【代表レポート】

豊島事件と自治体行政

香川県本部/香川県職員労働組合

1. 豊島事件における自治体行政の問題点

(1) 豊島事件における行政組織の無謬性(公害調停での答弁書より)
  ① 県知事、その補助職員は豊島観光、経営者の違法行為に加担したり、これを容認したことはない。また、申請人住民に健康上、生活上、または精神上の損害を与えたこともない。
  ② 豊島観光のミミズによる土壌改良剤化処分業は1983年頃には余り活発に行われているようではなかったが、完全に廃止したという状況ではなかった。
    1983、4年当時、豊島観光からシュレッダーダストは金属を回収する目的で購入契約を締結しているとの説明があり、現に購入契約書も示されていたこと、金属回収の分別の作業が実際に行われていたこと、それが売却されている旨説明されたこと、から廃棄物ではないと認定したのであって、県の判断は誤りではない。廃棄物か否かを採算性によって判断するには、経営者の経営状況を知る必要があるが、これは知事の権限からみてむずかしいことである。
  ③ 知事は豊島観光に対し、1990年12月に措置命令を出したことにより、1993年2月頃までにはシュレッダーダスト、製紙汚泥以外の物はおおむね撤去が終了し、処分地の生活環境に支障を及ぼすおそれは格段に減少している。
  ④ 処分地またはその周辺について、県が調査した結果等によれば、有害物質が周辺住民に被害を及ぼす程度に存在しているとは考えられない。
  ⑤ 知事ないし補助職員が廃棄物処理法上の権利行使に当たり、いかなる違法行為も行ってはいないから、申請人住民の請求には応じられない。

(2) 豊島事件における自治体職員の立場
  ① 91.2の香川県職員の供述調書では、「申請者は、県内の廃棄物処理業者の中でも一番の乱暴者であり、口が達者な上、知恵も働く人として有名であったため、強い指導ができなかった。」とされており、担当者として違法性の認識があったにもかかわらず、行政組織としての対応には踏み込めていない。
  ② 機関委任事務として厚生省が法律の解釈権を持っており、「廃棄物」そのものの解釈が次々と変わる等、法的整備が未熟(後追い)なままの通達行政では、国の示す基準を超えての指導はできにくい。
  ③ 「300円で物を買い2,000円の運搬費用を受け取る」とした仕組みにおいて、買う物(廃棄物)を有価物と判断したことは明らかに誤っており、また処理能力の面からも10年以上も必要とされる量の投棄を見過ごしてきた判断も、いわゆる「ことなかれ」主義である。
  ④ 摘発後の県行政の態度は、前述した「公害調停での答弁書」のとおりであり、誤りを認めれば損害賠償責任が生じるとした考え方などから、積極的に住民側との対話を求めることもなく、公害調停で反論するだけに止まっており、住民との信頼関係が損なわれたまま何年も放置したことは、当該自治体として無責任であるとも言える。
   「地方自治体の行政がいかに無策で無責任であり、その過ちがいかに大きな影響を及ぼし、回復に巨額の出費を伴うものであるかということ、しかるに、行政はいかに自らの誤りを認めようとせず、隠し、居直るものであるかということ、総じて、いかに住民のための行政が行われていないかということを、白日のもとにさらしたのである。」(大川真郎著『豊島産業廃棄物不法投棄事件』より)

2. 豊島事件と県職労

(1) 住民会議の署名活動への県職労の対応(97.4)
  ① 県に撤去を求める7万人の署名が平和労組会議から降りるも、県職労は署名に参加せず。
  ② 平和労組会議を通じ、カンパに取り組む。

(2) シンポジウムの開催(97.10.8) ― 豊島産廃問題がなげかけているもの ―
  ① 自治労香川本部、香川県自治研センター主催
  ② パネラー:中山充香川大学法学部長、神野明四国学院大学教授、石井亨廃棄物対策住民会議、三宅正博連合香川会長代行
  ③ シンポジウムに対する廃棄物担当県職員の反発→これ以降、県職労は組織内の事情を優先し、豊島事件に関われず。

3. これからの課題と取り組み

(1) 豊島廃棄物処理と安全衛生(2000.6以降)
   豊島の不法投棄現場の地下水等漏水防止施設・廃棄物掘削・移動工事にあたり、自治労県本部と県職労は、現場管理監督従事組合員、工事請負業者の安全確保のため、次の要求を行い、実現した。
  ① ダイオキシン調査の実施

