群馬にリーディング企業は生まれるのか

群馬県本部/群馬県庁職員労働組合 後藤 克己 

 

1. 研究趣意

 私達の研究の目的は、郡馬県が安易な企業誘致に頼らない、内発的な発展の道を探ることにあります。
 なぜ内発的なのか。それは地域が自ら考え、行動することによって企業を発展させていくような人材を育てるためです。企業誘致にばかり頼っていると、フローの数値は上がっても、そのような人材はどんどん消えてしまいます。それではいけません。
 私達は改めて、「行政と企業の関係のあり方」を見直していきたいと思います。行政がビジョンを持たずして資金を融通し続け、地域中小企業の「甘えの姿勢」を作り出してきた歴史は、まさに企業を支える「人材創り」という視点を欠いていたことを如実に物語っています。群馬県内にも、現状に甘えず革新的な姿勢を持っている人材は必ず居るはずです。そういった人材がもっと活躍できる場を創出することこそ、「内発的」な発展を可能にする原動力となるはずですし、行政の使命でもあると思います。
 私達は、県内の優れた「人材」を一人でも多く訪ね、行政に対し何を求めているのか、生の声の中から学びたく思います。また、「人材」がどんどん育ち、活躍している先進地域を訪ね、群馬県に足りない部分は何か学びたく思います。
 そしていつか、この群馬県から日本いや世界をリードしていく企業が生み、育てていけるような「人材創り」のプランを県に対し提言していきたく思います。

2. 「人材」から学ぶ ~創造法認定企業を訪ねて~

 「創造法」とは正しくは「中小企業創造活動促進法」という名称です。平成7年4月に施行され、認定を受けた中小企業の研究開発、事業化を制度的に支援するのが目的です。
 創造法認定企業にスポットを当てたのは、将来の群馬県もしくは日本経済をリードする可能性を秘めた「伸びる芽」だからです。偉い学者の言葉よりも、現実の中で着実に結果を出している人間の言葉は重いものでした。まして、この厳しいと言われる景気の中でもさらに前進を考えているのです。話せば話すほどに、彼らの前向きなスピリッツ、勇気に敬服するばかりでした。まさに、このような「人材」こそ群馬県にとって「金の卵」であることを確信します。
 インタビューの全てを紹介したかったのですが、本レポートではその中でも特に多くの示唆に富んでいた3社を紹介します。

(1) 今なお生き続ける職人魂
   (株)山和エンジニアリング  代表取締役 山中 則彦氏
  昭和48年会社設立。以来、工作機械の設計から製作、販売に至るまでの一切の業務を一貫して行う方針を売りに、成長を続けてきた。その蓄積した技術を基に近年、旋回高速機流方式による微粉化装置を開発し、平成10年8月に創意法認定企業となる(特許も本年度中に取得予定)。市場の成熟により新たな事業展開を迫られる時代環境の中、見事その要請に応えている。
 ◇成功を続けている要因は?
  山中:私達は、開業当時からこの仕事が好きで、楽しみとしてやってきた。今の役員クラスは皆、設計から組立まで一人でこなすことができる。それは単なる下請けとしてではなく、自分達で全て企画立案し、顧客に売り込んできたからだ。
 ◇微粉化装置の開発を成功させたのも、当然の帰結というわけですね。
  山中:かなり以前から片手間の趣味程度に暖めていたのだが、あるきっかけで製品化できるのではと思い、本腰を入れ始めた。今の若い技術者に技術感を覚えるのは、こういう遊び感覚がなくなっていることだ。
 ◇行政に対し求めることは?
  山中:創造法に関してだが、まず手続きが煩雑すぎる。また私の場合、たまたま属している高崎異業種交流研究会のコーディネーターの仲介で申請するに至ったが、そうでなければ創造法など全く遠い存在であった。つまり、せっかく良いものを作っても、それが企業にとって関わりにくいものであっては意味がないと言うことだ。もっと行政の側からのアプローチが欲しい。あとは企業私密の保持など、後のケアをしっかりやってくれるのか不安を感じている。
     支援自体のあり方で言えば、行政だからこそ出来ることをもっとやって欲しい。
     例えば仮にアクセスしたいと思っている企業があったとする。しかし、名も売れていない一企業ではなかなか難しい。そんなときこそ行政の出番だと思う。
 ◇群馬県について思うことは?
  山中:外注を行うとき、相手は県外企業が多い。中には新潟県や山梨県の企業もあるが、輸送の費用を考えても近所の企業より安くあがる。それだけ県内の企業は恵まれた市場環境に浸かっていたということだ。しかし、今後はそうは行かないであろう。
     将来的には立地の良さを生かし、研究・情報機能を集約させた企業を核として、もっと高い付加価値を生める産業に移行していく素質を群馬県は持っていると思う。期待している。

