【自主レポート】

合併特例債はあくまで借金
~普通交付税措置に釣られると借金地獄に拍車をかける~

大分県本部/中津市職員労働組合・自治研部

1. はじめに

 大分県下では、法定協議会1地域、任意協議会11地域、研究協議会1地域、そして県が示したパターン以外の任意協議会の設置などの動きもあり、まさに合併特例法の期限の2005年3月末を睨んで合併への動きが加速している。
 一番の要因は、「合併特例債がある今のうちに」ということで、合併特例法がなくなればこの制度もなくなるという法律の建前によるものである。しかし、この合併特例債そのものは借金であり、地方交付税が措置されるからという安易な考え方では、「合併して10年経って、残ったのは大きな借金と大型施設の維持管理費」となるのは必至である。
 今回、合併特例債を含めた財政シミュレーションをもとに、必ずしも地方自治体にとっての最大の「アメ」ではなく、合併に名を借りた建設事業の促進、公共事業の奨励策、借金を増やすみかえりの支援策であることを明らかにしたい。

2. 合併特例債はさらに自治体財政を圧迫する

 中津市と下毛郡4ヵ町村が合併した場合の合併特例債は、総務省HPによると別紙1のとおり、標準事業費295.3億円・標準基金規模の上限の目安31.7億円の合計約327億円に対して、約310.6億円(充当率95%)が借り入れ限度額となり、16.4億円(5%)の一般財源の持ち出しが必要となる。(別紙1、別図1参照)特例債の償還条件を利率1.8%、15年(3年据置き)の元利均等償還で推計すると、償還金合計は364.9億円にも達する。(別表1)
 その内訳は、特例債の元利償還に対する普通交付税措置(70%)は約217.4億円、一般財源は147.5億円となる。
 単純に、特例債310.6億円に対して普通交付税措置が217.4億円あるため、その差額の93.2億円を一般財源で持ち出しと考えるならば、非常に有利な起債ではあるが、償還期間等を考慮すれば、さらに利子分54.3億円の一般財源の持ち出しが発生し、標準事業費等で充当されない16.4億円を加えると163.8億円もの一般財源が必要(標準事業等の約327億円の1/2)となる。
 さらに、中津市と4ヵ町村の2000年度末地方債現在高の合計は372.9億円に達し、今後増加する償還金の財源捻出に苦慮している中、それに匹敵する地方債(310.6億円)を合併後10年間で発行するという途方もない事業計画により、その借金返済が自治体財政を圧迫するのは必至である。

3. 国・県の優遇措置は、合併10年後の削減分の前補てん

 国は、2005年3月末までに合併した団体に限って、合併の支援策として次のような制度を用意している。(額については中津市と下毛4ヵ町村が合併した場合、算出方法は、合併協議会の運営の手引き 添付資料ⅩⅠ 合併財政支援シート参照)

(1) 合併特例債(建設事業、基金造成32,696百万円)
   市町村建設計画に基づいて行う、公共的施設の整備や地域振興等のために設けられる基金の積み立て等の事業のうち、特に必要と認められるものに要する経費については、合併が行われた日の属する年度及びこれに続く10年度間に限り特例的な地方債を充当することができる。
 合併特例債の交付税措置は、上記2.参照

(2) 地方交付税の算定の合併特例
   合併10年間は、旧市町村ごとに毎年度、4月1日において合併しなかった場合の普通交付税額を計算し、その合計額を下回らないように算定する。よって、合併してもしなくても段階補正の見直しの影響を受け、地方交付税は減額されることとなる。一部で言われている「合併前の地方交付税の合計額が10年間保障される。」という説明は正確ではない。その後5年間は、その特例分を段階的に減らし(9割、7割、5割、3割、1割)、16年目からは合併の特例はなくなり激減する。

(3) 臨時財政特別交付税措置(590百万円/3年間、1年目5割,2年目3割,3年目2割)
   新たなまちづくり、合併関係市町村間の公共料金の格差調整、公債費負担格差の是正等についての需要に的確に対応するため、合併市町村に対する特別交付税による包括的な支援措置を講ずる。また、合併に伴う電算システムの統一等の合併意向経費を特別交付税により個別に措置する。

(4) 臨時財政普通交付税措置(920百万円/5年間,均等)
   これまでの合併補正を再構築し、行政の一本化(基本構想等の策定、コンピューター・システムの統一、ネットワークの整備等)や行政水準・住民負担水準の格差是正(住民サービスの水準の調整等)に必要な経費に対して、普通交付税による包括的財政措置を講ずる。

(5) 合併市町村補助金(510百万円/3年間,均等)
   合併市町村の振興を図るための施策として、モデルとなる事業に対して、合併成立年度から3ヵ年度を限度に補助する。
 さらに、県も合併市町村交付金を交付することとしている。

(6) 合併推進交付金(800百万円,予算の範囲内で交付)
   合併に際し、臨時的に発生する保健・福祉などの行政サービスの格差是正のための事業、電算システムの組み換えなど広域サービスシステムの整備のための事業、市町村建設計画に基づき実施する各種施設整備事業等の財政需要に対し、財政支援を行う。

