【自主レポート】

第38回地方自治研究全国集会
第6分科会 使って 広めて 愛して 守ろう公共交通

 長崎県には、JR九州各線のうち、長崎県内を主に走る路線は長崎線、大村線、佐世保線。特急列車としては、博多~長崎を結ぶ「かもめ」、博多~佐世保を結ぶ「みどり」のほか、博多~ハウステンボスを結ぶ「ハウステンボス」が運行している。長崎市内には路面電車の長崎電気軌道が走り、JRと合わせて市民の足として親しまれている。JRを補完する形で、県北佐世保駅から日本最先端の鉄道「松浦鉄道」、県南の鉄道として諫早駅から島原まで走る「島原鉄道」がある。
 地域の沿線として市民の足を守る「松浦鉄道」と「島原鉄道」の現状や課題、そして取り組みについてそれぞれの労働組合(松浦鉄道竹下委員長、島原鉄道田尻委員長)に話を聞いてまとめたものです。地域交通はまちづくりと直結していることを改めて考え、今後、どのような取り組みができるのか考えたい。



地域公共交通(鉄道)をどう守っていくのか
―― 県北の松浦鉄道と島原半島の島原鉄道の
これからを考える ――

長崎県本部/長崎県地方自治研究センター 本田恵美子

1. 地域沿線の鉄道

 止まらない人口減少を受け、利用者の減少が著しく厳しい現状があり、廃線を余儀なくされている鉄道も多い。本来、公共交通として、交通弱者といわれる学生・高齢者地域住民の足として整備することが求められているが、バリアフリー設備やバスとの連携などの課題も多い。また、地方の鉄道会社には厳しい経営環境の中で必死に運営をしている会社が多く存在し、大胆な観光戦略により高収益体制を確立しているところもある。観光列車を走らせ、地域活性化の一翼を担うことも大事な視点である。このような地域沿線の鉄道の状況を知り、まちづくりの視点で課題や今後についてともに考えたい。

2. 松浦鉄道

(1) 松浦鉄道
 松浦鉄道株式会社は、地元長崎県佐世保市に本社を置き、長崎県・佐賀県で旧国鉄特定地方交通線の鉄道路線の西九州線を運営し、有田(佐賀県有田町)~佐世保(長崎県佐世保市)間93.8kmを結ぶ第三セクター方式の鉄道会社である。西九州線の前身は、旧国鉄松浦線である。松浦鉄道株式会社(以下、松浦鉄道と称す)は、1988年の開業以来、沿線に高校や病院が多いこともあり1993年度から2000年度までの8年間連続して営業黒字を維持し、「三セクの優等生」と言われてきた。

(2) 松浦鉄道の歴史
 松浦鉄道は、国鉄が廃止され、地域の沿線も廃止となることになった。廃線となり、草が生い茂り、茫々となった駅を労働組合が草刈りをした。それを見ていた地域の人が、この地域に鉄道を走らせたいと、地域と労働組合が一緒になり、形態は変わるが復活させたいと町内会から議会へ、議会から県へと地域のすそ野から動きがはじまった。地域アンケートの実施、佐世保や佐々での説明会をして、駅を57駅まで増やし、ワンマン列車で第三セクターとして、1988年に運行が開始された。開業当時32駅であったが、その後、新駅を1989年に7駅、1990年に9駅等合計25駅を開業させ、現在では57駅となっている。駅数の増設とともに取り組んだのが、列車本数の増発であった。開業当時、列車本数は87本で2000年から172本、2012年からは、車両を従来型から乗降口が大きい600系、列車本数は142本まで増発し利便性の向上に努めてきた。時代に合わせての本数見直し、土・日・祝日ダイヤを検討している。

(3) 鉄道利用促進関係事業
① 長崎県鉄道利用促進事業(2019年)
 松浦鉄道の新規キャラクター「鉄道むすめ」を採用し、松浦鉄道のPRと促進。
 平戸口駅の日本最先端表示板をリニューアル予定
② 自治体連絡協議会補助金事業
 駅壁画ペインティング(佐賀・楠久駅 長崎・真申駅)
 沿線見どころマップ

