【レポート】

第39回静岡自治研集会
第1分科会 自治研入門 来たれ、地域の新たな主役

 自治体現場の中において激務とされる財政課でマニュアル集を作成するなど業務改善に取り組みました。その後、組合単組専従となってからは財政課での経験を活かして学習会を開催。忙しさで余裕のない職場が多い中、職場環境を良くしていこうと考える職員が集まっている組合だからこそ出来ることがあると感じました。組合活動自体が全国的に下火となっている情勢だからこそ、いま、改めて労働組合が持つ可能性について提言します。



業務改善の取り組みと労働組合の持つ可能性


広島県本部/自治労はつかいちユニオン・書記長 前川  朗

1. はじめに

(1) レポートの趣旨
 このレポートは自治体現場の中において激務とされる財政課を2018年度からの4年間経験し、その後労働組合専従となった私の経験と業務改善の取り組みを紹介するとともに、労働組合が職場に与える「好循環」の可能性についてまとめたものです。
 私が財政課時代に取り組んだことは、財政課職員が共通して行う事務についてのマニュアル集を作成したことです。一見すると何でもないことに思えますが、当時の状況や作成の狙いなどについて詳細を記していきます。また、そこでの経験や思いを踏まえて、労働組合専従として取り組んだこと、そして労働組合として何が出来るのかという提起をしていきたいと思います。
 私は若手職員を相手に発言する機会には必ず言うことがあります。それは、仕事もプライベートも、そして労働組合の活動も全て繋がっているということです。このレポートを通して業務改善などに励む前向きな仕事への姿勢や組合の活動に積極的な人が増えることを願います。

2. 地方自治体の財政課

(1) 自治体共通の状況
 地方自治体の財政課と言うと恐らく共通して言えることは、多忙であり時間外勤務が多く、行きたくない部署ワースト1だと思う人が多いということではないでしょうか。財政課の業務は予算編成から予算執行、決算分析など多岐にわたります。また、予算編成においては部局の予算査定を担当者が行うことや、予算決定には議決を伴うことから議会対応まであります。このように幅広い知識と多くの判断を求められることからベテランの職員が多く配置されていると思います。
 そんな中で、財政課が忙しく時間外勤務が多いということはある程度「仕方がない」とされている自治体が多いのではないでしょうか。

(2) 廿日市市の財政課の状況
① 配属当時の状況
 私が配属となった2018年度時点において、本市役所全体での時間外勤務の多さはトップクラスでした。多い時期には1か月100時間を超え、年間では1,000時間近くにのぼっていました。私が内示を受けた後に財政課へ挨拶に行くと、先輩職員から「かける言葉がない」と暗い表情で言われたことが忘れられません。
 同じ組合員が財政課にいたこともあり、時間外勤務の多さは噂には聞いていましたが、私が配属となる前までは若い職員は少なく、主任や専門員ばかりのベテランが多い部署でした。しかし、私の配属時期頃から主事や主任主事と言った30歳前後の若い職員が財政課に配属される傾向となってきました。
② 財政課の業務内容とその実態
 財政課の業務内容と当時の状況について補足します。まず担当職員は各部局の予算担当を割り振られます。部担当の役割は、その部局の予算執行の調整から翌年度予算編成の際の査定を行うことまで、予算に関わることはほとんど全て部担当が最初の話を聞く窓口となります。その中で、当然上司に話をあげていくことになりますが、基本的にはその方向性を担当職員が決めていくことになります。案件は大小さまざまですが、予算に関わる数えきれない判断を担当者が行っていきます。
 財政課の業務はその性質上大きく2つに分けられます(表1のとおり)。稚拙な表現かもしれませんが、「考えて答えを出す」ものと単純な「作業」の2つです。しかし、この両方共のボリュームが非常に多いということが問題でした。「作業」についてもシステムを使うものからエクセルのデータ集計など幅が広く、課員みんなで作業をするにもかかわらずマニュアルがほとんどないというような状況でした。ベテラン職員が多いことから、マニュアルがなくても経験や個々の判断で事務が進み、困ることが少なかったのが要因だと思います。また、そもそも時間外勤務が多すぎて作る余裕すらなかったことも考えられます。
 しかし当時の私は判断、作業効率ともに求められるレベルについていけず、同じ作業をしていても1人だけやり方が間違っていることで手戻りが多く、またそのミスを取り戻すために多くの時間を費やすといった負のスパイラルに入ることが多々ありました。
 また、その状況は当然自分1人だけの問題ではなく、同僚にも手戻りやチェックの手間を強いることに繋がっていました。