 これらの国・県の優遇措置をグラフにまとめると別図2のとおりとなり、任意協議会・法定協議会がまとめる財政シミュレーションでは、合併後10年間の推計しか示さないため、合併すると大きな優遇措置が受けられることとなっている。しかし、激減緩和措置期間の合併11年目から15年目にかけて、優遇措置を除く地方交付税は激減し、合併16年目には一本算定となる。先に述べたように、合併特例債発行に対する普通交付税措置はあくまで償還金に充てられものであり、その分は除外して財政シミュレーションを行うべきものである。

4. 財政シミュレーションは、合併25年目(2030年度)まで必要

 合併想定年月日を合併特例法の期限である2005年度3月31日とし、別表2の財政シミュレーションの推計条件に基づき、財政推計を行った結果を別表3に示す。
 ここで、2005年度以降については、普通交付税の補正係数等の見直しがどのように推移していくかが推測不可能であるが、合併算定替の普通交付税もその見直し措置がかかるため、合併してもしなくても普通交付税額は、ほぼ同一と考えられる。さらに、地方交付税は、基礎自治体を支えていくための制度であり、人口規模の小さい町村に対して財源保障を果たしえないほどに普通交付税の削減を実施すれば、基礎自治体の崩壊につながり、地方自治法及び地方交付税法を逸脱した不法行為となるため、一定とした。

(1) 地方交付税の算定の合併特例
   合併後16年目の地方交付税(特例債の交付税措置を除く)は、中津市と下毛4ヵ町村が合併した場合の一本算定額を国が示していないため、類団の京都府舞鶴市、岩手県北上市、新潟県新発田市の3市平均を採用すると、2000年度決算額の10%カット額の7,641百万円となる。合併しない場合は、2000年度の中津市と下毛郡4ヵ町村の地方交付税合計額の10%カット額の12,118百万円と推計される。 
 よって、合併16年目の2021年度において、合併しない場合と合併した場合の差額は、4,477百万円にも達することとなる。

(2) 歳入・歳出の比較
   別表3の2005年度から合併特例債の償還が終了する合併25年目(2030年度)までの歳入歳出の推移を基に、費目ごとに累計額を算出する。(別表4参照)
   歳入・歳出合計は、合併した場合と合併しない場合はほぼ同額(合併した場合が△278百万円)となり、歳入の要因は上記(1)の地方交付税の一本算定による激減の影響(△55,957百万円)が合併特例債の発行(31,065百万円)、合併特例債発行に伴う普通交付税措置21,742百万円によって相殺されたためである。
   歳出の場合、職員や議員、特別職の人員減により人件費が減少(合併した場合が△16,549百万円)するが、合併特例債の償還金(36,494百万円)、合併特例債事業に伴う一般会計繰出し金(1,635百万円)、市町村振興基金の積立(3,170百万円)、合併特例債対象事業費(29,530百万円)で相殺されてほぼ同額となる。
   合併特例債の対象となる基金や事業を除いたその他投資余力は、2004年度の投資余力額と比較して合併4年目(2009年度)以降毎年マイナスとなり(別表3)、累計で△54,559百万円にも膨らみ、合併特例債による基金積立及び対象事業(合計32,700百万円)を実施することにより、合併前に実施できていた事業を大幅に縮減せざるを得ない状況となる。
   合併特例債の対象事業が無駄で不必要な箱物を造った場合は、償還金や箱物の維持管理費の増大により将来的には大きな財政赤字を抱えることとなることは明らかである。しかし、現在事業継続中の事業や中期財政計画等で計画されている事業等に合併特例債を活用したと仮定すると、その他・投資余力と基金の積立、対象事業費を合計した額は380,667百万円となり、合併しない場合のその他・投資余力の累計額402,526百万円との差額は△21,859百万円となり、合併しないほうが有利となる。
   以上の推計により、合併の財政シミュレーションを行うに当たっては、合併25年目(2030年度)まで推計しなければ、合併の是非を判断する材料にはなり得ない。

5. おわりに

 合併の是非は単に、将来にわたる財政シミュレーションの損得のみで論議すべきでないことは当然である。しかし、今全国の自治体で2005年3月までに合併しないと優遇措置が受けられないと躍起になっている。国・県が示す豊富な支援措置により合併すると得をするかのような論法を検証するには、合併10年間だけの推計では正確を期せない。合併による優遇措置は、合併することによる地方交付税の激減を一時的に緩和するために手当され、さらに合併特例債は借金を増やし財政危機を広げるものであることを長期の目で考えることが必要である。

別紙1 合併特例債等の試算

別図1 合併特例債の事業費と交付税措置

別表1 合併特例債等による年度別交付税措置と財政負担

<参考資料> 年度別償還予定表

<参考資料> 年度別元金償還予定表

別図2 地方交付税,補助金,交付金の推移

別表2 財政シミュレーションの推計条件

別表3-1 (中津市・下毛郡の合併における歳入・歳出の推移)

別表3-2 (中津市・下毛郡の非合併における歳入歳出の推移)

別表4 中津市・下毛郡の合併・非合併における歳入・歳出の比較