【自主レポート】

第37回土佐自治研集会
第5分科会 人口減少社会をどう生き抜くか!?

 「人口減少問題」において、これから必要となる公共サービスとは何か。魅力あるまちづくり、地域との協働で必要とされている政策とは何か。当分科会では人口減少問題を考える機会として、架空の自治体を運営する「ゲーム」を考案した。参加者に対し政策立案、決定の経験の場とし、様々な意見交換により新プロジェクトの着想、自治体ごとの特徴を活かしたより良いまちづくりへ発展するための第一歩となることを期待したい。



人口減少社会を生き抜く地方自治体のあり方
―― 政策立案ゲームを通して ――

新潟県本部/自治研推進委員会・第2分科会

1. はじめに

 多くの地方自治体では、少子高齢化から急激な人口減少が深刻化し、その対策として様々な取り組みが行われている。日本の人口は第2次ベビーブーム後の1975年(昭和50年)以降、その増加率は低下しており、2015年(平成27年)国勢調査では、1920年(大正9年)の調査開始から初めて人口減少に転じた。5年前の平成22年国勢調査と比較し、0.8%(96万2千人)減少しており、総人口は1億2,709万人となっている。全国1,719市町村のうち1,419市町村で人口減少となっており、その割合は82.5%である。従来から都市部への人口流出により人口減となっている地域ではさらに過疎化が進むことが考えられる。

図1 人口及び人口増減率の推移―全国(大正9年~平成27年)
総務省HP「平成27年国勢調査 人口等基本集計結果」より

 人口減少と少子高齢化の加速は、日本の経済、産業、財政のあらゆる面に大きな影響を与えると予想される。地方自治体の財政は、社会保障関連経費を中心に今後も増加することが予想され、人口が減少しても歳出を減らすことは難しいと思われる。
 前回、2016新潟県自治研究集会第3分科会では、研究内容について人口減少を取り上げ、歯止めのかからない県内人口減少問題について、4つの課題(結婚に繋がる機会、育児環境、貧困問題、人口流出)を軸に考察した。それぞれの課題について現状を調べ、分析し、課題解決のための提案をまとめているが、2018新潟県自治研究集会第2分科会では、この研究内容についてさらに考察し、具体的な人口減少対策について考えていくことにした。

2. なぜ「人口減少問題」は重要なのか

 2014年(平成26年)11月28日に「まち・ひと・しごと創生法」が公布、施行されたが、この目的は、「少子高齢化の進展に的確に対応し、人口の減少に歯止めをかけるとともに、東京圏への人口の過度の集中を是正し、それぞれの地域で住みよい環境を確保して、将来にわたって活力のある日本社会を維持していくために、まち・ひと・しごと創生(※)に関する施策を総合的かつ計画的に実施する」というものである。
※ まち・ひと・しごと創生 : 以下を一体的に推進すること
 まち……国民一人ひとりが夢や希望を持ち、潤いのある豊かな生活を安心して営める地域社会の形成
 ひと……地域社会を担う個性豊かで多様な人材の確保
 しごと……地域における魅力ある多様な就業の機会の創出
 人口が減ることにより、今後の行政サービスを賄えるだけの財源の確保も重要な課題である。人口が減少すると、自治体の財源の一つである個人住民税などは大きく影響を受け、歳入に影響することが容易に予想される。地方自治体が地域の実情に応じ、自主的、主体的に地方創生に取り組むことができるよう、2015(平成27)年度以降地方財政計画の予算に「まち・ひと・しごと創生事業費」が1兆円計上されている。この事業費は少なくとも総合戦略の期間である2019(平成31)年度までは継続し、1兆円程度の額を維持する計画となっている。国の2018(平成30)年度予算では「地方創生推進交付金」1,000億円が計上されており、2018(平成30)年度第1回の交付対象事業の決定には新潟県の『「再生可能エネルギー・AI・IoT・ロボット」等による新成長プロジェクト』、『にいがた魅力アップ・定住促進事業』をはじめ、県内市町村の事業が含まれている。このように地方自治体は自主的、主体的に地方版総合戦略に基づく先導的な取り組みを求められている。このほか、まち・ひと・しごと創生総合戦略を踏まえた個別政策として、①「地方にしごとをつくり、安心して働けるようにする」、②「地方への新しいひとの流れをつくる」、③「若い世代の結婚、出産、子育ての希望をかなえる」、④「時代に合った地域をつくり、安心なくらしを守るとともに、地域と地域を連携する」という4つの取り組みがあり、合わせて6,777億円の予算となっている。これまでの行政サービスの維持、更なる改善のためには、各自治体はこれら交付金などにより財源の確保をするためにも人口減少対策に取り組むことが重要となっている。
 前回レポートの研究では、人口減少対策について、住民への切れ目のない支援(結婚・育児・就職)の重要性を述べている。出生数の増加のためには、結婚する人の増加が必要であり、そのためのきっかけづくりのひとつとして、出会いの場としての婚活等のイベントの必要性が生じてくる。また、結婚するためには経済力も必要であるが、非正規労働者の割合が4割に達したいま、結婚を意識する若者の多くも非正規労働者である場合が多い。結婚するための大きな障害と考えられる貧困問題や、子どもを育てていくための育児環境の整備についても重要であると考察している。
 近隣市町村内、県内からの移住者が多くても、それは一方が増え、他の一方が減るということで問題解決にはならない。日本中の市町村のすべてで人口増加となることは現実的には難しい。国が掲げるまち・ひと・しごと創生で挙げられているように都市から地方への移住により、多くの人が環境に恵まれ、安心して潤いのある豊かな生活をすることができるのではないか。所得が上がれば経済的不安もなくなり、結婚する人も増加し、出生率も上がるのではないかと考えられる。そのために行政サービスは何が必要なのか、実現するためには何をすべきか、その実行策について当分科会で考察を行った。