(表1)財政課の業務性質
考えて答えを出す 作 業
・予算編成過程における査定
・予算執行における協議調整
・担当部局の起案合議
・システム操作
・予算、決算のデータ集計
・決算統計
・予算書の作成、印刷

③ 具体的な業務内容など
 ア 繁忙期1 ―― 決算統計(6月)
  決算の統計調査。全国の自治体財政課共通のヤマ場の一つであると思います。判断が必要な中身もありますが、その多くがシステムを使った作業や集計、分析作業です。
  毎年財政課職員が一丸となって取り組む事務であるにもかかわらず、作業マニュアルがあまり作られていない状況でした。
 イ 繁忙期2 ―― 予算編成時期(11月~2月)
  廿日市市の予算編成は1件査定の方式を取っています。これは事業1件ずつの中身、金額の根拠などを予算要求課にヒアリングを行い、査定を行っていく方式です。例年11月頃に担当課からの予算要求が締め切られ、その後半月ほどかけて部担当が担当課の係長を相手にヒアリングを行っていきます。

3. 財政課時代の取り組み

(1) 取り組みの概要
 財政課配属の2年目以降から私の業務改善の取り組みが本格的に始まりました。1年目は業務の流れも分からず、仕事に追われ続ける日々だったのでとても業務改善に踏み込む余裕はありませんでした。
 しかし、1年間激務を味わう中で改善の必要性を感じずにはいられませんでした。2年目以降に取り組んだことは「財政課の共通事務マニュアル集」を作成したことと「予算要求作業のマニュアル」を作成したことの大きく2点です。
 マニュアルを作ること自体はありきたりのことかも知れません。しかし、本市の状況下においてはマニュアルを作ることが大きな意味をなしたと感じていますので、その趣旨も含めて報告します。

(2) マニュアル作成の背景
 まず前提として、財政課では課員全員が共通して行う事務が多くありました。システムを使う作業、エクセルによるデータの加工から予算書の作成まで幅広い内容です。定例的に、多くの職員が携わって作業をするにもかかわらずまとまったマニュアルがなく、その都度前任の職員に聞きながら作業をしていたという実態でした。マニュアルで全体の流れが示されていないと、作業単位でしか事務を見ることがないため、業務改善にも繋がりにくいという面もあります。
 作業の正確性と効率性、事務レベルの平準化、ミスによる手戻りをなくし迅速に処理をすることで、作業ではなく考えて答えを出す仕事に時間を割けるようにするという狙いがマニュアル作成にはありました。
 また、公務員には異動がつきものです。人が入れ替わった時にも上記の効果が続くようにという思いを込めてマニュアル集の作成に取り掛かりました。さらに自分の経験を付け加えると、財政課配属時の不安感、そして先輩職員からの「かける言葉がない」という言葉。こういったものを自分より後に配属になった職員に味わわせたくないという思いもありました。
 共通して行う事務のマニュアル集があれば、新しい職員にも仕事が見えます。やるべき業務が減るわけではないので、いかに効率的に仕事を覚えてもらうかというのも業務改善のポイントの一つでした。マニュアルがあることで教えるべき事務を誰でも一定水準のレベルで教えることができるようになったのも大きなメリットです。

