【自主レポート】

第37回土佐自治研集会
第7分科会 すべての人が共に暮らす社会づくり

 これまで、パワハラに関する相談を寄せる人の大半が、メンタルに支障をきたしており、すぐに治療が必要な状態でした。治療を要する状態であることは、職を辞する、職を失う危険性が高いため、労働組合として、当局側に粘り強く働きかけ、共に解決への取り組みを行った結果、翌年度には全員が職場復帰しました。傷ついた職員と、いかに信頼関係を築き、どのような対応をしてきたかを報告します。



ハラスメントに対する市職労と当局との取り組み


京都府本部/八幡市職員労働組合 山本 篤志

<ハラスメント対策のきっかけ>

 2016年、私ども市職労に約10件のパワハラに関する相談が寄せられましたが、大半がメンタルに支障をきたしており、すぐに治療が必要な状態でした。
 治療を要する状態であることは、職を辞する、職を失う危険性が高く、人事当局との折衝が必要となりましたが、当局側にも対応の経験がなかったことから、粘り強く当局に働きかけ、共に解決にあたる取り組みを行いました。その結果、翌年度には全員が職場復帰し、現在も各職場で活躍することができていますが、市職労への相談がなかった職員はすべて退職するなど、改めて市職労と当局が一体となった対応が必要であると認識したところです。

1. 八幡市における背景

 八幡市では、昭和40年代から50年代に、ニュータウン開発が行われた結果、急激に人口が増加し、大量の市職員採用が必要となりました。その結果、職員の人事構成がいびつなものとなり、現在、当時採用された職員の大量退職時期を迎えていることから、その補充として、再び当然、職員の採用を行わなければならない事態が訪れました。
 過去の大量採用の負の面として、行政運営を同世代の職員ばかりが担っていたことから、新人教育等の「人材育成」の視点が大きく欠落していました。
 その世代の職員が管理職になり、新たに大量の職員を迎えたことで、新人教育の方法が確立されておらず、「自分たちの頃はこうだった」と、昔のままの教え方をするケースが大半となっていました。
 しかし、新規採用職員は、管理職と親子以上に世代が離れ、当時とは全く違う環境で育っており、意識のギャップが大きいことから、その指導方法が「パワハラ」となってしまう案件が急増してしまいました。

2. 八幡市で発生したこと

 近年の新規採用職員は、「怒られ慣れていない」傾向が顕著に見受けられました。
 自分の両親にさえ怒られることなく、逆に守られてきた世代です。
 対して管理職は「怒られて鍛えられてきた」世代でありましたので、仕事とは上司から怒られて自らが考えて身に着けることで一人前になると考えられていたのです。
 新しい職員への指導は、「自らの経験を伝えること」。これは非常に重要ではありますが、昔の「精神論」と現在の「教育プログラムによる教育」とは隔たりが非常に大きいことが露呈してしまいました。
 これまでの管理職の指導は、「見て覚えろ、わからないことがあれば聞け」でありましたが、新しい職員は、「やり方も教えてもらえないのにどうしたらいいのか? 聞けと言われて聞いても、こんなこともわからないのか?」と言われ続け、結果、「自らを否定されている」と受け取ってしまったのです。
 この意識の違いは、時間が経つにつれ更に顕著にあらわれ、管理職は「いつになったら覚えるんだ? こんな奴は役に立たない」とのレッテルを貼ります。そのことに対して周囲の目も「出来ない奴」との認識が広まり、新しい職員は周囲とのコミュニケーションが取れないまま委縮しはじめ、大きなストレスを抱えてしまった結果、精神疾患を患う状態にまで追い込まれてしまいました。
 私たち市職労に相談にきた段階は、「言葉を発することができない」「意味もなく泣いてしまう」「自分はダメな人間なんだ」と、明らかに身体に症状が出た状態でしたので、まずは心療内科や精神科への受診を勧めたところ、すぐに「休職」の診断書が提出されるケースばかりで、とても仕事ができる状態ではないこところまで追い詰められていたのです。

3. ハラスメントの認識の差

 私たちは、まず人事担当管理職に相談しましたが、ここでも「今の子は打たれ弱い」「公務員が楽だと思って就職している奴には務まらない」「俺たちの時代はもっと厳しかった」と、全く取り合ってもらえませんでした。
 組合からの申し入れであったことから、一応、当事者である管理職にもヒアリングをしていただいたのですが、大半は「教育指導の範囲内」との結論に至ってしまいます。ハラスメントであるという認識が全くなく、問題解決には全く繋がりません。
 このような状況に、まずは「ハラスメントの定義付け」から行わなければならず、「相手が委縮してしまう事実そのものがハラスメントである」、このことを人事当局、当事者の管理職に認識させることからスタートするしかありませんでした。

