【自主レポート】

第38回地方自治研究全国集会
第7分科会 福祉、環境、農業…地域の宝を探し出せ

 2019年1月、美郷町のマスコットキャラクター「みさ坊」は町のアンバサダーに任命され、町のPR活動を行うこととなった。しかし、亥年である2019年、PRで一定の成果を挙げないとマスコットキャラクターとして「引退」をしなければならず、背水の陣で臨む。本レポートにおいては、課を超えて取り組むこととなった職員が、限られた時間の中、互いの長所を生かしながら取り組んでいる内容の紹介と、それらの取り組みを地域住民にどのような影響を与えたのかを紹介し、今後の課題について考察する。



強い絆で町を元気に
町のPR活動を通じた組合員同士の連携
―― みんなのみさ坊プロジェクト ――

島根県本部/美郷町職員組合 岩谷 知広

1. 取り組みまでの概要

(1) 美郷町公式マスコットキャラクター「みさ坊」とは?
 2014年4月、辞令交付が行われ、みさ坊は町のマスコットキャラクターとしての第一歩を踏み出した。

 
就任当時のみさ坊(2014年4月)

 みさ坊は観光担当を担っていた定住推進課(当時)が、町のPRを推進することを目的に企画・製作した「町の公式マスコットキャラクター」である。特産品であるイノシシ肉「おおち山くじら」をモチーフにしており、その容姿は、手と尻尾はクジラで、顔の上半分はイノシシの子ども「ウリ坊」の顔にキバを生やしている。頭には町のあちこちから眺めることのできる「三瓶山」、町を縦断するように流れる大河「江の川」とそこに架かる橋を模した帽子をかぶっている。目つきは鋭さの中にもどこかとぼけた味わいがある。
 永遠の生後2ヶ月という設定で、キモかわいいキャラクターとして幼年児を中心に人気が高い。
 名前については町内外に向け一般公募を行った。応募総数は400件を越え、応募結果を踏まえた協議の結果、名前は「みさ坊」に決定した。
 辞令交付年度から様々なイベントや行事に登場し、町のPR活動を行ってきた。また、全国的な知名度向上のた め、当初からゆるキャラグランプリにエントリーし、町全体で順位を上げるための活動を行ってきた。
 活動としては大きく2つに分けられる。イラストによるPR活動と、各種イベント等でのPR活動である。
 イラストは数十パターンあり、一定の要件を満たし、指定様式による使用申請を行えば無料で使用できる。

   
イラストの例

 着ぐるみは2体あり、サイズの都合上、スーツアクターは身長が160cm以下の人間(男女不問)に限られている。また、視界が悪くなるため、必ず介助スタッフがついて活動することになる。

   
着ぐるみによるPR活動の様子

 当初は、目つきがこわい、かわいくないなどの意見が寄せられたが、同時に注目を集めることにもつながり、その知名度は徐々に高まっていった。

(2) プロジェクトチームの結成
 一般住民にそのキャラクターは定着し、一定の評価を得られたが、ゆるキャラグランプリでの順位は伸び悩み、今後の展開について徐々に行き詰まりを見せ始めていた。町としても新しい展開を打ち出す必要に迫られていた。
 そのような中で考えられたのが、プロジェクトチームの結成である。
 2018年末に役場の全職員を対象とした、みさ坊の今後の展開に関するアイデア募集が行われた。その中から優れた内容を提案した職員を中心に、プロジェクトチームが結成された。メンバーは担当課(定住推進課。現:みさと暮らし推進課)を中心とした9人で、2019年が亥年であることを踏まえ、2019年の1年間をプロジェクト推進期間として下記のプロジェクトを中心に進められることとなった。
① みさ坊のゆるキャラとしての引退をかけた町アンバサダー就任
② 大学クイズ研究会とのコラボレーションによる、謎解きイベント開催
③ 動画による各種イベントの参加と報告
 まずは町のアンバサダー就任式を年明け早々に行うことを決定し、動画によるPRを行うことになった。

