【要請レポート】

『市民立☆労働者立☆児童養護施設』の挑戦

 福井県本部/丹南市民自治研究センター・幹事   
社会福祉法人越前自立支援協会・事務局長 橋本 達昌

 =働く者たちの目覚め= ~"自治研"を通して職場が変わりはじめる ~

① 1995年5月~
  市職員組合内に"職場自治研"活動組織として「児童養護施設活性化部会」を創設。以後、児童養護施設進修学園に働く市職組合員が、主体的に児童養護行政に関する先進事例研究を行う。
② 1996年~
  自治研活動部会からの事業提案(=組合員からの職員提案と組織内議員の議会質問)により「子育て支援短期利用事業(子ども版ショートステイ)」を実施。(北陸地方では最初の事業実施施設となる。)
③ 1997・1998年
  自治研活動の一環として、岐阜や鳥取のグループホーム、石川、横浜、東京の自立援助ホームなど小規模グループケア実践施設の先進事業視察を実施。また市内で増加していた外国籍児童(日系ブラジル人児童)への支援を念頭に、多文化共生教育に関する学習を重ねる。(なおこの間の職場自治研活動実践については、山形県で開催された2000年度全国自治研究集会にて報告。自治研活動奨励賞を受ける。)

 職場自治研部会の発足当時、全国500ヵ所余りの児童養護施設の中で公立施設はわずか50ヵ所程度。しかも年々、廃止や民間委託が進められ、隣市にあった公立の児童養護施設も、その年廃園が決定された。こういう危機的環境だからこそ「自分たちの職場は、自分たちが守らなければ」という強い意志(=覚悟)が職場の中で生まれた。
 市職員組合は、そのような組合員の"おもい"を、自治研活動というステージを提供することで大切に育てた。"自治研活動"によって不安と閉塞感で一杯だった職場は確実に変わりはじめた。

 =自治研活動の拡大= ~ "市民活動ネットワーク"の輪が広がる ~ 

④ 2001年4月~
  福井県公共サービスユニオン結成(=自治労福井県本部が立ち上げた自治体臨時・非常勤労働者のための個人加入型労働組合)。組織発足と同時に進修学園に働く臨時・非常勤職員が全員加入。以後、いわゆる正規職員と臨時・非常勤職員が(その身分の垣根を越え)一丸となって、児童養護施設運営改善のための自治研究活動を行う。
⑤ 2001年9月~
  市民活動家や議員、自治体職員などが集い"地域の学び舎"となっている「丹南市民自治研究センター(2001年創設・市職組織内議員が代表)」内に「子ども政策研究部会」が創設され、市内小学6年生全員を対象としたアンケート調査(回収率96%)や子育てセミナー(参加者市民約150人)などを実施。自治研部会もこれに参画。これらの活動を通じて障害児保護者団体や子ども劇場、市PTA連合会など、多くの市民活動団体との人的交流を深める。(この活動実践は、2002年度全国自治研究集会<徳島集会>分科会パネルディスカッションにて報告)
⑥ 2002年11月
  丹南市民自治研究センターが、"市民参加の地域福祉"をテーマとした市民フォーラム(参加者市民約100人)を主催。パネラーとして参加した市長が、自治研センターの従来からの主張である「当事者主義の視点」と「市民自治活動」の重要性について強く賛同する。
⑦ 2003年4月
  数年間におよぶ自治研活動部会の事業提案(=(ア)相談機関の新設を求める組合員からの職場提案、(イ)組織内議員の議会質問<1998年3月議会>、(ウ)市民集会の開催<集会テーマ ガンバレ新世紀の子どもたち~児童福祉施策の近未来像を考える~>)が契機となって「児童家庭支援センター」を創設。(公立児童養護施設では全国初の附置となる。)

 自治研活動の研究成果を広く市民に伝えようと多くの市民集会を開催したが、集会の開催には、丹南市民自治研究センターが大きな役割を担った。自治研センターと、その代表を務める自治労組織内議員の存在は、職場自治研(労働者)と市民とをつなぐ重要な"架け橋"。
 集会は、一般市民の中に多数の理解者をつくる結果となり、市民活動家たちとのネットワークも拡大していった。なお丹南市民自治研究センターは今秋、NPO法人格を取得する予定である。

