【自主レポート】

第38回地方自治研究全国集会
第3分科会 民間と連携した公共サービス

 「新型コロナウイルス感染症」は、自治体行政の総合力、コーディネート力の重要性をあらためて認識させた。特に医療現場や介護現場における危機への対応、「医療崩壊」や「介護崩壊」を防ぐことが喫緊の最重要課題である。自治労滋賀県本部は滋賀地方自治研究センターとともに「コロナから介護崩壊を防ごうプロジェクト」を立ち上げ、介護関係者とともに議論し、滋賀県に対する緊急要請(政策提言)に取り組んだ。



コロナから介護崩壊を防ごう! プロジェクト
―― 介護従事者、事業者団体、地域の連携へ
行政のリーダーシップを ――

滋賀県本部/滋賀地方自治研究センター 仁尾 和彦

1. 何としても介護崩壊を防ぐ

(1) 第2波、第3波への危機感
 「新型コロナウイルス感染症」は、特に高齢者の重症化のリスクが高いとされ、当初から対策の重要性が叫ばれていました。3月から4月にかけてのいわゆる第1波において、滋賀県内では高齢者施設でのクラスターは発生していませんでしたが、全国的には各地の高齢者施設でのクラスターが発生していました。緊急事態宣言が発出されるなどの対策で、5月以降感染拡大は一旦は落ち着きを見せますが、介護現場(自治労滋賀県本部には高齢者介護施設の単組が7単組あります)からは秋から冬に向けての第2波、第3波への危機感が強くあり、特に慢性的な人員不足の状況にある介護現場で、感染拡大を防ぐためには各施設や法人等の対応だけでは困難であることなどの課題が指摘されていました。
滋賀県新型コロナウイルス感染症対策本部 第27回本部員会議 資料抜粋(2020年11月17日)

滋賀県新型コロナウイルス感染症対策本部 第27回本部員会議 資料抜粋(2020年11月17日)

(2) プロジェクト会議の立ち上げ

 現場からの強い危機感を受け、自治労滋賀県本部と滋賀地方自治研究センターは「今後の感染拡大を想定した時、人的にも物的にも不十分な対策の現状を改善する思い切った施策を行政が講じない限り、現場任せでは『介護崩壊』をきたす危険性が極めて大きい」との認識に立ち、滋賀において介護に携わる関係者に共同して呼びかけを行い、実効性のある感染拡大防止対策について議論し、滋賀県知事に対して緊急要請(提言)を行うことを目的に「コロナから介護崩壊を防ごう! プロジェクト」を立ち上げました。

(3) プロジェクト会議での議論
 プロジェクト会議は5月末から8月上旬まで計5回開催しました。2回目の会議からは滋賀県の高齢者担当課長も非公式に参加し、滋賀県の南部圏域において介護サービス事業者協議会が中心となり、地域独自で具体的な取り組みが始まりつつあったB-ICAT構想(Biwako Infection Control Assistance Team(びわこ感染制御支援チーム))を軸に、他府県の取り組み事例も参考にしながら要請(提言)内容の検討を行いました。

B-ⅠCAT構想の資料から
 

(4) 三日月大造滋賀県知事へ緊急要請を実施

 5回を通じたプロジェクト会議の議論では、「行政がリーダーシップを発揮し、介護や医療従事者・事業者団体・地域などと連携し、取り組みを展開することが重要である」との共通認識にいたりました。
そしてこれを基調に、「感染者・濃厚接触者の発生時に、速やかに事業所へ専門チームを派遣して対応をアドバイスしたり、人員が不足する事業所へ応援職員を派遣したりするなど、感染が発生した事業所がサービスを継続するために必要な伴走型の支援ができるよう、医療・介護・労務・行政等の専門職を中心として、状況に応じた柔軟な対応ができる応援体制を構築すること」や「感染症や災害等、介護サービスの継続が困難となる状況に備え、相互に応援し合える事業所間の人的ネットワークの形成と、知識や情報を共有する取り組みを支援すること」など、11項目の要請内容をとりまとめ、8月24日に三日月大造滋賀県知事へ緊急要請を行いました。
当日は各新聞社からの取材もあり県内3紙に掲載され、関心の高さがうかがえました。また自治労組織内県会議員を中心に連合滋賀県議団とも連携し、要請内容を県議会で取り上げるなどその実現にも取り組みました。

