【自主レポート】

第35回佐賀自治研集会
第2分科会 地方税財政と公共サービス

 広島市の財政状況を見ながら、地方財政の健全化に向けて臨時財政対策債が大きな支障になりつつある危険性を明らかにする。



臨時財政対策債は廃止すべき


広島県本部/広島市議会議員 若林 新三

1. はじめに

 地方の借金(地方債残高)がうなぎ上りに増えています。決算が確定している2012年度の広島市の市債残高を見てみると、一般会計では歳入が5,852億5,590万円に対して2倍近い1兆590億663万円となっています。広島市の場合、実質的な市債残高は漸減傾向にありますが、臨時財政対策債は膨張し続け、前年度と比べて16%も増えるとともにこの5年間で見ると約2倍に膨れ上がってしまいました。こうした傾向は地方財政にとって大変危険な状態につき進んでいると言っても過言ではありません。
 確かに、臨時財政対策債の元利償還金はこれまでのところ地方交付税で実額が確保されています。その意味で言えば、当面の財政運営としては地方交付税と同じように財源確保はされていると言えるのです。しかし、いくら国が作った制度とはいえ地方の膨大な借金は基本的には地方が返済しなければなりません。基本的な財源保障は国が行うのは制度上当然のことではありますが、地方財政の枠組みにある以上、その一義的な責任は地方が取らざるを得ません。2013年に地方公務員の人件費削減を強制する地方交付税減額という卑劣な手段を平気で行うというやり方を体験すると、国に対して全面的な信用を置くことは極めて危険であると言わざるをえません。国の考え方に地方が従わなければ、交付税を減額するなどの脅しが今後100%ないとは言い切れないのです。この臨時財政対策債は、懐に爆弾を抱えていることに等しいのではないでしょうか。今後、国の財政コントロールのもとに地方が国に支配される構図が強まることを懸念します。
 そのためにも、地方交付税は地方固有の財源であることを再確認し、国の責任において地方交付税の財源を確保することを強く求めていく必要があります。国は国家財政の半分近くを借金で賄うという方法を平然と続けています。地方が、国と同じように多額の借金をするような財政運営を行うと、たちまち財政破たんをしてしまうことは火を見るより明らかなことです。
 今回のレポートでは、広島市の財政状況を見ながら臨時財政対策債の持つ危険性を指摘し、できるだけ早く制度を廃止するか、少なくとも発行額を削減できるような措置がされることを望みます。


2. 臨時財政対策債とは

 臨時財政対策債は2001年から創設された地方債。本来なら地方交付税として交付されるべき金額の一部について地方が借金(臨時財政対策債の発行)することによって補填し、その元利償還金相当額を後年度の普通交付税の基準財政需要額に算入するという仕組みとなっています。各年度の基準財政需要額に算入される元利償還金の額については、国が定めた全国一律の償還モデルに基づいて算定されることになっています。
 2001年に創設された当初は3カ年の臨時措置として導入されましたが、現在に至るまで延長され、当面は2016年度までとされています。
 臨時財政対策債は、地方が発行しなければならないものではありませんが、交付税制度が地方の財源不足を補うということから地方は発行せざるを得ない状況となっています。


3. 広島市の地方交付税と臨時財政対策債の推移

 広島市の地方交付税と臨時財政対策債の推移を見てみます。

表1 地方交付税と臨時財政対策債の推移(単位 千円)

  

2008年

2009年

2010年

2011年

2012年

地方交付税

45,190,325

39,073,308

42,344,831

40,460,018

41,084,192

臨時財政対策債

10,828,400

16,806,000

29,784,300

32,018,900

33,680,500

56,018,725

55,879,308

72,129,131

72,478,918

74,764,692

伸率(交付税)

 

-13.54

8.37

-4.45

1.54

伸率(臨財債)

 

55.20

77.22

7.50

5.19

5年比較(交付税)

 

 

 

 

-9.09

5年比較(臨財債)

 

 

 

 

211.04

5年比較(合計)

 

 

 

 

33.46

 地方交付税については2008年度が451億9,032万円であったものが2012年度は410億8,419万円となっており、9.09%の減となっています。(表1
 臨時財政対策債は2008年度が108億2,840万円であったものが、2012年度は336億8,050万円と211%増と大きく伸びています。
 地方交付税と臨時財政対策債を合わせた額は2008年度が560億1,872万円であったものが、2012年度は747億6,469万円と33.5%の増となっています。

図1 地方交付税と臨時財政対策債の推移(単位 百万円)

