【自主レポート】

第38回地方自治研究全国集会
第7分科会 福祉、環境、農業…地域の宝を探し出せ

 飯南町職員組合は町のサイクリングイベントである"飯南ヒルクライム"の際に、社会奉仕活動として、普段使われていない道路の清掃活動をここ3年、毎年行っています。これにより、スムーズな大会運営ができ、町の活性化にも役立っています。少し視点は違う、公共施設(道路)の維持と地域づくりとして、レポートをします。



観光客の減少と観光施設の存続について
―― 職員組合活動を通じて分かる外からの魅力 ――

島根県本部/飯南町職員組合 藤原 将弘

1. はじめに

 飯南町職員組合は、組合員113人(2019年4月1日現在)で構成しており、一致団結して日々の組合活動に取り組んでいます。
 我々は公務員という傍ら、組合員として当局との交渉を進めながら、職場環境の改善や生活水準を守るために、日夜努力しているところです。しかしながら、そもそも組合とは自分達を守るためだけのものではなく、本来、与えられた公務員という国民全体の奉仕者としての使命を果たすべく、社会へ大きく奉仕・貢献していくべき役割を担う組織でもあります。
 現在、飯南町が抱える大きな課題は、所有する「道の駅頓原」、「琴引ビレッジ山荘」、「憩いの郷衣掛」など、中山間地域の自治体の多くが抱える観光宿泊施設の老朽化です。今回は、学校、図書館、下水道などの公共施設よりさらに広い意味として、町が所有する観光施設に焦点をおき、我々が取り組んでいる観光イベントに関わる社会貢献への取り組みと、その取り組みが組合員や町へ及ぼす影響について、レポートに取りまとめました。

2. 観光イベントと組合の関わり

 「国道に車が走っていない」2013年3月、飯南町を取り巻く環境が大きく変わった。
無料高速道路「尾道松江線」が、松江市から広島県三次市まで開通(延伸)し、これまで国道54号を通行していた車の多くが、無料高速道路へ流れ、飯南町の国道54号を通行する車が半減してしまったのだ。
 元々、信号機が少ない国道ではあったが、お盆や正月など観光客や出身者が広島と島根を行き来する時期は、国道54号を車で横切るためには、信号がないにもかかわらず、1分程度待たなければ、通行できない状況であった。それが2013年3月以降のお盆や正月は、たった3秒で通行できるほど、交通量が激減した。
 通行量の減少により、観光客が飯南町を通ることがなくなり、観光施設を知るきっかけも失われ、立ち寄ることもなくなり、町の観光産業に大きな打撃となってしまった。
 特に国道54号を通る大型観光バス、高速バスは、ほとんど通ることがなく、年に数回しか目にすることがなくなり、たまに走っているバスを見るとなぜか、とても貴重な物を発見したかのように、少しうれしくなってしまうのは、私だけだろうか。
 一方で、交通量の減少によって喜んでいる人もいる。たとえば、国道54号沿線に住む町民からは、「道路を走る車が少なくなり、夜がとても静かになった。」とか、高齢の方から「大型車にあおられることなく、ゆっくり走ることができるようになった。」とか。
交通量が減少した国道54号
 さらには、自転車を趣味とするサイクリストにとって、とても良い環境となりました。
 無料高速道路開通前からサイクリストにとって、飯南町はとても良い環境であると言われていました。理由は、適度な標高差があることや信号が少ないこと、道路が広いことなどの理由でした。広い道路を走る大型車が減少したことから、これまで以上に国道54号が走りやすくなりました。
 そこで、町や観光協会では、無料高速道路開通後、これまでの立ち寄り客に頼るのではなく、サイクリスト向けのイベントやレンタルサイクル、スキー場、りんご園狩りなど、町へ目的を持って来ていただける観光客の確保に向けて取り組んでいます。
 そのような状況の中、飯南町職員組合も社会貢献活動として、観光事業に少しでも力になれることがないか検討をしました。その結果、「飯南ヒルクライム」というサイクリングイベントにおいて、地域住民組織、町、町内企業などが共同でコース清掃を取り組んでいることを知りました。真夏の気温30度という環境の中、長いコースを限られた時間の中で清掃しているため、より多くの清掃ボランティアが必要とされており、組合もメンバーに加わりました。
 このサイクリングイベントは、全長13キロ、高低差600mのコースをタイムで競う大会です。
 2005年頃から始まり13年近く続いている大会です。ゴール地点は、標高1,050mにあり、一般の方がこのコースを自転車で走るのは、不可能な傾斜となっています。
 この大会の開催にあたり、当初からイベント前日に主催者や地域住民組織、町、町内企業がこれまで、コース清掃を行ってきました。雨の影響で、落ち葉、枯れ枝、小石などが、コースに流れ込むため、この作業はどうしても直前にしなければなりません。特にスピードを競う大会であり、サイクリストが転倒することが無いように、少しでも良い環境で走っていただくことが大切です。このちょっとした取り組みが、参加者に対する「おもてなし」にもつながります。
 参加して良かったと思っていただくことが、次年度への参加や、他のサイクリングイベントへの参加、町への愛着にもつながります。
 そして、町の観光客数の増、施設の利用者増へつながっていきます。
 スタート地点の観光施設「琴引ビレッジ山荘」には、宿泊される方、帰りに温泉に入る方など、サイクリストが利用されます。さらには、帰り道に「道の駅頓原」のアイスクリームを食べに立ち寄られる方もいます。
 飯南町職員組合がヒルクライムコースの清掃作業を実施して3年が経過しますが、さまざまな発見がありました。
 ・参加した組合員が自転車イベントを行っていることを知らなかった。
 ・コースとなる道路や草の峠(くさんだわ)という山道を通ったことがなかった。
 ・草の峠(くさんだわ)という山道を通ると隣の広島県庄原市高野町へ行くことができることを知らなかった。
 ・車も通らない道路がサイクリストにとっては、魅力を感じるという驚き。
 ・コース清掃で落ち葉、枯れ枝、小石等を吹き飛ばすために使用するブロワーを初めて使った。
 ・自転車に興味を持った。など
 さまざまな業種で構成される組合員にとって、この清掃作業はたいへん刺激となっています。

3. まとめ

 町の観光施設を維持していくためには、施設の利用があって初めて価値、必要性が評価されます。
 しかしながら、利用者の減少や老朽化、財政難などを理由に施設が廃止されれば、減少どころか利用者がゼロとなり、施設で働く雇用も失われてしまいます。また、町内の観光施設の衰退は地域の方が利用している温泉、ランチ、宴会もできなくなることにもつながり、町民の生活にも大きな影響が出ます。そして、それは町の魅力の減退、地域の衰退にもつながります。
 本来なら利用者収入を増やし、その財源を積立て、施設の整備、改修することがあるべき姿かもしれませんが、中山間地域の飯南町へ訪れる観光客や地域の利用収入だけで、整備することは非常に難しい状況です。ならば、この観光施設が町にとって必要な施設であると評価されるように、少しでも多くの観光客を呼び込み、施設利用へつなげ、さらには、周辺の商店等への相乗効果へとつなげていかなければなりません。
 飯南町という"まち"、そして役場があってこその組合であり、飯南町全体が元気であり続けるように、飯南町職員組合も、社会貢献活動を通じて、小さいながらも町の観光施設の運営・維持に貢献していけるようにしていきたいと考えています。