【自主レポート】

『純情きらり』サポーターズクラブの取り組み

愛知県本部/岡崎市職員組合

1. 『純情きらり』って?

 2006年度前期(4~9月)の連続テレビ小説(いわゆる朝ドラ)『純情きらり』は、岡崎市を舞台としたドラマ。このドラマは、戦争に揺れる激動の昭和時代を1人の女性が駆け抜ける波乱万丈の一代記。ドラマに登場するヒロイン・桜子(さくらこ)は、音楽を愛するお転婆な少女で、『ジャズピアニスト』を夢見て奮闘し、家族に降りかかる災難や戦争によって夢が断ち切られようとするが、家族を始め様々な人々に励まされ、音楽への思いを燃やし続ける。愛知県がNHKの朝ドラで舞台地となったのは初。出演者は、ヒロイン・桜子を演じる宮﨑あおいさん始め、別紙のとおり。

2. 『純情きらり』サポーターズクラブができるまで……

ロケハンの様子

 2005年7月下旬にNHKから岡崎市を舞台とした朝ドラを放送するとの連絡をいただき、秋に岡崎市内でロケを行いたいので昭和初期の建物や河川敷など、ロケーションのよい場所があれば、紹介してほしいとのことだった。
 こうした話がある中、NHKロケの全面的サポート及びこの機会を活かした『まちおこし』や『観光振興』を目的として、助役を筆頭に市役所幹部職員による『純情きらり』サポート会議を8月上旬に設置した。その実働部隊として企画課を事務局とした関係各部署の30~40代の職員による作業部会が設けられた。
 この作業部会では、『まちおこし』や『観光振興』を具体的にどうやって行っていくかを話し合い、広報戦略やイベント事業などを企画するソフト面と八丁味噌の蔵元が主な舞台になることから、この付近を訪れる観光客の増加が予想されるため、散策ルートの設定、案内看板の設置等、主にハード面を考える2グループに分かれて検討した。
 そんな中、8月下旬にNHKから「11月に岡崎でロケをしたいので、エキストラを募りたい。」との話があり、ソフト事業担当のグループでは、「エキストラだけでなく、その他でも地元の皆さんと一緒に参加して盛り上がりを図ることができないか?」と考えていたところ、群馬県高崎市で撮影の手伝いをする『撮影ボランティア』を募集していることを知った。そこからヒントを得て、撮影以外にも『純情きらり』に関連したイベントなど行う時に参加してもらおうと、撮影・イベントボランティアとエキストラを『純情きらり』サポーターズクラブとして、募集することにした。この時、どんなイベントに参加してもらい盛り上げを図るのか、作業部会では案はあったが、NHKや市の関係する部署に十分確認をしていないまま、サポーターズクラブの募集を行った。

 群馬県高崎市は、2005年前期(4~9月)に放送されたNHK連続テレビ小説『ファイト』の舞台で、ロケ地の中心となった。愛知県同様、朝ドラで群馬県が舞台地となったのは初。
 高崎市は、現在よく耳にする『フィルムコミッション』を2002年12月に設立し、映画やテレビ、コマーシャル・フィルムなどのロケーション撮影の誘致や支援を行っており、無償ボランティアを募っている。そして、こうした撮影現場を活用し、撮影現場めぐりなどの観光事業を行っている。
 
八丁蔵通りでのロケの様子


 サポーターズクラブの募集は10月から始め、当初、エキストラの応募はあるが、ボランティアは応募がないのではとの声もあった。しかし、結果はエキストラのみの応募が1,028人、撮影・イベントボランティアのみが169人、両方が381人で合計1,578人の応募があった。撮影・イベントボランティアは、550人で活動を行うこととなった。

3. サポーターズクラブ(撮影・イベントボランティア)の活動

(1) 『ロケ隊歓迎式&サポーターズクラブ結成式』の参加
サポーターズクラブからロケ隊へ花束を贈呈
   サポーターズクラブの活動は、岡崎ロケの前日である2005年11月13日に行われた『ロケ隊歓迎式&サポーターズクラブ結成式』の参加から始まった。この時、サポーターズクラブ専用の帽子を配布(活動時には必ず着用)し、この活動の趣旨や概要を説明した。説明の後行われた『ロケ隊歓迎式』では、ドラマのチーフプロデューサーである銭谷氏を始め、ヒロイン・桜子の子供時代を演じた美山加恋ちゃんが登場し、このドラマやロケについてのあいさつが行われ、会場は盛り上がった。

