【自主レポート】

第33回愛知自治研集会
第10分科会 自治体から発信する平和・人権・共生のまちづくり

「長崎市国民保護計画」策定の現況と問題



「長崎市国民保護計画」策定の現況と問題


長崎県本部/長崎県地方自治研究センター 舟越 耿一

1. 国民保護計画とは何ものか

 ○ 武力攻撃事態対処法 2003年6月
 → 国民保護法 2004年6月
 → 国民の保護に関する基本指針 2005年3月
 ・ 武力攻撃事態を4類型に分ける
   ―― 着上陸侵攻、ゲリラや特殊部隊による攻撃、弾道ミサイル攻撃、航空攻撃
   ―― NBC攻撃の場合の対応を明記
   ―― 住民の避難に関する措置(警報、避難、誘導、避難施設、救援、訓練
 → 県レベルの国民保護計画 2006年3月
 → その後、市町村の国民保護計画の策定へ ―― 都道府県知事と協議する
                        市町村国民保護協議会に諮問する
                        議会へ報告する
 ⇒ 一体何が起こっているのか:「戦争の放棄」を定めた憲法のもとで戦争に備え始めた―― 戦争の時代の到来

 「国民保護計画」は国民保護法という法律に基づいて策定が義務づけられている。正式には「武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律」という。2004年5月有事関連7法のひとつとして成立。同年12月には、自治体などが計画を作成する際の「基本指針」案要旨を発表。日本への武力攻撃事態を4類型(・着上陸侵攻、・ゲリラや特殊部隊による攻撃、・弾道ミサイル攻撃、・航空攻撃)、大規模テロを想定した緊急対処事態を4類型(・原子力事業所の破壊、石油コンビナートの破壊等、・ターミナル駅や列車の爆破等、・炭疽菌やサリンの大量散布など、・航空機による自爆テロ等)の計8類型に分け、警報発令から住民避難・救援、災害復旧など措置の手順をマニュアル化した。
 一般的説明は以下のようにされる。「○○県国民保護計画」は日本への武力攻撃や大規模テロが発生したとき、県民らの生命、財産を守るため避難、救援、復旧などに関して県が行うべき事項を規定したもの。県は既に避難住民の輸送や医療支援、緊急情報の伝達に協力する「指定地方公共機関」に医療・看護、ガス、運輸、放送事業者ら計42社・団体を指定している。
 長崎県の趣旨説明は以下のとおり。「この計画は、我が国への武力攻撃や大規模テロが発生したとき、県民や県に訪問されているみなさまの生命、身体、財産を守るため、避難、救援、復旧などに関して県が行うべき事項等を定めるものです。」

2. 国民保護計画策定をめぐる全国の概況

 長崎新聞(2010年5月5日)によれば、
 昨年10月1日現在、国民保護計画を作成していないのは15市町村。このうち長崎市は全国で唯一、核攻撃への対処事項を除いて計画をつくろうとしている。
 「核攻撃を受ければ市民は守れない。指針は『核被害は防げる』との誤解を招く」と。県と市の協議は平行線をたどったまま。
 広島市は、独自で被害を想定した。広島原爆と同じ原爆が投下された場合、27万人が死傷すると予測。計画の中に「核攻撃による被害を避けるには唯一、核兵器廃絶しかない」と外交努力を国に求める文言を入れた。
 沖縄県では計画未作成は9市町村に上る。うち宜野湾市など4市村は、作成根拠となる国民保護協議会条例の議会提案もしていない。「有事になれば真っ先に基地が攻撃対象になる。狭い沖縄で住民をどう避難させろというのか。基地撤去こそ住民の安全につながる」。
 対照的に、国民保護法の『先進自治体』(消防庁)とされるのが神奈川県。県内全市町村が計画を作成済み。その約半数が、人口などを反映した具体的な避難方法まで定めた。
 同日の記事の結びは、「被爆地で、米軍基地を抱える自治体で、国民保護をめぐる対応は割れている。」
 長崎新聞(2010年5月8日)によれば、
 2009年2月、長崎県国民保護共同図上訓練が長崎市で行われた。国と県が共同で実施し、県警、自衛隊などに加え、米軍が協力した。「図上」ではなく実動訓練の実施は2009年度までで15道県にとどまっている。
 市区町村は人口などを反映した具体的避難方法を作成することになっているが、2010年4月現在、全国1,796市区町村の67%が未作成。十分な内容かどうかも「調査していない」(消防庁国民保護室)という。

3. 長崎市の場合 ―― 核攻撃問題を中心にして

 2006年11月、被爆者5団体が長崎市伊藤市長に面談し、核兵器による攻撃の項の削除と官房長官の文書「武力攻撃やテロなどから身を守るために」等の修正を要請。
 市長は上京し、内閣官房長官宛に「国民保護計画における核兵器攻撃による被害想定等に関する要望書」を提出し、具体的な被害想定・対応策とともに文書の修正を要請。
 市長は長崎に帰って記者会見し、核攻撃の項目の記述を削除する方向性を明らかにした。
 2007年1月31日に開かれた第3回長崎市国民保護協議会は「核兵器による攻撃への対処」を削除した国民保護計画案を賛成多数で承認。
 長崎県はこれを受け入れず、両者の交渉は10数回行われたが、平行線が続く。

4. 長崎市国民保護計画の評価をめぐって

・被爆者団体:「おかげさまで核攻撃に関わる事態を盛り込ませないことができました」
・浅井基文広島平和研究所長の批判(浅井さんのブログ参照)
 ① 武力攻撃事態などがあることを前提にしている点で致命的。
 ② 有事はいやおうなしに核がらみ。長崎の国民保護計画から核攻撃にかかわる事態を盛り込ませなかったといって安心しているのはまったくの自己満足。朝鮮、中国の攻撃を未然に防ぐ手立ては、アメリカおよび日本に朝鮮、中国に対して戦争をしかけさせないことしかない。

5. 私たちの基本的立場

・「戦争の放棄」を定めた憲法のもとで戦争に備える態勢をつくらせる訳にはいかない。
・基本的人権と地方自治がたたかいの根拠。
・桐生悠々「関東防空大演習を嗤う」(初出:信濃毎日新聞1933年8月11日)


長崎港にイージス艦が4隻
左から、あしがら、あたご、こんごう、ちょうかい
 三菱長崎造船所にイージス護衛艦4隻が接岸しています(12月23日から)。建造中の2隻の「ミサイル防衛」対応型イージス艦 ―― 2007年3月に舞鶴基地に引き渡される「177あたご」、現在艤装工事中の「178あしがら」及び、これから「ミサイル防衛」対応型へ改修工事が行われる「173こんごう」「176ちょうかい」。あらためて長崎港が「ミサイル防衛」構想の拠点であるということを思い知らされます。
ホームニュース一覧2006

(http://www7b.biglobe.ne.jp/~chi-tan/archive06.html)


 2006年11月に米空母キティホークが佐世保に寄港し、その後に実施された日米共同演習の中で、中国による尖閣諸島侵攻を想定した対処演習を硫黄島近海で実施していたことを共同通信が伝え、12月30日付で各紙が報道。具体的な侵攻を想定した大掛かりなシナリオに基づく日米共同の演習は初めて。