(2) 逆境とたたかう
   (株)丸福製作所  代表取締役 荻本 勝男氏
  昭和50年創業。家電メーカーの下請けとして金属の加工、溶接を手がける。近年、「共晶重ね接合法」という低コスト・高性能を実現する溶接技術を開発し特許を取得。平成9年7月に創造法認定企業となる。規模は小さいが、学者等を技術顧問に迎えるなど、前向きな経営指針が非常に印象的である。
 ◇新技術開発成功の秘訣は?
  荻本:技術の青写真くらいなら誰でも持っている。それを実際形にしていくのが一番大変なのだ。私達は幸いにして優秀な技術顧問に恵まれており、特許、創造法認定の申請からメーカーへの営業活動に至るまで多大な協力を頂いた。普通の零細企業の社長さんがいくら頑張っても能力には限界がある。
 ◇創造法の認定を受け、環境の変化は?
  荻本:現在の時点ではマイナスの変化の方が大きい。創造法の文面の唱うとおりに銀行が融資をしてくれず苦労したし、新聞等で大きく取り上げられたことによって、近所の取引先の嫉妬を買い、取引を停止されたりもした。肝心の新技術製品も大手メーカーを回って売り込んでいるのだが、不況が祟って予想以上に及び腰だ。ここ1年は支払い-辺倒で非常に苦しい状況だ。
 ◇行政との関わりを通じて感じたことは?
  荻本:一般的な感覚では、創造法の認定を受ければもう前途洋々と思えるかもしれないが、実態は違う。融資は受けても当然返すわけだし、実際の開発にはまた別に多額の資金を借りる必要がある。しかし私達は当然後戻りなどできず、この技術に賭けていくしかない。もっとそんな中小企業の悲痛さを理解して欲しい。どんなに優れた技術でも、それが市場の中で認められるには時間がかかる。認定をするだけして、後は頑張ってくれと言うのでは、伸びる芽をむしろ摘み取ってしまうことになりかねない。
     そもそも創造法の基本理念とするところは、伸びる芽を伸ばすことにあるはずだ。しかし、その伸び方には様々なプロセスがある。認定後もどれだけの成績を上げているかという結果だけを気にするのではなく、成長のプロセスの中で私達の抱える様々な問題に対するケアもして頂きたい。

(3) 新たなトレンドにいち早く対応
   (株)リーダー  事業部長 今泉 俊一氏
  塩化ビニール、アクリル等の加工を本業とする会社だが、近年の環境問題への関心の高まりに対応するため、下水の通っていないところで利用できる循環式トイレの製造という新規事業に乗り出した。近年叫ばれている「環境への配慮」や「災害への備え」といった行政課題に、画期的な効果をもたらすと期待されている。技術的な完成度はとても高く、近県を中心に公園等に設置する自治体など顧客も増えてきており、その評価は着実に高まっている。
 ◇事業の伸展具合は?
  今泉:思ったより上々だ。事業に参入してみて分かったことだが、成長期においては陰の部分だった分野のせいなのか、既存企業の技術レベルは低い。ただ、技術的に完成度の高い製品は作れるのだが、どうしてもそれ以上にコストがかかってしまうというジレンマに悩んでいる。
 ◇しかし、こういった分野では、「安さ」よりも製品の持つ「魅力」の方が重要なのでは?
  今泉:確かにその通りだ。やはり当社の製品を高く評価してくれるのは、環境への配慮等に関心の高い自治体などだ。しかし、一企業がどれだけがんばっても、その魅力を伝えるのには限界がある。
 ◇行政は何か手を貸せないか?
  今泉:近年どの県も「環境への配慮」「災害への備え」といった事項を政策の重要課題として掲げている。ならば当社のような会社が群馬県にあることをアピールして欲しい。
     まだこの分野で本格的に取り組んでいる企業は日本に2社しかないので、環境ビジネスの先進県となるきっかけとなるかもしれないし、群馬県のカラーにもなると思う。そういった政策と企業のマッチングが図れるとおもしろいと思う。

