定されてしまい、広告などの経費や人件費の増加を少なからず招いている。
 自治体の婚活イベントは「地域おこし」として活用されている側面もある。自治体が行う婚活イベントの会場、使用される物品などは地域のものを活用し、企画・運営は青年会など地元のグループなどが担っていることも多い。婚活イベントを活用して地域のPR、施設等の利用促進を図っている面もある。
 先ほど触れた、内閣府の「家族と地域における子育てに関する意識調査」の結果によると、「若い世代で未婚・晩婚が増えている理由」については、未婚男性は「経済的に余裕がないから」との回答が5割以上で最も多く、未婚女性では、「独身の自由さや気楽さを失いたくないから」、「希望の条件を満たす相手にめぐり会わないから」と回答しており、未婚や晩婚の背景に経済的理由があることが分かっている。
 また、自治体ごとに婚活支援策にバラつきがあるように、自治体が婚活支援策に取り組むことに疑問を持つ声も大きい。直接的な効果である結婚に至るプロセスが長く、間接的に特定の個人に対する費用の投入となるためである。政治的判断により、少子化対策に対して目に見える特効薬として婚活支援事業が行われることも多い。婚活・結婚相談所などの民間事業者はニーズのある新潟市などの都市部にあり、その棲み分けや民業圧迫なども指摘される。ただ、民間事業所については年齢等に応じて個人負担もそれなりにかかり、婚活イベントは人の集まりやすい新潟市などの都市で開催されることが多いため、地域間で格差も存在する。
③ まとめ
 未婚化・晩婚化が進行する中で、未婚者の7割以上が「結婚したい」と回答するなど出会いを望む需要は確実に高まっている。
 未婚や晩婚の背景には経済的理由や雇用など他にも多くの問題があり、婚活支援に取り組むことが少子化対策に繋がるという効果を一様に計れない面はあるが、「結婚したくてもできない」という未婚者に対するアプローチとして、婚活における格差のない環境の提供として、また地域活性化の1つとして、自治体が婚活支援事業に取り組む意義はあると思われる。
 ただし、現状では県・市町村それぞれの意向もあってそれぞれ独自に事業を展開しており、同じような婚活イベントが県・市町村で乱立している状態である。広域的な視点に立ち、各自治体の現状・ニーズ等を捉え、広域的かつ効果的に取り組むことにより、1人でも多くの結婚に繋がる施策づくりを行うことが必要である。

(2) 育児環境
① 現 状
 核家族化、地域での人間関係の希薄化などにより、家庭や地域での子育てが孤立しがちで子育てへの負担感が増している。
 保育所や認定こども園など(以下「保育園等」という。)においては、女性の社会進出や共働き世帯の増加、核家族化などから3歳未満児(以下「未満児」という。)、特に0歳児と1歳児の入所率が年々増加し、待機児童発生の大きな要因となっている。
 子育てが分からない、自信がない、負担感が大きいなどの理由により、保育園等に子どもを預けることを主因として仕事を探す母親も見受けられる。(【新潟県の認可保育所入所率の推移】参照)
 子育ての負担を軽減し、一人ひとりの子どもが健やかに成長することができる社会をめざして、2012(平成24)年8月に子ども・子育て関連3法(子ども・子育て支援法、認定こども園法の一部改正、子ども・子育て支援法及び認定こども園法の一部改正法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律)が成立し、この法律に基づき、すべての家庭が安心して子育てをでき、子どもたちが笑顔で成長していけるように、2015(平成27)年4月から「子ども・子育て支援新制度」がスタートした。
 新制度に伴い、保護者の就労などによる保育園等の入所事由が「保育に欠ける児」から「保育を必要とする児」になり、保育の必要性に応じ支給認定(1号~3号)を受け、保育園等の利用可能時間が1日最大11時間の「保育標準時間」と、8時間の「保育短時間」に区分されることになった。
 また、各自治体には、事業主・労働者・利用者・有識者の代表などからなる「子ども・子育て会議」の設置が努力義務化され、この会議において、自治体に策定が義務付けられた「子ども・子育て支援事業計画」の審議などを行い、地域の実情に応じた保育園等の利用定員を定めることになった。(【保育の支給認定区分】参照)