(3) マニュアル作成時のポイントと成果
 マニュアル集を作成するにあたっては、やみくもに作るのではなく、いくつかのステップを踏むことでより効果的な取り組みとすることを意識しました(図1)。また、この取り組みは私ひとりで行ったのではなく、課員を巻き込んで取り組みました。それは、ひとりでマニュアルを作るだけでは自己満足になりますし、共通事務のマニュアルなので一緒に作業する人の目線があった方がより良いものができると考えたからです。その中で課員とのコミュニケーションも増え、みんなで業務改善に取り組むという良い雰囲気が生まれるという副次的な効果もありました。
 具体的な作業についてです。まずは財政課員が共通で行う事務の洗い出しをしました。また、既存のマニュアルがあったものも再度洗い出し、点検を行う中で仕事の流れや必要性の見直しを行いました。マニュアルを作ることだけが目的ではなく、その先の業務の効率化や時間外勤務の削減が目的だからです。
 共通事務を洗い出し、仕事の流れを再確認した後は実際のマニュアル作りに取り掛かりました。作成は私メインで行いましたが、作成後に課員に内容の確認と改善点などを仰ぐようにし、ブラッシュアップを図りました。
 最終的には、データの保存場所がバラバラだった既存のマニュアルから新規で作成したマニュアルまでを保存するフォルダを作るとともに、紙媒体でも財政課共通事務マニュアル集を整え、課員に配付しました。紙ファイルでの配付は異動で新しい職員が来た際にも1冊渡すことで安心感を与えることにも大きく寄与しました。実際の時間外勤務の削減については、このマニュアル作成の取り組みの効果だけとはいえないかもしれませんが、配属2年目は1年目より、3年目は2年目より、と格段に少なくなっていきました(図2)。この一連の取り組みの中でマニュアル作成には至らずとも、業務改善の意識や課員がコミュニケーションを大事にする風土が作られたことなどが一つの要因ではないかと思います。

(図1)取り組みのステップと効果
(図2)時間外勤務の推移

4. 労働組合での取り組み

(1) 取り組みのきっかけ
 財政課での取り組みはマニュアルの作成により業務の効率化や時間外勤務の削減をはかったものでした。一定の時間外勤務削減の効果はあったように思いますが、まだまだ他の部署と比べて財政課の時間外勤務は多く、忙しい部署であることに変わりはありませんでした。
 財政課に4年在籍する中で、どうすれば負担を減らすことができるか、考え続けていました。その中で一つ辿り着いた答えが、市役所力の底上げです。財政課目線で市役所全体を見たときに、こと予算や財政に関する業務内容については財政課頼みの部分が大きいように感じました。
 予算編成や議会対応などに必要な知識は幅広いので財政課に相談すること自体を否定するものではありませんが、全職員が使う予算要求のシステム操作や予算に関する基本的な知識は行政職員として持つべきです。また、多くの職員が一定程度の知識を持てば、財政課の負担も大きく減ると考えました。
 これは、何も財政課だけが楽をしたいから言っている訳ではありません。係長や課長になると各課の予算編成事務や議会対応を担うことになるので予算に関する知識は必要不可欠です。しかしながら、今の本市の研修過程では予算についての知識を学ぶ場がありません。財政課が行う財務事務研修というものはありましたが、全職員が受講するわけでもなく、担当者時代に予算編成事務に携わる機会がなかった場合は、係長や課長になって初めて知識も満足にない状態で予算と向き合うことになります。
 予算編成などに関する知識や視点を早い段階で身に付けることで、視野も広がり通常業務のレベルも格段に向上します。そういった機会を若い職員に持ってもらいたいと思ったのが一つのきっかけです。
 もう一つは、シンプルに私が財政課に配属されたときに予算に関する知識も何もない状態で非常に苦労したことです。1回目の異動で財政課へ配属になる若い職員が増えてきている中で、同じ職場、組合の仲間に自分と同じような思いをさせたくなかったことが学習会をしようと思ったもう一つのきっかけです。

(2) 実際の取り組み
 このような経験、思いから予算に関する学習会を組合の若手職員を対象に企画することを考えました。
 まずは財政課の業務で行った研修の資料を転用してラーニングバー(勉強会)を開催しました。財政課に在籍した最終年度である2020年度には予算をテーマに4回開催し、60人以上の職員が参加しました。内容は廿日市市の予算の概要や財政状況など広報紙に掲載しているレベルの内容から始めました。また、実務上生じる予算執行の際の調整方法など単なる知識だけではなく実務にも活きる内容を心掛けました。参加者からは「予算に興味を持つきっかけになった」、「実務でも使える内容で助かった」といった声を聞くことができました。


(学習会の様子①)

(学習会の様子②)

