【自主レポート】

第38回地方自治研究全国集会
第5分科会 下北半島で考える「原子力政策と自治・財政」の未来

 茨城県東海村は日本で初めて原子の灯が灯った村であり、原子力発祥の地として知られている。村内には様々な施設が立地しており、その一つである東海第二発電所は東日本大震災後、冷温停止状態となっている。東日本大震災後の原発問題について、肯定・否定する前に、まずは「自分ごととしてとらえる」ことを目的に講演会が行われた。その様子を紹介する。



原発問題を自分ごととして考えるには
―― 原子力発祥の地から ――

茨城県本部/東海村職員組合 浅野進太朗

1. はじめに

(1) 東海村の概要
 東海村の位置は、東経140度34分、北緯36度28分で、県都水戸市から北東へ約15キロメートルの距離にある。東が洋々たる太平洋に面し、西が那珂市、南がひたちなか市、北が一級河川の久慈川を境に日立市に接して形成される村域は、東西が7.9キロメートル、南北が7.9キロメートルとほぼ円形に近く、総面積は38.00平方キロメートルである。久慈川の南側と真崎浦、細浦などの低地は沖積層で、水田地帯となっている。一方、台地は洪積層で、畑地と平地林が広がり、東へ緩やかに傾斜したその先端が砂丘となっている。なお砂丘は現在、国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(原子力科学研究所・核燃料サイクル工学研究所)、J-PARC(大強度陽子加速器施設)、日本原子力発電株式会社(東海発電所・東海第二発電所)などの敷地として活用されている。
(東海村HP及び東海村第6次総合計画より)

(2) 東海村における原子力の歴史
 東海村における原子力の歴史は下記のとおりである。
1956年4月 原子力委員会、原子力研究所の敷地を東海村に決定
1957年8月 日本原子力研究所(以下「原研」)、わが国初の原子炉(JRR-1)臨界
1957年11月 日本原子力発電(株)(以下「原電」)発足
1964年7月 閣議で10月26日を「原子力の日」に決定
1966年7月 原電 東海発電所営業運転開始
1967年10月 動力炉・核燃料開発事業団(以下「動燃」)発足
1974年10月 原研 原子炉(JRR-4)から茨城国体の炬火を採火
1978年11月 原電 東海第二発電所営業運転開始
1991年11月 茨城県原子力防災訓練の実施
1996年6月 原電 東海発電所の営業運転停止決定
1997年3月 動燃 アスファルト固化処理施設で火災爆発事故発生
1999年9月 (株)ジェー・シー・オー東海事業所、臨界事故発生
2000年9月 住民参加による東海村独自の原子力防災訓練を実施
2008年12月 J-PARC物質・生命科学実験施設の供用を開始
2011年3月 東日本大震災発災(東海村 最大震度5弱 津波最高高さ4.9m)
2013年5月 J-PARCハドロン実験施設からの放射性物質の漏えい事故発生
2017年7月 住民参加による東海村独自の広域避難訓練を実施
2018年7月 住民参加による東海村独自の広域避難訓練を実施(取手市への広域避難訓練を実施)
2019年6月 住民参加による東海村独自の広域避難訓練を実施(つくばみらい市への広域避難訓練を実施)
(2020年3月東海村発行「東海村の原子力」より)

 上記のとおり、1957年に国内初の原子炉が臨界を迎えて以降、様々な事業所が立地しており、商業用の発電所のほかに、国の研究機関も多数立地している。近年では村独自の避難訓練を実施している。訓練では、実際にバスを使用して避難先の自治体に避難するという取り組みも行われている。

(3) 東海村内の原子力事業の立地状況
 東海村内の原子力事業の立地状況は下記のとおりである。
(2020年3月東海村発行「東海村の原子力」より)

 図のように、原子力事業所は12事業所あり、民間事業所以外にも国の研究機関が村内に点在していることがうかがえる。

(4) 東海村における原子力行政の取り組み
 東海村では様々な原子力行政に取り組んでいる。
① 原子力平和利用推進・核兵器廃絶宣言
 1986年6月26日に制定された。全文は下記のとおりである。