「新型コロナウイルスによる介護崩壊を防ぐための緊急要請」の内容

1. 介護従事者へのPCR検査の優先的実施
 介護施設・居宅サービス事業所等(以下「事業所」という)において、感染者・濃厚接触者の発生が疑われる場合は、希望する利用者、介護従事者全員に優先的にPCR検査を実施すること。
2. 感染防御資材等の確保と備蓄
 各事業所における感染防御資材等の配備状況を把握し、日常的に必要な資材の種類や量、使用方法等についてアドバイスするとともに、クラスター発生時等には、速やかに事業所へ必要な資材が行き渡るよう、各福祉圏域毎に、マスク等の感染防止用の装備品、介護食品等を確保し、備蓄すること。
3. ケア付き短期療養施設の確保
 感染者の発生等による事業所の閉鎖やサービス停止時における、陰性の利用者(濃厚接触者を含む)、および家族等の介護者が感染して独居となる在宅の要介護高齢者等が、介護サービスを受けながら日常生活が継続できるよう、一時的に入所できる短期療養施設を確保すること。
4. 人員派遣等、感染が発生した事業所への応援体制の構築
 感染者・濃厚接触者の発生時に、速やかに事業所へ専門チームを派遣して対応をアドバイスしたり、人員が不足する事業所へ応援職員を派遣したりするなど、感染が発生した事業所がサービスを継続するために必要な伴走型の支援ができるよう、医療・介護・労務・行政等の専門職を中心として、状況に応じた柔軟な対応ができる応援体制を構築すること。
5. 事業所等による地域横断ネットワークの形成
 感染症や災害等、介護サービスの継続が困難となる状況に備え、相互に応援し合える事業所間の人的ネットワークの形成と、知識や情報を共有する取り組みを支援すること。
6. 感染防止の指導・研修体制の整備
 事業所に対して、医師や感染管理認定看護師等によるゾーニング等の感染防止措置を指導することができる体制を整備すること。また、感染症に関する正しい知識等を習得するため、YouTube等を活用し、介護従事者がいつでも感染防止の研修が受けられるようにすること。
7. 介護従事者等への差別や風評被害の防止
 介護従事者や家族に対して、誤解や偏見に基づく差別や風評被害を招かないよう啓発等を強化すること。また感染が発生した事業所に報道機関が殺到するなどして、サービス提供に支障を来したり、要介護高齢者の日常生活を脅かすことのないよう報道機関等に対して周知すること。
8. 感染者等発生時の危機管理体制の整備
 感染者発生時の広報や、サービス継続にかかる関係者の調整等について、介護サービス事業者・保険者・保健所・事業所指定権者等を含めた情報共有の手順等を示したマニュアルの整備を図ること。
9. 必要な予算の確保と資金調達の支援
 上記をはじめ、事業所における感染防止対策等に必要な予算を確保するとともに、事業所が自ら資金調達できるよう、クラウドファンディングや民間の助成金等の情報の提供やアドバイス等、資金調達の取り組みの支援を行うこと。
10. 行政のリーダーシップの発揮
 もとより、要介護高齢者がその尊厳を保持し、自立した日常生活を営む(介護保険法第一条)ためには、感染症対策に限らず、保険者たる市町、医療や他の生活支援サービス、地域における取り組みとの連携・共同が不可欠であり、これら多様な主体・取り組みをつなぎ、コーディネートすることや、国等から発せられる膨大な文書や多種多様な情報等をわかりやすく整理して現場に伝えることなど、事業所等の介護現場が安心してその使命を遂行できるよう、行政がリーダーシップを発揮して取り組むこと。
11. 安全・安心と労働法規遵守の原則
 以上について、感染発生時においても、介護従事者の安全と安心が確保されることはもちろんのこと、過酷な勤務が常態化したり、不当な人員整理が行われるなど、労働者としての権利が侵害されることのないよう配慮して取り組むこと。

2. 滋賀県の具体的対策への反映

 こうした取り組みを受けて、滋賀県の三日月大造知事は2020年10月28日に「新型コロナウイルス感染症発生時の介護施設・事業所間の応援事業」を開始することを発表しました。
 また事業の愛称は「B-ICAT(ビー・アイキャット):びわこ感染制御支援チーム」とされました。
滋賀県が発表した「新型コロナウイルス感染症発生時の介護施設・事業所間の応援事業」
(愛称)「B-ICAT(ビー・アイキャット):びわこ感染制御支援チーム」の概要
〇 介護関連施設・事業所等において新型コロナウイルス感染症が発生し、
① 入所施設等において、職員が不足し応援職員の派遣が必要になった場合や、
② 訪問や通所系サービス事業所において、サービスが提供できなくなり、利用者を他の事業所で受け入れる代替サービス調整が必要になった場合の事業者間の応援体制をコーディネートする事業(愛称:B-ICAT(ビー・アイキャット):びわこ感染制御支援チーム)を実施します。
〇 県内の介護サービス事業者団体※が連携して設置する県内団体連携事務局に対して、滋賀県が委託する事業です。
  ※介護サービス事業者団体
   ・滋賀県老人福祉施設協議会
   ・滋賀県介護老人保健施設協会
   ・滋賀県介護サービス事業者協議会連合会
   ・滋賀県介護サービス事業者協議会(8地域)計11団体
〇 対象となる事業所:県内すべての施設・事業所 2,374施設・事業所
〇 事業開始時期:2020年10月28日

3. むすび

 今回のプロジェクトでは、自治労滋賀県本部と滋賀地方自治研究センターが共同して、地域における具体的な政策課題について、それぞれの組織外の人たちとも結びつきながら議論し、要請(政策提言)まで結びつけ、滋賀県の対策に様々な面で反映できたことは大きな成果です。今後もこの経験を生かし、自治研活動の活性化に取り組んでいきたいと思います。
 なお、冬を迎え感染症がさらに拡大することが危惧されます。また、インフルエンザの感染も重なる季節であり、新型コロナ感染症対策は待ったなしです。プロジェクト会議として、今回の要請を受けての滋賀県の対策内容を検証するなど、「何としても介護崩壊を防ぐ」ため、自治労滋賀県本部と滋賀地方自治研究センターは連携を強化し取り組んでいきます。