【自主レポート】

第38回地方自治研究全国集会
第9分科会 「やっぱはまりで、ぬぐだまる」(津軽弁)

 近年、日本では少子高齢化が進み、生産年齢人口の減少や生活環境の変化などから「多様な働き方」への対応が急務となっています。しかしながら本市の保育職場では、育休復帰後の働き方が限定されているのが現状です。育休復帰後の保育士が多様な働き方を選択できることで、離職防止や優秀な人材の確保につながり、結果として「保育の質の向上」につながることから、「多様な働き方」実現にむけた課題や対策について提言します。



保育士の多様な働き方の実現にむけて

 

広島県本部/自治労はつかいちユニオン保育部 山﨑梨恵子・道本  唯・宇佐川麻未・山本 佐紀

1. 取り組みのきっかけ

 廿日市市では、現在多くの保育士が産休や育休を取得しています。
 現在、私も二人の娘の育児中で、育休を取得していますが、数年後に職場復帰するとき、「どのような働き方を選べるのか」「仕事と家庭の両立ができるのか」を考えるようになり、育休中や育児短時間勤務中の保育士に呼びかけ、意見交換会を開催しました。
 そこで改めて本市の育児短時間勤務制度(以下、「時短勤務」)が、私たち保育士にとって必ずしも利用しやすい制度になっていないことが分かりました。
 現在、全国的にも保育士不足が叫ばれている中、家庭と仕事の両立が可能な安心して働ける職場環境をつくることで、保育士人材の確保にもつながり、ひいては『保育の質の向上』にも寄与するものであると私たちは考えました。
 このことを実現させるためには、私たち自身がこの問題を本市の保育行政全体の問題と捉え、具体的な行動を起こしていく必要があると考え、今回の取り組みがスタートしました。

2. 現状と課題

 廿日市市では2016年度に策定した「保育園再編基本構想」の下、現在市内16園(基本構想前は19園)ある公立保育園を2025年には10園程度に減らそうとしています。正規保育士の採用は、公立保育園数の減少を前提として、毎年の退職者数などと照らし合わせて決定しています。そのため現在は、正規保育士が慢性的に不足しており、それに代わる臨時職員も十分に確保できていない状態です。
 また、社会情勢や市町村合併などの影響により各年度で保育士の新規採用者数に大きな差が生じており、現在、採用者数が比較的多かった世代の保育士が産休や育休を取得しています。
 さらに休業を経た保育士が、時短勤務で各園に復帰しはじめており、今後も増加見込みであることから、時短勤務の需要は確実に高まります。
 以前から時短勤務を選択する保育士(以下、「時短保育士」)はいましたが、とても少数であり、制度の内容について詳しく知っている保育士がいなかったことから、私たちはまず、時短勤務制度に関する学習会を行いました。
 その結果、本市の保育士の時短勤務は週3日のフルタイム(早朝・延長保育の当番を含む)が基本となっており、近所に両親が住んでいるなど、自身の育児をサポートしてくれる環境がないと、とても取得しづらい制度であることが分かりました。

3. 育休・時短勤務保育士による会議、担当課との意見交換

【図1】育休・時短勤務保育士による会議の概要

日 付テーマポイント
2019.8.5時短勤務制度の学習様々な立場での視点や課題、各自の思いを共有
2019.10.28時短勤務制度の改善現状の問題点と改善案について議論
2019.12.23保育士数の現況確認市内全公立保育園の保育士数を検証(次年度含む)
2020.1.27勤務体制・条件確認再編構想妥結時の労使合意が守られているか検証
2020.2.28時短保育士役割再考時短保育士の配置・役割変更による長所・短所を議論
2020.3.18担当課との意見交換今後の時短保育士の働き方の提案、担当課の考え方

