【要請レポート】

第33回愛知自治研集会
第1分科会 自治体の「かたち」を変える

 地方分権改革により自治体の権限は拡大され、議会の役割も大きくなり、議会改革を積極的に進めなければならない状況に何処の自治体も置かれております。「議会と住民」「議会と執行部」さまざまな点で、議会の基本理念、議会の役割、議員の責務など明確にすることが求められています。住民の代表者である議会が、住民の信託に応え信頼される議会を目指し、議会基本条例の制定や議会改革を行うことが必要です。



多治見市議会基本条例について


岐阜県本部/多治見市職員労働組合連合会 石田 浩司

1. はじめに

 多治見市では、2007年統一自治体選挙により、新しい風が吹き、議員24人のうちの新人議員が9人となり、議会改革の必要を意識する議員構成になりました。また、2007年に制定した多治見市市政基本条例の制定をめぐって議会と執行部でかなりの議論がなされ、その中から議会のあり方を見直すべきとの考えに至りました。このことは、地方分権改革によって自治体の権限が拡大し、議会の役割が重要視されるようになり、これに対応して議会改革を積極的に進めることが求められ、議会の基本理念、議員の責務・活動原則など、議会に関する基本的な事項を定める「議会基本条例」の制定の必要性についても議員の間から声が聞かれるようになりました。
 このような背景から、議員の任意の勉強会である「政策研究会」が自発的に組織されました。この会は、21人の議員の参加により2007年7月から定期的に開催され、2008年10月まで、先進自治体の議会基本条例の視察を基に多治見市議会基本条例の原案を作成しています。
 多治見市議会は、2009年3月定例会において、8人の委員からなる議会基本条例策定特別委員会を設置し、政策研究会が作成した原案をもとに、2010年3月までに計25回の審査を重ねてきました。委員会では、「全員一致」を原則に進め、会派と議員の意見を最大限に取り入れていくことが大きな作業になりました。また、議員で作り上げた素案に市民からの意見を頂くため、2009年11月16日から12月25日までの40日間、この条例案に係るパブリック・コメントを実施し、これに併行して、この条例案の「市民説明会」を開催し、多くの市民の方々にご参加をいただき、貴重なご意見を頂戴いたしました。
 こうした特別委員会審査、パブリック・コメント手続、市民説明会などを経て、2010年第1回多治見市議会定例会において、特別委員会提案として多治見市議会基本条例が制定されました。

議会基本条例 市民説明会 風景

2. 多治見市市政基本条例との関係

 はじめにも書いたように、2007年に多治見市市政基本条例を制定しています。この条例では、市の憲法ともいうべき条例で、市民自治の確立とそれに伴い必要となる自治体の基本的なルールなどについて定めています。地方分権一括法の改正により自治体が地方政府として位置づけされることにより、多治見市市政基本条例は「町の憲法」としての位置づけがされています。この条例の第9条に「議会の役割と責務」があり、この条文を基本として議会基本条例が制定をされています。

3. 多治見市議会基本条例の内容

 条例は、「市民の信託に全力で応えていくことを決意し」、「市民の福祉の向上や市勢の伸展に寄与し、豊かなまちづくりを実現する」ことを目的に、議会と議員の活動の原則を定め、この原則に基づく取り組みとして、市民と議会との関係、議会と行政との関係などを明らかにしているものです。また、議会の機能強化、議員の政治倫理、議員定数と議員報酬に関する事項も総合的・体系的に定めており、議会にとって最も基本となる条例です。

(1) 議員間での自由な討議を明記(第4条・第6条)
 議会は、言論の府であり、合議制の機関ですが、現在の議会は、議案について質疑を中心とした審議を行っており、議案の大半を占める行政提案の議案について、行政職員に対して質問をすることが中心になっています。これは賛否の意見の表明ではなく、内容についての疑問を質すことが趣旨であり、議員間のやりとりではありません。
 また、採決の前に行われる「討論」は、賛成か反対かのどちらかの立場に立っての発言であり、議員相互の討議という形にはなっていません。
 市民の信託に基づく代表機関としての役割を考えたとき、多様な意見の代表者である議員が、相互に自由な立場で討議することによって争点を明らかにし、意見の相違や共通点を確認し、よりよい結論に至る過程を公開された場で行うことはとても重要なことです。そのためには、議会は、議員間での自由な討議を行う場を設けました。

(2) 市民と議会との対話集会を開催(第11条)
  本条に規定する市民との対話集会は、第9条に規定する市民に説明責任を果たす場として、そして、第10条に規定する市民の意見を聴く場として、議会という代表機関全体の立場で開催するものです。
 議会の審議・審査に関する報告、議会活動の報告や市政に関する報告を行うばかりではなく、市民と議員とが自由に意見交換ができる場を設けて、よりよいまちづくりに貢献していきます。

(3) 政策形成過程の説明書の要求(第13条)
  議会は、市長から提案される政策について、おもに市長などへの「議案質疑」を中心として審議をします。こうした政策について、政策の公正性と透明性の確保、議会審議での論点の明確化を図ることによって、審議する内容を市民にわかりやすく説明するために、市長に対して、6項目の資料の提出を求めることを定めました。
 なお、議員が政策を提案する場合については、議員はそのために資料を整えますが、市長などと同じ程度の情報量を得ることは現実的には困難です。また、議員は市長とは異なり、政策の執行権がないことや、議員提案を行いにくくするべきではないという考え方から、議会基本条例第13条の適用は、市長からの提案のみを対象にしています。

(4) 市長の反問権の明記(第15条)
  議場での一般質問は、これまで議員が質問し、市長や出席説明者が答弁していますが、この条例は、市長に限って、質問に対して問い返すことができるようになっています。議員は、問い返された場合、自分が政策を提案するうえで調べた資料をもとに、市長の質問に答えなければなりません。これによって、論点と争点がより明らかになり、議論の活性化につながり、さらには、議員に緊張感が増し、より高い水準の政策を提案するようになると考えました。
 条例案作成の過程では「市長だけではなく、出席説明者にも反問する機会を与えては」とする議論もありましたが、結局、反問することができる対象を「市長のみ」としました。これは、二元代表制の観点から共に直接、選挙で選ばれた者が有するにふさわしいとする考え方からこのようにしたものです。
 また、反問する場合には議長の許可を必要としています。議長が許可をした場合でも、市長の反問の内容が適切でない場合には、議長はその発言を制止する権限があります。
 なお、議員は、質疑において要望を述べることがありますが、あくまでも要望であり本来の政策提案ではありません。議員の政策提案は、主に一般質問で行われることから、市長が反問することができる対象を一般質問に限定しました。 (多治見市議会基本条例解説参考)

4. おわりに

  2010年3月議会において、議会基本条例策定特別委員会発議により多治見市議会議基本条例が制定をされました。同時に議会活性化特別委員会を設置し、条例中にある市民対話集会開催内容と議員倫理条例の制定など議論しております。議会基本条例を制定する事が目的ではなく、この条例の諸制度を確実に実行しながら市民の信託にいかに応えていくかが重要であると考えます。