3. 地方自治体の取り組みについて

 人口減少問題について、住民は本当に困っているのか、現実には何が一番困っているのか、自治体における「地域」に根ざした取り組みや活動とはどういうものか、各自治体の成功例・失敗例から見えてくるものについて分科会内で意見交換を行った。実際の内容としては、当分科会の委員が所属する自治体について、前回レポートで主要課題とした、婚活、育児支援、貧困、人口流出についてどのような政策が行われ、どれが一番重要なのか、優先度はどうなっているかなどを調査し議論を行った。各自治体により、4つの主要課題のうち優先度は様々であったが、総じてどの自治体もほぼ同じ行政サービスを提供しており、大差はなかった。


表 類似した行政サービス例

婚活支援

マッチングイベント開催、民間企業支援、アフターサポート制度など

育児支援

児童手当、児童扶養手当、第3子以降保育料無料、子ども医療費助成、子育て支援センター、ファミリーサポートセンター、病後児保育、出産祝い金など

貧困対策

生活保護、就労支援など

人口流出対策・
移住定住促進策

企業誘致、UJIターン促進策、空き家バンク、宅地造成、移住者マッチング制度、交流人口拡大事業など


4. 必要とされている政策とは ~ゲームの考案~

 どの自治体を選んでも同じような政策なら、今住んでいる自治体が住みやすく、いまのままで良いということになるのではないか。他の地域から移住してもらうにはその自治体として個性となるプラスアルファが必要となってくる。各自治体では近隣他市と同レベルの行政サービス提供をしつつ、なおかつ個性を打ち出すような政策を行わないと人口増加にはつながらない。自治体の限られた財源の中、最低限の行政サービスを維持しつつ、かつその個性が何かについて政策を考えることは非常に難しい。そこで当分科会では、自治体の運営をグループディスカッションによるゲーム形式で行うことで、政策立案および決定能力の向上になるのではないかという案が挙げられ、ゲームを考案した。考案したゲームを経験することで、以下に記したような、業務に活かすための気づきや効果を期待するものである。

◇若手職員など、普段の業務において政策立案や決定に関わる機会が少ない、あるいは全くない職員に対し、「ゲーム」を通じて1つの自治体でどのような政策を講じるか、どのように考えていくか考える機会としてもらいたい。
◇「ゲーム」を実施する人によって結果が変わり、どの分野に力を入れるか、考える場、訓練になる。
◇一緒に行う班の人の様々な意見を聞くことで、いくつもの政策の組み合わせ、めざしたいまちづくりの姿が変わってくる。
◇世代によってもニーズが違い、今後の業務にも良いヒント、刺激となるのではないか。

