【自主レポート】

第35回佐賀自治研集会
第1分科会 住民との協働でつくる地域社会

 日田市を始め、多くの公共図書館で議題にあがっている指定管理者制度について、公共図書館で働く職員の一人として、現状と今後の課題をレポートします。



現在とこれからの公共図書館運営について


大分県本部/日田市職員労働組合 井上  純

1. はじめに

 公共図書館は、地域住民の生涯学習を支える場として、最新の情報を提供するとともに、地域の歴史や文化の普及に資するための地域資料の収集・整理・保存、学校教育の支援、仕事に役立つ専門的な情報の提供などの役割を果たしてきました。
 また、時代の進化に伴い、学習意欲の向上、学習目的の高度化・多様化など新たな社会のニーズに対して、今後、より一層積極的な役割を果たすことが求められています。
 一方、近年は国の方針として「官から民への行政改革」が打ち出され、自治体を取り巻く環境が変化する中で、公共図書館も例外ではなく、業務の効率化や経費の縮減が求められています。

2. 日田市立淡窓図書館の現状

 日田市立淡窓図書館は、1916年に日田郡教育会が咸宜園敷地内を廣瀬家より借り、名称は江戸時代の儒学者・廣瀬淡窓にちなんで淡窓図書館として開館しました。
 1989年に現在地へ新築し、これまで色々な図書館サービスに取り組んできました。1989年の新館開館と同時にコンピューター管理システムを導入し、2003年からはホームページの開設、2005年からは「広報ひた」に図書館コーナーを新設し、新刊図書の紹介やイベントの案内をするなど広報活動にも力を入れてきました。さらに2007年からは利用者のニーズに応えるために1年間の試行期間の後、火曜日から土曜日の開館時間を1時間延長し、午後7時までとしました。2011年からは年に数回ではありますが祝日開館の実施やブックスタート事業を実施しています。2012年からは市町村合併により広大となり、なかなか図書館に足を運べなくなった遠隔地の住民が気軽に図書館を利用できるように地区公民館との連携により遠隔地図書配送事業を実施しています。
 様々な取り組みにより図書館利用者数と資料貸出数は年々増加している状況にあります。
 また定期的にイベントを開催することにより、利用者がいつ来ても楽しい図書館になるような取り組みも進めています。
 しかし、経費の縮減により図書館運営費がどんどん減らされており、資料購入費に到っては2010年度に1,200万円あったものが、2013年度には700万円と3分の2以下になっています。
 財政は厳しくなる一方で、今まで以上に利用者サービスを充実させていかなくてはならないという状況にあり、日田市でも図書館と教育現場、地区公民館などと相互協力を深め、利用者サービスの向上を図っています。

【日田市立淡窓図書館の概要】
施 設 名 称 日田市立淡窓図書館
所在地 大分県日田市上城内町1番72号
敷 地 4,408.65m2
建 物 鉄筋コンクリート2階建 延べ床面積 1,534m2
蔵 書 150,800冊(2013年3月末現在)
うち一般書 106,654冊、児童書30,620冊、その他13,526冊
職 員 10人(館長、司書2人、その他職員3人、臨時職員4人)
業 務 開館時間 火曜日~土曜日 午前10時~午後7時
     日曜日     午前10時~午後6時
休館日  毎週月曜日、第4木曜日(館内整理日)、祝日(年に3回は特別開館実施)、
     年末年始
     特別整理期間(2年に1度 2週間程度)
運 営 貸出冊数 229,824冊
予約冊数  4,927冊
レファレンス件数 7,356件
複写依頼件数   2,451枚
※2012年度実績より