【新潟県の認可保育所入所率の推移】
(各年度4月1日現在)
項 目年 齢年  度2006と2014年度の比較
2006(H18)2014(H26)増減数比 率
学齢前児童数
(人)
0歳18,25217,064▲1,1880.94
1歳19,06717,251▲1,8160.91
2歳19,61217,782▲1,8300.91
全体119,292105,886▲13,4060.89
入所児童数
(人)
0歳1,3072,4061,0991.84
1歳4,7647,9313,1671.67
2歳7,5539,9922,4391.32
全体55,48759,4803,9931.07
入 所 率
(%)
0歳7.214.16.91.96
1歳25.046.021.01.84
2歳38.556.217.71.46
全体46.556.29.71.21

【保育の支給認定区分】
保育の必要性年 齢認定区分利用時間区分利用できる施設
保育を必要としない満3歳以上1号認定教育標準時間幼稚園
認定こども園
保育を必要とする満3歳以上2号認定 保育標準時間
保育短時間
保育園
認定こども園
満3歳未満3号認定保育園
認定こども園
地域型保育施設

② 現状の分析
 新潟県においては、中心市街地で希望する保育園等に入れない児童などが一部いるものの、これまで4月時点では待機児童が発生しておらず、住環境などを考慮しても、他の都道府県と比較して保育環境が悪いとは言えない。
 しかし、年度途中で待機児童が発生する市町村が一部あり、2015(平成27)年10月の調査で新潟県は、4月には0人だった待機児童が46人発生している。ニーズ調査による量の見込み(今後の入所希望数)と確保量に差があるため、需要と供給の調整を進める必要があり、未満児の増加などに対応するため、幼稚園を未満児も受け入れられる認定こども園に移行したり、未満児専用の小規模保育園等を開園したりするなどの整備も進められている。
 少子化対策の一環として国は、2016(平成28)年度から兄姉の年齢に関係なく第三子以降の保育料を無償化する方針を決めたが、京都・福井・富山・島根・鳥取では、都道府県の施策としてすでにこれに取り組み、秋田県は2016(平成28)年度から、第三子が生まれた場合に第二子以降の保育料を無料とする方針を決めた。他の都道府県でも、こういった独自の取り組みを行っている市町村が多くあり、県内では3歳以上児童の保育料を原則無料としている聖籠町や、二人同時入所で二人目の保育料を無料としている佐渡市などの例がある。
 公立保育園では、国の三位一体改革により運営費が一般財源化され市町村の財政が厳しくなったことなどから、臨時保育士の割合が年々増加して5割を超えたり、臨時保育士がクラス担任になっていたりする市町村も多い。その結果、保育現場での上下関係や一体感などが希薄となり、保育の質の低下などの弊害が生じている。
 一方、私立保育園では、公立保育園と比較して正規職員の賃金体系などが悪く、国は私立保育園保育士の処遇改善などに取り組み始めたが、まだ十分とは言えず保育士不足を招いている。
 2015(平成27)年4月現在で、阿賀野市、聖籠町、出雲崎町では認可保育所が全て私立となっているなど、財政削減を主とした民営化や統廃合が進められているが、過疎化の進む市町村では、児童数の減少も相まって民営化は進んでいない。

【県内の認可保育所数の推移】
(各年度4月1日現在)
 認可保育所数(か所)備   考
公 立私 立
2006(H18)年483223706 
2014(H26)年399303702公立には公設民営5箇所を含む
増 減▲8480▲4 

