【自主レポート】

第33回愛知自治研集会
第10分科会 自治体から発信する平和・人権・共生のまちづくり

 自治体労働組合として市民の平和的生存権の確立にむけた取り組みは大変重要な課題といえます。ひとつには、自治体の平和行政推進にむけて、「非核自治体宣言」の実施に向けた取り組みの重要性を改めて確認。二つには、自治体の有事体制への協力を許さず、自治体のとるべき姿を明らかにするとともに、災害派遣等を理由とした自衛隊の市民自治への介入と災害救助のあり方への検討の提起。



自治体を平和の砦に


兵庫県本部/執行委員 森  哲二

1. 自治体の平和行政推進にむけて

(1) すべての自治体で「非核自治体宣言」を
 兵庫県反核平和の火リレーは、1985年、「青年しかできない反核運動を」ということで第1回リレーが始まりました。第1回リレーは、64市町・682キロメートルを1,405人のランナーで走りつながれ、それ以降、多くの仲間の努力によって、県内全市町を走りつなぎ、今年(2010年)で第26回目を迎えました。
 リレー運動では、取り組み前段に全自治体首長と議会議長に対して要請行動を行い、自治体庁舎前集会の開催と出席要請を行うとともに、非核自治体宣言の実施を求めてきました(非核自治体宣言実施団体にあっては平和予算の確保と事業実施を要請)。
 反核平和の火リレーは、県内では最大の平和運動となり、各自治体にも認知をされるとともに多くの自治体が私たちの呼びかけに応えて「非核自治体宣言」を実施し、現在では27市(29市)7町(12町)の34自治体(県を含め42自治体)となっています。
 しかし、青年運動をはじめとする多くの市民の運動で実現された「非核自治体宣言」は、「平成の合併」により失効してしまうという事態が発生をしました。自治体合併の際には、対等合併では合併前の宣言が失効することになり、改めて合併時に宣言を行う必要があります。このため、「非核自治体宣言」が合併と同時に失効し、新たに宣言を実施していないため未宣言となっています。合併協議会等での議論がほとんどなされないまま失効していることは地方自治のあり方そのものを問う事態といえます。
 改めて、すべての自治体での「非核自治体宣言」を求める運動の強化が課題となりました。

(2) 自治労兵庫県本部として「非核自治体宣言」実施を要請
 兵庫県本部では、2008年から平和友好祭兵庫県実行委員会とともに「非核自治体宣言」未実施自治体への要請行動を行い、県内全自治体の宣言実施を求めて取り組みを進めてきました。
 2008年時点では、22市7町の29自治体での宣言実施でしたが、この3年間で7市が宣言を実施しました。
 篠山市では、市で起草した宣言文(案)に対しパブリックコメントを求め、市民からの意見を反映した形で非核自治体宣言が実施されました。また、現在、朝来市においては宣言実施にむけ「平和都市宣言文検討委員会」の委員募集が行われており、2011年中には宣言が実施される見込みとなっています。市民が参加する宣言づくりが進められることは、地方自治の発展にもつながるものであり、議論経過の公表も含め取り組みの前進が求められます。
 引き続き、すべての自治体での宣言実施と平和行政の推進にむけ、地域の仲間とともに取り組みを進めていかなければなりません。

2. 自治体の有事体制への協力を許さない

(1) 自治体への戦争協力体制づくり
 国民保護法の成立以降、政府主導で都道府県の有事訓練実施の圧力が強まっています。東京都では石原知事のもと、米軍も参加した「軍事訓練」さながらの訓練が行われています。兵庫においても2009年11月、県と神戸市が国民保護法に基づく初めての実働訓練を行いました。訓練は付近の道路を規制し、自衛隊や消防隊はもとより、民間人、大型店舗も協力させられるという大規模なもので、住民の危機意識を煽りました。
 兵庫県本部は訓練に先立ち、県職労と連名で兵庫県防災局に申入れを行い、①訓練の中止、②危機管理事案への自治体職員の関わり、③自治体職員の安全・安心の確保を求めました。防災局は「訓練は国の指導のもと実施している」と述べ、職員の安全への配慮は「確保できるよう検証していく」との回答にとどまりました。各自治体での有事訓練の実施状況や、その問題点を検証し、地域の平和運動と連帯した取り組みを強めていかなければなりません。
 また、商業港として発展してきた神戸港の軍港化を目論む政府は、自衛艦の入港を強行し続けています。2009年も10月に自衛艦「くにさき」が入港しました。平和憲法を守る兵庫県連絡会(事務局:自治労兵庫県本部)は、自衛艦の入港が発覚するたびに、港湾管理者である神戸市に申入れを行い、自衛隊に使用許可を下ろさないこと、自衛隊に抗議するよう求めています。
 私たちは、自治体が戦争協力体制に巻き込まれないためにも、自治体がとるべき姿を明らかにしていくことが求められています。

