【自主レポート】

第38回地方自治研究全国集会
第6分科会 使って 広めて 愛して 守ろう公共交通

今別町の観光と交通


青森県本部/今別町職員組合 小鹿 亮磨


奥津軽いまべつ駅

1. 青森県今別町の紹介

 青森県津軽半島の北端に位置する今別町、人口およそ2,700人の町に新幹線駅ができたのは、2014年3月26日のことだ。これにより新幹線駅のある町としては、人口規模で日本一小さい町となった。
 今別町はこれまで青函トンネル建設事業、漁業などで栄えてきた町である。しかし近年は少子高齢化が著しく、産業の担い手不足も問題視されている。

2. 今別町の観光資源について

 地元には、荒馬という伝統芸能があり、夏には祭りが開催され県外からも観光客がやってくる。周辺の観光施設としては、町内に青函トンネルの本州側入り口、津軽国定公園に指定されている袰月海岸があり、隣町には全国的にも有名な竜飛崎がある。

3. 観光客について

 今別町の観光シーズンは、海岸線が綺麗に見える夏となっており、キャンプに訪れる方も多い。その中でも荒馬まつりの開催される8月上旬は、県外からの観光客が非常に多く、東京や京都、仙台など様々な地域の学生が荒馬まつりに参加するためやってくる。
 荒馬とは、田植えが終わり、田の神が天に昇るとき、農民が神の加護と感謝を示すために催す、神送り、サナブリの行事である。男性が馬、女性が手綱取りとなり、男女がペアになって踊る珍しい踊りとなっており、まつり期間になると、ねぶた囃子と共に町内を練り歩き、町中が賑わいをみせる。
 それとは反対に冬の時期になると、風が強く、寒さも厳しいことから観光客が激減する。これは、青森県内でもよくみられるイベントの時期のみ観光客が極端に多くなる典型的な町といえるだろう。

荒馬まつりの様子(今別荒馬)

荒馬まつりの様子(大川平荒馬)

4. 奥津軽いまべつ駅について

 奥津軽いまべつ駅は青函トンネルの避難駅の側面も持ち合わせているため、青函トンネルの入口に近い今別町に建設された。立地としては、今別町の二股地区に該当し、道の駅いまべつと隣接しており、連絡通路で接続されている。道の駅については、物産コーナーやレストランが再整備され、今別町の特産品を購入したり、実際に味わうことができ、観光客だけでなく、町民も多く足を運ぶようになった。また、奥津軽いまべつ駅には、売店等がないことから駅利用者がお土産の購入のため立ち寄ることが多く、今別町内最大の物産施設となっている。さらに2018年には同エリアにいまべつ総合体育館やお祭り広場が整備されたことから秋まつりやマラソン大会など様々なイベントが行われ駅周辺で行われるようになっている。

道の駅いまべつ

5. 北海道新幹線開業で変化した津軽半島の公共交通について

 北海道新幹線の開業により最も大きく変化したのは、津軽半島内の公共交通網である。北海道新幹線開業前は公共交通機関を利用し、津軽半島から北海道に行く場合、中泊駅と津軽今別駅の間に交通空白地域が存在することから、五所川原市などを経由し、大きく迂回しなければならなかった。このことから北海道と津軽半島は青函トンネルで繋がっているにもかかわらず、距離以上に離れた地域となっていた。また、交通空白地域があるため観光にも不便であり、自動車を使わない限り、五所川原市から北部を周遊することは非常に難しかった。
 北海道新幹線開業後は、津軽半島北部に新幹線駅ができたばかりでなく、奥津軽いまべつ駅の二次交通としてあらま号が運行を開始したことから北海道と津軽半島間の移動時間が短縮され、地域間交流が盛んに行われるようになった。
 また、あらま号の運行により、交通空白地域が縮小し、津軽半島内の交通の利便性が上昇したことで新たな観光ルートが形成され、観光客が今まで足を運ばなかった地域にも訪れるようになった。

6. 奥津軽いまべつ駅からの二次交通について

 奥津軽いまべつ駅からの二次交通としては、大きく3つがある。  
 1つ目は、町営の巡回バスである。町の巡回バスは新幹線の到着時間を基準に設定されており、この巡回バスを利用すれば、町内を巡ることができる。
 2つ目は、在来線の津軽線である。津軽線は青森駅から三厩駅を結ぶ鉄道路線であり、地域住民の生活路線でもある。周辺町村へ移動する場合は、津軽線を使っての移動になる場合が多いだろう。
 3つ目は、奥津軽いまべつ駅~津軽中里駅を結ぶデマンド型乗合タクシーである。これは奥津軽いまべつ駅と津軽鉄道の津軽中里駅を結ぶ予約制の乗合タクシーであり、主に観光としての需要が見込まれる。またこの路線は、今までなかった西北地域から竜飛方面へ向かう公共交通機関であり、代替の効かない路線となっている。この路線の意義は大きく津軽半島を一周しようとした場合、欠かせない路線となっており、奥津軽いまべつ駅を観光ルートに加えるにあたって非常に重要な路線である。
 最後にレンタカーでの移動である。奥津軽いまべつ駅の近くには、レンタカーがあり、車で観光することができる。特に竜飛から小泊を結ぶ竜泊ラインは非常に景色が良く人気の観光スポットではあるが、公共交通機関が通っていない。そのため車での観光客も非常に多い。