 この5年間の推移を見てみると、地方交付税と臨時財政対策債を合わせた総額は増えてきている一方で、地方交付税は9.1%の減となり、逆に臨時財政対策債は3倍以上の伸びを示しています。本来、現金で配分されるべき地方交付税ではありますが、その実態は大きく借金にシフトしており、雪だるま式に膨れ上がっています。

4. 地方交付税と臨時財政対策債の割合の変化

 年度毎の地方交付税の金額と臨時財政対策債の割合の変化についてこの5年間の推移を見てみます。

表2 地方交付税と臨時財政対策債の割合(%)

 

2008年

2009年

2010年

2011年

2012年

臨時財政対策債の割合

19.33

30.08

41.29

44.18

45.05

 (表1)のとおり、地方交付税と臨時財政対策債の発行額は推移しています。2008年度の割合は19.3%(表2)にとどまっていました。しかし、2012年度になると臨時財政対策債が45.1%を占め、本来現金で受け取ることができる地方交付税の半分近くが市の借金で賄っているという不健全な財政運営を余儀なくされていることが分かります。
 ちなみに、2013年度の決算見込みを見てみると、地方交付税が366億8,856万円に対して臨時財政対策債は365億2,150万円であり、49.9%が現金から市の借金にすり替わっています。


5. 一般会計の市債残高と臨時財政対策債残高の推移

 広島市の一般会計の市債残高の推移と臨時財政対策債が占める割合を見てみます。

図2 一般会計の市債残高(単位 百万円)

 一般会計の市債残高は2008年度が9,477億834万円であったものが(図2表3)、2012年度には1兆円の大台を超え、1兆590億663万円となっています。この5年間で市債残高は11.7%伸びているのに対して臨時財政対策債残高は2008年度が1,119億4,416万円であったものが2012年度には2,192億1,045万円と2倍近くに膨れ上がっています。

表3 市債残高に対する臨時財政対策債の割合(単位 千円、%)

 

2008年

2009年

2010年

2011年

2012年

臨財債残高

111,944,163

128,587,965

158,190,812

188,837,935

219,210,451

市債残高

947,708,348

954,655,707

981,848,608

1,011,285,060

1,059,006,639

臨財債の割合

11.81

13.47

16.11

18.67

20.70

 一般会計の市債残高に対する臨時財政対策債残高の割合は2008年度(11.8%)、2009年度(13.5%)、2010年度(16.1%)、2011年度(18.7%)、2012年度(20.7%)と2割を超え(表3)、2013年度の見込みでは25%と4分の1に達しました。
 また、一般会計債から後年度の償還財源が地方交付税によって補てんされる臨時財政対策債の残高および将来の返済に備えて減債基金に積み立てている額に相当する市債残高を除いた残高は、2008年度が7,710億8,983万円(図3)であったものが、2012年度には7,459億2,271万円と3.3%減額しています。実質的な市債残高がどのように推移しているかを見たもので、2008年度から83億円(2009年度)、99億円(2010年度)、143億円(2011年度)と減額されてきましたが、2012年度は逆に74億円増加しています。ただし、2012年度には土地開発公社の廃止に伴って第3セクター等改革推進債186億9,870万円を別途発行したために臨時的に増えているものであり、基本的には市債の実質残高は年100億円程度減額されてきており、財政健全化が進められてきていることが分かります。

図3 臨時財政対策債残高と実質残高の推移(単位 百万円)

6. 基準財政需要額と、地方交付税と臨時財政対策債の総額の推移

 2008年度から2012年度の5年間の基準財政需要額と地方交付税、臨時財政対策債の関係について見てみます。
 地方交付税(臨時財政対策債を含む)は地方公共団体の運営の自主性を損なうことなくその財源の均衡化を図り、国が必要な財源の確保と交付基準の設定を行い、地方行政の計画的な運営を保障することによって地方自治の本旨の実現と地方公共団体の独立性を強化することを目的としています。具体的には、標準的な行政水準を表わす基準財政需要額から個別の地方公共団体の標準的な収入を表わす基準財政収入額を差し引いた額が地方交付税として措置されています。基準財政需要額の計算は、次のとおり。

