【自主レポート】

第33回愛知自治研集会
第1分科会 自治体の「かたち」を変える

 ポンプ施設管理事務所オペレーターの技術の継承問題や、設備ごとに構造や操作方法が異なっていることへの対応のため、操作マニュアルを作成した。マニュアルは、分かりやすさ、更新しやすさ、確認しやすさ、故障復帰の迅速性などに配慮した。市民PRも積極的に行い、業務への市民の認識を高めてもらうとともに、オペレーターの業務への責任感を高めることにつながることを期待している。



ポンプ施設管理事務所オペレーターの業務改善について


愛知県本部/自治労名古屋市連合労働組合・土木支部 三ツ井健治ほか

1. はじめに

 緑政土木局河川部ポンプ施設管理事務所では、
・公共下水道整備に先だって整備した地域の排水
・戸田川や荒子川のように低地河川の排水
・アンダーパス等の局地的な排水
 上記の目的のため、48箇所(133台)のポンプ所を所管し、維持管理を行っています。
 市内に散在するこれらの施設を効率的に管理するために、港・緑・西・及び戸田川排水機場の4地区に分割されています。各地区にはそれぞれポンプオペレーター(ポンプ操作員)が常駐する親ポンプ所があり、そこから遠方監視制御装置を利用し、地区内の子ポンプ所を24時間監視するとともに、子ポンプ所を巡回して点検・整備することによりポンプの維持・管理を行っています。
 近年、都市型集中豪雨が頻繁に発生するようになり、ポンプ施設管理事務所としましても、オペレーターの的確かつ迅速な対応が今まで以上に求められていると考えています。しかし、当事務所のオペレーターも54人中半数以上が50歳代と、高齢化が進んでおり、ベテランオペレーターから若手オペレーターへの緊急時の排水技術・故障対応などの技術の継承が問題となっています。
 また、オペレーターの年齢による技術格差もあり、技術の向上も課題のひとつになっています。そこで、ポンプ施設管理事務所を市民の方々に広く知っていただき、安心して生活を送ってもらえるよう「業務改善検討会」を発足し、技術の継承・向上問題や市民へのPR不足の改善に取り組んできました。
 以下にその内容を報告します。

2. 技術の継承・向上について

(1) 作業マニュアルの作成
 ポンプは設置年度、目的、規模により、さまざまな設備があり、それぞれに構造や操作方法が異なります。今までそのような特色を伝える方法がありませんでした。
 そこで操作マニュアルを作成することによって、技術の継承をはかり、また作成したマニュアルを、オペレーター全員に周知することによって、技術力の向上がはかれると考えました。

(2) 作成内容
① 電動ポンプ・エンジンポンプの操作手順マニュアル
② エンジンポンプ運転フローチャート
③ 直営作業マニュアル
④ 自家発電機操作及び受発切替手順マニュアル
 上記4項目を作成しました。

(3) マニュアル作成例
① ポンプの操作手順マニュアルと設置例
  ポンプ運転操作マニュアルを作成するにあたって注意した点は、わかりやすく、更新しやすいものにすることです。
  わかりやすくする為、作業項目毎に写真を入れることにより、どの様に操作すれば良いかが一目でわかる様にしました。さらに複数頁にならないよう、1枚にまとめました。また、マニュアルは常に使用し、より良いものにしていきたいと考え、誰でも容易に書き換え・更新がしやすい様、追加項目が生じた際、写真と作業内容を追記・挿入しやすいフォーマットにしました。
  実際に作成した例です。


作業手順書例

  この操作マニュアルは、新規採用者への技術指導時の手段として使用することができます。また、地区異動に伴い、はじめて配置される者や以前配置されていたが設備が変わってしまって細かい注意点がわからない者にとっては、ポイントを確認しながら円滑にポンプを運転し、排水することができるようになると思います。その他、トラブルや急な増水によってポンプをすぐに運転しなければならないような緊急時においては、ヒューマンエラー抑止効果を期待することができます。
  このような操作マニュアルは、必要な時、必要な場所になくては効果が期待できません。その為、現場機械室エンジンポンプ操作盤に設置し、オペレーターが確認したい時、すぐに見て確認できるようにしました。(右 作業手順書の現場設置例)
② エンジンポンプ運転フローチャート
  エンジンポンプ運転フローチャートはポンプ運転項目をフロー図で表したものです。
  確認項目が上から下に順番に記載されており、1つの図に集約されています。
  実際に作成した例です。
  ポンプは必要な時、必ず運転しなければなりません。しかし、運転操作中に何らかのトラブルにより、運転ができない場合があります。復旧するには、どこに原因があるかを特定する必要があります。(緊急時は原因特定より他ポンプ運転での排水が基本となります。)
  トラブルが発生した時、フローチャートをさかのぼることで、仮復旧を素早くすることができます。

フローチャート

③ 直営作業マニュアル
直営作業記録例
  直営作業マニュアルは、直営作業記録と直営作業マニュアルとに分かれています。
  直営作業記録とは、作業を行った担当者が、実際にその日に行った作業を、全オペレーターに報告する簡易的なものです(操作上必要なものはより詳しいものにします)。例を示します。
  直営作業マニュアルは、直営作業記録を基に、その作業の工程をマニュアル化したものです。このマニュアルにより、作業の効率化を図るとともに、皆に周知することで技術の向上ができると考えます。例を示します。
  直営作業は主に、設備に何らかの故障が生じたときや、古くなった設備の保全のために行います。これをマニュアル化し活用することで、故障時の対応と、迅速化かつ的確に行えるようになります。また、このマニュアルにはその設備が故障した原因が記してあるため、他設備で同じような現象が起こった時、原因の追究、対応に非常に役立ち、故障復帰が迅速に行えると考えます。