(2) ロケ現場での手伝い(11月14日~21日 延べ70人が参加)
  ① 八丁蔵通りで昭和初期の雰囲気を作るため、アスファルト道路への砂まきや片付け
  ② 愛知県農業大学校の講堂で『新入生歓迎会』の撮影のための準備
  ③ エキストラ控え室の準備
  ④ ロケ現場付近の交通整理

《撮影イベントボランティアの感想》
 「貴重な体験ができた。」「参加してよかった。」など、参加したことに対し満足感を得られた回答が多かった。中には、「サポーターズクラブ専用の帽子を、出かける際には常にかぶり、岡崎市と『純情きらり』をPRしていきたい。」と話してくださった人もいた。
 
道路の砂を片付けるサポーターズクラブ


(3) 『おかざき純情きらり通信』の編集・発行
   『ロケ隊歓迎式&サポーターズクラブ結成式』の時に参加者を募集した。35人の参加希望があり、2006年1月に第1号を発行し毎月発行している。編集は、参加希望者を3グループに分け毎月交代で実施。内容は、『純情きらり』に関するイベント情報などを始め、サポーターズクラブの活動などを掲載。最終号は、8月11日にNHKのスタジオで開かれた「純情きらり」クランクアップ記者会見に2人が出席してその様子を掲載。『おかざき純情きらり通信』は、サポーターズクラブのメンバーへの郵送と公共施設で無料配布を行っている。また、岡崎市のホームページからも取り寄せることができる。

(4) NHKの番組『ほっとイブニング』出演
   サポーターズクラブの活動に関心を持ったNHKは、2005年の12月下旬に番組『ほっとイブニング』で取り上げ、サポーターズクラブのメンバーはNHK名古屋放送局へ行き出演した。

 

(5) タイアップポスターの掲示
タイアップポスター
    毎年、この時期に岡崎市(観光協会)で観光ポスターを作成し、JR東海エリアの各駅や県内の観光協力団体・事業所を中心として各地に配布していたが、今年は『純情きらり』のヒロインを起用したNHKタイアップポスターを作成。例年の配布先のほか、サポーターズクラブの希望者に配布し、地元の町内掲示板などへの掲示を条件付でお願いした。

 


岡崎公園にて観光客にマップ配り、道案内するサポーターズクラブ

(6) 『おもてなし講座』の開催及び実践
   3月下旬にサポーターズクラブ主催で岡崎を訪れた観光客に、心温まるおもてなしができるよう『おもてなし講座』を開き、70人近くのサポーターが参加した。1ヵ月後のゴールデンウィーク期間中に岡崎の観光地である岡崎公園内で散策ルートマップの配布を行った。この時期は、『藤まつり』の期間中で、非常に多くの観光客が訪れ、講座の実践活動を行った。

(7) 『純情きらり』を見る会の開催
   放送初日の4月3日、岡崎市役所のロビーに40人のサポーターズクラブが集まり、見る会が開かれた。テーマ音楽が流れ、画面に『協力 愛知県岡崎市』の文字や岡崎市の街が映し出されると自然に拍手が沸き起こり、その時はサポーターの心が一つになってこの番組を盛り上げようとしているのを感じた。

(8) 『家康行列』への参加
   岡崎市の恒例行事である『家康行列』が4月9日に行われ、サポーターズクラブも『純情きらりPR隊』などで参加した。活動内容は、岡崎ナンバー誕生のプラカードやきらり岡崎のシンボルマークのついた旗、交通安全の旗などを持ち、岡崎市中を歩いた。その他、一日警察署長として行列に参加した『純情きらり』杏子役を務める井川遥さんの周りで沿道の人員整理を行った。今年の『家康行列』は、岡崎市制90周年事業の1つとして位置付け、家康役に松方弘樹さんを起用、その他徳川宗家18代当主の徳川恒孝さん、『純情きらり』で警官役として出演している岡崎出身の俳優の楠見彰太郎さん、岡崎市民で名前が「きらり」さん(10人)らが参加し、沿道はこれまでで最高の人手となり賑わった。



人員整理のため井川遥さんの周りに付くサポーターズクラブ
 

『家康行列』に参加したサポーターズクラブ

(9) 2次ロケ現場の清掃
   4月16・17日の2日間に渡って岡崎公園の堀付近で2次ロケが行われることとなり、堀周辺の清掃を行った。

レトロ調な絵はがき(4種類)

