【要請レポート】自治研活動部門奨励賞

第35回佐賀自治研集会
第1分科会 住民との協働でつくる地域社会

 近年、少子・高齢化や核家族化、都市化の進行などにより、地域における人と人とのつながりが希薄になるとともに、福祉、防災・防犯、教育など多くの分野で、地域を取り巻く課題は複雑・多様化している。これらの課題を個人や個別の団体、行政だけで解決するには限界があり、一人ひとりが支え合い課題解決にむけて取り組むことが、ますます重要となっている。
 佐賀市では地域と行政が連携し、住民が主体となって地域課題に対応する協働のまちづくりをめざして「地域コミュニティづくり」を推進している。地域コミュニティの拠点である公民館の職員の力量形成の方策とよりよい支援のあり方を考える。



参加と協働のまちづくりのために
―― 公民館から見えるまちづくり ――

佐賀県本部/佐賀市立公民館職員労働組合

1. はじめに

(1) 公民館運営の地域委託から直営化へ
 旧佐賀市19公民館において、2006年度より公民館管理運営のうち「公民館運営の一部」が、校区自治会を中心とした地域各種団体で構成される「公民館運営協議会」に委託され、市職員2人が引上げられるとともに、この運営協議会が新たに雇用する「公民館職員」2人が配置された。
 この地域委託によって、公民館運営方針の決定や公民館主催学級・講座の企画・実施を、各校区の公民館運営協議会で行うことになった。私たちは、地域雇用の公民館主事として「地域に根ざした公民館活動」をめざし、地域住民の最も身近な学習や交流の場として、地域の特色を活かした独自の取り組みを行った。また、学習の成果をさまざまな場面で活かす仕組づくりに努めた。
 その結果、公民館への住民の関心が高まり、講座への参加者が増加し、地域活動への住民参画が活発になった。公民館の地域委託は「新しい公共」の形成へと、発展しつつあった。
 しかし一方で、公民館運営の地域委託はスタート当初から、様々な問題を抱えていた。館長と主事の雇用主が違うため、指揮命令系統が一本化されてないこと、「公民館運営協議会」の事業主責任・雇用主責任という負担の重さなどがあげられる。
 また、2005年および2007年の1市6町1村の市町村合併により、新市と旧市の間で公民館の整備状況、職員体制に違いが生じていた。
 このような課題を抱えるなか2012年4月から、旧佐賀市19公民館の運営は、佐賀市直営へ戻され、地域に雇用されていた公民館主事は、「非常勤職員」として、佐賀市に直接任用されることとなった。

(2) 地域委託の成果を活かしていくために
 地域主導型公民館をめざした地域委託であったが、「公民館主導で地域が動かされる」という課題が残ったことも事実である。しかし、地域委託によって、公民館の主催講座や事業は、趣味・教養といった生涯学習的な内容から、地域の課題解決を目的にした内容へと変容し、「地域づくりへの支援」が公民館の役割の中で、大きな比重を占めるようになった。
 公民館は、地域委託のなかで「社会教育の場」として、地域住民に学びの機会を提供し、住民自らの気づきをファシリテートし、そして、その気づきを地域活動へと発展させる役割を担ってきたのである。
 2011年8月に策定された「佐賀市立公民館が果たす機能に関する佐賀市教育委員会方針」の中で、地域の社会教育の拠点となる公民館の目的を、「市民一人ひとりの力及びこれを基にした多様な学習活動により、よりよい地域、社会の実現を目指すための市民の育成、力量形成」とし、その実現にむけて、「①地域の連帯力をつくる。②地域の教育力を高める。③地域の課題解決力を高める。④地域への情報発信力を高める。」という4つの役割・機能が、掲げられている。公民館を拠点とした社会教育活動の推進をはかることで、人づくり・地域づくりにつながっていくことが、期待されている。
 公民館地域委託の成果を活かし、公民館を拠点とした社会教育活動の推進を図ることで、人づくり・地域づくりにつなげていくためには、公民館職員の「資質・能力の向上」をはかることが不可欠である。公民館職員は、地域住民の学習成果を活かし、新しい公共の形成を支援する専門性を高めていかなければならない。
 その手段として、私たちは、研修機会の充実に努めることが重要と考えるようになった。