4. 市職労としての苦悩

 市職労として相談を受けたものの、私たち自身もハラスメントに対応した経験がないことから、どのようにすればいいのか全くわからず、手探り状態でした。
 メンタル面での疾患を抱えた場合、当事者には病院やこころの相談などを紹介することができますが、本当の解決を図るには職場環境を変えるしかありません。しかし、人事当局や管理職は「自分には非がない」という認識であることから、人事当局や管理職自らが環境を変えることはあり得ません。
 私たち労働組合は、組合員の意見を尊重して交渉していくしかないのですが、その交渉方法等がわからず、的確な対応とはどのようなものか? 対応を誤れば組合員の人生を左右しかねないことから、相談は受けたものの、対応には苦悩する日々が続いていました。
 では、労働組合として相談できるところがあるか探しましたが、こちらも皆無な状態であるのが実態です。思いつくところに手当たり次第相談にいきました。
 まず、労働組合出身の市議会議員の方に相談したところ、「民間では組合は介入するべきではない、人事当局の責任において対応するべきもの」との返事でした。
 民間企業ではすでに「教育プログラム」が完成しており、管理職を含めた全職員に対し、ハラスメントに対する研修が徹底されており、ハラスメントの認識がしっかりしていることから、組合が個人の内容に関与するのではなく、企業のプログラムとして企業側の責任で対応するのが当然との認識です。
 ここでも、公務員の職場は「民間で当たり前」の考えがない事実を思い知らされたのです。
 次に、ハラスメント研修をされている方に相談したところ、「問題解決は個々により事情が異なるので明確な答えはない」と、はっきり言われました。ただ、本当に困っている私たちを見かねて、一点だけアドバイスをいただきました。
 「中途半端に介入するのでは、人の人生を変えることになるかもしれない。もし解決できるとしたら、どんな結果になっても、とことん最後まで付き合うこと。その覚悟がないと介入してはいけない」とのことでした。
 私たちは、目の前に人生を左右されかねない組合員がいる以上、そのアドバイスを信じ、とことん付き合おうと決意したのです。

5. 私たちが取り組んだこと

 アドバイスを受け、まずは休職している組合員から定期的に話を伺い、「私たちはあなたの味方です」と伝え、信頼関係を築くことから始めました。
 その結果、一定の信頼関係を築くことは出来たのですが、信頼だけでは解決に繋がりません。
 メンタル面でコントロールできなくなっている組合員ですので、休職中も様々な面で不安になり、昼夜問わず電話が入ったり、メールやラインで苦しさを伝えたりしてきます。
 特に診断書の休職期間の満了が近づくにつれ、本人の不安は募ってきます。また話を聞くだけでは解決にはなりませんので、その都度、人事担当と折衝を行い、その結果を組合員に報告することを繰り返しました。
 特に医師の視点では、主治医である以上、患者を最優先に考えますので、診断書では「環境を変えること=現在の場所から異動させること」が記載されます。また、特に精神疾患の場合、3ケ月休職しても完治するものではなく、「もう大丈夫」と言えるまでには数年から10年かかるケースもあるとのことで、人事担当には受け入れられないような診断書が提出されてきます。
 まず、環境を変えるための人事異動ですが、当局は年度途中での異動は大抵認めません。人事異動である以上、異動対象となる他の職員も異動させなければならず、ギリギリの職員配置で運営している以上、当該職員の異動を行うことで、別の職員の異動を関係課で受け入れることは到底無理な話でもあります。また精神疾患を患った職員を受け入れることへの難色も当然あることから、「人事異動は避けたい」との考えは理解できるものです。
 また、1人の異動を認めてしまうと、他の職員にも波及し、同様の診断書が出された場合、同じ対応を行わなければならず、結果、収拾がつかなくなるというのが当局の説明でした。
 私たちも一定程度は理解するものの、「それは組織防衛の視点で、職員の視点に立っていない、採用した責任はないのか? 放置すると退職に追い込まれてしまうか、症状を悪化させるだけである。仮に本人が裁判などに訴えた場合、市の責任は免れない」と訴え続けました。
 しかし、すぐに答えが出るものではありませんでしたので、再度診断書による休職の延長を組合員に伝え、常に人事当局と組合員との間に立ったやり取りを続けました。
 休暇期間の延長を伝えるのは、私どもとしては非常に苦しい選択で、1週間休むだけでも本人にとれば辛く不安になるのに、さらに1ケ月、3ケ月の単位で「家に居なさい」というのは、組合員にとっても問題の先送りであり、ただ待つことで余計に状態を悪化させる危険もありました。
 時間だけは経過するものの、いずれ解決を図らなければならないことから、人事担当者を主治医に合わせることを試みました。当初、当局側は非常に難色を示しましたが、「診断書だけで、医師の考えや診断、治療方法や本人の状態や気持ちはわからないでしょう?」と説得し、ようやく同行に応じていただきました。
 このように連日、人事担当者と折衝した結果、ようやく現実に目を向けてもらえるようになり、1人は年度途中の異動を行うことで合意でき、職場復帰することができました。
 別の1例では、採用1年目の専門職で採用された職員でしたが、医師が職種変更の診断書を提出したことから、市役所内では大きな問題になり、「職種変更は絶対認めない。1年目であれば解雇も可能」との見解を打ち出しました。
 これは顧問弁護士にも相談した結果であり、仮に法廷闘争となった場合には受けて立つというものでした。
 しかしこの内容を本人には伝えることはできず、私どもで抱えるしかなかったのですが、そこでも時間だけが経過していきます。
 ここで助けていただいたのは、過去の私の上司でした。
 その方から、「職種変更で押し切ると解雇になる。職種は変えないが自らの部署で引き取るから本人を説得してくれないか?」と提案を受けたのです。
 私としても、「この提案以外に守る方法はない」として本人に説明したところ、「○○さんが言うのであれば信頼して受け入れます。医師は反対するでしょうが、私から説明します」との返事をもらい、なんとか解雇を避けることができました。