基準財政需要額 = 単位費用 × 測定単位 × 補正係数

 単位費用を含めて、時々の状況に応じて数値が変えられることがあるため、例えば、臨時財政対策債の元利償還金が増える替りにその他の需要額を減らすことによって交付税総額を増やさない措置も可能となっています。そのため、臨時財政対策債を除いた基準財政需要額がどのように推移しているのかを見てみます。
 2008年からの5年を見てみます。
 5年間で基準財政需要額は2008年度が2,215億7,499万円、2012年度が2,282億4,775万円(表4図4)と3.0%伸びているのに対して、臨時財政対策債の元利償還金措置額は2008年度が52億5,582万円、2012年度が79億8,347万円と51.9%伸びています。一方、基準財政需要額から臨時財政対策債の交付税措置額を差し引いた額も2008年度の2,163億1,917万円が2012年度は2,202億6,428万円と1.8%伸びており、臨時財政対策債の交付税措置額を増やす替りに他の需要額を減らしているのではないかとの懸念については今回の広島市の推移をみる限りでは杞憂に終わっています。

表4 臨時財政対策債を除いた基準財政需要額(単位 千円)

 

2008年

2009年

2010年

2011年

2012年

基準財政需要額

221,574,999

219,701,410

224,561,990

227,609,473

228,247,755

臨財債措置額

5,255,824

5,896,814

6,551,050

7,278,541

7,983,470

臨財債以外

216,319,175

213,804,596

218,010,940

220,330,932

220,264,285

図4 基準財政需要額と臨時財政対策債を除いた需要額の推移(単位 百万円)

7. 国の強制措置

 2013年、国は地方自治制度の根幹をゆるがす暴挙を強行しました。地方公務員給与の臨時特例というもので、国が東日本大震災復興財源の一部に充てるため2011年度から2カ年に渡り国家公務員給与を平均7.8%引き下げることを決めたことから地方でも給与削減を強制するために地方交付税を削減したものです。地方は、既に行政改革や財政再建の名のもとに独自に給与削減を行ってきた自治体が多く、また、地方交付税は地方固有の財源であるにもかかわらず、国が理不尽な削減を強行したことに地方から強い懸念の声が出されました。地方自治をないがしろにする暴挙と言わざるを得ません。
 具体的には、まず、国家公務員に準ずる対応を地方に「要請」するとともに、財政的には地方交付税算定で単位費用に含まれる給与費を削減することで実質的に地方公務員の給与削減を強制しています。
 広島市ではこの措置を受けて、2013年の6月議会で職員の給与削減を提案。市長の15%を筆頭に局長級~課長級9.77%、一般職員は4%~5.7%削減するとともに、管理職手当を10%削減し、一般会計で25億1,483万円を削減せざるを得ない状況が生まれました。
 地方交付税は、地方固有の財源とされているものです。これを国のその時々の意向で政策誘導策として利用されるべきものではありません。全国市長会も、この措置が地方自治の本旨をないがしろにするものであるとともに「地方固有の財源である地方交付税を地方公務員給与削減のための政策誘導手段として用いたことは財政自主権をないがしろにするものであり、到底容認できない」と強く国の対応を非難しています。
 今回の国の強制措置は、地方自治と相反するものであることは当然のこととして、国の意思で地方行政を自由に左右することができることを証明したことにもなります。


8. 国家財政と地方財政

 地方財政は、地方財政健全化法に定められている通り、実質赤字比率、連結実質赤字比率、実質公債費比率のいずれかが、一定基準を超えると財政再生団体に指定されます。

① 実質赤字比率=財政再生の基準→都道府県5%、市町村20%。
② 連結実質赤字比率=財政再生基準→都道府県15%、市町村30%。
③ 実質公債費比率=財政再生基準→都道府県、市町村35%。
④ 将来負担比率=早期健全化の基準→都道府県政令市400%、市町村350%。
⑤ 公営企業における資金不足比率=健全化基準→20%。

 このように、地方財政は様々な基準で地方債の発行が制限され、財政破たんを防止しているのです。ちなみに広島市の2012年度決算では実質赤字比率と連結実質赤字比率は黒字のため算定されていません。また実質公債費比率は15.9%、将来負担比率は238.7%でありそれぞれ、2011年度と比較して0.7ポイント、1.2ポイント改善しています。
 広島市の2014年度予算では、一般会計で5,856億円の歳入のうち、公債費は11.9%の694億円となっています。

図5 2014年度の国の一般会計歳入(単位 億円)