2. 公民館職員の力量形成と職員研修

 毎月第3木曜日の午後、主事研修が開催されている。2006年度から2011年度まで、公民館の運営が地域委託されていたため、「研修プログラム」は、主事会研修企画委員と佐賀市公民館運営協議会連合会事務局(市社会教育課)で企画し、38人の公民館主事全員が同じテーマに取り組む研修が実施されていた。
 地域雇用職員として採用された当初は、経験のない公民館業務に戸惑うことも多く、お互いに助け合いながら業務にあたっていた。しかし、年数を重ねるごとに、19の公民館運営協議会に雇用される「それぞれ別組織の職員である」という意識が生まれ、主事同士の横のつながりが希薄になっていった。業務が煩雑になったこともあり「自分の館のことで精いっぱい」で、月1回の研修会への出席率低下とともに、情報交換の機会も少なくなり、お互いの悩みや課題を共有することできなくなっていた。
 2012年度より、公民館の運営が「佐賀市直営」に戻るにあたって、「主事研修をどのような形態で実施するべきか?」、主事会研修企画委員と社会教育課とで、企画会議を開き検討した。
 それぞれ勤務する地域の課題が多様であること、課題とするテーマが異なってきたことや自己研鑽を目的とするならば、「受身の研修から脱することが必要ではないか」という意見が出された。
 そこで、従来どおりの社会教育課で企画する「全体研修」と自ら研究テーマを選択し、研修の手段や方法を考えながら学習を進める「グループ研究」の2本立てで、主事研修を実施することになった。
 あらかじめ、主事へのアンケートを実施し、地域の課題解決につながる研究テーマを設定した。
 グループ研究の形態を選択するにあたっては、同じ課題をもって少人数で学びを進め連携を深めること、直営化によって可能となった人事異動に備え、勤務地以外の校区の状況や課題を知るというねらいもあった。

2012年度 研究テーマ 2013年度 研究テーマ

魅力的な広報

地域性

子育て支援・高齢者問題
青少年の居場所づくり

通学合宿

新規来館者開拓

防災

地域コミュニティ

公民館職員研修

公民館におけるITC利活用

高齢者の居場所づくり

新規来館者開拓

地域人材育成

 今年度、グループ研究は3年目を迎える。公民館主事として抱える課題や地域の課題を解決するために、それぞれテーマを選択し、グループに分かれて研究に取り組んでいる。
 今年度からは、研究のさらなる深まりと、発展的な成果を期待して、3年計画で継続的な研究に取り組むことになった。
 公民館主事として、それぞれの勤務地で「従来の事業」を踏襲するだけでなく、真に「必要な事業」を計画し、地域の人材を育成するために、主事研修の研究成果を活かし実践につなげる努力を行っている。


3. 住民との協働でつくる地域社会

(1) 実践事例① 佐賀市勧興公民館
 「高齢者生活の実態調査と課題解決への取り組み」
 勧興校区は、佐賀市の中心に位置し、人口6,500人・世帯数3,200世帯で、JR佐賀駅から県庁を結ぶ中央大通りを中心に、東西に広がるコンパクトな町である。徒歩圏内に、病院・スーパー・役所等が点在しており、退職後にこの街を選んで転居してこられた方も少なくない。
 2011年の調査によると、勧興校区の高齢化率は24.3%(佐賀市全体22.92%)。高齢化率が高い地域(旧富士町・旧三瀬町)では、在宅高齢者に占める「単身・高齢者のみ世帯」が低いのに対して勧興校区ではその割合が、56.6%と高い割合を占めている。つまり、高齢者だけの世帯でも暮らしやすい環境が整っている地区だと言える。
 以前から「一人暮らしの高齢者が多い」とは感じていたが、公民館に来館されない高齢者の実態は、把握できていなかった。この調査を機会に、高齢者の生活の実態を調査・分析し、これからの地域づくりのヒントにしたいとの思いがあった。さらに、調査によって判る高齢者の生活の様子を地域の方と共有したいとも考えていた。
 下記のような講座を計画し、10月~1月にかけて「高齢者の暮らし」について調査および住民ワークショップを実施した。実態調査はインタビュー形式とした。