7. 奥津軽いまべつ駅の利活用について

 奥津軽いまべつ駅は、津軽地方へのアクセス拠点となっており、様々な目的に利用されていると考えられる。
 まずはじめに考えられるのが、津軽地方への観光客の出入口となっている点だろう。竜飛崎や太宰治の記念館「斜陽館」、津軽鉄道へのアクセスがよく、首都圏東南地方から来た観光客の降車駅となっている。また、新青森駅で新幹線を降りた場合、弘前市や五所川原市など、津軽半島を周遊した後、奥津軽いまべつ駅から帰路に就くという観光ルートをとることが考えられる。
 次に考えられるのが、周辺住民の観光利用である。奥津軽いまべつ駅は、特に津軽半島内からのアクセスが非常によく、また、併設されている駐車場は、駐車料が無料となっていることから旅行先までの移動手段として利便性が高く、コストも抑えられる。特に道南地域へ行く場合、他の駅から乗車するよりも非常に低価格で移動することができる。
 最後に考えられるのが、帰省での利用である。津軽地方北側の人口減少は著しく、多くの人が首都圏を中心とした県外に転出している。そのため正月やお盆の時期になると非常に多くの帰省客が利用している。

8. 新幹線駅利用者と入込客数について

 北海道新幹線奥津軽いまべつ駅は2016年3月26日に開業した。開業当日はセレモニーが催され、駅からは2kmにも及ぶ渋滞が発生し、町内には今まで見たことのないほどの人であふれた。当初の予測通り開業初年度は非常に多くの駅利用があり、新しい新幹線駅を見ようと車で来町する方も多くいたことから改札内を見ることができる入場券も多くの方に利用された。その結果、下記の表のとおり入込客数についても前年を大きく上回ることとなった。
 しかし、開業2年目になると駅利用者数、入込客数は大幅に減少し、その後も毎年減少し続けている。特に大きく減少しているのは入場券の利用者で、2019年度の数値をみると2016年度の1/4にも満たないものとなっている。乗降客数についても、減少し続けており、今後も緩やかな減少が予測される。

奥津軽いまべつ駅利用者数と入込客数
(単位:人)
  駅利用者数 入場券利用者数 乗降者数 入込客数
2015年度 1,800(3/26~3/31) 600(3/26~3/31) 1,200(3/26~3/31) 167,209
2016年度 48,000 9,000 39,000 238,442
2017年度 37,000 4,000 33,000 186,329
2018年度 33,000 2,000 31,000 166,024
2019年度 30,000 2,000 28,000 148,653

9. 今までの取り組みについて

 上記のとおり、奥津軽いまべつ駅利用者数が減少していることから、今別町ではJR北海道と協力し、様々な利用促進の取り組みを行ってきた。

(1) 新幹線の利用助成について
 町民が奥津軽いまべつ駅を利用した場合、年1回を上限に2,000円の助成を行っている。また、通勤・通学に利用した場合についても別途助成を実施している。

(2) おもてなしイベント
 奥津軽いまべつ駅では、年4回程度利用促進を目的としたおもてなしイベントを開催している。イベントは改札内で行われ、入場券を購入することでイベントを見ることができる。
 今まで全国でもめずらしい様々なイベントが実施された。ジャズコンサートやモノマネライブ、一人芝居、人形劇、落語まで行われ、駅内では町内外の物産販売が行われた。

金多豆蔵人形劇

落語(青森県出身の落語家)

クリスマスイルミネーション

(3) 新幹線利用促進ツアー
 今別町では、2019年から新たな取り組みとして奥津軽いまべつ駅を利用したツアーを実施し、町民への更なる利用促進を図っている。このツアーはJR北海道や道南町村と連携し、町民にモデルルートを体験してもらい、新幹線の開業により道南地域への移動時間が短縮されたことで日帰りでも観光が可能になったことを周知する目的もある。

新幹線利用促進ツアーの様子

(4) 首都圏・道南へのPR
 今別町では、北海道新幹線奥津軽いまべつ駅の開業を機に首都圏及び道南のイベントに参加しPR活動に力を入れてきた。特に道南地域には、友好町である知内町や隣駅のある木古内町があり、お互いのイベントに参加するなど積極的なPR活動を行ってきた。その結果、今では民間事業者間でも交流も行われるようになってきている。

木古内町寒中みそぎ祭りでのPR

10. 今後の可能性について

 今後の利用客を増加するためには、周辺地域や津軽鉄道との連携が不可欠である。駅からバスで15分程の場所にある大平山元遺跡からは、日本最古級の土器がみつかっており、他の遺跡とともに世界遺産登録に向けて取り組みが進められていることから今後観光客の増加が見込まれる。津軽鉄道のストーブ列車は、全国的にも非常に人気があり、冬期間の大きな観光資源となっている。津軽鉄道との接続が非常に良いことを前面に押し出すことで、観光客が少なくなる期間に利用促進を図っていく必要がある。
 また、二次交通の再整備についても必要となってくる。現在の二次交通では竜飛岬まで行くには、乗り継ぎに時間を要し、便数自体が非常に少ない。これについては自治体と連携し改善していく必要がある。
 最後に鍵となってくるのが、周辺地域の住民の利用である。現在でも津軽半島内からの利用客は見かけられるが、まだ数が少なく、潜在的な需要を秘めていると思われる。同じ観光客に何度も利用してもらうには、地域として魅力を磨き上げる必要があり、容易なことではない。それよりは周辺住民の最寄り駅として利用してもらえれば、年に複数回の利用を見込むことができる。今までは、観光客を呼び込むために様々なPRを行ってきたが、今後、北海道新幹線の札幌延伸も行われることから、周辺地域へのPRがより一層重要となってくるだろう。