「共謀罪」より「刑法改正」でしょ。

異例の法案後回し
テロ対策などを名目に、犯罪の計画、準備行為も処罰する組織的犯罪処罰法改正案(「共謀罪」法案)が5月19日、衆院法務委員会で強行採決、可決された。
野党や研究者らの強硬な反対にもかかわらず、政府与党は今国会で成立させる構えだ。
この法案の審議のために後回しにされたのが、性犯罪規定を見直す刑法改正案である。
刑法改正案の方が先に国会に提出されたのに、与党は「共謀罪」法案をまず審議すると異例の決定をした。
このままでは6月18日の会期末までに刑法改正案の審議が終わらず、廃案になりかねない。
刑法改正案は、強姦など性犯罪の被害者らが強く求めてきたものだ。
法相の諮問機関、法制審議会が当事者からヒアリングをするなど議論を重ね、昨年9月に答申し、今年3月に閣議決定した。
http://www.moj.go.jp/keiji1/keiji12_00140.html
改正案の主な内容は、次の通り。
①強姦罪や強制わいせつ罪は、被害者の告訴がなくても罪に問える(非親告罪化)
② 強姦罪を「強制性交等罪」に改め、男女とも加害者、被害者になる。これまでは「姦淫=男性器の女性器への挿入」に限定されていたが、肛門性交や口腔性交も含める。
③法定刑を懲役3年以上から懲役5年以上にするなど厳罰化
④「監護者わいせつ罪」と「監護者性交等罪」を新設し、親などから18歳未満の人への行為を処罰する。
この場合、加害者による「暴行・脅迫」は要件とならない
刑法は1908年の施行で、性犯罪に関する規定は109年の間、抜本的な改正がなかった。
時代に全く合わなくなった法律が、いまも温存されているのだ。
被害の申告が非常に少ない性犯罪
たとえば①の非親告罪化について考えてみよう。
「平成24年版 警察白書」によると、性犯罪の被害申告率は18.5%で、被害にあっても6人に1人しか警察に届けていない。
つまり、統計に出てこない水面下の犯罪が非常に多いのである。
性犯罪が被害者に負わせる深い傷を考えると、警察に自ら通報するのはハードルが高い。
非親告罪化することで、被害者の申告がなくても、犯罪を犯罪として処罰できるようになることが期待できる。
もちろん、被害者のプライバシーや心理状態に十分な配慮をすることが前提である。
刑法改正を求める人たちは、2016年10月、「刑法性犯罪を変えよう!プロジェクト」を結成し、キャンペーンを立ち上げた。
参加するのは「明日少女隊」「しあわせなみだ」「性暴力と刑法を考える当事者の会」「ちゃぶ台返し女子アクション」の4グループである。
合同で、「ビリーブ~わたしは知っている」というウェブサイトを運営している。
https://www.believe-watashi.com/
改正めざしキャンペーン
キャンペーンは、④の場合を除き「暴行・脅迫」要件が残っていることに異議を唱え、改正案の修正を求めている。
「暴行・脅迫」は「相手の反抗をいちじるしく困難にする程度の不法な有形力の行使」とされている。
つまり、被害者が必死に抵抗しないと、「暴行・脅迫」があった認められないのだ。
だが、襲われた被害者が「逆らったら何をされるかわからない」と感じたり、恐怖で体が固まったりして、十分な抵抗を示さないことは少なくない。
この問題は改正案でも残ったままである。
だが、全体としては評価できる改正内容だとして、早期の法案成立を求め、国会議員にロビイングしたり、関連のワークショップを開いたりと、精力的な活動を繰り広げている。
5月28日には、東京・本郷の東京大学キャンパスで、刑法改正を求めるイベント「性と法(SEX&LAW)~刑法性犯罪を変えよう!」が開かれ、土屋アンナさんらが参加する。
https://www.believe-watashi.com/single-post/05-28-sex-and-law
日本の治安が心配だというなら、人権侵害につながりかねない「共謀罪」法案成立にやっきになるのではなく、刑法を一刻も早く改正し、性犯罪がほとんど野放しな状態の改善こそめざすべきではないか。
それこそがまさに、日本で暮らす私たち一人ひとりを守ることに直接つながっているのだから。
刑法改正ではなく「共謀罪」に突き進む姿勢に、表向きの説明の言葉とは裏腹な今の政権の本質がはっきりと見える。
ジャーナリスト 林 美子(はやし よしこ)
2016年まで朝日新聞記者。労働やジェンダーの分野を中心に取材、執筆活動を続ける。早稲田大学ジャーナリズム研究所招聘研究員。
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