日 程

内     容

手 法

8月末頃
~10月

○調査対象・内容・分析方法の検討
○調査員・協力者の検討
○調査票の作成

 

第1回
10/30

高齢者の暮らしを知るには ~高齢者の声に耳を傾ける~
(聞き取りの手法を学ぶ)

講義・演習

11月

○調査期間

 

12月

○調査結果の入力

 

第2回
12/14

高齢者が住みよいまちとは ~聞き取りからみえてきたもの~
(聞き取りの整理とまとめ)

ワークショップ

第3回
1/18

高齢者の社会参加を考える

講義・演習

1月~
25年7月

○調査結果・ワークショップの分析
○調査員への追加の聞き取り調査
○報告書の作成・発行

 

 調査員は、民生児童委員・生活介護支援サポーター・社会福祉協議会委員等、校区の地域福祉にかかわる方々にお願いし、第1回は「インタビュー調査」の意義や意味、そして手法を学ぶ講座を開催した。1ヶ月程度の調査期間を設定し、第2回の講座では「聞き取り」から見えてきたものの分析と、「高齢者の孤立化を防ぎ、いきいきと地域の中で過ごせるための具体的な取組み」をテーマに「ワークショップ」を行った。各グループから多くの意見がだされ、事業を具現化していくヒントにつながった。インタビュー形式にしたことで「選択肢」を準備していないものも数多くあり、「聞き取り」や「まとめ」の作業は大変だったが、調査対象者それぞれの特色が出て、各々の「人生に対する考え方が見えてくる」ような結果となった。
 その後、「インタビュー調査」と「ワークショップ」が終了してからも、調査をしてくれた方が公民館に来館された時に、インタビューのことが話題となり、意見を交わすことも多々あった。
 その中には「世間話」や「井戸端会議」で済ませてしまうのも勿体ない内容があり、急きょ講師も交えて調査員への聞き取りを計画した。10人以上の「高齢者インタビュー」を担当した調査員の方に、それぞれの事例の結果をもとに、「高齢者の課題」「高齢者の知恵や経験」に関する気づきについて、発言をお願いした。
 各々の発言の中から、次の4つをまとめることができた。
① 80歳が大きな分かれ目、身体的衰えの差が最も大きいのは80歳。
② マンション住まいの高齢者に対する対策。
③ 孤立した高齢者への働きかけのヒント。
④ 高齢者が、自らプログラムをつくりだす機会の創造。
 このように、「インタビュー調査」を実施したことで、これまでは「現在」の1点でしか見ることができなかった「個人」を、その方の意識や考え方、歴史をより深く知ることで「立体的」に捉えることができた。
 調査員の方自身が、その「高齢者の暮らし様」を課題と見ることで、地域の課題に向き合う当事者としての意識が強くなったと考えられる。
 調査やワークショップの内容から、高齢者自身が「主体的にいきいきと生き抜く」ためには、「高齢者の孤立を解消すること」「近場の交流の場が必要であること」「買い物等、歩くこと」、そのことが合わせて「介護予防の解決策となる」のでは、との結果があり、公民館の主催事業として、2013年4月から「あつまれ水曜」と「ふれあい和風食卓」の2つの「高齢者の居場所づくり事業」を立ち上げた。