県環境研究センターで実施、保護用具の購入、工事設計費への計上
  ② 急性曝露予防措置の実施
  ③ 慢性曝露予防措置の実施
  ④ 事前・定期健康診断の実施…保健所において実施
  ⑤ 現場作業の安全管理体制の確立…豊島産業廃棄物等処理作業安全対策委員会の設置、作業マニュアルの策定
  ⑥ 労働者教育の徹底
   今後、安全対策委員会での課題として、廃棄物の掘削時、コンテナ積込時、海上輸送時、中間処理施設搬入時等、組合員と作業員の安全確保があり、引き続き、安全対策委員会において検討・協議を行う。

(2) 自治体行政における職員組合の役割
  ① チェック機能の発揮
    豊島事件は、行政の無謬性神話が崩壊する象徴的な事件であったが、県という組織のなかでは未だにそれを受け入れられない、又は受け入れたくないという意識が根強く残っているのではないか。このことは、2001年10月に県職員の自主研究グループが豊島の不法投棄現場を訪れたことに対する環境局内の反発にも象徴されている。正に、これまで県庁内において豊島事件はタブーであり、担当部局以外の人間が触れてはいけない問題だったのである。
    また、職員組合も何らの意思表明も活動もせず、端からみれば県庁という組織自体のチェック能力の無さを露呈した。
  ② 職員の担当業務の客観的評価と組織内部の論理との整理
    行政は、自らの業務を自ら客観的に評価することは、まず不可能である。それは、自らの仕事を否定することに繋がるからである。しかし、当該業務の問題点を一番知っているのは、担当職員であり、担当職員が業務の問題点や過ちを指摘し、改善していかなければ、なかなか問題が顕在化しない。もちろん、情報公開や内部告発によって顕在化する場合もあるが、時には職員の身分に関わる問題を含んでいるため、職員個人にとっては、大変勇気のいることである。
    そこで、職員組合という客観化された組織が、職場から問題を吸い上げ、それを担当レベルの問題としてでなく、組織の、行政の問題として問題提起し、外部へ発信していくことが求められる。
    豊島事件においても、職員組合が職員を守ろうと内向きな対応をとったことによって、かえって職員個人を傷つけたのではないだろうか。本当は、個人のなかで抱え込まず、真実を明らかにすることによって、救われたかったのでないだろうか。結果的に、担当職員は組織のなかでいつまでも自己矛盾に苦しみ、当時の上層部は何のお咎めもなく、担当職員のみが書面訓告を受けたのである。
  ③ 制度政策要求から制度政策調査・研究・提言へ(自治研活動の職場内部化)
    職員組合は、ここ数年、制度政策要求に取り組んできたが、あくまでも要求し、後は当局任せの範囲を超えていなかった。しかしながら、行政組織の自浄能力に期待することができない以上、職員組合こそが組織内部で上記の役割を果たさなければならない。そのためには、当局サイドに負けない制度政策の調査・研究能力と体制を整え、積極的に提言していかなければならない。
    これまで、外への発信ばかりに目が向きがちであった自治研活動を、もう一度足元から見直し、職場のなかから湧き上がるような地道な活動を模索していく必要がある。

4. 香川県における県外産業廃棄物の現状と課題 ― 自治研究 ―

(1) 香川県における県外産業廃棄物の現状
  ① 1991年6月:「香川県産業廃棄物処理等指導要綱」制定…県外産業廃棄物の搬入禁止
    ただし、「知事がやむを得ない理由があると認め、かつ、生活環境の保全上支障がないと認めるときに限り」、県外産業廃棄物の搬入を認める。
    EX:県内で製造された製品が県外で廃棄物となり、県内で処理しようとする場合
       県内において再商品化を行う場合
       近県において香川県以外に適正処理を行う処理業者が存在しない場合
  ② 要綱施行前から県外産業廃棄物を受入れていた業者は、要綱の規制の対象外(どうしたものか!)

表1:香川県における産業廃棄物の搬出入量
単位:t
年度
91年度
92年度
93年度
94年度
95年度
96年度
97年度
98年度
搬入量
94,322
76,207
72,046
41,020
43,753
39,110
28,341
30,536
搬出量
32,360
42,846
39,180
43,741
28,108
50,349
66,049
71,613

 

表2:県外産業廃棄物の搬入の内訳(98年度)

品      目
搬入量(t)
処分方法
県要綱施行前からの搬入
 
 
 廃アルカリ
16
再生処分
 廃プラスチック類等
1,001
破砕処分(再商品化)
 汚泥、廃油、廃プラスチック類、動植物性残渣等
8,233
焼却処分
 燃え殻、汚泥、がれき類等
6,838
埋立処分
   小  計
16,089
 