(10) 絵はがき発送大作戦
   市民全体の活動として、4月下旬から『純情きらり』サポーターズクラブを中心に絵はがき発送大作戦を展開している。これは、市民が全国の知り合いに『純情きらり』絵はがきを書いて郵送するもので、絵はがきは2月に市が作成したステッカーの図案を利用し、6万枚(4種類)を作成。4種類3枚ずつの12枚を1セットにして、希望する市民に配布。発送後、どこの都道府県へ何枚送ったかを連絡し、事務局である市民協働推進課が集計して岡崎市のホームページで公表している。発送先は、集計表のとおり。


集計表【2006.08.28現在】 (単位:枚)

都道府県名
発送枚数
都道府県名
発送枚数
都道府県名
発送枚数
都道府県名
発送枚数
1.北海道
301
13.東京都
576
25.滋賀県
74
37.香川県
18
2.青森県
37
14.神奈川県
235
26.京都府
168
38.愛媛県
29
3.岩手県
56
15.新潟県
92
27.大阪府
308
39.高知県
34
4.宮城県
47
16.富山県
61
28.兵庫県
170
40.福岡県
108
5.秋田県
54
17.石川県
111
29.奈良県
41
41.佐賀県
17
6.山形県
35
18.福井県
88
30.和歌山県
20
42.長崎県
63
7.福島県
48
19.山梨県
20
31.鳥取県
81
43.熊本県
81
8.茨城県
66
20.長野県
77
32.島根県
55
44.大分県
65
9.栃木県
42
21.岐阜県
415
33.岡山県
66
45.宮崎県
47
10.群馬県
41
22.静岡県
310
34.広島県
97
46.鹿児島県
41
11.埼玉県
106
23.愛知県
5,702
35.山口県
54
47.沖縄県
24
12.千葉県
144
24.三重県
171
36.徳島県
27
48.※国外
126
合計枚数 10,649

※国外の国名:中国、ロンドン、ドイツ、ニュージーランド、台湾、ハンガリー、アメリカ、チェコ、ギリシャ、イギリス、オーストラリア、カナダ、オランダ、ミャンマー、ブラジル、フィンランド、インドネシア、スイス、ベルギー、ネパール

(11) 『きらりの時代展』のサポート
   ドラマの背景になっている昭和時代前半を回顧する『きらりの時代展』(主催:岡崎市他)が、8月4日から22日まで岡崎市康生通にある松坂屋岡崎店6階のコミュニティサテライトオフィスで行われ、当時使用された蓄音機やこたつ、かごなどの生活用品約200点を展示。その他、ドラマのヒロイン役宮﨑あおいさんのブロンズ製手形やサイン色紙、ドラマで使用された油絵なども展示。1日平均850人程が入場し、17日間の会期中に14,500人が訪れた。この間サポーターズクラブのメンバーは、受付など『きらりの時代展』を陰で支えた。


 
昭和時代前半の生活を展示
  宮﨑あおいさんのブロンズ製手形

4. この活動を通じて……

 特に今年の岡崎市は『純情きらり』の放送以外にも『額田町との合併』、『市制施行90周年』、『岡崎ナンバーの導入』など話題のつきない年で、サポーターズクラブの皆さんと一緒に岡崎市を盛り上げ、全国に発信しようと行った活動は、非常にタイミングのよい時期であったと思う。また、当初作業部会では考えもしなかった活動が行われ、予想以上の盛り上りとなったと感じている。
 私自身は、作業部会の中での提案のみで、サポーターズクラブと直接関係する活動は行わなかった。しかし、自分の仕事柄(広報課)、間接的ではあったがサポーターズクラブとして活動された人たちの思いや活動に関する感想などを聞くことができた。例えば「このドラマをきっかけとして全国へ『岡崎市』を発信したい。」という思いは、我々を含め、みんなの共通した思いであることがわかったし、行事へ参加した人の感想を伺うとやりがいや充実感に満たされた回答を多くいただいた。
 これまで行ってきたサポーターズクラブの活動は、どの活動も「まちおこし」や「観光振興」として意味のある活動を行ってきたと思うが、とりわけ中でも大きな役割を果たしたのは、『おかざき純情きらり通信』の編集・発行ではないだろうか。応募した550人全員が上記の活動に参加していないが、『きらり通信』を毎回全員に送ったことにより、これを通じて知り得た情報を周りの人に情報発信していれば、りっぱなサポーターズクラブの活動である。これはいわゆる口コミだが口コミほど心強い情報発信はないのでないだろうか。
 実際にサポーターズクラブを裏方として支えてきた市民協働推進課の職員から話を伺うと「市の呼びかけに応じて行事に参加するのは市民協働の初歩である。きらり通信の編集は、第1回の会議でワークショップを行い、どのように作っていくかを決めた。そこには編集委員の意思があり、その後の作成への責任感が生まれた。現在、予定の3分の2を発行したが、順調にきている。また、絵はがき大作戦も岡崎市が作成したステッカーを見たサポーターが『はがきにしたら全国へ送れるね。』というつぶやきから発想があり、機会をとらえてアンケートを行ったところ、送りたいとの意思が多くあったため、事業実施へとつながった。『①主体的に仕事を任せること、②声を聞き発想を拾い上げること、③市民の活動に責任を持たせること』で市民が自身の発想でまちづくりに関わってくる。9月の放送終了でサポーターズクラブも解散となる。約10ヶ月の活動は、当面の大きな足跡となる。しかしながら、この活動を終えた後、どれだけの人が、まちづくりの活動に参加してくれるかが、サポーターズクラブを結成した本当の評価基準であろう。」とのことだった。この話を聞いた時は非常に奥が深くかつ、重みがある話だと思った。
 協働とは、辞典によると『同じ目的のために、協力して働くこと』となっている。『同じ目的に向かって、協力して働く』ために、行政は参加者の『やる気』『発想』をいかに引き出して拾い上げるかが、重要なポイントであると感じた。

