【自主レポート】自治研活動部門奨励賞

第33回愛知自治研集会
第3分科会 わがまちの財政から、地方財政改革を展望する

 「行財政基盤の強化・充実」や「住民サービスの向上」「広域連携」を大名目に、全国で市町村合併が進められましたが、今、合併効果を検証する議論が各地で行われています。田辺市でも合併5周年を迎え、その影響が徐々に顕れています。本レポートでは、合併前に想定された財政計画と実際の決算額との乖離などを通じて現状の分析を行うとともに、今後の見通しとそれに対する自治研活動の方向性を探ります。



5周年を迎えた“田辺市”のこれからについて
~市町村合併後の財政分析からの一考察~

和歌山県本部/和歌山県地方自治研究センター・田辺市職員労働組合・自治研部

1. はじめに

(1) 田辺市とは
 和歌山県田辺市は、2005年5月1日に1市2町2村が合併し、新“田辺市”として誕生した。市有面積は約1,030km2と近畿地方で一番の広さを誇り、その約90%は森林であるが、就業者のうち約60%は第3次産業に従事している。人口は約8万人で和歌山県下では第2位の都市(類似団体は都市Ⅱ-1)である。紀伊半島の中程に位置し、合併1年前の2004年に世界遺産登録された「紀伊山地の霊場と参詣道」を中心とする観光資源に恵まれている。

(2) 合併5周年を迎えて
 そもそも市町村合併は、合併特例法の優遇措置が享受できるうちにということで進められたが、合併特例債の発行や普通交付税算定の特例措置には合併後10年間(交付税算定替についてはさらに5年間の経過措置)という期限がある。合併5周年を迎えた本年はそうした特例措置が受けられる年度の中間年となるため、これまでの総括及び今後の展望を探る機会と捉え、本レポートを出稿した。
 まずは「2.」において、この5年間の財政分析を通して、見えてくることを整理したい。合併にあたっては新市建設計画が策定され、財政動向についてもシミュレーションが行われたが、果たして計画どおり進んでいるのかを考察し、また合併特例債を活用した事業についても俯瞰し、その是非についても触れたい。さらに、「3.」では、今後合併特例法の優遇措置が切れるまでの間にどのような事業を展開していくのか検証し、論考していきたい。

2. 現状を分析する

(1) 財政分析
 まず、現状を把握するため、2007年度の田辺市と類似団体の性質別経費を構成比率で比較を行い、特筆すべき点を考えてみたい。

【図1】
【図2】

 このグラフからわかることは、田辺市では公債費比率が非常に高いということである。その原因は過去にハード事業を多く行ったことに他ならない。一方で、人件費比率は高くないということがわかるが、これは公債費が高くなっている分、人件費比率が下がるためであり、公債費が類似団体と同等の比率と仮定して、再計算を行った。それが【図3】のとおりであるが、再計算をした場合でも19.1%となり類似団体の人件費比率20.8%を下回った。比率はマジックであって、膨大な投資事業を行えば人件費比率は下がるので、この比率のみでの判断は過信できないが、少なからず人件費が問題となるほど過大であるとはいえない。 
 さらに、合併前に作成された新市財政計画と決算額との比較から検証を行った。
 【図4】からは、当初の計画に比べて人件費の総額が減少していることがわかる。他自治体の類に漏れず当市でも、人件費が財政を圧迫しているという理由から、人件費を削減する逆提案が当局から度々提起されるが、こうした状況を見る限り、必ずしも人件費のみが財政悪化の理由とは言い難い。同様に、新市財政計画と決算額の比較を扶助費及び公債費で行った。


【図3】
【図4】

【図5】
【図6】

 【図5】【図6】のとおり、扶助費と公債費は計画を上回っている。ましてや扶助費にいたっては年数を経過するごとに乖離が大きくなっている。扶助費については2点、田辺市の特徴を述べたい。
 まず、大きな要因のひとつである生活保護について、田辺市では2009年度の人員保護率は11.8‰(※1)となっており、年間保護費総額約13億円(※2)のうち、実質市の負担は1/4の3億円余となっている。被保護者の割合は全国平均の14.7‰(※3)より低くなっているが、一人世帯の高齢化の進捗と地域経済の不況が相まって、今後も増加傾向にある。次に児童扶養手当については、年間総額5億円(※4)にせまり、実質市の負担は2/3の3億円余となっている。これは田辺市の離婚率が全国平均1.99‰を大きく上回った2.50‰となっている(※5)ことが要因で、この傾向は従来から続いている。こうした扶助費は削減が容易ではないものの、ただ支払い続けるというのではなく、自立できるような施策を併行して行うことが必要である。

(2) 普通交付税算定替と合併特例債について
 当局によると、普通交付税については、合併当初、合併算定替と一本算定の差が約17億円であったが、その後毎年約1億円ずつの差が生じ、2009年度時点で一本算定した場合、すでに約20億円の歳入不足に陥ることになる(【図7】)。交付税特例措置がなくなる2015年ごろには、さらに大きな不足が生じる可能性がある。
 一方、合併特例債の活用状況については、10年間の起債可能総額約267億円のうち、2010年度当初予算額を含めた累計で約123億円充当し、残り約144億円となっている(【図8】)(※6)


【図7】
(単位:千円)
 
2005年度
2006年度
2007年度
2008年度
2009年度
算定替
12,846,915
13,303,927
13,038,271
13,753,164
14,726,358
一本算定
11,530,499
11,201,681
11,777,406
12,636,365
増減
△1,773,428
△1,836,590
△1,975,758
△2,089,993
※数値には臨時財政対策債を含む