 元飲食店経営者を講師に実施した「食を通した居場所づくり事業(ふれあい和風食卓)」は、定員超えの盛況であったが、「三々五々集まってください」「場所を提供します」「あなたのやりたいことをやってください」「井戸端会議でも、ものづくりでも……」との声掛けで開いた居場所(あつまれ水曜)は、なかなか参加者が集まらない。
 「近くに(用事がなくても)気軽に行けて、おしゃべりができる場所があることは、大切なこと」「友だちを誘って少しずつ仲間を増やしていく」とまとめた「ワークショップの見通し」は、間違っていたのだろうか。
 4月・5月・6月と空回り状態で、参加者と支援者を合わせても10数人ほどにとどまった。この状態を打開するために「昼食を作って、皆で食べる」「井戸端会議だけではなく、活動してみる」などの手立てを考えた。
 さらに、そこに集まった皆さんと一緒に「どうしたら参加者が多くなるか?」を考えた。本来の趣旨とは違ってきたが、7月からは「企画を考えて、それに誘う形で参加を勧めよう」ということになった。
 「トランプあそび」「脳トレクイズ」「マスコットづくり」「凧づくりと凧揚げ」、それに、おたっしゃ本舗の「健康相談」も加えた。
 このようにして、「公民館職員が主体となって進めてきた居場所づくり事業」だったが、社会教育関係者の勉強会で、この事業の報告をした時に「本来の公民館職員の役割を考えてみること」との意見をいただいた。
 「住民とともに考え、住民の力をひきだし、住民自らがその当事者として取り組むように」を、常に心がけていたはずだったのに、「みんなで協力してくれるだろう」との甘い考え、そして「事業を成功させたい」「やらなければならない」の思いが強すぎて、一番大切なことを見失っていた。
 2014年3月、この事業を見直す意味で、地域福祉にかかわっている各団体に声をかけ「高齢者の居場所は、本当に必要か?」をテーマに話し合う場を持った。
 これからの「介護保険のあり様」や「国の方針」なども勉強した上で、この事業の「意味」と「意義」を検討した。各団体の会議でもこの内容を伝えていただき、皆で共有した上で、「居場所づくり事業」は、今後も継続することになった。さらに、関係5団体が、月別に企画を受け持つことも決まった。
 「なんばすっとよかと?」や「自分の町区のサロンの内容も考えんといかんとに……」とか「今月はみんなで民謡ば踊ろう」「特に企画しなくても、しゃべりの場として誘ってくるとよかやんね」などと様々な愚痴やアイディアが出ている。
 ひとまわりしたところで「ふりかえり」を行い、もう一度、皆で話し合うことも決めている。「ふりかえり」を繰り返しながら、その時々の課題を共有したり、必要であれば方法を変えながら、各団体や支援者が無理なく、継続して取り組めるような仕組みをつくりたいと考えている。
聞き取りの手法を学ぶ 聞き取りのまとめ ふれあい和風食事 あつまれ水曜
(参考資料:勧興校区高齢者の生活実態調査)