 小学校児童の放課後などの安全・安心な居場所確保や、多様な活動を通して児童の健全な育成を図るため、厚生労働省が主管している「放課後児童クラブ(学童保育)」と「児童館」、文部科学省が主管している「放課後子供教室」などがある。
 放課後児童クラブは、放課後の家に保護者がいないなどで保育の必要性がある児童が、一般的には市町村に入所申し込みして学童保育料を支払い利用し、放課後子供教室は放課後の空き教室などを有効利用し、希望する児童が無料で参加できる。児童館は、児童福祉法で規定される児童厚生施設の一つであり、18歳未満のすべての児童と保護者などが無料で利用できる。
 放課後児童クラブの充実は、子ども・子育て支援新制度の柱の一つであり、国は放課後児童クラブの設備及び運営に関する基準を省令で定め2015(平成27)年4月に施行し、市町村は関連する条例を制定し運営を行っている。
 近年、家庭環境や社会環境の変化を背景にした、いわゆる「小一の壁」の問題などから、小学校低学年の学級崩壊が発生するなど学童保育のニーズが急速に高まり、各市町村は放課後児童クラブの整備を積極的に進めているが、基準に満たない施設の整備や指導員の人材確保などが大きな課題となっている。また、県内では、放課後子供教室や児童館の整備は、大幅に遅れている市町村が大半である。
 国が2014(平成26)年に閣議決定し策定した「放課後子ども総合プラン」では、放課後や週末などにおける子どもたちの安全・安心な居場所を確保するとともに、地域の方々の参画を得て子どもたちに学習や様々な体験・交流活動の機会を定期的・継続的に提供し、これらの取り組みを実施することにより子どもたちが地域との交流を深め、心豊かで健やかにはぐくまれる環境づくりを目的としている。
 このため国は、希望するすべての児童が、放課後児童クラブ及び放課後子供教室を利用でき、双方が連携したプログラムを行うなど一体的な整備を推進するよう、市町村に強く求めているが、市町村によっては担当部局が違うことによる弊害が発生したり、実施場所となる小学校の十分な理解・協力を得られなかったりなどの課題がある。
③ まとめ
 ア 県のリーダーシップを発揮した取り組み
 独自に先進的な子育て支援施策に取り組んでいる県がある中で新潟県は、予算配分など子育て支援施策への取り組みが消極的であるように感じられる。
 育児環境向上のためには、児童福祉法で都道府県に保育園等の児童福祉施設の設置が課せられている趣旨などを踏まえ、県が強いリーダーシップを発揮し、市町村等への適正な指導と十分な財政支援などに取り組む必要がある。
 イ 家族・地域・事業者・行政四者の連携強化
 子どもを健全に育てることは、保護者や家族の責務であるが、この危機的な少子化を食い止めるためには、行政が子育て支援事業者等と十分な連携を図ったうえで、思い切った子育て支援施策を推進する必要がある。
 また、行政の仲介などで、保育園等の事業者に対し地域組織がボランティア活動を行うなど積極的に関与し、地域全体で子どもを健全に育てるという意識を高めていく必要がある。
 ウ 高齢者を活用した育児支援体制の構築
 若年人口の減少などから子育て支援の人材も不足しているため、高齢者を学童保育の指導員や育児支援家庭訪問員などに育成し活用する取り組みが必要である。
 人材確保を図れると共に、高齢者がやりがいと生きがいを感じることによって、健康寿命の増進に寄与するものと考える。
 エ 新潟県子宝プロジェクトを提言
 昔から子宝に恵まれるなどと言われ、子どもは国の宝、地域の宝と公言する首長や議員などは数多く、子どもは家族の宝と思う人が大半であり、これに異を唱える人は皆無に近いと思われる。
 そこで本分科会では、子どもは家族・地域・国の宝であるという認識を醸成する、「新潟県子宝プロジェクト」を提言する。
 宝の代表的な宝石は、原石を整え綺麗に磨くことで輝きを放ち、その価値を増す。「子どもは宝である。傷つけないよう大切に磨き、輝きを放つように育てなければならない。」といった考えを醸成することにより、児童虐待の減少などに繋げることができるのではないだろうか。
 また、子ども同士がお互いを家族の宝と認識しあうことで、「宝を傷つけてはならない。もし自分の宝を傷つけられたらとても悲しいことだ。」といった考えを醸成できれば、イジメ問題の減少などに繋げることができるのではないだろうか。
 このような考えが県内全域に広がり、児童虐待やイジメ問題の少ない新潟県、子どもを健全に育てることができる新潟県といった良いイメージを確立できれば、必ずや少子化の歯止めに寄与するものと考える。