直営作業マニュアル例

④ 自家発電機操作及び受発切替手順マニュアル
発電機運転マニュアル例
  自家発電機操作及び受発切替手順マニュアルについて、フォーマットはエンジン操作手順書と同じものを使用しました。
  今までテキストベースのものがありましたが、見易さに欠けているため、有効に活用されてはいませんでした。また、マニュアルが存在しないポンプ所もありました。そこで、この機会に全ポンプ所を見直し、フォーマットを統一したマニュアルを作成することにしました。作成した例です。
  写真を加えることで、とても見やすいマニュアルとなり、有効に活用できると考えます。
  豪雨に雷はつきものです。雷やその他の要因で停電になった際、ポンプを運転し排水する為、自家発電機を運転し電力を確保することが必要となります。
  停電時はベテランオペレーターでも慌ててしまい、誤操作を起こす可能性があります。新人オペレーターであれば、その重圧は計り知れないものがあり、そのような時こそ落ち着いて操作することが重要です。そのために操作手順書を作成し、経験の浅いオペレーターでも迅速かつ確実に操作ができるよう日ごろから複数名で手順書の読み合わせを実施し、実際に操作することで、操作手順を確実なものとし、停電など突発的な災害時においても、誤操作を防止できると考えます。

(4) マニュアルの共有化
 作成したマニュアルは、オペレーターに周知すると共に、現場に掲示しています。また親ポンプ所の監視室には全地区の作成したマニュアルすべてを1つのファイルにまとめて設置しています。各地区のポンプ所すべてのマニュアルを集約・保管することで他地区のノウハウを共有できるようになっています。例えば、あるポンプ所で故障が起きた際、そのポンプ所では過去に故障履歴がない場合、他地区で同様の故障復帰の実例があれば、マニュアルを見ることで復帰の可否や作業方法が分かり、対応することが可能となります。
 各地区で最新のマニュアルを作成・改定し他の地区との共有化を継続していくことにより、オペレーターの技術力向上が期待できます。また、研修会を開くよう準備をしています。


3. 市民へのPRについて

(1) 市民へのPRの意義
 ここ数年、異常気象により、集中豪雨の発生頻度が増加傾向にあります。それに伴い、市民の皆様の防災意識も高まり、浸水被害など過敏に反応される方も多いと思います。
 そのような中、ポンプ所の説明を行うことにより、ポンプ施設管理事務所の業務を市民の皆様に幅広く知っていただき、ご理解頂くことは、ポンプ施設の存在意義をより高めることにつながります。
 また、市民の皆様の認知度が上がることは、ポンプオペレーターにとっても、業務に対する意識が向上すると考えました。また、見学者に向けたプレゼンテーションを行うことにより、業務に対する責任をオペレーター一人ひとりが改めて認識できる効果もあると期待しています。

(2) PR内容例
 PRするにあたってまず荒子川ポンプ所を紹介するパンフレットを作成しました。


ポンプ所紹介パンフレット

 図で示したように荒子川の紹介からポンプ所のしくみ、さらにはポンプ所にある設備を紹介するものをA3用紙2枚にまとめました。
 内容は全くポンプ所を知らない人でも、理解できるようにと小学生向けのものを作成しました。
 また、実際、ポンプ所見学に来てもらった方向けに説明する資料にアニメーションを取り入れ分かりやすいものを作成しました。
 今後の課題としては、パンフレットを地域のコミュニティセンターに置いてもらい、地域の学校などから見学に来てもらうために案内を積極的に行っていきたいと思っています。

説明用資料の一部分

4. 今後の展望

 作業マニュアルについては、今後も必要なものは速やかに作成し、作成済みのものについても改定や更新を行い、より使いやすく解りやすいものにしていきたいと思います。また、マニュアル作成だけでなく、他にも技術の継承・向上に必要だと思われる事は積極的に取り入れ、オペレーター全体のレベルアップを図って行きたいと思います。
 PRについても地域の学校だけでなく、より多くの市民の方々に来ていただき、ポンプ施設管理事務所の業務をアピールしていきたいと考えます。

5. まとめ

 私達が今まで行ったいずれの改善も、直接コスト面や数値的に反映されるものでは無く、また効果も目に見えてすぐ表れるものでもありません。しかし、私達の業務は、市民の生命と財産を守る事です。そのためには、トラブルが起こらないように施設の維持・管理をすることはもちろんのこと、様々なトラブルが起こっても対応できる様、技術力の向上に努め、万全を期す必要があります。その意味で、マニュアルの作成は大きな効果が期待できると考えていますし、ポンプ所が担っている業務を市民の皆様に知っていただく事はポンプ施設管理事務所の存在意義を高めると共に、私達オペレーター一人ひとりの業務に対する改善意識も高められると考えています。
 今後も市民の安心・安全を守っていける様に努めていきたいと思います。