5. ゲームの概要

 毎年、人口が減少していく設定の架空の自治体について、4つの分野(子育て支援、生活支援、地域協働、婚活支援)の政策についてディスカッションを行い、人口減少に対する政策決定をするというゲームである。自治体の財源(「財政力」という造語で表現)や政策数の上限などを設け、可能な限り自治体の実態に即したものとなっている(詳細は別紙「ゲームの詳細」を参照)。

6. ゲームの作成および試行結果

 ゲームの作成過程および実際に当分科会でゲームを行った結果を示す。
 架空の自治体の条件を設定しなかった場合、現在の状況が不明なため、どのような「まち」にしていくかよりも、目新しい政策や特徴ある政策に関心が向く傾向となった。また、政策費用に比例して政策効果(人口増加数)が大きくなると予想した結果、1年目で財政力がマイナスとなってしまったケースもあった。このことから、自治体の条件(特色や地域性など)が未設定の場合、表面上の情報のみで政策を決定してしまい、その自治体で個性となる政策が立案されない恐れが考えられた。
 自治体の条件を設定した場合、現状はどうなのか、まずはどのような目的で人口を増やし流出を防ぐか活発にディスカッションを行うことができ、また、自分たちが選んだ政策により、住民たちにどのような影響を及ぼすのか、その影響から次に必要となる政策について参加者それぞれの考えが提案され、どの意見も住民の生活の利便性において重要なものとなった。
 財政力についても考えながら政策を絞り込むことは、予算を編成し、政策を行うという自治体運営について改めて意識を持つきっかけにもなる。選ぶ政策の数と財源が限られることから、どの政策を選択し、見送るか、どの自治体でも直面する問題についても検討できる。当分科会でゲームを行った中、子育て支援に力を入れるために高齢者に対する政策を先送りにするなど、予算の枠組みの中で公共サービスを提供するには痛みを伴うケースも発生し、複数年に渡る計画的な自治体運営について考えさせられる場面があった。また、政策カードの作成においても、既存の政策のみならず、個性的なアイディアもあり、参加者同士で非常に活発に意見が飛び交った。既成概念に囚われず、柔軟な発想を持つこともこれからの行政職員に必要な要素の1つであると言えるだろう。

【参考】当分科会でのゲーム結果と傾向
 自治体の設定がA市(農業型都市、高齢者人口の割合が多く、人口流入が少ない)で行った。1年目は婚活支援や宅地造成(生活支援)などの若者の人口流入が見込まれる政策を行い、2、3年目以降からは、流入した若者の結婚・出産を見越して子育て支援の政策をとる傾向にあった。また、ゲームを行った中で、高齢者人口が多い、山間部=豪雪地帯ということで、1年目から雪下ろし支援(生活支援)の政策を行っていた。この雪下ろし支援の政策はゲームを進行する中で、廃止しづらい政策としてゲームの終盤まで廃止することはなかった。

7. まとめ

 本レポートの冒頭で述べたように、人口減少や社会保障関連経費の増加により、これからの地方自治体の行財政運営は一層厳しいものとなる。そのような状況下で、地域の特色を生かし、魅力ある地域づくりを進めていくためには、行政職員一人一人がよく知り、よく考えて行動しなければならない。その地域にとって何が必要とされているか理解することで、まちづくりや地域協働をきっかけとした人口減少の歯止めにつながる。特に、地域協働の考え方は欠かすことができない。県内及び全国の自治体でもほとんどが、地域協働のまちづくりに取り組んでいる。しかし、現実として成功例は少なく、地域社会の体力が低下している中で、住民が主体となって新たなアクションを起こしていくことは課題が多い。離島や中山間地域を抱える新潟県にとっては、持続可能な地域社会を作るためには、現実を見つめ直し、パフォーマンスや一過性のイベントではなく、日常生活を豊かにしていくための取り組みが重要となる。
これからの自治体運営を行政職員として考えていくために自治研集会での議論を役立てていきたい。