(3) 貧困問題
① 現 状
 先日、厚生労働省が発表した2014(平成26)年「就業形態の多様化に関する総合実態調査」で非正規雇用労働者の割合が初めて4割に達した。女性が多いパート労働者や高齢者の再雇用の増加による要因が大きいのが事実であるが、若年労働者においても労働法制の規制緩和により、一昔前と比べて確実にその人数は増加している。非正規雇用労働者のうち月収20万円未満は78.2%であり、結婚を意識する若年労働者が貧困であったり、将来の生活に不安を抱くような状態であったりすれば結婚を躊躇し、それが将来の人口減少に結び付くことは容易に推察される。
 生活保護の問題もある。厚生労働省が発表した2015(平成27)年6月分の「被保護世帯数と対前年同月伸び率」では、受給世帯が162万5,941世帯となり過去最多を更新した。高齢者世帯が約半数を占めるが、働ける世帯及び母子世帯で37万8,222世帯を数えている。アベノミクスによる経済対策で、株価は高騰し景気は回復しているようなマスコミ報道があるが、これらの統計データを見ると社会の格差が浮き彫りとなっている。
② 現状の分析
 日本の子どものどれくらいの割合が貧困状態であるのか。2013(平成25)年国民生活基礎調査では、「子どもの貧困率」が16.3%となり、こちらも過去最高を記録している。6人に1人が貧困状態であり、1985(昭和60)年には10.9%であったことから上昇傾向であることが分かる。1985(昭和60)年といえばバブル経済に突入する前であり、そこから上昇していることを考えれば、「子どもの貧困」がリーマンショック以降の新たな社会問題ではないことが分かる。また、景気判断のバロメーターである日経平均株価と厚生労働省が発表する「相対的貧困率の推移」は連動しておらず、貧困問題が景気判断と関係ないことが分かる。(図1)