(3) 組合活動として行うメリット
 財政課の業務として行うオフィシャルな研修と、組合活動として行う勉強会との違いは、組合として行う方が、自由度が高いという点です。
 組合活動として行うラーニングバーでは、財政課での経験を踏まえた仕事への向き合い方なども若い職員に伝えることができました。そこで意識したことは、仕事もプライベートも組合活動も全てが繋がっているということです。私は財政課に在籍していた時にも組合の役員をしていたので、若手のスキルアップだけではなく、組合活動へいかに参画してもらうかもテーマとして持っていました。学習会をきっかけに若手職員にも声をかけやすくなりました。

(4) 組合専従となってからの取り組み
 財政課に4年間在籍したのち、2021年度から私は組合専従となりました。コロナ禍にあり、組合としての運動がなかなか出来ない状態の中、いかに運動を継続していくか、組合員が活動から離れていかないようにするかを考えていました。
 その時、財政課時代での知識や学習会の経験を活かしてズームを活用したオンラインでの予算の学習会を企画しました。企画している段階で、ある組合員から「予算については全職員に関わることで、組合員以外にも広く周知して参加者を募ってはどうか」との意見をもらいました。人事当局にも企画の趣旨などを説明し、全職員への周知のために職場の端末やインフォメーション機能を使うことの了承を得ました。同様の手法で2回オンラインでの予算の学習会を行い、組合員以外も含めて50人以上の参加者がいました。当時の人事課長も参加するなど、当局へ組合の活動を認めさせることもできたように思います。
 廿日市市には2つの労働組合があります。自らの組合員のみならず、非組合員や当局に自治労はつかいちユニオンの活動についてプラスのイメージを抱かせることは未加入者の加入促進や団体交渉での発言の影響力などに繋がってきます。
 本来、予算の研修などの人材育成は当局が行うことです。しかし、組合には多くの知識、経験を持った職員がおり、なおかつ職場環境を良くしていきたいと思う職員が多くいるのが強みです。

(5) 現在の企画・取り組み
 現在は私の財政課での経験以外にも、パワーポイントやエクセルスキルなど、業務上どこの部署でも必要となる知識の習得から、労働組合目線での賃金の決まり方などをテーマに学習会を開催しています。これらの活動は「ユニ学」(自治労はつかいちユニオンの名前より)と題して取り組んでいます。(図3)
 ユニ学開催のきっかけは団体交渉を行ったあとに私が感じた思いです。労働組合として職場環境の改善を求めることは当然のことです。しかし、ただ要求して声をあげるだけではいけないと感じました。職員である以上、また職場をよくしていこうとしている組織である以上、人材育成や組織風土作りに力を入れなければならないと感じました。また、職場のことを常に良くしていこうと考えている組合だからこそ、それが出来るとも思いました。
 この思いのもと、要求・交渉以外の場でも職場環境の改善にむけて組織として取り組む姿勢を持ち続けることを意識しています。

(図3)ユニ学をスタートした際に掲載した機関紙(抜粋)

5. 労働組合の持つ可能性

 最後のまとめです。私の取り組みのきっかけは自分の働く環境を良くしたい、という思いからでした。マニュアル作りなどは忙しい中での作業でもあったので正直しんどさもありましたが、中・長期的に見たときに必ず良い環境になると信じて取り組みました。
 良い職場環境は一朝一夕では出来ません。改善にむけて絶えず考え、同じ思いを持って行動する仲間も必要です。異動があり様々な職員がいる市役所の職場で、そのような関係を築き続けるのは難しいことだと思います。だからこそ、共通の思いを持ち、職場の垣根を越えた関係性を持つことのできる組合だからこそ取り組んでいけることだと思っています。
 かつて、「組合は最高の人材育成機関である」、と職場の上司であり組合の役員だった人から言われたことがあります。いま、組合専従をする中でそれを実感しています。多くの人を巻き込み、人を、組織をより良い方向にしていける力が組合にはあると思っています。このレポートにより、要求や交渉という側面以外にも、労働組合の持つ職場を良くしていける可能性に共感する人が増え、組合活動に積極的に関わる人が増えることを祈り、私からの取り組み報告とさせていただきます。