【自主レポート】

第33回愛知自治研集会
第8分科会 地方再生とまちづくり

自然災害対策にむけた提言づくり


兵庫県本部/兵庫地方自治研究センター・理事長 小島 修二

 1995年、私たちは、阪神淡路大震災において未曾有の被害を受け、6千人を超える尊い命を失った。改めて、自然災害の恐ろしさを体験した。と同時に、全国の自治体労働者の支援や、「ボランティア元年」といわれたように、かつてない多くのボランティア支援を受けた。
 震災時、兵庫県、神戸市をはじめとする被災自治体では、地震災害に対する十分な備えがなかった。しかも、行政の中枢部が被害に遭い、混乱状態の中から救援・復旧・復興に取り組まなければならなかった。
 自治体行政当局は、厳しい反省の下に、この貴重な教訓を、以降の災害対策に生かすための検証を行った。私たち自治労兵庫県本部・兵庫自治研究センターも、当該自治体労働者として、その立場から災害対策の問題について、震災以降、事あるごとに提言を行ってきた。
 兵庫県内では、阪神淡路大震災以降も、2004年台風23号をはじめとする度重なる台風により、県内の多くの地域で甚大な被害を受けた。その際の災害に対する対応の教訓も踏まえて、06年に沖縄で開催された全国自治研究集会にレポートを提出し、全国に発信をしてきた。
 台風、地震などによる大規模災害が最近頻発する傾向にある。災害は避けようがないとしても、その被害を最小限に食い止める、「減災」へ向けた日ごろからの備えとそのための努力が求められる。
 震災以降、その後の災害の中で教訓が生かされた半面、昨年9月の台風9号による災害において、これまでの教訓が生かされなかった課題。さらには、新たな課題も明らかになってきた。
 私たちは、自治体労働者として、ひとたび災害が発生すれば、その最前線で、住民の生命と生活を守るために全力を挙げなければならない。
 それだけに、救援、復旧、復興に苦闘する中で、現場で明らかになった課題について提言し、その解決へ向けて取り組むことは、自治体労働者としての「使命」であると考えている。
 このたびは、震災15年という節目。2004年、さらには、昨年の台風災害を経験した当該自治体労働者として、改めて、災害対応の問題について、全国発信するとともに、その課題解決にまで前進させる取り組みを進めていかなければならない。
 災害対策については、これまでも、自治体、大学、研究機関など多くの団体が調査・研究を行っている。とくに兵庫では、「ひょうご震災記念21世紀研究機構」や、最近では、「台風第9号災害検証委員会」による提言など、貴重な研究、提言などが発表されている。
 しかし、自治労、地方自治研究センターが行うそれは、第一線で活動する自治体労働者の立場から、現場での経験を踏まえた、より実践的、且つ具体的なものでなければならない。今回は、沖縄自治研レポートを、さらに具体的、且つ突っ込んだレポート及び提言が求められている。
 今回は、次の項目について検討し、レポート・提言としてまとめた。
Ⅰ 自治体の災害対策について
Ⅱ 災害時の自治体労働者の任務
Ⅲ 県と市町との連携及び県職員の応援体制について
Ⅳ 他市町からの応援体制について
Ⅴ 災害ごみの収集のあり方について
Ⅵ ボランティア活動の課題について
Ⅶ 市町合併後の災害対応について
Ⅷ 「民営化」及び地域の民間活力の低下がもたらすもの
Ⅸ 災害時の避難及び避難所のあり方について
Ⅹ 要支援者の避難支援について
ⅩⅠ 地域からの「まちづくり」と災害対策について
ⅩⅡ 災害復旧、復興事業の進め方について
ⅩⅢ 国及び県の財政支援のあり方について
ⅩⅣ 「労使協定」及び組合対応マニュアルについて
 最近、公の側から、「自助」、「共助」、「公助」の中でも、「自助」努力が強調される傾向にある。大規模地震に対して不安や関心がある人9割以上、大規模災害に備えて家具等の固定をしている人3割未満、地震保険加入世帯2割、耐震性不足家屋1,150万戸など「自助」努力が足りないとの指摘もある。確かに「自助」努力の促進は必要である。しかし、それがなぜ進まないのか、を問題にしなければならない。
 「共助」。阪神淡路大震災でも地域の助け合いの重要性が再認識された。しかし、都市部での地域の人間関係の希薄さ、中山間地域における過疎化、高齢化による地域力の低下が進んでいる。
 「公助」としての役割を果たさなければならない国、自治体が、財政難の中で、人の命より効率化を優先する政策を取り続けている。「自助」を強調する一方で、「公」の役割と責任を放棄する傾向を指摘せざるを得ない。その背景に、自治体の現状が、財政的にも人的にも、危機対応能力の限界を超えていることを指摘せざるを得ない。
 災害に対する対応については、住民、地域、民間、行政(公)が力を合わせて取り組まなければならないが、その中心、軸は、あくまでも行政(公)であることを忘れてはならない。
 とくに、今回のレポート・提言では、自治体財政危機下での効率化優先の行政姿勢、市町村合併、「行革」による自治体職員削減、民間委託・民営化拡大の影響。そうした中での、県と市町村、自治体間、民間、ボランテイアの支援・協力の在り方、新たな地域コミュニティづくりなどを、大きなテーマとしている。
 検討を進める中で、一つには、行政が、あらゆる施策に対して、住民の生活第一、安全・安心を基本に進められているか、そのことを問い直し点検しなければならないこと、二つには、住民同士、住民と自治体職員、県と市町の行政及び職員間、(防災)担当者相互の日常からの交流を深め、お互いにある垣根を低くすること、三つには、自治体職員は勿論のこと、住民組織(自治会)の中で、災害時の役割・任務を普段から明確にし、そのための研修・訓練を行うこと、の重要性が明らかになった。