県要綱に基づく搬入
 
 
 汚泥(製紙スラッジ)
2,306
建材化(再商品化)
 動植物性残渣(珈琲がら)
233
建材化(再商品化)
 がれき類(廃コンクリート柱)
2,531
破砕処分(再商品化)
 廃  油
14
焼却処分
 廃アルカリ
9,363
積替え保管
   小  計
14,447
 
   合  計
30,536
 

(2) 県外産業廃棄物条例の内容(資料1
  ① 目 的……「資源の有効利用と生活環境の保全」
  ② 事前協議……県外産業廃棄物の循環的な利用を行う場合は、循環事業者に事前協議を義務付
    (県外排出事業者にも準用)→ 審査結果等を記載した協議結果通知書を交付
       県外産業廃棄物の搬入規制ではなく、持込容認の手続きを定めているに過ぎない
    ⇒違反した場合:中止、変更等の勧告、公表
  ③ 情報公開……協議書、報告書を公表
  ④ 罰 則……行為制限、報告義務の違反:30万円以下の罰金
       立入検査の拒否、妨害等:20万円以下の罰金
  ※直島エコタウン事業(図1)の採算性を確保するために、県外産業廃棄物を受入れる必要
  ※香川県議会としては、49年ぶりの議員発議の条例

(3) 県外産業廃棄物条例の問題点
  ① 豊島事件の反省と教訓はどこへいったのか?……県外産業廃棄物搬入禁止の政策の転換
  ② 条例の目的が不明確……条例制定の立法事実、保護法益は何か?→価値観のない、無機質な条例
  ③ 事前協議における結果通知の法的性格が不明確
    If、不適合であると判断された場合、不適合の結果(県外産業廃棄物の搬入を認めない)を通知するのか? = 行政行為としての処分性をもつのか?(もつとすれば、実質的な許可制!)
    それとも……不適合という事態は想定していないのか?
    (適合するよう行政指導? →行政手続条例上、問題はないか(行政手続法では§7))
    ⇒ 協議結果通知……実質的に行政指導としての性格しか持ち併せていないのか?
    それとも……条例でだめな場合でも、要綱で認められれば、搬入できる! (裏街道?)
  ④ 審査基準等が不明確……ほとんど規則委任
    → 事業者の権利を制限し、義務を課す条例としては、基準が不明確→権利救済の点からも問題
  ⑤ 循環的な利用以外(中間処理、最終処分)の県外産業廃棄物の搬入については、我関せず!
    → 要綱で対応(もっとも、要綱施行前からの搬入は、野放し状態!)
    ⇒ 県外産業廃棄物の搬入という同一の行為について、………
    【法的拘束力を持つ条例】 と 【行政指導にしかすぎない要綱】 と 〔要綱の対象外〕
    という効果の異なった規制(又は規制しない) ⇒ 地方自治法§14Ⅱの新解釈か!!?

(4) 県外産業廃棄物の搬入規制と廃棄物処理法
   ― 県外産業廃棄物の搬入を条例で規制することは、廃棄物処理法に反するか ―
  ① 県外産業廃棄物条例では、
   ・廃棄物処理法は、廃棄物の広域処理を前提としており、搬入禁止は法に抵触する。
    → 条例で搬入禁止を定めることは困難と考えているが……
   <本当にそうだろうか?>
   ・廃棄物処理法……廃棄物の広域移動については規定なし
   ・旧厚生省課長通達(「産業廃棄物処理計画の策定に当たっては、都道府県の区域の外から運搬され処分される産業廃棄物又は当該区域において発生し当該区域の外で処分される産業廃棄物の種類及び量を勘案して産業廃棄物の種類ごとにその発生量及び処理量の見込を定めるなど、産業廃棄物が広域的に処理されている実態を踏まえて行うこと。」)……地方分権によって失効
   ・廃棄物の国外移動……法で規制(廃棄物の広域移動の危険性を前提)→ 緩和の方向へ
   ・廃棄物処理計画の策定……都道府県の自治事務
     → 県外産業廃棄物の受入可能量……県内の産業廃棄物処理施設で処理できる量の範囲内でないと物理的に受入不可能(総処理容量から県内産業廃棄物の処理量を控除した残容量)
    ※条例による県外産業廃棄物の規制は、(全面的な受入拒否でない限り)違法ではない。
    ⇒廃棄物処理法の関与の対象外