3. 公共図書館とボランティア

 公共図書館では地域ボランティアの方が多く活躍しています。地域ボランティアの方には、定期的に開催する「おはなし会」での読み聞かせや図書資料の修理や書架整理など色々なお手伝いをしていただいています。
 淡窓図書館でも多くのボランティアの方が活動をしています。
 その中で『ehonte~エホント~』というグループがあります。エホントは絵本を題材にして、音楽や読み聞かせ、ワークショップ、絵本セラピーなどを取り入れ幅広い世代に楽しんでもらえる活動をしています。
 メンバーは女性3人ですが、ビックリするほど活動的で、多くの人を魅了しています。
 2013年の5月には、エホントの呼びかけにより、小学校などで読み聞かせをしているボランティアグループが集まり、一日中図書館で紙芝居やバルーンアート、音楽と読み聞かせの融合などが楽しめるイベント「おいでよ としょかん!!」を開催しました。
 このイベントをきっかけに初めて図書館に来る人も多く、大盛況にイベントを開催することができました。初めて図書館に来た人がまた図書館に足を運びたいと思えるように、公共図書館とボランティアグループの協働事業として、このようなイベントをこれからも続けていきたいと思います。
 現在は、「ブックリング」というものに力を入れています。これは廃校した学校の図書館から、まだ使える絵本や児童書を集め、地域の病院や喫茶店、駅などに街角図書館を作るというものです。今は準備段階ですが、これが実現すれば地域に読書の輪が広がる素晴らしい事業になると思われます。
 日田市職労でも2013年の1月に開催された新春役員学習会の際に、エホントによる絵本セラピーを体験しました。絵本をなかなか手に取らない男性でも絵本セラピーを体験して、絵本に対するイメージが変わったのではないでしょうか。

4. 公共図書館の指定管理者制度

 国の方針として「官から民への行政改革」が打ち出され、多くの公共図書館で指定管理者制度の導入について検討されています。
 公共図書館の場合、図書館法により無料貸出の原則があるため、営利を目的とした民間企業に業務運営を委託することは向いていないといわれていますが、人件費などの運営費を削減するために指定管理者制度を導入する公共図書館も少なくはありません。
 現在、全国の約1割の公共図書館が指定管理者制度を導入しています。大分県内でも2つの公共図書館が指定管理者制度を導入しています。全国の公共図書館が指定管理者先としているのは、民間企業が7割、NPOや公益財団が3割となっています。

【2011年度までに導入した館の指定管理者の種別(図書館数)】
  特別区 政令市 町村 合計
図書館数 76 36 147 37 296
指定管理者
の種別
①民間企業 72 25 95 13 205
②NPO 3 0 24 10 37
③公社財団 0 11 23 11 45
④その他 1 0 5 3 9