図1
相対的貧困率の年次推移子どもがいる現役世帯
(世帯主が18歳以上65歳未満)
の世帯員の相対的貧困率

 また、どのような世帯の貧困率(注)が高いかというと、ひとり親世帯に属する子どもたちである。子どもがいる現役世帯のうち大人が1人の貧困率は、2013(平成25)年国民生活基礎調査によると54.6%となっており、2人に1人が貧困状態である(図1)。2011(平成23)年度全国母子世帯等調査によると、母子世帯の平均の勤労収入は年額181万円となっており、女性が多いパート労働者等の勤務形態による「ワーキングプア」の状態であることが推察される。
 現状の分析にあたり、最も憂慮しなければいけないことは、貧困が連鎖するということである。貧困世帯で育つ子どもたちはボロボロの服を着ているわけではないし、やせ細っていていかにも健康状態が悪いというわけではなく、パッと見では分かりにくい状態である。しかし、貧困は確実に連鎖する実態を見逃してはいけない。長崎新聞の2013(平成25)年6月14日の報道では、18歳から39歳までの青壮年の生活保護受給者1,554人のうち、4人に1人が子ども時代においても生活保護を受けていたとのことである。
 また、2011(平成23)年度全国母子世帯等調査では、ひとり親家庭の高等学校卒業後の子どもの進学率は41.6%となっており、2014(平成26)年度学校基本調査(速報値)の過年度卒業者を含めた進学率(就学率)の80.0%と比べて大きな開きが生じている。勉学についても機会の平等化に結びついていないのが貧困世帯の実態であり、それが専門教育にも結び付いていないことが分かる。高等教育機関進学者は高等学校卒業者より給与水準の高い職に就きやすく、高等学校卒業後の進路が非正規雇用労働者となれば生涯賃金に大きな開きが生じてしまう。
 では、子どもに対し就学援助等の財政支援を行えば直ちに子どもの貧困が解決され、人口減少対策に結び付くかというと、答えは否である。子ども期の貧困の経験は、家庭環境、学校生活、友人関係、健康状態等に密接に絡み、子どもの人格形成に大きな影響を与える。
 子どもの人格形成において、最も欠如してはならないと考えるのが自己肯定感である。自己肯定感とは、「自分は大切な存在だ」「自分はかけがえのない存在だ」と思える心の状態を指す。自己肯定感が欠如すると、自身に自信が持てず他人にどう見られているか気になり、他人の言動に過敏に反応してしまうとされている。自己肯定感が欠如した子どもは非行や不登校につながり、学力の向上や就業にもつながらない。
 どのように、自己肯定感を育むかというと「褒められること」である。ただ、貧困世帯に育つ子どもはひとり親世帯が多いことを先ほど述べた。親の多忙なパート労働等により子どもだけの時間が増え、親の収入が乏しいことから「ペンケースが買えない」「部活の部費や道具が払えない」等のハンデを負うことにより友達の輪から孤立していく。親の収入によって、子どもの生活の質が大きく変化し、「褒められる」環境に育ちにくいのである。
 自己肯定感が欠如した子どもは、家庭を持ち子どもを育てる人生観を持つことすらできないのではないかと危惧する。『子どもの貧困Ⅱ』の著者である阿部彩氏らの調査では、「将来の夢がない」と回答した小学校5年生の割合は、親の所得が低いほど高かったとのことである。子ども達が夢を持ち、自己肯定感を育むことができる環境が求められる。
③ まとめ
 どのように子どもの貧困を解消し、自己肯定感を育んだ子ども達を社会に送り出すことで結婚・出産に結び付けるかという対策については、2013(平成25)年に子どもの貧困対策法が施行されたばかりであり、人口減少対策と子どもの貧困を結び付ける先進的な事例がないのが実態であることを前置きしておく。
 朝日新聞が2015(平成27)年10月から11月にかけて特集した「子どもの貧困」のデジタルアンケートでは、「子どもの貧困を減らすために最も必要なのは?」で「国・自治体が対策に力を入れる」が62.1%でトップであった。地域や身内が子どもの貧困を支えるよりも、国や自治体に期待する割合が多いことが分かる。
 国の動向では、厚生労働省所管の生活困窮者自立支援制度が2015(平成27)年4月からはじまった。この制度は、働きたくても働けない、住む所がない、等の生活困窮者の状況に合わせた支援プランを作成し、他の機関と連携して解決に向けた支援を行っている。親の就労支援のほか、子どもの学習支援等が行われており、これまでの縦割りであった雇用や福祉などのさまざまな部門が連携して一体的な支援を行うことから、生活困窮者への効果的な支援が期待される。制度の普及に向けて貧困世帯への積極的な周知が求められる。
 子どもの貧困対策法については、具体的な大綱は示されたものの、その対策については不十分なままである。「教育支援」「生活支援」「保護者の就労支援」「経済的支援」の4つの柱が示されているが、国の借金が2015(平成27)年度末で1,167兆円を計上すると見込まれており、貧困世帯解消をめざす対策に予算が計上されていないのも実態である。
 国の借金で対策が講じられない現状を傍観するだけでは、子どもの貧困や人口減少は悪化の一途をたどる。社会全体がこれらの課題に共通した認識を持ち、全ての子ども達に一定水準の自己肯定感が保たれるようNPOやボランティア等と連携を図ることで、大綱の目的にある「全ての子ども達が夢と希望を持って成長していける社会の実現」に向けて、努力を重ねていくしかない。併せて、日頃は見えづらい子どもの貧困に対し、社会がその叫びを見過ごすことなく、真摯に向き合う努力についても検討しなければいけない。そして、貧困の世代間連鎖を断ち切ることで、生まれ育った環境に左右されることのないような施策づくりを労働組合としても声を上げていかなければならない。