【図8】 合併特例債目的別充当内訳
単位:百万円

 このような財政状況を見ていると、確かに現時点だけを考えれば、合併特例債もまだ活用でき、交付税の合併算定替のおかげで、新規事業を行う余力はあるように見える。特に、合併特例債については、事業費の95%が借入可能であり、元利償還金の70%が交付税措置されるので、他の起債より有利である。国や県が費用負担する事業であればなおさら、少額の市負担で大きな事業が行えるため、ここ数年だけのことを考えれば間違いなく“おいしい”といえる。しかし、本当にいいことばかりだろうか。特に、財政の健全化ということから考えれば、近い将来に単年度ベースで20億円以上の歳入不足が生じることは明白であり、大きなハード事業を行えば必ず維持管理費が発生するため、歳出額は必ず増加する。また、2008年度末の地方債残高は約562億円に達しており、現在でも償還に係る財源を生み出すことは大変な状況である。
 考えなければならないことは、どうやって20億円以上の歳入不足を補うのか。歳入が簡単に増える魔法はない。歳入増を目的とした田辺市の産業施策として、企業誘致や観光産業の振興策、地場産品の販路拡大などが行われているが、残念ながら、歳入不足を抜本的に解決する特効薬とはなりえない。そうすると、歳入にあわせた歳出削減に取り組むこととなるが、どの分野の歳出を削減すればよいのだろうか。また、ハード事業を行うにあたって、将来的な負担について考えることも必要である。

3. 今後の田辺市を想定する

(1) 人口推計からみた財政状況
 2005年国勢調査による田辺市の人口は82,499人だったが、2010年の推計では78,000人程度の見込みとなっており、今後も5年ごとに約4,000人ずつ減少していく予測(※7)となっている。今後、地方交付税はもとより、地方税収入も減少し、一般財源そのものがかなり厳しい状況となることが考えられる。それだけでなく、高齢人口比率においても、2006年の25.0%から2010年には27.3%(※8)へと確実に高齢化が進んでおり、いわゆる働き盛り世代が職を求め、都市へ流出し続けること、また、離婚率が高水準で推移していることなどから、今後も扶助費は増加傾向を辿っていくことが予想される。
 これらのことから、将来的に投資的経費として活用できる財源の先細りが目に見えており、合併による優遇措置は、こうした問題を先送りにしているに過ぎず、優遇措置がないことを前提とした財政運営を考えないことには、将来の不安が拭えない。

(2) 合併特例債による新規事業について
 さて、「2.」でも触れたが、合併特例債については2010年当初予算編成後の残額は144億円となっており、今後も当市では大型事業が計画されている。
 そのうちの一つとして、2015年に和歌山県で開催される国民体育大会にあわせるかたちで運動場等の整備事業があり、本年度は測量調査等を行い、成果が出れば具体的な金額を算出し、用地買収・本体工事等に取り掛かることとなる。この事業については国・県から多額の補助を受けることができるが、一般財源だけでも数億円にのぼり、合併特例債を充当するとはいえ、その30%は将来的に負担しなければならないし、整備後の維持管理についても市で行うこととなれば、経常的に負担が増えてくることになる。事業を行うことは経済波及効果もあるので全てを否定するわけではなく、合併特例債の充当は相当有利であることも理解できるが、将来負担を十分に吸収できる担保もなく進めていくべきではない。結果は予定より大きくなることは世の常であり、一過性イベントのためにと批判されることのないよう長期的な視点で計画を精査し、コンパクトな形での開催が望まれる。きれいなスタジアムができたのはよかったが、そこに住む人々の笑顔が消えてしまっては、行政としての判断の是非が問われることになる。
 また、それ以外にも老朽化した小中学校の建て替えや消防庁舎の建設、ごみ焼却施設の整備等、避けて通れない課題は山積みであり、必要性の高い事業に対して、有利な合併特例債を活用することは当然のことである。しかしながら、合併特例債を使い切ってしまわなければならないという発想のもとで、大型事業を展開し、多額の維持管理費も発生させてしまうことには問題があると考える。そのため、それぞれの事業について必要性の順位付けを行い、結果によっては、計画を白紙にする勇気も必要である。

4. さいごに

 とかく、国の事業だからやらなければならないと決めつけがちだが、田辺市の将来を見据えるなかで、何が最良なのかという判断が必要となってくる。行政の仕事に絶対解は存在しない。しかしより最良に近づけていく努力は為政者のみが行うことではなく、行政に携わる者が皆意識する必要がある。そして、それがある程度実効性のあるものでなければ、ただの批評に過ぎない。そのため、事業を検証する制度仕組みの構築が重要であると考える。田辺市職の自治研部では、政策提言ができるような体制を構築しようと準備を進めている。ただ、自分たちの給与を守るということではなく、将来の子どもたちの未来も含めた市民全体の生活をどのように守っていくのかを考え、大局的な見地に立った政策立案を行っていきたい。




※1 保護参考(2010年3月分)和歌山県福祉保健部福祉保健政策局福祉保健総務課保護班
※2 2009年度生活保護費扶助別支出額調による保護費は1,251,089千円
※3 生活保護速報(2010年3月分)厚生労働省社会・援護局保護課
※4 2008年度田辺市の児童扶養手当給付決算額は、492,738千円
※5 2008年和歌山県の人口動態統計(確定数)の概況
※6 起債可能総額は当局の算出による。累計充当額は2005~2008年度までは決算額、2009年度は3月補正までの予算額、2010年度は当初予算額の合計
※7 『日本の市区町村別将来推計人口』(2008年12月推計)国立社会保障・人口問題研究所
※8 和歌山県高齢者人口の現状(高齢者人口等調査)