 自治体では、財政難を背景に効率化のみが強調され、住民の安全・安心のための対策が二の次にされる傾向にある。某自治体幹部の「災害対策のために人を配置することはできない」の発言に象徴されている。現に、昨年の9号台風で甚大な被害を受けた佐用町では、2004年の台風災害を受けていたにもかかわらず、4町合併後(災害時)、防災担当は、1人。しかも担当業務のうち防災業務は、消防を中心に3~4割程度でしかなかった(今年4月には、「検証委員会」の提言に基づいて防災企画課が設置された)。
 「平成の大合併」が、兵庫県では、中山間地域を中心に、郡又は一部事務組合単位に合併が行われた。合併以降、「支所」の職員が大幅に減らされ、住民と職員との距離が大きくなっている。とくに周辺地域の旧町の地域を知る職員が減少し、災害時の対応能力が格段に落ちている。
 また、「行革」による自治体職員数の削減、とくに現業部門の民営化、民間委託の拡大によって、災害時のごみ収集など「応援協定」による応援体制についても、この状況が進行すれば、困難をきたす恐れがある。民間についても、公共事業の縮小によって、同様の事態が進行している。
 そうした現状に加えて、ほとんどの自治体では、ひとたび大規模災害が発生すると、普段から訓練を行っていても(準備が不足している自治体ではなおのこと)、混乱状態の中で、行政機能がマヒ状態に陥ることを想定しなければならない。
 ましてや、阪神淡路大震災や昨年の9号台風での佐用町のように行政の中枢部が被災する。また、その被害が当該自治体全域に及ぶことなど、最悪の事態を想定しておかなければならない。
 大規模災害が発生した場合、救援・復旧・復興の各段階において、被災自治体職員のみでは、対応できないことは明らかであり、県および他の市町、民間等の支援が不可欠となる。その際、被災自治体以外の自治体労働者は、自治体労働者でなければできない業務、自治体労働者が中心となって行う業務はきわめて多く、被災自治体職員を支援し、重要な役割を担わなければならない。その意味において、被災自治体以外の自治体労働者が災害支援を行う場合の第一義的な任務は、業務支援である。業務支援は、住民が必要としている時期、内容、量などに対してできるだけ迅速かつ的確に対応しなければならない。
 兵庫県は、被災直後の被災自治体に対する支援策として「ひょうご災害緊急支援隊」を創設し、この役割を果たそうとしている。この「ひょうご災害支援隊」の役割は重要であり、県職員はもとより市町職員の人材育成と体制整備を急がなければならない。
 しかし、時間的、量的に業務支援で対応できない部分については、被災自治体の首長と自治労(県本部)が協議し、首長からの要請を受けて、自治体労働者としての特性とノウハウを生かした自治労ボランティアとして取り組む。そうした自治体労働者としての任務を果たすとともに、労働組合として一般ボランティアにも積極的に参加する。
 阪神淡路大震災直後「倒壊家屋の下敷きになった人たちの多くを助けたのは近隣住民であった」ことを教訓に、その後、県・市町の指導のもとに「自主防災組織」づくりが進められてきた。兵庫県の組織率は、2009年4月1日時点で全国第3位の95.8%(世帯比)となっている。
 しかし、今回の聞き取り調査等を行った市町では、全ての自治会(集落)単位に「自主防災組織」がつくられているが、その中は、①機材整備、②訓練、③担い手等の問題をかかえている。特に中山間地域の小規模な集落ほど担い手がいないなど問題は深刻である。
 そのためにも、市町職員は勿論のこと県職員を含めた地域の自治体労働者が中心となって、地域コミュニティづくりを進めることが必要である。
 この社会を、効率化優先から、人の命、人のこころを大切にする、「安全」「安心」の社会への転換を図らなければならない。そのためには、これまでの政治、行政の在り方を変えるとともに、地域コミュニティづくり、人づくりが今こそ求められている。
 そのために自治体及び自治体労働者が果たさなければならない役割、もっと言えば使命について、改めて問い直さなければならない。
 阪神・淡路大震災を契機に、県をはじめ関係自治体等の努力で、「被災者生活再建支援法」をはじめ、国による被災者への生活再建支援制度及び自治体に対する財政支援制度が拡充された。しかし、まだまだ不十分といわざるを得ない。
 「災害国」日本として、被災自治体及び被災者への救援・復旧・復興に要する費用については、原則、国が全額負担すべきである。
 とくに、被災自治体への財政支援策については、阪神淡路大震災において、甚大な被害を受けた地域の自治体財政が、15年を経た今日においても、極めて厳しい財政状況に置かれている。自治体財政が厳しい現状にあるだけに、被災自治体に対する抜本的な支援策を講じる必要がある。
 自民党政権に変わって、民主党を中心とする政権が成立するなど政治状況も大きく変化し、「コンクリートから人へ」の改革が叫ばれている。これまでの自民党政権と異なって、私たちの「提言」に基づき、制度的、財政的にもそれを実現させうる条件が強まっている。
 この提言に基づき、県及び国等への要望(要求)を行い、震災15年を機に、災害対策の課題解決へ向けて取り組みを具体化させていかなければならない。また、自治体現場においても、レポート・提言を生かした取り組みが行われることを期待する。