(4) 松浦鉄道の企画
① 松浦鉄道で行くのんびり気ままな日帰り旅
② レンタル列車(レトロン号)
③ 特製弁当付きで飲み放題!! 松浦鉄道ビール列車
④ シンデレラエクスプレス号
⑤ 大学合格祈願切符
⑥ MRでいく「鉄旅」
⑦ MRに乗ってウォーキング
⑧ 駅カフェ「なごみ」
⑨ 列車で宅配

(5) 松浦鉄道の課題
① 乗務員他従業員の雇用条件や環境
 ・賃金について、公務員の7割から8割でとの約束であったが守れていない
  時間外勤務の手当等で生活が成り立っている状況
  賃金格差がある
 ・労働条件、休日が少ない。早期退職の原因
 ・若い人が安心して働くことができる職場
② 地域沿線の過疎化
 ・人口減少により乗客が減少
 ・ルールに基づいた補助金を確保できるか

(6) 松浦鉄道のこれからに向けて
 今回のコロナ感染拡大など予期せぬ事態はこれからも起こりうる。地域にとって必要な松浦鉄道を守っていくためには、経営者、労働者が共に知恵を出し合い時代に合う鉄道を考えることが求められている。
① コロナ禍の中で
 会社の経営努力、社員の献身的な努力により、黒字運営ができていた松浦鉄道であるが、新型コロナ禍の影響は大きく営業収入が50%減少した。学校の休校等が大きな減少の要因。観光やインバウンドに頼らず、地域に根差した鉄道経営をしてきたので50%で下げ止まっている。しかし、今後を考えるとコロナ禍の中での社会の構造も大きく変わってくることが予想される。交通体系の見直しも一気に前に進むことを想定しながら取り組みを進める必要がある。
② 労働者の賃金・職場環境
 5年、10年で潰れるであろうと考えられていた松浦鉄道開業から30年、できる限りの経営努力(ダイヤの見直し、観光列車)は大事であるが、若い人が安心して働くことができる賃金・労働環境の改善は必然です。定期昇給もない時もあり給料は上がらない時代があり、その後、経営陣の交代により様々な見直しが行われ徐々に変わりつつあるが賃金は依然低いまま。職場と仕事と生活を守ることが一番重要であり、そのために労働組合はあります。
③ 原発災害に
 2019年2月、九州電力玄海原発(佐賀県玄海町)の再稼働後初めて行われた県の原子力防災訓練。30キロ圏に位置する松浦、平戸、壱岐、佐世保4市などの住民約670人を含む88機関約1,800人が参加した訓練。重大事故に備えた初の試みとして、松浦鉄道の列車を使った避難が初めて実施された。陸路は渋滞したら動けない中、鉄道は避難移動の有効な手段。松浦鉄道を存続させる意義はここにもあります。
④ まちづくりとともに考える。
 地域の発展や衰退は鉄道利用者数の増減に反映する。鉄道路線の廃止は地域の衰退に直結する。今後、新幹線整備後の沿線見直しもある。その時、松浦鉄道沿線拡大も視野に入れながら、地域にとって必要不可欠な心が通う松浦鉄道。これからのまちづくりに欠かすことのできない存在です。

3. 島原鉄道

(1) 島原鉄道の概要
 島鉄こと島原鉄道株式会社は、長崎県島原市に本社を置く鉄道会社で、島原半島を中心に鉄道部門、バス部門、船舶部門がある。鉄道路線は長崎県の諫早駅と島原市の島原港駅(43.2㎞)を結んでいる。雲仙普賢岳の噴火災害からの復旧中の増資時に長崎県や地元市町が一部株式を保有するようになったが、のちに資本参加したこともあって、第三セクターではない。2018年に長崎バスグループとなった。