(2) 実践事例② 佐賀市開成公民館
 「地元を知ろう I ♡ (アイラブ)開成~じぇじぇじぇの再発見~」
 佐賀市では、1951年に佐賀市立公民館が設立されて以来、平成の町村合併前まで、小学校区を単位としてまちづくりが行われてきた。
 しかし、開成校区は、もともと田園地帯だったところが、35年ほど前からの宅地化に伴う人口増加により、鍋島小学校校区と新栄小学校校区の一部を25年ほど前に、分離併合した新設の校区である。
 その経過からか地元の小学校にあまり愛着がない住民が多く、まちづくりを考える際、他の校区に比べて校区単位でのまとまりが弱いのが課題である。
 その一方で新しい校区を立ち上げるのにむけ、自治会ごとの町区では自分たちのまちづくりについて、議論が重ねられた経緯があり、町区での単位ではまとまりがあるのが特徴である。
 高齢者の現状としては、かつて自治会ごとにあった「老人会」が、会員の高齢化による活動の衰退や会員減少による運営費不足や住民の意識が老人会の組織に馴染まなくなっていることなどの理由により、組織数が減少していることがあげられる。
 しかし、「佐賀市社会福祉協議会」が行っている「サロン事業」に取り組むグループは近年増えている。この事業は、近所の気が合う人達同士で仲間づくりを始められ、また歩いて行ける地域の自治公民館で行われることもあり取り組み易い。老人会がなくなった地域では、新たな高齢者の身近な居場所づくりに一役かっている。そのサロンにも、「代表者の人だけに、膨大な負担がかかっている」という悩みがあった。
 宅地化とともに移り住んだ地域住民の多くが退職を迎えている。60~70代となった彼らによる地域活動が活発化していかなければならないときに、その受け皿である老人会組織の減少に表れているような「高齢者同士のつながりの希薄化」を公民館では、地域課題と捉え「高齢者が充実した生活を送るためには、何が必要なのか?」を模索していた。
 そこで、地域での一人暮らし高齢者にアンケートをとってみた。すると、年齢とともに活動範囲が自宅周辺と狭くなるにもかかわらず、相談相手は「近所ではない市内の友人」や「離れた場所に住む兄弟姉妹や子ども」であった。そして、やってみたいことでは「旅行などの日常とは違う体験をしたい」ということと、「人の役に立ちたい」という要求も強かった。
 アンケート結果から気付いたことは「まだ身体が元気で自分の力で車や自転車による移動が可能なうちは、近所同士の付き合いの必要性に気付かない」だが「車や自転車に乗れなくなると、途端に孤立してしまう可能性がある」ということであった。
 そのことは「早い段階から近所と繋がりをもっておく必要がある」ということ。高齢者は他者から奉仕してもらうだけの存在ではなく「できる範囲で他者への奉仕者であり続けることが、生きがいとなる」ということであった。私たちは、彼らが「生き生きと活動できる場を創出しなければならない」ということである。
 そこで公民館では、地域課題解決のアプローチとして、通常行う校区単位での事業はなく、開成校区の特性を生かし、町区単位のサロン事業をターゲットにして支援を行うことにした。
 最初に取り組んだことは、サロンの内容に対する支援だった。それは、各サロンの代表者が公民館に立ち寄り、「毎月サロンで何をしようか? いつも悩んでいる」「みんなが喜びそうなことを教えてくれる先生を紹介して」と度々言われていたからである。しかし、講師を紹介しても反応は必ずしも良くなく、結局はサロン代表者が毎月のネタ探しをしている現状に変わりはなかった。
 そこで私たちが気付いたのは、サロンの内容としての「ネタ提供」ではなく、「代表者だけがすべての世話をし、会員はサービスを受けるだけ」であり、その結果「代表者が疲労困ぱいする」という現状を会員みんなが力を合わせ、自らを当事者として運営して行くよう「人材を育成する」ことが、公民館がやるべき支援であるということであった。
 しかし「人材育成」といっても人の意識を変える取り組みであり、どこからどう手を出してよいのか悩んでいた。丁度その時、佐賀県生涯学習センター(アバンセ)事業で、アバンセと市教育委員会と公民館、それぞれの職員が協働で「地域の課題解決に取り組む」という事業の募集がかけられた。
 この事業を通じて、このサロン事業の支援を行うことにした。3者と講師との間で話し合った結果、でき上がったのが、以下のプログラムである。

講座名

地元を知ろう I ♡ (アイラブ)開成~じぇじぇじぇの再発見~

目 的

 高齢者自身が、町区単位での高齢者同士の交流を通して、地域のことや人を知り、地域にかかわることの大切さに気付き、自主的に地域にかかわろうという人材を育成する。

対 象

 1 回 目  開成校区内の各町区サロンの代表者
 2~4回目  モデル地区のサロン参加者

内 容
1回目

 各サロンの代表者を対象に、「地域のリーダーとして、まちに関わることの大切さを学ぶ」というテーマで講演を行い、その後、事業についての説明とモデル地区の募集を行った。

