【自主レポート】

第35回佐賀自治研集会
第12分科会 地域包括ケアシステムの構築

 2014年2月12日に閣議決定され、第186回通常国会に提出された『「地域における医療及び介護の総合的な確保を推進するための関係法律の整備等に関する法律」案』のうち、介護保険制度改正に関する部分についての問題点について述べる。



介護保険制度改正案の問題点を考える


大分県本部/自治労社会福祉評議会・副議長兼介護部会長 佐保 昌一

 税と社会保障の一体改革の中で、2013年8月20日に社会保障制度改革国民会議の報告書が公表され、その後にプログラム法が可決されましたが、具体的な介護保険制度の見直し議論については、厚生労働省が所管する社会保障審議会介護保険部会においてなされ、2013年12月20日に制度見直しに関する意見書がまとめられました。
 そして、介護保険法のみならず、医療法や関連する法律などをまとめて一部改正する「地域における医療及び介護の総合的な確保を推進するための関係法律の整備等に関する法律」案が、2014年2月12日に閣議決定され、第186回通常国会に提出されています。
 自治労社会福祉評議会には、保育部会、介護部会、福祉事務所・児童相談所部会、施設部会、社会福祉事業団労組協議会(社事労協)、障害労働者連絡会(障労連)、社会福祉協議会ネットワーク(社協ネット)の7つの部会があり、それぞれの職種や職場における制度のあり方や勤務労働条件などの労働課題について取り組んでいますが、今回は介護部会長としての立場から、この法案(医療・介護総合推進法案と略します)のうち介護保険制度改正に関する部分についての問題点を述べさせていただきます。


1. 法案の概要

 まず、医療・介護総合推進法案について、触れておきたいと思います。この法案は、効率的かつ質の高い医療提供体制を構築するとともに、地域包括ケアシステムを構築することを通じて、地域における医療及び介護の総合的な確保を推進するために、医療法、介護保険法等の関係法律について所要の整備等を行うことを目的としています。
 一部改正されて整備される関係法律については、「地域における公的介護施設等の計画的な整備等の促進に関する法律」、「医療法」、「介護保険法」、「保健師助産師看護師法」、「歯科衛生士法」、「診療放射線技師法」、「歯科技工士法」、「臨床検査技師法」、「医師法」、「看護師等の人材確保の促進に関する法律」、「良質な医療を提供する体制を図るための医療法等の一部を改正する法律」、「社会福祉士及び介護福祉士法等の一部を改正する法律」、「生活保護法」、「国民健康保険法」、「老人福祉法」など多岐にわたっており、この法律案を読み解きにくくしています。

 この法律案で特に重要なものは、医療法と介護保険法の一部改正であり、医療分野と介護分野における費用の抑制を目途としたものであることは、私が述べるまでもないことです。
 医療分野における制度改革の柱は、医療機関が都道府県知事に病床の医療機能等を報告し、都道府県がその報告をもとに地域医療構想を医療計画において策定し実現しようとする「病床機能報告制度」と、国家戦略特区に限って行われる予定の「外国人医師が行う臨床修練に係る医師法第17条等の特例」であろうと思われます。


2. 介護保険法改正の要点と問題点

 医療・介護総合推進法案における介護保険制度の改正案は、厚生労働省が示している上記の図のように、①地域包括ケアシステムの構築と、②費用負担の公平化、の2つに大別されています。では、介護保険制度に係る改正案とその問題点について、法律案要綱をもとに具体的に述べていきたいと思います。


(1) 地域支援事業の見直しについて
1 介護予防サービスのうち介護予防訪問介護と介護予防通所介護を介護予防・日常生活支援総合事業に移行し、2017年度までに全ての市町村で実施するものとすること。
 まず、地域包括ケアシステムの構築として取り上げる最も重要な問題点は、現行では要支援1・2の方への介護予防サービスから、訪問介護と通所介護を地域支援事業に移行することです。
 介護認定の結果、要支援認定を受けた方は、保険給付を受ける権利を有していますが、訪問介護と通所介護に限定されたとしても、保険給付から外し市町村事業である地域支援事業に移行することは、社会保険制度の在り方から見ても明らかにおかしいと言えます。しかも、介護認定非該当者への介護予防・生活支援サービス事業を、総合事業という1つの枠組みの中で、要支援者と併せて実施することに違和感があります。
 市町村に裁量が発生しますので、費用抑制といった目的から一律にサービス提供を制限する恐れもあります。また、市町村事業となることで、それぞれの市町村で違った運用、ローカル・ルールが拡大する恐れもあります。