(2) 「災害救助体制」の強化……軍隊でない組織体制整備を
 阪神・淡路大震災以降、災害発生時に自治体による自衛隊に対する出動要請が「安易」に行われるようになったといえます。これは、阪神淡路大震災時に自治体による自衛隊出動要請が遅れたことに対する批判への対応と「国民のための自衛隊」という姿を作りあげるために利用がされていると捉えるべきです。しかし、自然災害への救助や復旧・復興には「軍隊である自衛隊」が必要ではありません。そもそも自衛隊は、軍隊としての訓練しか行われておらず、その装備も基本的に戦争行為を行うためのものです。被災地が必要としている自然災害への訓練や装備は整っていないのが自衛隊の現実です。また、自治体が自衛隊への出動要請を行うもう一つの要因として、現業職場を中心に民間委託を進めてきたことで緊急対応できない現場となっていることがあげられます。
 しかし、自然災害が多発する日本列島で災害に対応する組織が確立されていないことは、市民生活にとっては危機的な現状といえます。自衛隊は、阪神・淡路大震災においても瓦礫撤去などのハード面ではある程度の役割を果たしましたが、人命救助などでは地域住民が求める役割を果たしたとはいえません。新潟中越地震でも崖崩れで埋まった車からの人命救助をハイパーレスキュー隊が行う映像が全国に流されましたが、そこには、一切自衛隊の姿はありませんでした。そうしたことからも自衛隊ではない災害救助体制の強化が必要です。
 災害発生時には、基本的には単位消防署が重要な役割を果たすことになります。災害救助体制を強化するためには、各自治体の消防力を強化していくことは必要不可欠となります。そのためにも消防職員の処遇改善と職員定数の充足が課題といえます。
 阪神・淡路大震災を教訓にして東京消防庁のハイパーレスキュー隊のように新設をされたものはありますが、各単位消防で大規模災害に対応するレスキュー組織を整備していくことは財政的な問題などもあり困難といえます。
 こうしたことからも、市民の生活を守るためにも、戦争のための軍隊ではなく自然災害への訓練や装備をもつ別の組織を創設することが近々の課題といえます。
 全般的な検証は必要となりますが、災害救助体制の強化を考えるとき、憲法違反の自衛隊の段階的解消へもつながる自衛隊の災害救助隊(仮称)への再編を行っていくことは具体的かつ効果的といえます。
 その方法は、以下のようなことが考えられます。
① 現在の自衛隊組織の1/3~1/2を災害救助隊(仮称)へと再編していく。
② 予算については、防衛費を削減し災害救助隊(仮称)関連予算として組み替え、国の予算より支出する。
③ 施設や訓練場所については、自衛隊基地の一部をこれにかえる。全国をいくつかのブロックに分け設立するとともに海外支援部隊についても創設する。
④ 災害救助隊(仮称)の出動などの権限については、各地方の知事会等の代表者とし、災害時での出動が迅速に行われるようにする。海外等への出動については内閣総理大臣が行うものとする。