3. 先進地に学ぶ

 日本には、中小企業が集積することの強みを効果的に活かしている先進地があります。我が県にも多数の中小企業が集積している地域がありますが、そのような先進地とはどこが違うのかを知る必要があります。本研究では近県の有名な地域を訪ねてみましたが、その中でも参考となるところの多い2地域を紹介したく思います。

(1) 常に先手を打ち続ける坂城町
   長野県坂城町
    坂城町商工課長             竹内源一郎氏
    (財)坂城テクノセンター事務局長   塚田 好一氏
    (財)信州大学名誉教授・工学博士 高木 春郎氏
  「世界の坂城」と呼ばれ、全国屈指の技術先進地として君臨してきた長野県坂城町。決して有利とは言えない地理的条件に関わらず、優秀な中小企業群を集積させてきたこの町には、「坂城詣で」と呼ばれるほど全国からの見学者が絶えない。
  そんな坂城町も近年、長引く不況と他地域の追い上げにより、その地位が脅かされつつある。しかし、平成5年に技術研修・交流のための第三セクターとして(財)坂城テクノセンターを設立するなど、常に前向きな精神は死んでいないようである。
 ◇「世界の坂城」その秘密は?
  竹内:古くから独立心が強く、逞しい地域性はあったが、やはり先人達の成功の体験が蓄積されていることが大きい。戦後の創業者達の成功のストーリーを聞いて育った人間が、「ならば俺も」と次々と続いていった。隣近所は皆ライバルであり、切磋琢磨の中で自然と人材が育っていった。そんな自生的なプロセスの中で発展してきたところに、坂城の強さの秘密があるのだと思う。特定の企業へ依存する企業が少ないのも、そんな甘えの許されない環境のせいだろう。
 ◇坂城テクノセンターについて教えてください。
  塚田:基本的には技術開発、修得の支援といった、他地域の施設と同様なことを行っている。しかし、坂城独自な点は官の施設でなく、財団であることの強みを活かしているところにある。
     例を挙げれば、ここはとても立ち寄りやすく、人が頻繁に行き来するので、地域の生の情報が集まる。その情報を利用して、地域同士の企業のコンタクトを取り、取引や技術協力等の仲介をすることが可能になる。企業が集積していても意外と隣近所が何をしているのか知らないものだ。今後は地域同士の横の連携の強化が重要となっていくだけに、非常に有効だ。
  高木:付け加えるなら、ここは役所ではないので、年間計画を作っても企業の要望があればどんどん計画変更するなどして柔軟な運営が出来る。また私たち専門の技術屋の目で考えるから、ピント外れなことは絶対にしない。感じるのは基本的には参加型の運営なので、来る人間はとても意欲的だということだ。
  竹内:地元企業といっても個々が抱える問題は多種多様であり、とても行政という組織で対応しきれる問題ではない。坂城テクノセンターはまさにそのすき間を埋めてくれる存在だ。
 ◇次代を担う若い人間の動きはどうか。
  高木:坂城テクノセンターを利用して「Made in 坂城」を産み出そうという動きや、若手や二代目経営者が集まり、共同受注を目指す研究グループを組織する動きなどとても活発で楽しみである。私も体の許す限りこのような火を絶やさぬよう尽力していく所存だ。