6. アドバイスから得たこと

 私たちは、「中途半端に介入するのでは人の人生を変えることになるかもしれない。もし解決できるとしたら、どんな結果になっても、とことん最後まで付き合うこと。その覚悟がないと介入してはいけない」というアドバイスを受け、実行してきましたが、「私の言うことであれば信頼して受け入れます」との言葉で、初めてアドバイスの意味が分かりました。
 決まった解決方法は本当にないのです。
 ここまで関わったことにより、組合員が完全に信頼してくれたこと。医師の指示があるにもかかわらず、本人の意思で受け入れたこと、これが唯一の解決方法だったのです。
 この件が解決した後に、受け入れてくださった上司に「なぜ助けてくださったのですか?」と伺ったところ、「お前が1人の組合員を守るために必死でやってきたのをずっと見てた。そんな奴みてほっとけないだろう。だから俺ができることをしただけ」と言っていただきました。その言葉を聞いて、ここでも「とことん付き合う」の意味がわかりました。つまり、私たちの働きが解決へと繋がったのだと実感したのです。

7. 市職労として取り組んだ結果

 他の事例も含めて10件、市職労として「とことん」取り組んだ結果、人事当局も動きを見せてくれました。
 まず「メンタルヘルス」に対する研修を定例化していただきました。まだまだ十分な対応ではありませんが、年に数回開催し、毎年実施が実現しました。
 また組合で要求し続けてきた「相談窓口」の設置についても、まだまだ課題はあるものの、委員会が立ち上がり、その中に組合側委員としての参加が当局から提案されました。
 市全体の意識改革の第一歩が踏み出せたとして、非常に大きな第一歩です。
 何より、私たちが関与した10人全員が、その後職場に復帰し、それぞれが活躍していることが最大の結果でした。

8. 今後の取り組みについて

 まず、私たちが関与した組合員に対し、私どもは共通して「あなたの復帰に対し多くの人の心があったことを忘れないで欲しい。新しい職場でもまた辛いこともあるでしょう。でも同じことを繰り返せば、次はあなたの信頼がなくなる、やっぱりあいつのワガママだったという認識になる。だから今まで以上に努力が必要になる。でも辛いことを乗り越えた、他の人が経験したことのないことを経験した。だから人の痛みも十分わかるでしょう。他に同じような人を見かけた場合、自信をもってフォローしてあげてください。自分で抱え込めなくなったらすぐ相談するようアドバイスしてあげてください。あなたが悩み苦しんだ結果、あなた自身が一番大きく成長したのですから」と伝えています。
 2018年度になって、相談は1件もありません。しかし毎年のように若い組合員が退職していることから、心の病は潜在化していると考えています。
 私たちが直接介入し、辛い状況になっていると思われることから、新たな取り組みとして、同期や仲のよい組合員が、「何か様子が違うな」と気がついたらまず話を聞いてあげてくださいと伝えています。
 「あなた1人じゃない、いつも仲間がいてるんだよ
 それが今の市職労からのメッセージです。
 将来的には、ハラスメントの対応に関わった執行委員や組合員を管理職として送りだす。そのことにより、人の痛みのわかる管理職を増やしていくことで、いずれハラスメントの根絶に繋がればとも考えており、これも組合活動の一環であると考えています。
 最後に、時代と意識は、時間の経過により常に変化しています。
 自分の経験がすべてではない、時代の変化に自らの考えを合わせていく柔軟性が必要です。
 間違っていることを正すのも上司や先輩の役目であり、正さなければならないことが山積であるとも思いますが、その時代にあった対応を身に着けることが求められています。
 その上で、部下や後輩を育てていく視点、さらに能力を高める視点を常に持つことが、最終的に住民サービスに繋がっていくと考えています。
 これからも時代はどんどん変化していきます。
 常に新しい傾向を見続けながら、ではどのようにしていくのか、常に勉強していくことが必要であると考えます。
 人材育成=それがいつの時代も大きなテーマであり、未来を創るものであると考えます。