(写真)育休や時短勤務中の保育士が集まり議論

(写真)担当課の職員とも意見交換を行いました

(1) 時短勤務制度の学習(2019年8月5日)
 児玉副執行委員長を講師に迎え時短勤務制度の概要を学習した後、時短保育士から制度を利用することで助かる面や難しさについて意見を聞きました(図2参照)。
 法律では、勤務形態を①から④まで選択できるはずですが、保育現場では園の運営上の問題や前例がないことから、③④を選択せざるを得ない現状があります(図3参照)。また、人手不足により早朝・長時間・延長保育の当番(以下、「当番」)や③に加えて土曜日の出勤が必要な場合もあります。
 また、2016年に実施した「保育園再編基本構想」の団体交渉時に妥結した内容(別紙)の達成状況を確認し、達成されていない項目がいまだ多いことが分かりました。

【図2】時短保育士の意見

母親としての視点保育士としての視点
・家庭の事情もあり、フルタイムでの復帰しか選択肢がなければ辞職していた・家庭の事情で、月金休みの働き方を選択したが、週の始めと終わりの子どもの姿が分からず、つながりのある保育が難しい
・出勤の3日間に保育準備や日々の事務、保護者対応などが凝縮されるため、出勤時間内で仕事を終わらせるのが難しく、帰宅後に家事や育児をこなした後、持ち帰った仕事をすることが多々ある ・0歳児はとくに日々の成長や変化が著しく、週3勤務では子どもの今の姿を十分に理解しにくい。また、子どもと継続的な一対一の丁寧な関わりが持てないため、信頼関係を築くことに難しさを感じる
・早朝、延長出勤の当番も含めた今の勤務時間では、夫や両親の協力がなければ、子どもの預け先や保育園の送迎などが物理的に難しくなり、辞職にもつながるのではないか ・自分とペアを組むクラス担任の臨時職員に負担をかけてしまう。ペアの保育士からも「週3日より週5日の方が良いのでは?」との話があった。ペアも今の勤務形態に難しさを感じていたように思う
・廿日市市の事務職員の多くは週5日の時短勤務(部分休業)を取得している。保育士も同じ働き方が選べると働きやすい。 ・園長をはじめ園の保育士にはいつも助けられている。そのことに日々感謝をしつつ引き締まる思いで出勤している。

【図3】「育児短時間勤務制度」の勤務類型
※ 本市の事務職は「部分休業制度(業務開始又は勤務終了の時間を30分単位(1日最大2時間まで)休業できる)」を取得しているケースが多い
(2) 時短勤務制度の改善(2019年10月28日)
 時短勤務の体制について、「どのように改善すると働きやすいか」「具体的に何を求めていくか」を話し合いました。

<課題1>限られた時間での事務や保育準備時間の確保
 時短保育士の意見として、「週3日勤務の限られた時間の中での事務や保育準備の時間の確保の難しさ」があげられました。現状、本来は当番に入らなくてもよいはずの時短保育士も、人手不足により他の職員と同じように当番に入っています。通常勤務の職員同様の当番回数を行うことで、時短保育士が当番をする割合が、通常勤務の保育士よりも高くなっています。そのため、保育以外の時間(事務や保育準備、クラス内での伝達など)が非常に少なく、勤務時間内で必要な業務を行うことが困難となっています。

<課題2>子どもや保護者との関係構築、担任同士の連携の難しさ
 現在、時短保育士もクラスの担任を受け持っています。本来、担任は子どもや保護者と密に信頼関係を築きクラス運営の中心を担う役割があります。しかし、週3日の時短勤務ではそれが十分に果たせない難しさがあります。例えば、複数担任でクラスを受け持つときには担任同士の連携が必要不可欠であるにもかかわらず、時短勤務の中では、伝達、相談など必要な時間の確保が難しく、継続した保育が行いにくいことなどがあげられます。
 また、担任を受け持つことで事務や保育準備など業務量が増加し、前述したように、その時間の確保が難しくなります。結果として、一緒に担任を持つ臨時職員の負担や、時短保育士の精神的負担に繋がっています。