2. みさ坊PRプロジェクトチームの活動

(1) みさ坊、町アンバサダーに就任する
 2019年1月11日、町アンバサダー就任式が行われた。就任式には多くの報道関係者が集まり、緊迫感のある中で行われた。町長が任命書を渡した際、「最近の活動はパッとしない。イノシシなのにウリがない。亥年である今年、進退をかけて活動をしてほしい」と厳しい言葉をかけたのに対し、みさ坊からは「活動で成果が出なければ引退する」と怒りの(?)衝撃発言があった。このやり取りは、プロジェクトメンバーがシナリオを作成し、入念なリハーサルの上行われた。
 就任式の模様は町のホームページやYou Tubeで動画配信された他、各メディアで取り上げられ、あるテレビ局では全国放映されることとなった。SNS上でも賛否両論多数のコメントが寄せられ、大きなインパクトを与える結果となった。プロジェクトメンバーはシナリオ作りの他、演出、報道機関への連絡等連携しながら行った。

アンバサダー就任式の様子

(2) イベント参加と体制整備
 就任式後、多くのイベントから出演依頼が寄せられた。プロジェクトメンバーとしては大きな喜びであったが、同時に、運営体制についても見直す必要が出てきた。
 これまでは数人の職員がスーツアクターとなり、付き人は担当課の職員で対応してきたが、出演数が多くなったために休暇等の対応が困難になってきた。
 このため、対応可能な職員を募り、職員全体での運営体制をとることとなった。
 また、一般住民によるスーツアクター対応等も検討中である。
 2019年に入ってからの活動内容は下記の通りである(2019年6月末現在)
1月20日(日)   ふるさとフェア(広島市 グリーンアリーナ)
1月27日(日)   美郷町長杯剣道大会(美郷町立邑智小学校体育館)
2月9日(土)   浜隣フェス開会式(美郷町浜原 浜原隣保館)
          スサノオマジックみさとタウンデー【美郷デー】(松江市 総合体育館)
3月1日(金)   エフエム山陰 ちぇけら♪FRIDAY♪
3月2日(土)   石見肉まつり(江津市 神楽の里舞乃市)
3月9日(土)   心の駅 陽だまりの丘(雲南市大東町 忍者屋敷オープンイベント)
3月17日(日)   山陰道「多伎・朝山道路」開通式(出雲市)
          悠々ふるさと吹奏楽団スプリングコンサート(みさと館)
4月24日(水)   クールビズ発表会(美郷町役場)
5月1日(水・祝) 令和元年婚 記念撮影(美郷町役場)
5月4日(土)   わがまち魅力発信隊(広島県マツダスタジアム)
5月10日(金)   交通事故防止啓発活動(美郷町役場前交差点)
5月15日(水)   民生委員PR活動(美郷町役場前交差点)
5月27日(月)   インドネシア・バリ島マス村視察団歓迎式(美郷町役場前)
6月4日(火)   禁煙キャンペーン(美郷町立都賀保育園)
6月6日(木)   禁煙キャンペーン(美郷町立邑智保育園)
6月15日(土)   別府ほたるまつり(別府公民館)
6月16日(日)   みさと町民文化祭(大和中学校)

(3) みさ坊グッズの作成と販売
 みさ坊の関連商品はこれまでにもいくつか作成された。タオルハンカチや特産品収納用の袋、クッキー等である。これらの商品はいずれも好評を博し、さまざまなイベントで販売されたり、イベントの賞品等に活用されていた。
 今回新しい商品として、缶バッジとラインスタンプの作成を行った。
 缶バッジは役場備付の専用作成キットを活用し、プロジェクトメンバーと有志の手作りである。デザインはプロジェクトメンバーで数パターン程度考案し、役場全職員に好きなデザインを選んでもらい、無料で配布した。勤務中は常に身につけてもらうようにしてもらい、出張、来客時等に自然にPRできる体制を作った。その結果出張先でも携帯したいという申し出があり、合計で数百個の注文があった。また、町の国際交流事業として、バリ島マス村との友好協定を締結したことにちなみ、バリ島をモチーフにした特別缶バッジを作成、こちらも全職員に配布した。今後は有料販売も視野に入れて商品化をめざしていきたい。
 ラインスタンプは、当時、みさ坊のキャラクターデザイン担当者にプロジェクトメンバーでアイデアを提案し、図案化したものを販売している。町内外の多くの方に利用していただいており、こちらも好評である。
 その他、みさ坊のがま口財布を担当課で作成し、2018年度の保育園卒園児に記念品として配布した。こちらは既に商品化され、販売を行っている。また、ふるさと納税の返礼品としてぬいぐるみも制作されている。今後はすべての関連商品に対し、販売窓口の設置等体制の整備を行っていきたいと考えている。