 =当事者主義への新展開= ~ 当事者視点から"自治体改革"に挑む ~ 

⑧ 2003年5月~10月
  丹南市民自治研究センターが主催した市民フォーラムでの問題提起を受け、市は、障害児と要養護児童のための支援計画(児童自立支援アクションプログラム)策定を決定。市は市民自治の観点から、この策定業務を当事者市民に全面委託。これを受け全員公募による完全市民主導型の策定プロジェクトチームが発足。児童養護施設現役入所児童2人も策定委員として加わり、中高生の施設入所児童全員とのワークショップを開催する。(ちなみにワークショップの開催回数は、計17回。)ここで当事者市民=子どもたち=の不安や不満を集約。以後、施設職員と入所児童が一体となって、事業の具体的な改善に向けた検討を行う。
⑨ 2003年11月
  アクションプログラム市民案を広く市民に公表するため市民フォーラム(参加者市民約200人)を開催。施設のOB青年(当時21歳)がパネラーとして登壇し、市長と意見を交わす。これら一連の策定過程において、市民に児童養護施設改革の必要性をアピール。
⑩ 2004年6月
  アクションプログラムでの提案に従い、障害児・青年および進修学園に入所している児童や卒園した児童を支援する市民活動組織(NPO法人 自立支援ネット)が立ち上がる。これにより有志市民による支援基盤が整い、施設運営の受け皿が完成する。(この活動実践は、2004年度全国自治研究集会<群馬集会>分科会パネルディスカッションにて報告)
⑪ 2004年11月
  アクションプログラムを受け、進修学園に働く仲間が全員で「施設運営改革についての職員提案」を行う。提案趣旨は、サービスの質を高め当事者主義を貫いた施設運営を行うために、行政機構から独立した新事業体を創設すべきであるというもの。なお主たる改革内容は以下の4点。
 ア 市民活動家(NPO代表)や地域の代表、福祉や人権の専門家(社会福祉士、医師、司法書士)などが経営参画することで、市民に開かれた民主的・市民自治的運営を行う。また障害者を雇用することで、新事業体自らがインクルージョン社会の実現に寄与する。
 イ 児童養護施設の運営を専ら行う専門組織としての体制を確立する。具体的には、過半数を超える臨時・非常勤職員を正規職員化し、その雇用不安を解消するとともに、児童養護行政に意欲と関心のある市民のさらなるスタッフ化をはかり、継続的・安定的な処遇体制を構築する。
 ウ グループホームを創設し、施設の小規模化(=施設から家庭への脱却)を志向することで、アットホームな処遇体制を確立し、入所児童への処遇向上をはかる。また近年、国が推進している新規の被虐待児童対策(家庭支援専門相談員やグループケア担当職員などの配置)を迅速に行い、心理的ケア能力の向上をはかる。
 エ あらゆる市民自治活動組織と連携・協働して、入所児童の自立援助に取り組む。また市民有志の力を最大限に活用することで、卒園した子ども達の就労継続や自立支援のための地域生活援助(アフターケア)をも充実させる。

 児童自立支援アクションプログラムは、公募市民グループと行政がパートナーシップ協定を結んで策定した本格的な市民自治型の行政計画。私たちの自治研部会も、この児童自立支援アクションプログラムの策定過程で、大きな転機を迎えた。
 以来、守られるだけの存在であった子どもたちが、ともに改革に挑戦する仲間になった。当事者市民=子どもたち=の声は切実で、だからこそ一般市民に対し大きな説得力を持っていた。