<改善案>
 前述の改善策として、3つの提案(働き方)があげられました。
① 複数担任のクラスを通常勤務の正規職員と一緒に持つという働き方
 事務や保育準備の時間確保は課題ですが、臨時職員の負担は軽減でき、常にクラスに正規職員がいることで安定した保育が提供できると考えられます(新規採用職員とクラスを持つことは、限られた勤務時間内での十分な指導が難しいので望ましくない)
② クラス担任を持たないフリー保育士としての働き方
 時短保育士や保育園全体にとってもメリットのある働き方であると考えられます。
③ 時短保育士の当番の割合を減らす、または当番に入らないという働き方
 この働き方は、時短保育士は子育てと仕事の両立という点でメリットは大きいですが、他の保育士は当番の回数が増えるなど負担が大きくなり、園の運営上の課題が発生します。
 人手不足の現状を踏まえ、まずは①担任を正規職員と一緒に持つことを目標に設定しながら、保育園再編後の最終的な目標として、②フリー保育士として働くことや、③当番に入らない働き方の選択を求めていく方向性が見えてきました。

(3) 保育士数の現況確認(2019年12月23日)
 現在の公立保育園のクラス数と職員数(任用区分ごと)を確認しました。
市内全園総じて保育士数はぎりぎりで、担任が足りていない園では臨時職員の保育士が日替わりでクラスに入る園もありました。すでに産休・育休に入っているにもかかわらず、代替の任期付職員が募集しても集まらない。このような先行きに不安のある園が現状で3園ありました。2020年度も現時点で5人の職員が産休・育休に入る予定のため、育休代替不足は、市内全園の保育士不足に繋がることが明らかになりました。
 2019年度に時短保育士は3人で、保育士不足により年度途中の1月より時短勤務から通常勤務に移行する保育士が1人、他の2人も2020年度から通常勤務に移行する予定です。時短で勤務しても、他の保育士への罪悪感(負担を増やしてしまう)や実質的な事務時間の少なさなど課題が多くあり、時短勤務をしにくい現状があるようです。
 2020年度は育休から4人復帰(通常勤務2人・時短勤務2人)、新規採用は3人の予定ですが、退職者の数や再編構想を視野に入れた採用が引き続き求められます。

(4) 勤務体制・条件確認(2020年1月27日)
 2016年に実施した「保育園再編基本構想」の労使交渉妥結時に交わした確認書(別紙)の職員配置基準にかかる14項目のうち、未達成のものが9項目ありました。
 そのうち、3(3)の①、②でフリー保育士についての記述がありますが、フリー保育士が置かれている園は、現在17園中5園のみでした。そして、どの園もフリー保育士は臨時職員が担っている現状がありますが、フリー保育士は全クラスに入室するため、各年齢やそのときどきの状況把握をして柔軟な対応が求められたり、運動会・発表会などの大きな行事でリーダーとして準備に追われたりと負担が大きいのが実態です。そのため、臨時職員の中にはフリー保育士となることを負担に感じている職員もいます。時短保育士の働き方として、フリー保育士になる選択肢があれば、臨時職員の負担軽減とともに、フリー保育士が配置される園が増え、妥結内容の達成に近づきます。さらに、時短保育士も、短時間の勤務であっても働きやすいのではないかという意見も出ました。
 その後、本市の保育行政を管轄するこども課長と直接話をする機会を得て、保育士不足について、育休代替任期付き職員が募りにくいため、特定業務等従事任期付き職員(3年の任期を与えられている職員)をあてていこうと考えていることや、将来的には公立保育園が大幅に減少することから、正職の採用人数を増やすことはせず、再編構想に基づく統廃合で人員調整をしていこうとしていることなどをうかがいました。また、保育現場の業務効率化のため、ノートパソコンの導入について提案し、将来的にさらなる効率化を見据えたICT化を検討している旨の回答を得ました。この他、2021年度からの会計年度任用職員も、短時間勤務の希望が多いことなど、担当課としても課題を抱えていることが明らかになりました。
 こども課長としては、育休明けに通常勤務をすると思っていたら、時短勤務を希望されて戸惑うこともあることから、復帰する前に直接こども課に来てもらい、「どのような働き方を希望するか聞いてみたい」ということでした。現場の保育士と担当課とで、互いに分からないことも多くあり、じっくり話し合う場が必要と考えたことから、後日、直接意見交換をさせてもらうことを提案し、承諾を得ました。