 また指定管理者制度を導入した例でいえば、佐賀県武雄市の武雄市図書館が有名です。
 レンタル大手のTSUTAYAを運営する(株)カルチュア・コンビニエンス・クラブを指定管理者として2013年4月に開館しました。
 武雄市の樋渡市長は、図書館を指定管理としたのには、自身が図書館のヘビーユーザーであり、利用者の目線にたって利用向上を考えた時に直営ではなく、指定管理者制度が最適だと考えたそうです。
 武雄市図書館の館内に入ると蔦屋書店の雑誌や本の売り場があり、右にはスターバックスコーヒー、左には音楽と映像の有料レンタルコーナーがあります。2階には天井まで届くほどの高さの書架があり、建物に入った感じでは図書館ではなく、商業施設のように感じました。
 開館1か月で入館者10万人を突破し、これは前年度に比べ5倍のペースということもあり、指定管理者制度を導入した図書館の成功例として報道されました。
 しかしながら図書館に本を借りに来る人が本当に増加したのでしょうか?
 入館者が前年比5倍であるのに対し、資料貸出数は前年比2.2倍です。この数字を見て考えられるのは、図書館に資料を借りに来たのではなく、スターバックスや蔦屋書店に来た人や物珍しさに来てみただけの人と考えられます。
 私も武雄市図書館に視察に行ったのですが、その日も施設の見学や視察を目的とした来館者が多く見受けられました。
 これは武雄市図書館に限らず、新しい商業施設などへ多くの人が集まるのと同じ現象で、本当に利用者が増えたのかを知るためには、開館すぐの入館者数ではなく、継続的に数年間の利用実績を見ることが大事です。
 次に指定管理者制度導入のメリットやデメリットについて考えてみます。
 メリットとしては、①民間企業のノウハウの活用、②開館日数の拡大や開館時間の延長、③運営経費の削減、④民間の雇用拡大による地域の活性化が挙げられます。
 では、このメリットは民間企業でなくては実現できないのでしょうか。
 多くの直営の公共図書館でも、開館時間の延長や祝日開館などを実施しているところはあります。職員の数や勤務体制を見直せば、直営でもクリアできると考えられます。
 地域の活性化も民間企業ではないと取り組めないとはならないと思います。直営の公共図書館でも地域のボランティア団体と協力して地域の活性化に取り組んでいるところは多くあります。
 経費削減については、指定管理者制度導入前に多くの予算があった図書館では削減できるのでしょうが、予算が潤沢な図書館は数少ないのが現状です。佐賀県武雄市の場合、指定管理前は年間1億5千万円の予算があり、指定管理者制度導入により1億1千万円までになりました。しかし制度導入前に施設改修を行い7億5千万円(うち3億円は(株)カルチュア・コンビニエンス・クラブが負担)がかかったとのことでした。指定管理者制度導入前の図書館が古かったり、交通の便などが悪かったりして、利用者のことを最優先に考えて建て直したりすることは、仕方のないことかもしれませんが、中には築10年くらいで制度導入のために改修する図書館もあります。
 次にデメリットですが、①公立図書館運営において実績証明が困難、②特定企業への依存の永続化、③司書の低賃金労働者化、④司書の専門的業務の形骸化が挙げられます。
 まず実績証明については、公共図書館を民間企業が運営している例が少ないため、証明ができません。指定管理者制度を導入するにあたってレファレンス業務や資料の収集に実績のない企業に運営をしてもらうには難しいと思います。図書館でのレファレンス業務は少なくなく、淡窓図書館でも年間で小さいものも含めると3,000件を超えます。レファレンスを受けると最適な資料(基本的にインターネットなどは使いません)を探し出し、答えを導かなければいけません。そうなると実績のある企業に依存するしかなくなります。多くの公共図書館が指定管理者制度先に選んでいる企業があります。その企業に委託すれば安心ですが、その企業以外には委託が難しくなり同じ企業への依存が永続化します。
 次に司書の低賃金労働者化について、指定管理者制度先の企業は独自に司書を雇用しなければならなくなるのですが、雇用の際に保険などのことを考えると、短時間勤務の低賃金労働者を多く雇用することになります。制度を導入した公共図書館の多くは制度導入前に比べ、雇用人数が多くなっています。
 低賃金で雇用されると長期的に働きたいと思う人は少なく短期間で辞めてしまう人も少なくはありません。そうなると職員の交代が激しくなり、経験の蓄積が困難になります。
 図書館サービスが「本の貸出」だけであれば、自治体のノウハウも必要なく、企業の実績の必要もありません。しかし、図書館の業務には、他にも色々とあることを理解しなければいけません。
 福岡県の小郡市立図書館や佐賀県の佐賀市立東与賀図書館などは、一度は指定管理者制度を導入しましたが、公共図書館には指定管理者制度がそぐわないということで、再度、直営に戻したという例もあります。
 どの図書館も経費削減に見舞われており、民間であろうが直営であろうが経営が厳しいことに変わりはありません。指定管理者制度の問題点としては、経費の増加、専門的知識の欠如、指定管理者についての認識不足があり、今後も多くの議論が必要です。

5. これからの公共図書館

 図書館をめぐる状況が激しく変動している現状において、これからの公共図書館に求められるものは何なのか。
 図書館は「課題・問題解決を支援する場所」であり、生涯学習社会と言われる現在、図書館が多くの学ぶ人の側にある施設と認知されなければいけません。単に本を貸し借りするためだけにあるのではなく、より地域の問題や課題に理解を深め、解決のためのサポートができるようになれば、地域住民は図書館の応援団となってくれるはずです。
 さらに図書館の強みを見い出し、地域の特色を分析し、柔軟な発想で事業を創造することが今、図書館員に強く求められており、図書館が住民にとって身近な場所となるよう、情報の専門家としての司書の育成がこれからも必要となります。
 その他、公共図書館が取り組むべき課題はまだまだ多くあります。自らの課題に向かい合い、更なるサービスの充実を図った「図書館づくり」を今まで以上に進めていきたいと思います。