参考
父親の学歴別 相対的貧困率
 
母親の学歴別 子どもの相対的貧困率

(4) 人口流出
① 現 状
 2014(平成26)年新潟県人口移動調査結果報告によると、2013(平成25)年10月から2014(平成26)年9月までの1年間の社会動態は、転入が26,227人、転出が31,833と5,606人の転出超過となり、この傾向は18年連続でもあるため、歯止めが利かない人口流出に危機感を抱く現状となっている。
 なお、年代別に分析すると、20歳から24歳で一番多く3,234人(5,122-8,356)、次に15歳から19歳で1,009人(1,507-2,516)と、次代を担う若者世代に転出超過の傾向が偏在しているのは大きな課題である。
② 現状の分析
 このような背景に至った理由としては、関東方面への「職業」を理由とした転出が拡大化しており、この対象が主に20歳代であること、さらに国勢調査報告によると、情報通信業、学術研究、専門、技術サービス業、教育、学習支援業の就業割合が、新潟県と比較して高いと報告されており、同方面が持つ多様な雇用の受け皿に、これら年代の若者が目を向けているためと考える。また、学業を目的とした転出でも、少子化により15歳から19歳代の若者が減少したことと、県内進学率の向上により転出超過の動きは鈍化しているが、依然高い状況と報告されている。
 また、地域に目を向けると、新潟県は農村部が多く存在し、これらの大部分が都市部と比較すると社会生活基盤が弱いとされる中山間地域であり、かつては繁栄していた第一次産業である農業も中山間地域特有の「棚田」のために機械化が図れず、過重な労働が強いられており、後継者不在による離農などで今は衰退化し、恵まれない就業環境である。
 さらに追い打ちをかけるように過疎化と高齢化で地域は疲弊し、著しいコミュニティ機能の低下を招いている。一部では、「地域おこし協力隊」などの外部からのマンパワーで再構築を図ろうとする地域もあるが、このような努力があっても20歳代の若者の多くは現状を真に受け、地域への愛着感の低下などにより、故郷離れが加速し、より快適な生活や雇用環境を求め、県外に目を向けることとなった背景も少なからず影響している。
 このことから、若年層に対して、就職、定住先としての魅力がないことが問題と考えられる。
③ まとめ
 これらの問題に対して打開策を考えてみたい。
 ア 若者が戻ってきたくなる魅力ある就職先を作る。→産業構造の変革
 進学率の向上で大学や専修学校等で専門的な知識を学ぶ若者が増えている現状なども踏まえて、学校で学んだことを生かせる職業の確保、とりわけ、本県において弱いとされる、情報通信業やサービス業などを強化し、産業構造を変革する必要があるのではないだろうか。
 本県では金属洋食器や石油ストーブ、米菓、ニット製品、また全国でも有数の米の産地であるなど、世界でも高い評価を受けている優れた地域産業があるのも忘れてはならず、これら産業にクリエイティブディレクターをつけるなど付加価値をさらに高める努力をし、若者に関心を引き付け、魅力ある産業として地元への定住促進を図るのも面白いのではないだろうか。
 イ 女性の働ける場所を作る
 女性もいて初めて持続可能な社会となる。県外で高等教育を受けた女性がその能力を活かせるような職場が必要。→情報通信業やサービス業などの積極誘致(例えば、岡山県倉敷市が誘致し、2011(平成23)年12月に開業した、「三井アウトレットパーク倉敷」は1,000人以上の雇用を創出するなどで、成功している)
 企業や事業者に対して、積極的改善措置(ポジティブアクション)による、女性活躍の推進を図る啓発の必要性。
 ウ 農業をかっこよく、儲かるものに
 ・従来型農業からの離脱
 農産物を「ブランド化」することにより、地域の信頼と知名度を上げ、農産物の販路を拡大することで売上向上に寄与させる。
 農業者と企業が連携して「農・商・工連携」による6次産業化を推し進める。(例えば、企業のノウハウを生かした新たな農業経営を行政が支援。国家戦略特区の指定を受けている新潟市では、農業生産法人の役員要件の緩和を利用して、ローソンやセブン&アイHDが農業者と提携して法人を設立し、新たなビジネス展開を行っている)
 エ 郷土愛の醸成
 ・地方の人と人とのつながりがあるくらしを魅力に思ってもらう。
 ・社会教育の強化。義務教育段階からの地域参加。
 ・親から子へ地域愛を育むための。
 オ 移住希望者の呼び込み、定住促進
 ・田園回帰。地方移住希望者の増している現状→それをいかに新潟に呼び込むか。
 地域が自立し発展していくためには、産業の振興は欠かせない。成長力ある産業の存在は、就労機会を拡大させ、若者の定着を促し、地方に新鮮な活力をもたらすことになるはずである。