2~
4回目

 モデル地区に手を挙げたサロンを対象に、「まち歩き」と「地図作り」それに対する「発表」を行い、自分の住むまちに愛着を持ってもらう。
 また、個人で書いてもらう「ふりかえりシート」に、「まちに対する自分の思い」や「自分の趣味」「地域に対してできること」なども書いてもらい、「人材バンク」を創った。
 そして、最後のまとめで、講師から、サロンの運営を「みんなで協力しておこなうことの必要性」について話してもらった。
 また、各回の前後に必ず「反省」や「次回の計画」のための会議を開いたが、その中で、サロンの代表者に、「地域の人材育成のためには、自分たちだけががんばる」のではなく、「意識的に手を抜く」ことの必要性を説いていった。

成果と
課題

 この事業の成果は、地域の「人材バンク」を創ったことと、「まち歩き」によって参加者が「地域に愛着」をもつようになったことである。
 しかし、サロンの運営に関しては、必ずしも意図していたような方向に進んでおらず、私たちとの事業が終わったあと、「若い世代の支援者」が増え、逆に「高齢者のお客様」状態が助長されたようである。
 私たちは「高齢者が主体的に運営できるサロンづくり」をめざしていたので、「現状を聞き、人の意識を変える」ことの難しさを痛感した。

 この事業の特徴は、1回目は校区全体を対象としたが、2回目以降はモデル町区のみに限定し、そこの町区に出向いて事業を展開する。というアウトリーチ的手法を用いたことである。アバンセとの事業は単年で終わったが、公民館は引き続きサロンの支援を通して、高齢者が主体的にまちづくりに関わっていくような人材育成を行い、その取り組みが開成校区全体のまちの活性化につながるよう、事業を展開していきたい。

(3) 地域の特性を活かした課題解決プログラム
 私たち公民館職員は「公民館指針(公民館の目的)」に基づき、「公民館を拠点とした社会教育活動の推進」をはかることで「人づくり、地域づくり」を行っている。
 そのためには、まずは「地域の現状の把握」を行うことが大切である。
 地域の現状を探るなかで「人と人とのコミュニケーション力」「地域の課題を共に考え、解決に向けた学習機会の提供や場の提供」など、活動計画にあわせたファシリテート力が必要である。
 社会的課題は、「どの地域においてもあまりかわりない」と思う。しかし、解決策は「地域にあわせた取り組み」でなければならない。
 今回の2つの事例報告は、どちらも地域課題が「高齢者問題」だが、「取り組みの仕方」は全く違っている。
 地域の歴史・人口・高齢化率・産業・学校との関係、地域に暮らす人々の人間関係など様々な要因によって形成された地域の特性(地域性)を、公民館職員が十分に把握し、そして理解し、地域へ効果的かつ適切な働きかけを考えている。
 地域の現状に合わせた方法だからこそ、地域住民も参加・参画しやすい状況が生まれ易くなり、住民意識も高揚して行く。
 佐賀市では「地域と行政」とが連携し、住民が主役となって「地域課題に対応するまちづくり」をめざして、「地域コミュニティづくり」を推進している。安全安心なまちづくりにむけて、校区の「夢プランづくり」や実践する体制づくりが行われている。
 そして、2014年4月1日「まちづくり基本自治条例」が施行された。「地方分権」「地域主権」改革の推進とともに、自治体には「自己決定」や「自己責任」が求められ、「地域の考え方」に基づいて、その運営に取り組む時代となっている。