(3) 戦争非協力宣言を採択
 1999年に周辺事態法が策定されて以降、矢継ぎ早に「戦争する国づくり」にむけた法律が成立しました。
 地方自治体の職員には、日常的に危機管理という形で自らの権利や自主性が奪われてきました。
 国と地方自治体、国と地方自治体住民との関係が、極めて強力な権限を媒介として「動員する側」と「動員される側」に明瞭に区分され、命令と服従の関係がつくられようとしてきました。
 本来戦後の地方自治が確立されていったのは、戦前の戦争動員体制を敷くための中央集権国家体制に対して、二度と戦争動員体制を確立させないために地方自治体への権限委譲が行われてきたからです。地方自治体住民の安全と平和の基礎は、地方自治の活性化であり、そのことこそが問われているはずです。
 私たちは、地方自治体の職員として、地域住民の生活と安全を守る責務を持っています。このことは、命令と服従、国からの指導でできることではなく、そこで働く職員と地域住民の信頼関係のもと培われていき、実践されるものと思います。
 また、自治体職員といえども、何人も一人の人間として、個人の尊厳と平和的生存権を普遍的な権利として保持しています。また憲法は奴隷的拘束を禁止し、苦役からの自由をうたっており、一人ひとりの人間が良心的立場からする戦争協力拒否も、雇用関係や公務員の職務専念義務というものを超えた当然の権利としてあります。
 こうしたなかで、兵庫県職労は2005年2月24日の第330回中央委員会において「護憲・平和・民主主義を守り、憲法違反の『有事法』に反対し、戦争非協力を宣言する」決議を採択しました。兵庫県本部としても、兵庫県職労から提起された「護憲・平和・民主主義を守り、 憲法違反の『有事法』 に反対し、戦争非協力を宣言する」決議(戦争非協力宣言)を2009年2月10日第186回中央委員会において確認しました。また、採択と同時に宣言文(抜粋)ポスターを作成し県内全単組での掲示を呼びかけています。
 決議をしたからといってこの宣言が何か力を持っているかといえば、全く力はありません。しかし、私たち自治体職員が平和憲法の精神をきっちりと具現化していくためにも、この宣言の精神を組合員とともに確認していくとともに、内外にアピールしていくことが求められています。

戦 争 非 協 力 宣 言

 今日の日本の状況は、有事を想定した法律を次々に成立させ、自衛隊の海外への恒久派兵を検討など平和と逆行した方向に向かっている。
 これらの法律は、日本国憲法が禁ずる集団的自衛権の行使に道を開くものであること、東アジアにおける緊張を激化させるものであること、そして何よりもすべての人々に戦争協力を強いるものであることなどから、自治体労働者のみならず、海運、港湾、航空など輸送に携わる労働者をはじめマスコミや医療関連の労働者など多くの国民が今もなお反対の声をあげている。
 さらに、2004年に施行された「武力攻撃事態における国民の保護のための措置に関する法律(国民保護法)」は、有事の際には地方自治体に対して、国の「対処基本方針」に基づき、警報・避難・救援などの措置を行う一方で、平時から様々な機関の設置、訓練や啓発活動を義務づけている。
 その内容は、「国民保護」とは名ばかりで、地方自治体、指定公共機関をあげて、地域社会を丸ごと戦争協力に動員するものである。このような戦争法体制は到底容認できるものではない。
 われわれは、二度の世界大戦を経験し、「われらとわれらの子孫のために、諸国民との協和による成果と、わが国全土にわたって自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によって再び戦争の惨禍が起こることのないようにすることを決意し(前文)」という、「戦争の放棄」を謳った日本国憲法を持っている。この精神を生かし、平和な国際社会を目指すことがわれわれの第一義的任務である。
 地方自治体は、中央政府の出先機関ではなく、民主主義の実践の場であることはいうまでもない。住民とともに住民の生命と財産を守り、社会福祉、社会保障及び公衆衛生や教育・文化など住民生活の向上及び増進に努めるのが自治体及び自治体労働者の責務である。また全国では国際的な友好関係を築くために「自主外交」を展開する自治体もあり、平和構築のための努力が積み重ねられている。兵庫においても神戸市は1975年に、入港する外国艦船に「非核証明書」の提出を求める、いわゆる「非核神戸方式」を採択しており、県内には「非核自治体宣言」を採択している団体も多い。平和こそ、生活と労働の土台である。
 何人も一人の人間として、個人の尊厳と平和的生存権を普遍的な権利として保持している。また憲法は奴隷的拘束を禁止し、苦役からの自由を謳っており、一人ひとりの人間が良心的立場から戦争協力を拒否することも、雇用関係や公務員の職務専念義務というものを超えた当然の権利としてある。このような立場から、われわれは第1に、労働者の生命と権利を侵害するいかなる「戦争協力」にも応じないこと、第2に、「戦争協力」は絶対に“通常業務”ではないこと、第3に、当局が「戦争協力」を業務として命令するならば、これを断固拒否することを確認する。
 そして、すべての組合員にとどまることなく、多くの労働組合、労働者に広げ、ともに平和のためのたたかいを強化するために全力を尽くすものである。
 以上、宣言する。

  2009年2月10日


自治労兵庫県本部第186回中央委員会