 この総合事業において、訪問介護は①既存の訪問介護事業所による身体介護・生活援助の訪問介護、②NPO、民間事業所等による掃除・洗濯等の生活支援サービス、③住民ボランティアによるゴミ出し等の生活支援サービス、の3区分が想定されていますが、専門的なサービスを必要とするかしないかの線引きはあくまで不明確であり、多様な担い手が関わって、これまで一定の効果があることが立証されている介護予防サービスの有効性を継続できるか疑問であると思います。また、「ヘルパー」と「お手伝い」さんの区分も曖昧になるのではないかと危惧します。家族や地域の自治組織の変化を背景に、介護の社会化として介護保険制度はスタートしましたが、今後、地域のボランティアや住民相互の協力が介護保険制度として機能するのかも疑問符の付く点です。

 市町村事業となることで、市町村がサービスの供給体制整備まで責任を持つこととなりますが、市町村合併や行財政改革の中で実施体制が整備できるのかという問題もあると思います。
 地域で高齢者を守る仕組みやボランティアなど、高齢者が住み慣れた場所で長く暮らせる仕組みは必要でありますし、そのことを否定するつもりなど全くありませんが、こうやって、保険給付から一律に移行することについては反対であり、現行の保険給付は継続しながら地域力をアップし、高齢者の在宅生活を重層的にサポートする仕組み作りが本来めざすべき方向性ではないかと考えます。
 一部に不適切な利用例があることについては、私も現場にいましたので承知していますが、それは是正すべきことであり、保険給付不要の議論に結び付けるべきではないと思います。通所介護においても同様であり、一律の移行には反対です。

2 介護予防・日常生活支援総合事業について、厚生労働大臣は適切かつ有効な実施を図るため必要な指針を公表すること。
  市町村は、定期的に総合事業の実施状況について評価等を行うよう努め、その結果に基づき必要な措置を講ずるよう努めること。
  総合事業について、国がその費用の百分の二十五を、都道府県及び市町村がそれぞれ百分の十二・五を負担するとともに、医療保険者が負担する地域支援事業交付金を充てること。
 この総合事業におけるガイドラインの作成、評価、財源について触れていますが、この法案が成立した場合には地域間格差が生じないためのガイドラインは必要です。現行、サービス事業所の偏在等によりサービス供給に地域差があったとしても、保険給付として利用者は全国どこに住んでもサービスを受けることができますが、今後、「市町村事業だからそれぞれの市町村で創意工夫して実施して」では、もはや社会保険制度の体をなさなくなりますので、移行が不可避であればガイドライン作りも絶対に必要ですし、必要な項目はガイドラインに盛り込み、市町村も利用者も、そしてサービスを提供する者も困らないようにすべきです。とかく先進事例が引き合いに出されますが、大多数の保険者はそう簡単に先進地に追随できるものでもありませんし、自治体には人事異動がありますので、マンパワーの安定的な確保が担保されて、初めてきちんと機能できるかどうかの代物であることを保険者自らが認識しておかないといけません。
 評価については、努力目標的なものとなっていますが、きちんと実施するためには効果測定としての評価は必要ですし、財源についても保険給付であったものを市町村事業に移行するものですので、保険給付の財源の枠組みをそのまま持ち込むことは当然と言えば当然ですが、要支援以外の対象者にも同じ事業での財源内訳とした点で、この部分を今まで負担していなかった医療保険者側は納得がいかないことと思われます。

3 地域支援事業の包括的支援事業に次に掲げる事業を追加し、平成30年度までに全ての市町村で実施するものとすること。
(1) 医療に関する専門的知識を有する者が、介護事業者、居宅における医療を提供する医療機関その他の関係者の連携を推進する事業
(2) 日常生活の支援及び介護予防に係る体制の整備その他のこれらを促進する事業
(3) 保健医療及び福祉に関する専門的知識を有する者による認知症の早期における症状の悪化の防止のための支援その他の総合的な支援を行う事業
 在宅医療・介護の連携の推進が新たに地域支援事業に追加されたが、これを行う事業体については従来の地域包括支援センターとは別の事業体に委託可能としており、市町村が2者の調整を行うこととなっていますが、果たしてバランスがとれるのか未知数であり、新たな地域の勢力争いにつながることを懸念しています。