3. おわりに

 これら一連の考察から、人口減少問題は人生のある一点のみを支援すれば解決する問題ではなく、結婚から出産、育児、就職に至るまで、切れ目のない支援が必要との考えに至った。
 待機児童が少なく比較的、育児環境に恵まれている県内の情勢を踏まえると、結婚相手の見つけやすさ、安心して出産できる経済的安定、若者の就職先の確保などへ重点的に支援を行う必要があると考えられる。
 国においても地域少子化対策強化交付金を創設し、結婚・妊娠・出産・育児の切れ目ない支援事業を推進しており、新潟県においても同交付金を活用した事業を展開しているところである。しかし、我々はこれに加えて若者の就職先の確保、つまり産業構造の改革も含めなければ人口減少対策とはならないと考える。
 人口減少の問題は少子化対策の問題として、行政では福祉や保育の部門が担当することが多い。しかし本レポートの主要課題への考察で語ってきたような、貧困の連鎖を断ち切ることや、産業構造の改革による就職先の確保などは、それら部門だけでは解決は困難である。効果的な対策を行うには一組織で部分的に解決するのでなく、部門横断的に行政組織一体となった取り組みが今後不可欠であるといえよう。
 最後に、人口減少問題に対して、自治労だからこそできることというものはないだろうか。例えば、行政では開催しにくい公務員をメインとした婚活イベントだ。2015(平成27)年に鳥取市が共同運営する「婚活サポートセンター」が、男性は公務員に限る婚活イベントを企画したところ、税金が公務員の婚活に使われるとして批判が寄せられ中止になった。これは参加者のアンケートで、開催を求める声が大きいイベントであったにもかかわらずである。こういった問題を回避しつつ、広く公務員を集めることができるという点で、自治労が果たせる役割というものもあるのではないか。
 また、地方の人口減少問題の鍵は女性がいかに定住してくれるかである。そのためには就学のために県外へ出た女性が就労し、活躍できる労働環境を作る必要がある。現在の長時間労働が当たり前で、休暇もほとんど取れない男性型の労働環境では、女性はキャリアを積みつつ、安心して妊娠出産することはできない。そのような労働環境を改善し、男女ともが労働と育児を両立できる社会を作ることは、まさに自治労も含めた労働組合が行っていける人口減少対策ではないだろうか。




(注) 貧困率……所得が国民の「平均値」の半分に満たない人の割合