(2) 島原鉄道の経営状況
 島原半島にとって島原鉄道は地域住民や学生の足としてあたりまえに利用されていた。時代が変わるにつれ、自家用車の普及、子ども人口の減少で利用者が減少し、経営状況も悪化していった。
 追い打ちをかけるように、1991年6月3日に島原半島にある普賢岳が噴火し大火砕流発生(死者43人:家屋焼失・倒壊179棟)が発生した。そのため、列車は部分運休を余儀なくされ、経営状況はますます厳しくなった。職員の賃金にも手を入れられ労働組合も組合員を守る為に奮闘したが経営状況の悪化で賃金も下げられていった。
 長崎県と沿線市町からの出資も受けたが厳しい状況は続いた。2008年には、島原外港と南島原市の加津佐町間が廃止となった。列車がなくなると高齢者の移動や子どもたちの通学など様々な議論があったが利用者が減少する中、選択肢がなかった状況であった。
 2018年に長崎バスグループの傘下となったが、厳しい経営状況に変わりはない。
 また、2019年度の1月まで、鉄道部門は黒字(補助金を加えた)であったが、2月中ごろからの新型コロナウィルス関係で、一転して赤字に転落した。

(3) 島原鉄道の企画
① 島原鉄道の観光列車「しまてつカフェトレイン」
 島原半島ののどかな風景を眺めながら地元のグルメやスイーツを提供。車窓の景色を眺めながら優雅なランチタイム、"日本一海に近い駅"で美しい景色を眺めながらごゆっくりとティータイムの列車で"トレインアテンダント"によるご案内もあります。「島原城天守閣」と「湧水庭園 四明荘」へ入場できる特典もついていて、翌日まで使える「島原 → 諫早」片道 鉄道きっぷ付きとカフェトレイン運行日の翌日まで使える片道鉄道きっぷ付です。

(4) 島原鉄道の課題
① 乗務員他従業員の雇用条件や環境
 会社の存続のため、賃上げを抑制され続けた結果、他の産業に比べ低所得であり、バス運転士の要員不足が深刻である。また、新卒の高校生の応募が少なく、専門職(整備士)などの技術の継承が危ぶまれている。
② 地域沿線の過疎化
 全国の地方の問題でもある、超少子高齢化が進んできている。
 島原半島は、風光明媚な観光スポットが多くあり、対外的なPR活動を積極的に行い、交流人口を増やさなければならない。

(5) 島原鉄道のこれからに向けて
 これから先、沿線人口は益々減ってくる傾向にある。しかしながら、島原半島唯一の公共交通が無くなってしまったら、生活するうえで非常に危機的状況になる。また、鉄道を未来永劫、残していくためには、上下分離方式の導入も視野に入れ進んでいかなければならない。
 われわれ組合は、今後も公共交通維持・発展に向け、経営陣と協議を重ね、また地域住民にも愛される生活交通・観光交通・福祉交通が充実した『島鉄』をめざさなければならない。

4. 地域公共交通(鉄道)をどう守っていくか

 2つの鉄道(松浦鉄道・島原鉄道)を取材して感じたのは、この鉄道をつくったのも守っているのも沿線地域であるということである。労働組合の代表が言われたのは、「通勤や通学、公共交通を支えるのが鉄道の使命であり、経営陣とも協議を重ねながら、これまでも、そしてこれからも地域交通の足として守り育てていく」と。
 聞きながら「私たちに何ができるのだろうか、何かできることがあるのではないか」と考えた。
 守っていくのは、鉄道で働く仲間だけではない。
 地域や自治体政策に携わる仲間が一緒になって知恵を出し合い、できることを行動に移すことが、地域沿線を守っていくことに繋がるのではないか。
 そのために、松浦鉄道で行くのんびり気ままな日帰り旅、島原鉄道の「しまてつカフェトレイン」に乗ってみませんか。お二人の委員長が言われていました「お客様に利用してもらうことが存続に繋がります。」と。


諫早市・島原市・雲仙市・南島原市のキャラクター列車