4. 持続可能な地域づくりを支援するために

(1) 公民館職員の役割
 私たちは、2006年に「地域雇用の公民館職員」として採用されてから、社会教育の立場から地域づくりを支援してきた。公民館の運営が佐賀市直営に戻されたことにより、「非正規の市職員」という身分にならざるを得なかったが、地域住民とともに歩み、住民自身がよりよい地域社会を創る。その支援ができる公民館職員でありたいと思う気持ちは持ち続けている。
 地域コミュニティ事業が佐賀市の大きな政策として推進され、公民館を拠点に現在32校区中14校区で「まちづくり協議会」が発足している。しかし、拠点とされる公民館で働く職員は、コミュニティ事業に「どうかかわればよいのか?」「どのような役割を担うことが大切なのか?」試行錯誤を繰り返している。
 地域の実情に応じての支援が必要とされているが、地域だけでなく行政も手探りのなかで、政策が進められようとしている。住民とともに、住民意識の向上に合わせ、時間をかけながらこの政策に取り組んで行く必要がある。
 組織をつくることを目的とするのではなく、頑張っておられる住民の思いを丁寧に束ねながら自治を進めて行きたいと考えている。しかし、「まちづくり自治基本条例」に示されている「市民の責務」をどれくらいの人が認識されているのだろうか?
 今後、人口減少・少子高齢化が進行する中、「自治を担う人づくり」として、条例制定や地域コミュニティ事業が推進されているが、それを担えない地域がでてくることは佐賀市においても想定できる。これを推進するにあたっては、理想を並べるだけでなく、公民館も含めた行政自身が変わっていく覚悟とそのメッセージを市民に伝える必要が明らかになってきた。
 私たちは、住民に最も身近な活動の拠点である公民館の職員として、新たな仕組みづくりを行うこと、その作業を「意図的」「制度的」に進めることが求められている。丁寧な議論の積み重ねや住民の思いや意識の向上に合わせて、「自治を促進させる社会教育」の機能を最大限に活かし、新たな「参加と協働」の創出をめざしていくことが、これからの公民館職員に課せられた役割だと考えている。

(2) これから
 今年度、主事研修・グループ研究として、ファシリテート力やプレゼンテーション力など地域の力を引き出すための職員のスキル向上から、モデル校区での持続可能な地域活動支援の実践までを通したプログラム(学びあうコミュニティの創出と支援者育成プログラム)を企画した。このプログラムは、地域課題を職員自身が探りだせる資質の形成や新たな関係団体とのネットワークを構築できる力の向上、新たな課題に対応するためのスキルアップを図ることを目的としている。
 公民館職員の意識改革により、資質能力が向上し、地域のコーディネーターとしての役割を十分に果たすことで「参加と協働のまちづくり」へつなぐことが期待できる。これは、2014年度文部科学省「公民館等を中心とした社会教育活性化支援プログラム」に採択され、すでに取り組みを始めている。
 2014年4月、佐賀市ではコミュニティ事業推進にともなう機構改革が行われ、公民館の所管を教育委員会に残したまま、公民館支援業務の部分が市長部局である「協働推進課」へ補助執行という形で移管された。
 来る2015年、佐賀市は合併10年を迎える。「合併協定」により旧郡部と旧市の間で異なっている公民館の運営形態が全市的に平準化される予定である。
 合併後、佐賀市となった旧郡部では支所の教育課職員が公民館業務を兼務している。また、館長と公民館事務員の2人体制の公民館もある。異なった職員体制の平準化が行われることで、私たち旧市19公民館職員の勤務体制が変わることも予測される。
 2006年度「公民館の地域委託」、2012年度の「公民館の再直営」化、2014年度「機構改革」、そしてこれから行われる「平準化」。この10年ほどの間に公民館に、幾度も大きな変革の波が押し寄せて、そこで働く私たち公民館職員は翻弄され続けてきた。
 どのような改革が行われようとも、これまで通り地域に根ざした活動をとおして、社会教育の立場から地域住民の心に変容を促し、やる気を引き出す働きかけを続けることを、私たちは職務としている。公民館職員は、地域づくりにおいて、佐賀市行政にとって、また市民にとっても、なくてはならないかけがえのない存在であり続けたい。
 「公民館職員が、本気で地域に向き合えば、地域は変わる」「地域が変われば、佐賀市が変わる。」私たちは、行政の最先端で働いている。