5. 豊島事件の経過

年 月
経  過  の  概  要
1975.12
豊島総合観光開発㈱(以下「豊島観光」という。)が香川県知事に有害産業廃棄物処理場の許可申請
1976.2
豊島住民の反対署名(豊島住民のほとんどである1,425名)。香川県に反対陳情
1977.6
豊島住民584名が処理場建設差止裁判を高松地裁に申立て
1977.9
豊島観光が、無害物によるミミズ養殖に申請変更
1978.2
香川県知事が豊島観光に対し、産業廃棄物処理業(ミミズ養殖による土壌改良処分業)の許可
1978.10
豊島住民と豊島観光との間で裁判上の和解成立、県が住民に監視を約束
1983.1
豊島観光が、シュレッダーダストの焼却による金属回収を開始、野焼公害による苦情が激増
1984.6
豊島住民の公開質問状に対して、県は金属回収であるから合法と回答
1990.11
兵庫県警が廃棄物処理法違反で、豊島観光を強制調査
1990.12
県がシュレッダーダストを廃棄物と解釈変更。香川県知事が観光開発に対し、廃棄物処理法に基づく産業廃棄物撤去の措置命令、産業廃棄物処理業の許可取消
1991.1
兵庫県警が、豊島観光の代表者ら6人逮捕
1991.9
県が豊島観光に対し、H2.12の措置命令について指示、瀬戸内海国立公園区域内の土地の原状回復を指示
1992.4
緑化完了
1992.11
1992.12
県が豊島観光の松浦庄助に対し、土地の形状変更行為の中止、緑化修景措置を勧告
1993.11
豊島住民が、公害紛争処理法に基づく産業廃棄物の撤去等を求める調停申請
1993.12
豊島住民が県庁前で立ちっぱなし抗議行動を開始(1994.5まで)。県が環境白書に安全宣言を発表。
1994.3
第1回公害調停(県は責任を全面否定)
1995.7
土庄簡易裁判所が、豊島観光と松浦庄助に対し罰金の略式命令
1996.3
豊島住民が、豊島観光等に対して慰謝料請求の訴訟を提訴
1996.10
第12回公害調停(県が遮水壁案を提案)
1996.12
知事が、公調委に中間処理方式(遮水壁方法を撤回)を回答。慰謝料請求訴訟で豊島住民勝訴
1997.1
公害調停で産業廃棄物中間処理の検討委員会設置で合意
1997.3
豊島観光が破産
1997.4
住民大会で、県に対する損害賠償請求権の放棄を決議。県に撤去を求める7万人の署名を提出
1997.7
県と豊島住民との間で、中間合意が成立
1997.12
第18回公害調停(住民と排出事業者3社の間で調停成立)(その後、30回調停までに12社と成立)
1998.2
技術検討委員会による産業廃棄物無害化の中間処理実験開始
1998.5
県が、海への有害物質流出防止の遮水壁を設置
1998.7
「豊島の心を100万県民に」キャンペーン運動開始。県内100箇所座談会の開催
1998.8
技術検討委員会が、豊島廃棄物等対策調査「暫定的な環境保全に関する事項」報告書、「中間処理施設の整備に関する事項」報告書を提出
1999.1
豊島住民が、不法投棄現場の土地取得
1999.4
石井亨氏が県議会議員に当選
1999.5
技術検討委員会が、「第二次香川県豊島廃棄物等処理技術検討委員会最終報告書」を提出
1999.8
県が直島町議会で、三菱マテリアル㈱直島精練所で中間処理施設整備の提案
1999.11
技術検討委員会が、「第三次香川県豊島廃棄物等処理技術検討委員会最終報告書」を提出
2000.3
直島町長が、県の提案の受け入れを表明
2000.5
知事が当時の担当職員を処分
2000.6
公害等調整委員会の公害調停成立
2000.9
豊島産廃現地の北海岸の土堰堤保全工事に着手
2000.11
豊島産廃現地の西海岸等の廃棄物掘削・移動工事、遮水シート・排水路設置工事の請負契約を締結
2000.12
県と三菱マテリアル㈱が、中間処理業に関する基本協定を締結。豊島産廃現地の掘削・移動工事の事前調査に着手。中間処理施設建設工事の工事請負契約を締結
2001.3
豊島産廃現地の北海岸の遮水壁工事に着手
2001.6
事件発覚当時の環境保健部長が環境大臣表彰を受ける。
2001.12
県外産業廃棄物の持込容認の条例を県議会で可決し、県外産業廃棄物の搬入禁止の政策を転換
豊島での高度排水処理施設建設工事の請負契約締結
2002.3
国が直島エコタウンプランを承認
2002.5
豊島処分地で浸出水の一部が海域へ流出する事故が発生