(2) 理想的な企業協力の形「ラッシュすみだ」
   すみだ中小企業センター  佐久間季道氏
  日本でも有数の中小企業集積地である墨田区。そこに若手経営者が中心の共同受注グループ「ラッシュすみだ」がある。10年ほど前に18社からスタートし、現在は48社に至っている。設計から組立に至るまで一貫した受注姿勢で、精力的に市場を開拓し続けている。
  最大の特徴は、発足から現在に至るまで津幡英夫会長を中心に自主運営の姿勢を貫き、行政機関からはあくまで側面的な支援しか受けていないところにある。まさに企業協力の理想型と言える。
 ◇行政の力はほとんど借りていないというが…
  佐久間:墨田区はあくまで場所の提供など、側面的な支援しかしていない。それでも成功している理由は、津幡会長の力強いリーダーシップと目先の利益よりもグループ全体の成功を優先させる会員企業の高い意識にある。そもそも行政に頼ろうという甘い考えなど持たない企業の集まりだから活動はとても活発的だ。
 ◇バラバラな企業が集まることによる問題はどのように克服しているのか
  佐久間:グループに加入するのに、企業規模は問わない。しかし、受けた仕事をグループで分担するわけだから、当然会員間の技術レベルは同等にならねばならない。そのときはお互いに教え合い、カバーし合う。会員は皆、グループの発展を第一に考えているから、そのような一見損に思えることも進んでやる。
     多くの企業交流は利害の不一致、衝突によって失敗するようだ。「ラッシュすみだ」においても発足当初は同じような危機はあったと思う。しかし、強いチームワークが実際にグループ全体の成功という結果に結びついており、またそのことを会員がよく熟知している。そこが他の企業交流との違いだと思う。
     群馬県でもし同じ試みをするなら、目先の「うまみ」を求めて集まるのではないということをしっかりと確認し、強い信頼関係を持てる企業のみで始めることだ。「ラッシュすみだ」だって設立当初からすぐに結果が出ていたわけではない。重要なのは、すぐ結果を出すことよりも、長く深く付き合える仲間を作ることだ。そうすればグループ全体の成功を第一に考えるという意識も生まれてくるはずだ。