 一方、国の予算を見てみると(図5)、2014年度当初予算では歳入総額95兆8,823億円で、その内公債金は41兆2,500億円(建設公債6兆20億円、赤字公債35兆2,480億円)で、公債依存度は43%に達しています(2013年度は46.3%)。
 こうして国と地方との財政状況を比較してみると明らかな違いがあります。地方は地方債の発行に様々な制約があり、基準を超えると発行が制限されます。一方、国の予算を見ると4割以上を借金で賄っているということが分かります。国にはそれなりの考え方があって赤字国債を乱発することができるのでしょうが、地方は国のように赤字地方債を乱発することは制度上できません。夕張市のように財政破たんに追い込まれてしまうからです。


9. 臨時財政対策債の制度は廃止すべき

 これまで見てきたように、2001年度から地方交付税の替りに地方が臨時財政対策債を発行する制度が3年間の特例として創設されました。臨時財政対策債の元利償還金は後年度の地方交付税で措置されています。広島市の状況をみてもこれまでのところ国が責任を持って対応していることが分かります。しかし、今日に至ってさらにその発行額は増え続けています。地方が臨時財政対策債を発行するかどうかは地方の意思によるものであり、その借金返しは地方が責任を持たなければなりません。国によって制度化された以上国が責任をもって対応すべきことは当然のことではありますが、それでも地方の借金を返済する第一義的責任は地方にあることになります。
 地方交付税は地方固有の財源であることに変りはなく、国が横やりを入れるべきものではありません。ところが、2013年度、地方公務員の賃金を引き下げるために地方交付税の削減を強行してきました。先に述べたように地方はこれまで独自に行財政改革を進めてきました。この地方の努力を無視して強引に地方交付税を削減することは国と地方の在り方を根底から覆す結果となります。国と地方の信頼関係が揺るぎ始めたことを顕著に示すものとなりました。
 また、国の財政と地方財政の違いについても先に述べてきました。国が借金するのと同じ感覚で地方が借金することは大きなリスクとなります。国の放漫財政にそのまま付き合っていると取り返しがつかないことになるのではないかとの懸念を持たざるを得ません。
 これまで、広島市の状況を見ると、臨時財政対策債の措置額が多くなったからと言って、その他の基準財政需要額が減額されてきているとは言えませんが、臨時財政対策債の元利償還金が今後増大することは間違いありません。基本的には元利償還金が増大するのに伴って地方交付税総額も増えなければならないことになります。しかし、その一方で地方交付税総額は減少傾向にあるのです。ますます膨れ上がる臨時財政対策債残高と元利償還金の財源について今後議論の焦点になる可能性を否定できません。
 そのためにも、早急に臨時財政対策債の制度を廃止することを求めます。国との信頼関係が揺らぎ始めている現状を見ると、いつまでも「国が面倒をみてくれるのだから」と安心しきって臨時財政対策債を発行し続けることは、リスクも増大していくことを肝に銘じるべきです。まさに、懐に爆弾を抱えているのに等しいのではないでしょうか。


10. あとがき

 今回の自治研集会のレポート作成にあたって、臨時財政対策債について取り上げてみました。内容的には不十分な面も多々あるとは思いますが、地方財政の健全化に向けて臨時財政対策債が大きな支障になりつつあることは強く指摘しておきます。私自身、広島市議会でも数度にわたって取り上げ、その危険性を訴えてきました。広島市をはじめとして地方自治体は財政健全化に向けて実質の地方債残高を削減するために努力してきました。その点、努力のかいもあって広島市の起債制限比率も危険な山をどうにか越えた状態にあります。しかし、広島市でも5,856億円(2014年度当初予算)の一般会計で既に1兆円を超える市債残高を抱えています。臨時財政対策債の元利償還金については、当面は国が財源措置することにはなりますが、借金が雪だるまのように膨れ上がってきている財政状況を市民目線で見ると、夕張市のように財政破たんするのではないかと懸念することは当然のこととも思えます。その懸念は人件費の抑制圧力となることはこれまでの人件費削減の動きから見て容易に推測することができます。また、この状況を意図的に利用しようとする首長が出てくることも否定できません。
 言うまでもなく、地方財政の健全化は極めて重要な課題でもあります。そのために努力してきたことは間違いありません。国の都合で臨時財政対策債の制度が作られましたが、今後、膨れ上がる市債残高は地方をコントロールする材料として利用されるのではないかとの懸念を捨て去ることはできません。2013年の地方公務員の人件費削減のための強権的な地方交付税削減の動きを考えると、全く杞憂だとも思えないのです。
 そのためにも、地方財政の基本に立ち返り、地方の財源不足は地方交付税で措置し、なお交付税財源が不足する場合には地方交付税の法定率を引き上げることによって対応することを強く求めていく必要があります。