別 紙

主な俳優の役柄

役柄:有森桜子(ありもりさくらこ)……宮﨑あおい
 4歳の時に母親が病気で亡くなり、父の手で育てられる。明るく、感受性豊かで、自由な発想と行動力があり、妹と弟思いでもある。幼い頃からピアノが大好きで、周囲の反対を押し切って、東京の音楽学校に進学。そこでジャズの生演奏にふれ、将来、ジャズピアニストになることを夢見る。ところが、家の事情で音楽学校を休学せざるをえなくなり、やがて幼馴染である味噌の蔵元の御曹司と婚約。戦争が激しくなるとともに、彼女の運命は大きなうねりを見せていく。

有森源一郎(げんいちろう)……三浦友和
 桜子の父。東京帝大在学中に郷里・岡崎のマサと駆け落ち同然に結婚。東京で家庭を持ち、研究助手としてつつましく暮らしていたが、マサが結核を患ったのを機に岡崎に戻る。市の土木課の嘱託となるがマサは他界。以後、男手ひとつで4人の子を育てる。趣味は鉱石集めと音楽。特に、当時国内で勃興したばかりのジャズに興味を持つなど自由な価値観の持ち主で、桜子の良き理解者だったが、事故で急逝する。

有森マサ……竹下景子
 桜子の亡き母。桜子が幼い頃は小学校の教師として家計を支え、学校でよくピアノを弾いていた。その姿はいつまでも桜子の脳裏に焼きついていて、ピアノをかけがえのないものと感じる原点になっている。頑固、お転婆、思ったことは必ずやり遂げる桜子の性格は、まさしく母親譲りで、源一郎が桜子を愛おしく思う所以である。このドラマの語り手でもある。

有森笛子(ふえこ)……寺島しのぶ
 有森家の長女。秀才で女子高等師範を出て、岡崎の女学校の教師になる。源一郎の死後、弟妹の父とも母ともなって、一家を支えていく。強気でプライドが高く、厳しい意見もピシリと言ってのける。弟妹が一人前になるまでは自分の結婚など眼中にないかに見えたが、風来坊の洋画家・杉冬吾と恋に落ち結婚。ところが夫の過去が原因で職を失い、その後も生活を省みない冬吾に振り回され続ける。

有森杏子(ももこ)……井川 遥
 有森家の次女。おっとりした性格で、傷ついた動物がいると放っておけない優しい性格。笛子が桜子にきつくあたるのと正反対に、出来うる限り親身に応援しようとする。周りの勧めで見合結婚するものの、相手に恵まれず、離婚。その後、動物好きが高じて看護の道に。人の命を助けることに生涯を捧げる。

有森勇太郎(ゆうたろう)……松澤 傑
 有森家の末っ子で、唯一の男子。甘えん坊のお調子者で、三人姉妹のミソっかす的存在だが、源一郎の死後は名目上、戸主となる。勇太郎を帝大に進学させることが有森家の最優先事項で、そのためには周りが犠牲を払うというプレッシャーの中で、見事、東京帝大に合格。家族の中でたった一人の男として、姉たちを守ろうとする気持ちだけはあるが、結果的には何も出来ず、やがて召集され出征していく。