 世界の平和は全人類の願いであり、原子力の平和利用は人類の生存と繁栄のため更に推進しなければならない。
 日本が原子力の平和利用に踏み切り、東海村が原子力関連諸施設の設置を受け入れたのは、原子力基本法の精神を堅持し、平和の目的に限って原子力の研究・開発及び利用を進めるということを確認した上でのことである。
 しかるに核兵器保有国間の果てしない核軍備拡張競争は、今や人類の脅威であり憂うべき状況である。
 このような時にあたり、唯一の核被爆国として全世界に対し、原子力の平和利用と核兵器廃絶の実現に向けて訴え続けることは、東海村に住むわれわれにとって大きな使命である。
 よって、東海村民は世界のすべての国に向け、原子力の平和利用推進と核兵器の廃絶をここに宣言する。
② 日本非核宣言自治体協議会の加盟
 日本非核宣言自治体協議会の趣旨に賛同し、2009年11月に加入した。日本非核宣言自治体協議会とは、非核宣言自治体(核兵器廃絶等を求める内容の自治体宣言を行った自治体のこと)が互いに手を結びあい、この地球上から核兵器が姿を消す日まで、核兵器の廃絶と恒久平和の実現を世界の自治体に呼びかけ、その輪を広げるために設立された団体である。現在、全国の300を超える自治体により組織され、総会、研修会のほか、さまざまな平和事業などを通して設立の趣旨の実現に努力している。
 2020年8月には、被爆75周年事業として「首長による平和メッセージ」が配信され、東海村長がメッセージ写真を提供している。
③ 平和首長会議の加盟
 東海村は「平和首長会議」の趣旨に賛同し、2009年3月に加入した。平和首長会議は、加盟都市相互の緊密な連帯を通じて核兵器廃絶の市民意識を国際的な規模で喚起するとともに、人類の共存を脅かす飢餓・貧困等の諸問題の解消さらには難民問題、人権問題の解決及び環境保護のために努力し、もって世界恒久平和の実現に寄与することを目的としている。

(5) 現在の原子力を取り巻く情勢
① 全国の原子力発電の現状
 2020年11月24日現在の、全国の原子力発電所の稼働状況は下記のとおりである。

再稼働9基
設置変更許可7基
新規制基準申請中11基
未申請9基
廃炉24基
(経済産業省資源エネルギー庁HP)

② 東海第二発電所の現状
 2011年3月11日の東日本大震災では、原子炉が自動停止し、外部電源からの電気の供給が絶たれた。しかし、3台ある非常用ディーゼル発電機(DG)が直ちに自動起動し、原子炉施設の冷却に必要な電源を確保し、原子炉等の冷却を開始した。その後、標高約5.4mまで到達する津波が襲来し、DG1台が使用不能となったが、残り2台のDGは被害を受けなかった。この2台のDGにより確実に冷温停止までの操作ができると判断したうえで、原子炉を冷温停止(原子炉の水温が100℃未満の状態)に導く作業を実施し、3月15日に冷温停止した。それ以降は冷温停止の状態が続いている。
 その後、福島第一原子力発電所の事故の教訓を踏まえ、原子力発電所の従来の基準が見直され、2013年7月に新しい規制基準が施行されたことを受け、2014年5月20日、原子力規制委員会に新規制基準適合性確認審査の申請を行い、2018年9月26日に原子炉設置変更許可、10月18日に工事計画認可を取得した。現在は周囲を囲う防潮堤の建設をはじめとした対策工事が行われている。
(日本原子力発電HP)

(6) 講演会「"原発問題"を自分のこととして考えるとは?」
① きっかけ
 村では、東海第二発電所問題に関して、「住民の意向把握」を課題の一つとしている。そのため、2018年度に国内初の取り組みとして注目された、島根県松江市での原子力発電所をテーマとした「自分ごと化会議in松江」の意義・成果等について学び、原発を「誰かが考える問題」ではなく、「自分の問題」として、多くの人が関心を高めていくための調査・研究の一環として、講演会を開催したものである。
② 内 容
 下記のとおり、2部構成で開催された。
 第1部「講演」
 講演1.「全国で開かれる自分ごと化会議の意義について」
 講師 伊藤 伸氏(政策シンクタンク 構想日本 総括ディレクター)
 講演2.「自分ごと化会議in松江の取り組み」
 講師 福嶋 浩彦氏(自分ごと化会議in松江実行委員会・共同代表、中央学院大学教授)
 第2部「パネルディスカッション」
 パネリスト:山田 修(東海村長)
 吉岡 古都氏(自分ごと化会議in松江実行委員会・元広報担当、薬剤師)
 福嶋 浩彦氏


 なお、当日の記録映像については、村ホームページにも掲載されている(Youtubeによる配信)。
③ 今後の展望
 東海第二発電所問題に関する課題の一つである「住民の意向把握」に向けた取り組みとして、「自分ごと化会議in松江」実行委員会の構成団体の一人であった、政策シンクタンク「一般社団法人構想日本」とともに、"自分ごと化会議"の開催に向けた準備を進めているところであり、住民基本台帳から無作為に抽出した住民1,000人に対し参加者を募るための案内を送付し、申し込みを受け付けたところである。
 なお、第1回目の会議は下記の日程で行われる。

 日時 2020年12月19日(日) 午後2時から
 場所 東海村産業・情報プラザ(アイヴィル)
 内容 東海村「自分ごと化会議」の説明
    有識者による基調講演
    参加者及び有識者による全体協議
 会議出席者は村民26人(男性16人、女性10人)で、年齢は19~73歳(申し込み時点)となっている。
 なお、会議は終始公開される予定となっている。

(7) おわりに
 上記のとおり、東海村は原子力発祥の地であり、原子力とともに歩んできた村である。これまでも身近なものではあったが、そのことについて深く考えることはなかったのではないか。今回の会議をきっかけとして、原子力を肯定や否定をする前に「自分ごと」としてとらえることができれば幸いである。また、一人でも多くの住民が議論に参加し、実りあるものとなることを期待する。