(5) 時短保育士役割再考(2020年2月28日)
 こども課長とのやり取りをメンバー全員に周知し、今ある人材の中から配置を工夫することで課題解決をはかれないか話し合いました。①「時短保育士が複数担任クラスを正規職員同士で担任を持つ場合」②「加配保育士の場合」③「フリーの場合」の3点について、時短保育士・管理職・周りの保育士・子どもおよび保護者それぞれの視点からみたメリットとデメリットについて考えました。
① 複数担任クラスを時短保育士と正規職員で担任を持つ場合
 現在この条件で配置されている時短保育士もいますがごく少数です。正規職員の不足によりほとんどのケースで時短保育士と臨時職員でクラスを持っているのが現状です。原則、『週3日・8h/日・担任を持つ』という条件の下で勤務するため、週の内、時短保育士が休みになる2日間は臨時職員への負担は大きくなります。

  メリット デメリット
時短保育士 災害時などの責任の所在がわかる。また有事のリーダーシップや連携が取りやすい。 なし
園長・副園長 なし
他の保育士 臨時職員の負担減。 なし
子・保護者 有事にも責任を取れる立場の者に預ける安心。保育の質が保たれる。 なし

② 時短保育士が加配保育士として働く場合
  メリット デメリット
時短保育士 時間内で働ける。事務や保護者対応などクラス担任より負担が少ない。勤務形態の幅が広がる。週5日4Hもあり得る。 加配が年度途中で切れた場合、異動を伴う可能性あり。
園長・副園長 専門性が確保できる。 加配が年度途中で切れた場合、時短保育士の異動などに伴う手続きなどが発生する可能性あり。
他の保育士 臨時職員の負担減。 なし
子・保護者 専門性が確保できる。 週3日8Hの場合、保育の連続性が保ちにくい。

③ 時短保育士がフリーとして働く場合
 フリーは6クラス以下の園でも配置可能であるが、現在は全園で臨時職員が担っている。そこに時短保育士が入ることで、現在時短保育士が配置されているクラスには正規または任期付職員が配置するという仮定。
  メリット デメリット
時短保育士 事務の負担減。精神的負担減。週5日4Hでの勤務が可能。 なし
園長・副園長 フリーの代わりに動いていた副園長の負担減。事務所の連携がとれる。担任が常にクラスにいる安心。 週3日8Hだと行事リーダーなど不在の日がある。週5日4Hで勤務であれば問題ない。
他の保育士 クラス担任の出勤に穴がなく、負担減。臨時職員がフリーを担うことによる行事リーダーなどの負担減。 なし
子・保護者 時短保育士の出勤に穴がなく、常にクラス担任がおり、安心。保育の連続性も保障される。 なし

(6) 担当課との意見交換(2020年3月18日)
 こども課との意見交換会を開催しました。時短保育士の現状を伝え、今後の働き方の提案をしました。2016年の交渉で妥結した事項について達成状況を確認し、廿日市市の現状と照らし合わせながら、時短保育士の今後の実現可能な働き方について話し合いました。あわせて、働き方の改革として事務の電子化を進めてほしいこと、公立保育園の魅力の一つとして質の良いおもちゃを揃える案を新たに提案しました(以下、意見交換会で協議した内容を抜粋して記載)。