別紙
「ゲームの詳細」

○方法
 プレイヤー約4~6人で1組を作り、プレイヤーとは独立した親1人の進行の元、ゲームシート(別表1)を用いて行う。
 最初に架空の自治体の条件を設定する。架空の自治体の特徴的な条件は下記から選択する。
 ① A市:農業型都市・主要産業が第1次産業・山間部・人口流入が少ない・高齢者人口割合が高い
 ② B市:港湾型都市・主要産業が第2次産業・海岸部・人口流入が多い・高齢者人口割合が低い
 ③ C市:観光型都市・主要産業が第3次産業・平野部・人口流入が少ない・高齢者人口割合が高い
 ④ D市:主都型都市・主要産業が第3次産業・平野部・人口流入が多い・高齢者人口割合が低い

 上記の条件設定はゲームの数値には直接影響するものではなく、プレイヤーの政策決定の方向性を誘導するものであり、親はそれを踏まえ、プレイヤーのディスカッションが深まるよう助言を行うことが重要である。複数組でゲームを行う場合、どの条件の自治体でも総人口は同数とする。毎年の人口減少数は社会増減と自然増減の合計がn-1年目の総人口のx%となるように設定するが、xの値については、近年の社会情勢や人口減少率によって変動することから、任意の数値を設定できるものとする。
 次に政策決定を行う。政策決定は4つの分野からなる「政策カード」(別図1)を使用する。政策カードは1年間で3枚まで使用することができ、使用すると人口が増加するが、政策費用が発生する。なお、プレイヤーには政策カードによる人口増加数は開示しない。政策カードには単年と経年があり、単年の場合は1年(1回)しか使用できず、経年の場合は2年以上使える。また、一度廃止した政策は翌年には再使用することはできず、翌々年以降しか再使用することができない。カードの備考欄にはそれぞれのカード特有の条件を設定することもできる。プレイヤーが政策カードを使用し、n年目の政策を決定した後、親は必要に応じて「進行シート」(別表2)を用いてイベントをゲームに反映させる。イベントは政策カード等の効果に影響し、人口増加数や政策費用の数値を変動させる。政策決定およびイベント後にn年目の総人口を算出する。算出方法は総人口から人口減少数を引き、政策カードによる人口増加数を加える。
 最後に財政力を算出する。財政力はn年目の総人口に100を乗じ、政策カードの使用によって生じる政策費用を差し引いて求める。なお、財政力がマイナス(赤字)になった場合、ゲームは中断となる。複数組でゲームを行う際は、最終的な財政力で順位を競い合う。なお、n年目の財政力は、n+1年目の予算とする。これによって、n+1年目の政策カードの使用による政策費用の合計値はn年目の財政力以下としなければならない。


別表1. ゲームシート

別図1. 政策カード

別表2. 進行シート

参考…ゲームの使用例

 ゲームの条件設定を、A市:農業型都市、総人口:100,000人、人口減少率:1%とする。また、年数は6年間とし、進行カードは下図のとおりとする。



 1年目の人口減少数は、0年目の総人口の1%となり、政策決定前の総人口は990,000人となる。



 次に政策カードを用いて政策決定を行う。今回は下記の4つの政策カードを使用し、1年目は左3つを使用する。



 政策カードによる政策効果によって人口が増加する。同時にその政策による政策費用が発生する。


 政策カードにより人口が99,180人となり、人口財源が9,918,000円となる。人口財源から政策費用3,700,000円を引くことで、1年目の財政力が6,218,000円となる。



 2年目の人口減少数は、1年目の総人口の1%となり、政策決定前の総人口は98,188人となる。



 2年目の政策は婚活支援の政策カードを廃止し、新たに子育て支援の政策カードを使用する。なお、政策カードを選ぶ際、政策カードの政策費用の合計が、1年目の財政力を超えてはならない。政策カードにより人口が98,398人となり、人口財源が9,839,800円となる。人口財源から政策費用4,200,000円を引くことで、2年目の財政力が5,639,800円となる。なお、一度廃止した婚活支援の政策カードは4年目(翌々年)から再度使用できる。



 2年目は親の進行の元、イベントが発生する。イベントによって地域協働の政策カードを2年目に使用していた場合、人口増加数が3倍となる。



 イベントによる効果を反映させ、再度財政力まで算出する。



 以上のように、サイクルを繰り返すことで、ゲームを何年か続ける。