有森磯(いそ)……室井 滋
 源一郎の妹(桜子の叔母)。岡崎で最初の「モガ(モダンガール)」を自称。おせっかいで何でも首をつっこみたがる性格。銀座で洋服店を開いていたころ、裕福なパトロンとの間に子供を授かったが、本妻に子供を取り上げられ、傷心のうちに岡崎へ戻って来る。有森家に転がり込み、洋裁の仕事をしながら、居候。浪費家で家事は苦手。世の常識に囚われない価値観は、源一郎とも共通している。「山長」の女将・かねとは同級生だが犬猿の仲。

松井かね……戸田恵子
 「山長」の女将。家付き娘で、老舗の暖簾に高いプライドを持っている。夫を尻に敷き、何でも自分で仕切らないと気が済まない凄腕女将。一人息子の達彦と桜子の婚約に初めは反対するが、達彦の出征を前に婚約を了承。達彦の復員が近いと聞き、桜子に蔵元の若女将としての厳しい特訓を課す。達彦戦死の報せを聞いてショックを受け、体を壊すが、桜子の看病をうける中で心を通わせていく。

松井拓司(たくじ)……村田雄浩
 「山長」の主人。婿養子であることから、かねには頭が上がらない。性格的にも穏やかなお人好しで、陰ながら息子の応援をしようとする。しかしながら、戦局がきびしくなりかけた頃、あえなく病死してしまう。

松井達彦(たつひこ)……福士誠治
 岡崎財閥のひとつである八丁味噌の蔵元「山長」の跡取り息子。旧制高校に進学したものの、音楽への思いを断ち切れず、音楽学校への転学を図る。桜子とは次第に思いを寄せ合うようになるが、父の死をきっかけに音楽を捨てることを決意し、蔵元を継ぐ。その後、笛子の失職で岡崎に戻らざるをえなくなった桜子と再会するが、自らの出征が間近に迫り、桜子にプロポーズをする。

浦辺仙吉(せんきち)……塩見三省
 「山長」の職人頭。頑固者で口数は少ないが、心から八丁味噌を愛している。桜子の真っ直ぐな心根を認め、若女将修業で心身ともに疲れ果てた桜子を、陰になり日向になり支える。戦争の始まりとともに、味噌の原料も心許なくなっていく中、本物を作り続けようと苦闘する仙吉の姿に、桜子は味噌への思いを新たにする。

野木山与一(よいち)……徳井 優
 「山長」の番頭。女将のかねには常に忠実である。物資統制が厳しくなってくると、合理的な生き残り策を画策し、仙吉と対立する。

高島キヨシ……井坂俊哉
 「山長」の職人。達彦と同級生で、小学校時代はガキ大将として大手を振るうが、強面の父と桜子だけは苦手。やがて成長し異性に目覚めてからは、桜子にぞっこん惚れ込む。

沖田徳治郎(とくじろう)……八名信夫
 源一郎の亡き妻・マサの父(桜子の祖父)。味噌蔵の元職人頭。徳川家康生誕の地に生まれたプライドがある古い価値観の持ち主。味噌へのこだわりも尋常ではなく頑固だが、憎めない愛嬌もある。反対を押し切って結婚した一人娘のマサが病死したことで、源一郎とのわだかまりは大きいが、育っていく孫はかわいいと思っている。桜子にとっては、やや煙たい存在。

西園寺公麿(さいおんじきみまろ)……長谷川初範
 ヨーロッパ留学帰りのピアニストで東京音楽学校の教授。演奏会で岡崎を訪れた際、偶然桜子のピアノを耳にして、テクニック的には荒削りだが、人を楽しませることができる桜子の才能に注目する。桜子が東京で浪人生活を始めると、個人的にピアノを指導するなどの面倒をみる。

杉冬吾(とうご)……西島秀俊
 前衛的な絵画に才能を発揮する青森育ちの青年画家。知人の間を渡り歩きながら、ひたすら自分の絵を描くことに心を砕くが、生活能力は全くない。ゆったり構えた器の大きな男で、津軽ことばでしばしば冗談をとばす。気まぐれで立ち寄った岡崎で、笛子と出会い、結婚。その後、政治思想が問題視された友人とのつきあいが原因となって笛子が失職し、東京に移り住むが、芸術のために家族に犠牲を強いてしまう。桜子とは、いわば同志として人生を語り合う仲で、彼女の生き方に多大な影響を与える。