① 時短勤務を希望する場合の相談について
 時短勤務を希望する場合は園長、人事課、こども課に早めに(前年度の夏頃)相談すれば、任期付職員の採用人数の調整もしやすいため、職員の配置を配慮できるかもしれない。
② 退職者数と新規採用者数の人数のバランスについて
 現在の廿日市市の公立保育園の保育士数は139人で(再編前160人)、この数は同規模の自治体と比較しても決して少ないわけではない。更に事務職と保育職の人数比率も保育職の割合が高く、市全体の職員のボリュームは変えられないこと、再編により保育園数が今後減っていくことを踏まえると今より保育士数を増やすことは難しい。園の数が減ることで各園の正規保育士の割合が改善していくと考えている。
③ 2019年度の退職者と採用者の人数
【プラス】17人(新規採用3人、任期付2人、再任用2人、休園10人)
【マイナス】13人(退職者6人、育休代替不足7人)
※ 4月から育児休暇に入るまでの期間は特定任期付の人数はさらにプラスになる
※ 2020年度は退職者4人、新規採用3人の予定
※ 退職者は再任用になることが多く、そのまま人数がマイナスになるわけではない
④ 時短勤務の現状、今後の働き方の提案について
 これまでの話し合いで明らかになった時短保育士の現状・課題について伝え、今後の働き方①正規職員と時短保育士で担任を持つこと(時短保育士同士、新規採用職員以外)②時短保育士がフリーとして働くことを提案する。

(参考)担当課の意見
 ①の園側のメリットの一つとしてあげられている"正規職員がクラスに常にいることで、事故や災害時の責任の所在が明らか"については、保育時間11時間の中でクラス担任がいない時間は必ずあり、その責任を全て担任が負うことはできない。任用形態に関わらず、すべての職員が責任感を持って保育にあたっていると認識している。
 クラス担任の中での正規職員の役割は、子どもと密に信頼関係を築き、保育運営の中心を担うこと。であって、災害時の責任のためではない。組織として園長・市長がその責任を負うもの。そのためメリットの一つにはあたらないのではないか。
 ②他市は、時短保育士がフリーをしている園も多いと聞くが、2020年度から会計年度任用職員制度が施行されるので、他市の時短勤務の体制も変わるのではないか。会計年度任用職員は昇給し、正規職員の処遇に少し近づく。これまでは、担任を持つという重たい職責に、処遇が見合っていないことを理由に担任を持つべきではないと主張してきたが、その前提が少し崩れてしまうのではないか。処遇が改善されれば、時短保育士とペアで担任を持つことも可能なのではないか。
 1日短時間×5日、当番なしの働き方は園の運営上も、他の職員の心情的にも現状では難しいのではないか。提案の中では、時短保育士がフリーになることが実現の可能性が高いかもしれない。

⑤ 事務の電子化について

 現在、「クラスだより」「年間計画」「月案」「児童票」などほとんどの書類をいまだ手書きで作成しており、時間と労力を消費しています。これらの書類を「Word」や「Excel」で定型フォーマットを作り、毎年同じものを使えるようにすることで、事務効率の大幅な改善が見込めるのではないかと提案しました(千葉市の市立保育園で2020年1月から市内全園で保育士の事務作業を電子化することで負担を減らし、保育の質を高める取り組みが行われており、市によると書類作成などの業務量が年間5万時間分削減できるとのこと)。
 こども課からは、システム上の内部の課題はあるが千葉市のようなICTによる総合的な保育支援システムの導入を検討しており、「各クラスへのタブレット端末の導入」「災害時の子どもの安全管理」を含め、早ければ2021年度予算に要求をあげていきたいとの回答がありました。
⑥ 公立保育園のおもちゃについて
 他市や私立と比較しても、廿日市市の公立保育園のおもちゃは安価なプラスチック製のおもちゃや老朽化しているおもちゃが多くなっています。単価は高くても子どもの発達に有益かつ何十年も使っていける良質なおもちゃ(木製遊具など)を揃え、質の高いおもちゃに触れられるということを公立保育園の魅力のひとつにしてはどうか提案しました。
 こども課からは「要望されているおもちゃが、子どもの発達を促すことの具体的な根拠があればより説得力がある。予算を増やすことはできないので、すぐに回答はできないが検討しておく。現在、調理器具の老朽化が進んでいるのでまずはここから改善していく予定である」との回答がありました。
 その後、書記長から「廿日市市は昔から『木のまち はつかいち』と呼ばれており、市内には技術力のある木工・木材事業者が多くいる。市も『産業振興ビジョン』の中で木材振興を掲げている。公立保育園のおもちゃを市内の木工事業者に市産材を使って作ってもらえばwin-winの関係を構築し、良質なおもちゃの導入を達成できるのではないか」との提案があり、庁内の関係部署に確認した結果、農林水産課が2019年度に事業として上記のスキームで「積み木セット(右写真)」を製作していたことが分かり、最終的に市内の全保育園(私立を含む)に寄贈してもらえることになりました。この取り組みが今後のモデルケースになることが期待されます。