 =構想から実践へ= ~ 新しい"公共の力"を自らの手で創り出す ~ 

⑫ 2005年4月~7月
  進修学園職員のほか、市内で活動する市民活動家や福祉事業者など有志市民が一堂に会し、市民里親応援団=社会福祉法人設立準備会=を組織(事務局はNPO法人 自立支援ネット)。新事業体創設のための募金活動(一人一口10,000円)を開始する。2ヵ月あまりで約430人の市民からの浄財を得、基本財産として必要な1,000万円を確保する。同年7月、県に社会福祉法人認可申請を行う。
⑬ 2005年11月~12月
  11月17日、県より社会福祉法人認可。12月議会で市より指定管理者の指定を得る。
多くの市民の協力を得て、きわめて民主的な形で法人が成立したことから、一部マスコミでは「市民立」の組織と形容される。

【法人役員の構成】 理  事 <市民活動家代表> NPO法人自立支援ネット理事長(=社会福祉士)
      丹南市民自治研究センター幹事(=市職書記)
    <地域代表> 地元町内会代表
    <福祉専門家代表> 医師
      福井県里親会会長(=配偶者は専門里親)
    <行政経験者> 前市助役(=元県社会福祉課長)
    <働く者の代表> 施設長(=元市職組合員)
      職員代表(=元市臨時嘱託職員・福井県公共サービスユニオン組合員)
  評 議 員 司法書士・施設入所児童OB・NPO法人代表・障害児保護者団体役員他
  監  事 税理士・JC役員・福祉事業経営者
  参  与 弁護士・医師・元市社会福祉協議会副理事長・元地元小学校長
  事務局長 職員代表(現丹南自治研センター幹事・市職委員長<当時>・元自治労県本部副委員長)

⑭ 2006年1月
  職員採用を実施。新採用の直接処遇職員は、現在働いている直接処遇職員のグループが、調理員は調理員のグループが、それぞれ面接選考を行い採用決定する。なお勤務ローテーションや就業規則などの労働諸条件="自らの働き方"も、全職員の話し合いによって決定する。
⑮ 2006年4月
  新しい法人による運営開始。同時にグループホームの運営も開始。
職員は施設長のほか、直接処遇職員15人、栄養士1人、調理員4人、事務員2人、相談員3人。
<新たな施設の基本理念>
 ア 私たちの子どもたちは、私たちが創りだすアットホーム(温かく家庭的)な居場所で、
ゆっくりと安心して成長していきます。
 イ 私たちの子どもたちは、私たちとの人間関係の中で、愛されていることを実感します。
そして人を愛することをまなびます。
 ウ 私たちの子どもたちは、私たちと協働する市民有志の人たちの支援によって、 地域の中でしっかりと自立していきます。

 働く者と市民有志が協働し、(原則、市民一人一口1万円の出資によって)基本財産を集めた。働く者が自らの勤務形態を決め、就業規則を策定した。市民有志の中で法人役員を選出し、施設を卒園した子どもたちの代表(20歳の青年)も法人役員になった。働く者の互選により施設長や副施設長を決めた。新たな職員の採用は、現在働いている者(希望者)全員で面接して決定した。"民主的な運営"へのこだわりこそが、新しい公共の力を創造する源となった。

<総括……私たちの到達点>
    自治体改革とは、自らの手で「新しい公共の力」を創造すること!

 わたしたちは、自らの実践活動の中で、
① 当該職務に熱意と覚悟を有し、当該事業を熟知する"働く者"によって政策研究集団(自治研活動組織)が結成され、
② その集団内で、民主的な手法によって、"活動のミッション(=労働目標)"が共有化され、
③ しかも、その集団が、内部論議にとどまったり、観念論に陥ったりせず、外部(=地域住民)に向かって、具体的・効果的な実践活動を展開できれば、おのずと目標達成に向けた"有志市民との協働関係"を確立することができる!
ということを学びました。
 また、
 志のある市民活動家と公共サービス労働者が、真実一緒になって改革を実践するとき、改革は、"新しい公共空間を創造"するほどの力(=公共の力)を持つことを学びました。
 そして、それこそが自治体改革の醍醐味であることを実感しました。

ps でも、もちろんこれからが本当の勝負! 海も山もあると思いますが、情熱溢れる市民や、ともに働く仲間たちを互いに信じて、精一杯頑張っていきます!!!

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