4. 政 策

(1) 創造法は「人材」の力を伸ばせるのか
  本研究を通じて、「人材」達の率直な願いは、頑張りに対して応分の評価をしてほしいということだと強く感じました。また、創造法の認定を受けると一口に言っても、一企業にとってその道のりは極めて険しく、負担のかかるものであることも話を伺って初めて知りました。
  創造法の理念は素晴らしいと思いますが、それが実際に結果を出せるかどうかはまた別の話です。その支援のあり方が中途半端なものであれば、いたずらに企業に負担のみをかけ、せっかく伸びる「人材」の芽を、むしろ摘むことにもなりかねません。
  ある企業では返済の猶予が半年というのは短すぎると指摘していました。確かにいくら革新的な技術があったとしても、この不況下では飛びついてくる顧客も少ないでしょう。常識的に考えても、何もないところから半年で結果を出せというのは酷な気がします。
  またある企業は、認定後は結果を出しているかどうかには細かい関心を持つが、こちらの抱える様々な悩みには関心を示さない。そんな行政の姿勢に不満を持っていました。「認定はした。後は頑張って下さい。」というのはいかにも役所が犯す失敗です。このような姿勢は感謝されるどころか逆に強い不信感を持たせることになります。
  以上の調査結果から、創造法を真に「人材」を育てる制度とするための重要なポイントは2点考えられます。
 ① 認定企業との密接な関係
   経済は生き物であり、企業もまた生き物です。企業が事業のスタートから成功に至るまでのプロセスは各社各様であり、一つの制度の枠に当てはめられる類のものではありません。支援措置の中心は、償還期間の延長や債務保証など、初期投資の負担を軽減させるものです。しかし、本気で企業(を支える「人材」)を育てたいと思うのなら、事業が動き出した後こそが重要です。認定企業が事業開始後に抱える主な悩みは、以下のようなものでした。
   ● 融資先とのトラブル
     中には規定通りに銀行が融資してくれなかったケースもある。
   ● 顧客の開拓における困難
     技術顧問等のいない会社では、新技術の魅力を顧客にうまく伝えられない。また一企業では情報の入手や行動範囲にも限界がある。
   どちらも、一企業で解決するには難しい問題です。前者においては、貸し渋りが続く現在においては十分可能性のあることです。このようなことが多発しては行政は間違いなく信頼を失います。重要なのは後者です。「支援の範囲外だ」と言い切るのは簡単です。しかし、事業の成功失敗を分けるのは、初期において、いかにこのような問題をクリアできるかにかかっている。と、ほとんどの企業は主張していました。行政がこのような範囲にまで支援できるようなら申し分ありません。
   結論としては、個々の企業に対し柔軟な対応のできるような体制が整えばよいのですが、その内容については2節で詳述したく思います。
 ② 制度としての思い切りの良さ
   融資制度は思い切って厚遇なものにすべきであるというのが率直な実感でした。企業サイドに立っているからそう感じたのかもしれませんが、やはり冒頭の声でも挙げたように、中途半端な支援は後の企業負担を増やすだけで、返ってマイナスの効果を呼びかねないという心配があります。
   確かに、余りに厚遇な支援は企業に甘えの意識を生むという考えが一方ではあるのかもしれません。しかし、認定企業の「人材」達は厳しい審査を通過してきた選ばれし「人材」なわけです。その努力と能力をもっと高く評価すべきだと考えます。全国的な支援の水準は調査不足でわかりませんが、少なくとも国が行っている同様な制度の水準を上回る位の思い切りがあって欲しいものです。

(2) 行政は「人材」にとって身近な存在になれないのか
  ~双方向性組織の可能性~
  研究の中で驚いたのは、認定企業のほとんどは、申請のきっかけが著名な学者や地域の有力者が知り合いだったからなどといった、特殊な理由によるものだったということです。これを裏返せば、普通の企業にとっては創造法など雲の上の存在であるということです。また認定獲得までの手続きも役所に特有の煩雑なものであるらしく、これもまた創造法を遠い存在にしている原因であるという指摘もありました。
  「行政はサービス業である」と新採研修で何度も教えられましたが、もしそうであるのならこれほど殿様商売な業種はないでしょう。「いいものを作ったから、みんな買いにおいで」が許されるのですから。このようにのんきな商売をしているうちに、貴重な「人材」をどんどん見落とし続けているのですから、もったいないことです。
  また一方で、坂城町や墨田区といった先進地では、行政ができることの限界を、企業もしくは行政機関自身がいち早く認識しています。そして、第三セクターや共同受注グループを設立し、自分たちの抱える身近な課題に対し「協力」して取り組むという動きが見られます。見逃せないのは、このような動きが結果として行政では手の届かない部分を補う形で機能しているということです。
  以上の調査結果から言えることは、行政に柔軟性・機動性を求めるべきか、そのような組織を別に創ってしまうべきか、どちらかを考える選択の時期に我が県はあるということです。
  私の考えは後者です。なぜなら、我が国は戦後の発展の過程の中で、行政と住民との距離が極めて遠くなってしまったという特徴を持っています。その関係を図にするならば、住民から行政へ向かってのベクトルが無いに等しいと言えます。「住民参加による自治」という言葉が今一つピンと来ないのもそのためです。
  行政側がいくら良いサービスを提供しようとしても、それを有効に機能させるためには受け取る住民側の理解、提案、参加が不可欠です。また同時に行政側も、そのような住民からのアプローチに的確に対応できるような組織でなくてはなりません。私は、両者がこのような理想の関係へと成熟するのを待っている余裕など無いと考えます。しかし、両者の間に中間的な性質を持った双方向的な組織を挟むことによってそれは可能となるのではないかという結論に至りました。
  坂城テクノセンターは、まさにその「双方向性」に目を付けた試みと考えます。紹介したとおり、企業にとっては駆け込み寺のような存在になっているし、またそれに耐え得る専門スタッフも充実している。もし県にこのような組織があれば、創造法認定企業の悩みにも対応できるでしょう。また、「人材」どうしがふれあう中で、「ラッシュすみだ」のような動きを生む土壌作りにもなるはずです。
  では、具体的には全くの新組織を創るのか、既存の組織を利用するのかという問題が浮かびますが、いずれにしても危惧せねばならないことは、単にハコモノを作るなり、組織を少し変えるなり程度の矮小化した話で済まされることです。制度云々を論じるとき、忘れてはいけないのは主役は地域の企業だということです。どのような制度やハコモノを作るかということはあくまで手段であり、地域企業をいかなる形で発展させていくかということが目的だということを忘れてはいけないと思います。
  私の考える理想の形は「ラッシュ群馬」が生まれることです。その第一段階として、中小企業によるNPO法人を認証法人にまで育てる等の方法が考えられます。例えば、地域のごみ資源のリサイクル製品を共同開発・共同受注するNPO法人等といったイメージです。行政はその仕掛人となるのです。県庁のNPO連絡会義等で、ぜひとも検討していただきたいです。