   
缶バッジ   ラインスタンプ   ぬいぐるみ

(4) 京都大学クイズ研究会とのコラボレーション
 大学の謎解きサークルとの協働による、新しい視点でのPRを行う企画も行った。この発案は時代の流行をよく把握する職員によって行われ、新たな視点によるPRの可能性を探る上で有効性が見込まれると判断されたため実施することになった。
 京都大学の謎解きサークル「ENIG-ROID(エニグロイド)」に依頼したところ、快諾をいただいた。2月に町の様々な情報を送り、企画を練ってもらった。次に5月にサークルのメンバーに町へ来てもらい現地撮影を行った。プロジェクトメンバーは撮影のアシスタントとして現地を案内し、撮影許可等の調整を行った。
 学生たちによると、謎解き動画の視聴者は世界中に存在するとのことで、全世界を対象とした町の知名度向上になる可能性がある。
 動画は近日中にネット上にアップされる予定である。

 

撮影中の京都大学 謎解きサークルENIG-ROID(エニグロイド)のみなさん


(5) みさ坊応援ソングの作成

 みさ坊の応援ソングも作成した。作詞作曲はプロジェクトメンバーが偶然浮かんできたメロディーを元に作成し、編曲については地元中学校の音楽教諭に依頼し、完成した。3月17日に町内で行われたスプリングコンサートで中学生吹奏楽部の演奏とプロジェクトメンバーを含めた役場職員有志で結成された合唱隊によりはじめて一般公開された。
 コンサート時の動画はネット上で公開され、大きな話題を呼び、新聞にも大きく取り上げられた。
 また、町民文化祭では来場者による大きな手拍子の中で歌が歌われ、大きな盛り上がりを見せた。
 今後はイベント等様々な場所でライブ活動を行う予定で、また、第2弾となる楽曲も近日中に公開する予定となっている。

スプリングコンサートの様子

(6) 地域活性化への影響
 これら一連の取り組みの中で、地域でも様々な反応を見せ始めている。がま口財布を保育園児に贈呈した際は、園児はお礼に歌を歌ってくれるという感動的な場面が見られた。応援ソングについては中学校吹奏楽部の演奏や動画を見た中学生達から多くの好意的な反応があった。謎解き動画の撮影の際は地域住民と大学生との多くのふれあいがあり、学生たちは住民のやさしさに感動し、住民は新鮮な出会いに喜びの表情を見せておられた。缶バッジは町外者に好評であり、町内からも要望が絶えない。ラインスタンプのダウンロード数も順調に伸び続けている。地域の認知度は上がり、みさ坊を通じて町の魅力は町内外に少しずつ伝わり始めている。

3. 今後の活動と課題

(1) プロジェクトの活動予定・課題(みさ坊より)


(2) まとめ
 あるゆるキャラファンによると、みさ坊はゆるキャラとして評価されるべき要素をすべて持ち合わせているそうだ。つまり、ゆるキャラとしての潜在能力を多分に秘めているといってよい。秘められた力を引き出すのはわれわれ職員である。そのためには多様な視点と知識と斬新な発想が不可欠である。プロジェクトは担当課の壁を越えた、ゆるやかな連携の中で進められている。このような取り組みを行うときこそ、普段からの組合員同士のつながりが大きな意味を持ってくる。お互いの長所を生かしながら、様々な角度から検討し、意見を交わしながら今後もみさ坊を通じた町のPR活動を進めていきたい。