 認知症施策の推進についても、従来の地域包括支援センターとは別の事業体に委託可能としており、在宅医療・介護の連携推進同様の懸念があります。また、こういった事業と従来の事業を行うために医療系法人に対して地域包括支援センターの委託替えとセットで委託するケースもあると思われますし、現在自治体が直営している地域包括支援センターについても、これを機に逆に委託が進むのでは、と危惧しています。
 地域包括支援センターは直営が望ましいと私は考えていますし、今後基幹型の地域包括支援センターが設置できるのなら、現に全て委託している自治体においても、せめて基幹型だけは直営にしていただきたいと思います。現場を持たないと、自治体として「現場感覚」が持てなくなってしまいますので、これ以上の委託が進まないことを願っています。
 (2)の事業については、具体的には生活支援サービスの充実に向けて、ボランティア等の生活支援の担い手の養成・発掘等の地域資源の開発やネットワーク化を行う「生活支援サービスコーディネーター」の配置がメニューとして考えられていますが、ボランティアの養成や地域福祉などは、市町村社会福祉協議会も従来から活動しており、社会福祉協議会とは別に事業がスタートすると、ダブルスタンダードになる恐れもあります。ひいては社会福祉協議会の存在意義も薄れかねないと思っていますので、この部分については、社会福祉法に定義されている市町村社会福祉協議会にその役目を一定程度担っていただけるように、厚生労働省は何らかの指針を公表していただきたいものです。
 市町村社会福祉協議会については、前述の介護予防訪問介護や介護予防通所介護が地域支援事業に移行すると一番影響を受けると思われ、事業からの撤退がさらに進む可能性もあり、それによって地域の社会資源が減少することも懸念されています。

4 地域支援事業の上限について、七十五歳以上の被保険者の数も勘案して設定するものとすること。
 地域支援事業の上限について、後期高齢者の被保険者の伸びに応じて設定するということは、総合事業に移行されようとしている介護予防訪問介護と介護予防通所介護サービスについて、今後費用の抑制につながることも予想されます。事業の上限が設定されると、利用したくても利用できない方が増加する懸念があります。

5 地域包括支援センターの設置者は、実施する事業の質の評価を行うこと等により事業の質の向上に努めるものとすること。また、市町村は、定期的に、実施する事業の実施状況の点検等を行うよう努めるものとすること。
6 市町村は、適切な支援の検討等を行うために、介護支援専門員、保健医療及び福祉に関する専門的知識を有する者その他の関係者等により構成される介護を置くように努めるものとすること。
 地域包括支援センターの評価と、地域ケア会議の開催について定めたもので、地域包括支援センターの機能強化と市町村の責任について示したものと言えます。地域包括支援センターを機能強化するためには、相応の経費も必要であり、機能強化のためにどれだけ財政的な支援ができるかがネックとなると思われます。また、市町村が関与していくためには、保険者としてのマンパワーの強化が必要となりますので、福祉専門職の配置など具体的な対策を講ずるぐらいの姿勢が重要となるでしょう。


(2) 費用負担の見直しについて
1 介護給付及び予防給付について、一定以上の所得を有する第一号被保険者に係る利用者負担の割合を、その費用の百分の二十とすること。
 現行は、所得の多少に関わらずサービス利用時の一部負担は1割となっていますが、これを一定以上の所得がある方の場合、2割負担としようとするもので、単身で年金収入のみの場合、収入額が280万円以上の方を現在想定しているようです。所得の再分配という社会保障制度の機能を考えると全く理解できない訳ではありませんが、夫婦世帯の場合どうするのかといったことや、後期高齢者医療制度における負担割合判定との混同が利用者に生じる懸念、さらには所得更正により負担割合の遡及が生じた場合の利用者負担や介護給付費の調整など、利用者や介護サービス事業者はもとより、負担割合の判定を行う市町村にとっても事務の煩雑化により生じるミスにどう対処するかが課題と言えます。

2 特定入所者介護サービス費等の支給要件について、所得のほか、資産の状況もしん酌するものとすること。また、偽りその他の不正行為によって特定入所者介護サービス等を受けた場合、市町村は、その給付の価額に加え、その価額の二倍に相当する額以下の金額を徴収することができるものとすること。
 施設入所等にかかる食費や居住費の補足給付の判断に、資産等を勘案しようとするものですが、これも市町村の実施体制が大きく問われることとなります。施設入所者一人ひとりの補足給付のチェックをするためにはマンパワーが必要となります。


3 市町村は公費で低所得者の第一号保険料の軽減を行い、国がその費用の二分の一、都道府県が四分の一を負担するものとすること。
 現在、第一号被保険者の保険料は標準で6段階となっていますが、これを8段階とするもので、低所得者対策となっています。