(3) 政策課題とのマッチング
  創造法で認定された企業の中には、環境保全や災害対策など行政の重要課題とされるような問題に、先進的に取り組んでいるものが多く見られます。行政として、このような企業が群馬県にあることをアピールし、育てていく方法はないのでしょうか。
  「産業育成」と一口に言っても、その意味合いは大きく変わってきていると思います。かつてのように、雇用政策や県内総生産を高めるという目的も依然あると思います。しかし、今後重要となってくるのは行政課題の解決に、いかにして民間の力を活かしていくかという問題です。
  先に挙げた環境保全という行政課題を例に挙げるならば、公的セクターは主に法・規制の整備・強化という役割を負い、民間セクターは主に新技術の開発・普及という役割を負います。前者は人間の行動に制限を加えるものですが、逆に後者は人間の行動可能性を広げるものです。今後は前者同様、後者の役割はとても重要になってくると思います。なぜなら、人々の多くは環境問題に対しては強い問題意織を持っていても、その意識を行動につなげる方法が分からず、結果として行動を起こせないでいるのではないかと思うからです。そこに、例えば環境エンジンを搭載した自動車や、生ごみ処理機といった商品を提供する企業が出てくれば、人々はボランティアなどに参加できなくても、「購買」という手段で環境問題に対し行動することを可能にします。
  このように人間の行動を権力により規制するのではなく、人間の積極的な行動を促していくという、北風と太陽でいうならば太陽的な方法による解決が、公的・民間双方のセクターの協調によって可能になります。
  話がいささか抽象的になってしまいましたが、要するに例えば環境産業を育てることは、商工政策だけでなく環境政策にも係わってくるという発想を行政が持つことはできないかということです。問題は特定の営利企業に行政がテコ入れするのはどうかというところなのでしょうが、思い切ってすべきであると考えます。
  先に紹介した「(株)リーダー」のように、企業の中でも、その生み出す製品・サービスが公共的な性質を持つものであれば、企業の成長は公共的な意味においても有益となります。行政が製品のPR、販路開拓の支援をしたとしても、それは「テコ入れ」とは意味の違うものと言えます。なぜなら、その効果は単に一企業が育つということにとどまらず、公共的な課題に対しても有効だからです。例えば(株)リーダーの製品が群馬県の製品として群馬だけでなく日本中に普及すれば、従来以上に環境に付加を与えない技術が日本中に普及されます。またその技術を応用させてさらに有用な技術が生まれるかもしれません。また、県としても環境先進県として強く内外にアピールすることもできます。まさに、商工政策と環境政策の見事なマッチングが実現します。
  ぜひとも商工担当部局と環境担当部局の縦割りを超えた協力体制を作り、このような政策を推進されることを期待します。