 本市の現状を踏まえると、今後、保育士数を増やすのは難しいことが今回の話し合いで明確になりました。育休代替保育士は募集をしても応募がない状況ですが、今後も産休・育休を取得する保育士は増えていくことが予想されます。人手不足の現状を踏まえた上で、時短保育士だけでなく、園全体にとってより良い働き方を今後も考えていきたいと思いました(時短保育士が指定代替として勤務する働き方の案も新たにあがったので、メリットデメリットなどを検討してみたい)。また、電子化による事務負担の軽減や公立保育園ならではの魅力をどうつくっていくか、など前向きな話もあがりました。
 保育士間だけでなく、こうして担当課の職員と双方の現場の現状を伝え合い、課題を共有していくことや、他市の取り組みから学んだりすることで、新たな解決策が見出せる可能性があることも分かりました。

4. 活動後記

 2020年度からフルタイムで復帰した保育士(2019年度までは時短保育士)に意見を聞く機会があり、就学前の幼い子どもを育てながら、フルタイム勤務をすることの大変さ、家族や周りのサポートがなくては仕事が成り立たない現状を知ることができました。
 現在の保育現場における育児短時間勤務の運用では、時短勤務で働きたくても働きにくい状況があるため、フルタイムで復帰した結果、家庭と仕事の両立が難しくなり、どちらかが犠牲になってしまうことが予測されます。
 今後、時短勤務の体制が整い、自分の働きやすい勤務形態で働くことが可能になることで、こうした問題の解決がはかられていくのではないかと思います。

(参考)フルタイム保育士の意見
・子どもがまだ幼いので週5日4Hの勤務形態が選択できれば、引き続き、時短勤務を選択したかった。
・当番の負担が大きい。周りの先生が配慮してくださるが、先生方も当番があるため、代わってもらうことも難しい。早出出勤の我が子の送迎がとくに大変で、保育園に通う子どもを、朝7時から追加料金で民間の託児に預け、小学生の子どもは登校時間まで近所の方に30分預かってもらっている。周りのサポートがないと難しい。
・フルタイムになり、幼児クラスの担任になったことでの事務量の多さ、残業も増え、帰宅後にわが子とゆっくり関わることが難しくなった。

5. 今後の活動について

 これまで私たちが取り組んできたことを保育部全体で共有し、すべての保育士が支えあうことで、誰もが安心して働ける保育職場をつくっていきたいと思います。このことが、保育士の離職を防ぐほか、新たな優秀な人材の確保にもつながり、結果として『保育の質の向上』に寄与することになると考えています。また、時短勤務の勤務形態だけでなく、過去に労使で約束した内容が全園で実現され、廿日市市で働くすべての保育士にとって働きやすい環境になるように、今後も現場の声を伝えていく機会を大切にしていきたいと思います。最後に、私たちだけの視点ではなく、園長先生をはじめとして支えてくださっている園の先生方や行政的な視点からも物事を考え、みんなが幸せに働いていける方法をこれからも考えていきたいと思います。