(3) 居宅サービス等の見直しについて
1 通所介護のうち、利用定員が厚生労働省令で定める数未満のものについて、地域密着型通所介護として地域密着型サービスに位置づけること。
2 指定居宅介護支援事業者の指定等を市町村が実施するものとすること。
 どちらも、市町村の保険者としての権限を強化することで、運営の透明性や地域との連携確保を図ろうとするものでありますが、市町村の実施体制が問われることとなりますので、これもまた、市町村のマンパワーを必要とする問題であります。

(4) 施設サービス等の見直しについて
1 介護老人福祉施設等に係る給付対象を、厚生労働省令で定める要介護状態区分に該当する状態である者その他居宅において日常生活を営むことが困難な要介護者とすること。
 現行、要介護1から入所できる仕組みを、居宅において日常生活が困難などの在宅生活ができない特別な方を除き、要介護3以上として入所を制限しようとするものですが、相応の理由があって在宅生活ができないから入所しているのであって、基準がなお曖昧なまま運用が始まると、在宅生活困難な要介護1・2の方が入所できなくなる恐れがあり、新たな介護難民を生む可能性も否定できません。

2 サービス付き高齢向け住宅を住所地特例の対象とするものとすること。また、住所地特例の対象者について、居住地の市町村が指定した地域密着型サービス等の利用を可能とするとともに、居住地の市町村の地域支援事業の対象とするものとすること。
 住所地特例の対象にサービス付き高齢者向け住宅を加えたことは評価できると思いますが、サービス付き高齢者向け住宅を在宅生活困難者の受け皿として普及させるのではなく、介護老人福祉施設をきちんと整備していくことが必要ではないかと思います。
 規制の緩い施設で介護を「儲け」の対象とするようなことが今後拡大していく方が、介護予防サービスを抑制し費用抑制することよりも、もっと費用がかかることとなります。


3. おわりに

 今まで述べてきたこと以外にも、今回の介護保険制度改正によって生じるリスクはあります。例えば、要支援者の訪問介護と通所介護サービスが地域支援事業に移行されれば、介護認定の現場では、要支援の認定よりも要介護認定を受けようとする方が増加し、けがや病気で入院したら、すぐに認定を変えようとする変更申請が行われたり、要支援の認定に納得せずに、要介護の認定が出るまで介護認定の申請を何度も繰り返したり、調査時に「悪いふり」をして認定を重くしようとするといった恐れもあります。これは、介護予防・日常生活支援総合事業に対して利用者が魅力を感じないことに比例して顕著になると思われます。
 ここまで、医療・介護総合推進法案の問題点を記述してきましたが、メリットにも触れておかないとフェアではない感がありますので、メリットについて考えてみます。地域で医療と介護が連携して、高齢者の在宅生活を支援する「地域包括ケアシステム」を構築する意義は大きいと思いますし、地域包括ケアを推進することで、地域社会における互助組織等の再構築にもつながる可能性があります。まさに、「介護から日本が変わる」可能性も期待されます。
 キーポイントは、やはりマンパワーだと思います。介護予防事業の先駆的な自治体では、地域内をまとめ上げる推進役が必ずいます。これを全自治体で行えるかどうかは疑問です。先駆的な自治体は、相応の時間と労力を費やし、成果を生んできたと言えます。これを、「みんな真似して」と言っても簡単にできるものではないことは自明の理であろうと思います。
 消費税が8%に引き上げられ、増税分は社会保障のための財源とされていますが、その一方で社会保障制度の運用は厳しくなった感があり、すっきりとしない気持ちを持っている方は多いと思います。公共事業などに財源を持って行かれ、「社会保障のためとは名ばかり」の消費増税とならないようにチェックが必要です。
 また、介護現場では効果はどうであれ、アベノミクスの経済効果は波及しないと思われます。介護人材の確保が必要であることは国も十分承知していることですが、今後、具体的・有効的な対策を講じていかなければ、介護現場の荒廃が進むことも考えられます。その点も問題点として決して忘れてはなりません。
 2014年4月から、国会で法案審議がスタートしました。ぜひ国会の場で、この法案の問題点や問題点に対する対策等について深く議論していただきたいと願っています。
 自治労は、介護保険制度創設の際に深く関わってきました。その後、幾度かの制度改正を経て、今回、創設以来と言っても過言でないほど大きな見直しがされます。私たちは、制度創設に関わった自治労の組織の一員として、介護保険制度が壊れてしまわないように、必要なことを考え対策を実行していく責務があります。
 みなさんも、もう一度この法案の問題点について考えてみましょう。