(別紙)2016年の公立保育園再編構想の団体交渉妥結時に当局と交わした確認書の内容
1 公立保育園再編構想について
 地域の状況や民間の動向を踏まえて、公立保育園を一定数存続させつつ、民間保育園との施設比率を現在の概ね2:1から10年後には1:2へと再編する。
2 職員の処遇について
(1) 一定数の公立保育園を存続させ、正規職員の雇用を継続する。
(2) 公立保育園を民間移設又は廃園とする場合、臨時・非常勤等職員の希望に応じ他の公立保育園又は移管先の民間事業者への就職など雇用が継続できるよう最大限努力する。
3 職員配置について
(1) クラス担任は正規職員(一般職の任期付・再任用を除く)とし、複数担任の場合は、次のとおりとする。
① 複数担任が3人以下のクラスの場合、正規職員(一般職の任期付・再任用を除く)を1人以上配置する。
② 複数担任が4人以上のクラスの場合、正規職員を2人以上配置し、そのうち1人以上を一般職任期付職員及び再任用職員を除く正規職員とする。
③ 0歳児の複数担任のクラスの場合、正規職員(一般職の任期付・再任用を除く)を2人以上配置する。
④ 正規職員(一般職の任期付・再任用を除く)の新規採用者が複数担任のクラスを受け持つ場合、これまで培った保育技術を次世代に継承することを目的に、同じクラスに主任保育士以上の職位の正規職員(一般職の任期付・再任用を除く)を配置する。
(2) 一時保育は、少なくとも1人以上の正規職員(任期付を除く)が対応する。
(3) 園長及び副園長を除くフリー保育士(任期付を除く正規職員)を次のとおり配置する。ただし、再編構想の制度完成までの間は任期付職員を充てることができる。
① クラス数が6以下の保育園には、保育士1人を配置する。
② クラス数が7以上の保育園には、0歳から2歳対応としての保育士1人を配置し、加えて3歳から5歳対応として保育士1人を配置する。
(4) これまで培った保育技術を次世代に継承することを目的に、正規職員(任期付・再任用を除く)の新規採用者は、主任保育士以上の職位の正規職員(任期付・再任用を除く)と1年以上クラス担任をペアで受け持つ。
(5) 上記(1)から(4)の職員配置を速やかに実施しながら、遅くとも再編構想の計画期間である10年後には完全実施することで正規職員の比率を改善する。
(6) これまで培った保育技術の次世代への継承と保育士の年齢構成を適正に保つため、継続的かつ計画的に正規職員(任期付・再任用を除く)を採用する。
(7) 子ども・子育て支援新制度によって掲げられた次の保育士配置基準は、廿日市市全体の保育の質の改善を先導するため公立保育園が率先して改善し、遅くとも、子ども・子育て支援新制度を実施するための国の財源が整った段階で完全に実施する。
① 1歳児配置基準を6:1から5:1に改善する。
② 4・5歳児配置基準を30:1から25:1に改善する。
(8) 支援が必要な子どもや家庭への対応を強化するため、専門的知識を有する者を配置した相談体制を構築する。
4 人材育成について
(1) 勤務時間中に必要な研修に参加できる体制を整えるとともに、保育技術に関する研修に参加する機会を増やす。
(2) 支援が必要な子どもや家庭への対応を強化するため、発達障がい等の子どもへの対応を学べる研修などへ参加させる。
5 子ども・子育てに関連する予算措置について
(1) 再編構想の中で存続する公立保育園の園舎及び遊具について、速やかかつ確実に修繕及び改修がなされるよう2018年度までに計画を策定する。
(2) 再編構想に基づき公立保育園が減少した場合に、その減少する公立保育園の維持管理経費の三分の二以上の額を残る公立保育園に次年度以降再分配し、各園に配分する額を増額する。
(3) 2017年度から順次計画的にパソコンを導入することとし、2020年度までに各クラス1台導入する。
(4) 民間移管又は廃園となる公立保育園に対しても、子どもの安心安全と質の高い保育を保障するため必要な予算措置を講じる。
6 民間に移管する保育園について
(1) 民間に移管する場合、少なくとも2年前までには保護者等に説明を行う。
(2) 民間事業者の選定に当たっては、移行後の保育内容や経営について条件をつけて募集し、専門家や現場経験者の意見を聴きながら行う。
(3) 民間事業者を選定する過程で、保育の水準を損なうと判断された場合は、子どもや利用者の利益を優先し民間移管を延期する。
(4) 移管先が決定後は、1年以上の準備期間を設け、その間に事業者が公立保育園に保育内容や子どもの状況を把握し、一定期間合同保育を実施するなどして子どもや保護者に負担がかからないようにする。