【自主レポート】

第38回地方自治研究全国集会
第9分科会 「やっぱはまりで、ぬぐだまる」(津軽弁)

 当院は平成30年「地域医療日本一」をめざして新病棟建設を終え、令和元年度グランドオープンを控えている。
 しかし、すでに平成4年より退院患者様を対象に院内を飛び出し地域での訪問看護指導を開始。平成9年には地域包括ケアの先駆けとなる在宅医療の一環として「訪問看護ステーションうんなん」を開設。約20年にわたり地域とともに歩んできている。この長きにわたる活動の現状と課題を報告する。



地域医療日本一をめざして
「訪問看護師としての役割を考える」
―― 当ステーションの現状と課題より ――

島根県本部/雲南市立病院職員労働組合 深ケ迫美佳、伊藤 泰子

1. 当ステーションの開設の背景

 当ステーション開設当時に作られた50年史に開設の経緯が述べられていた。
 開設当時雲南地域も高齢化率25%を超えるようになり、国の施策に沿って地域包括医療がこの地域でも求められるようになる。当院は国保直営診療施設となり在宅医療の一環として訪問看護事業に積極的に取り組んでいく。
 平成4年8月から退院患者を対象に訪問看護指導を実施。平成9年4月より大東町外9ケ町村雲南病院組合の訪問看護事業として訪問看護ステーションうんなんが開設された。開設当時より当院のみでなく、雲南地域の医療機関・開業医との連携を強め、町村及び地域のヘルパー等と連携を密にしながら安心して家庭で生活ができるよう訪問看護を実施。約20年たった今も地域包括ケアの一員として活動を継続している。

2. 当ステーションの現状

(1) スタッフ構成・人員の変化
 現在、看護師6人、理学療法士2人、作業療法士1人で訪問を実施している。
 看護師は正規職員3人と臨時職員3人、リハビリスタッフは正規職員で構成されている。また、近年在宅でも言語聴覚士のニーズが高く当ステーションでも兼務ではあるが訪問を実施している。
 訪問看護師の人数については開設当時16人であったが平成20年には11人、平成30年には6人となり減少している。

(2) 訪問地域
 開設当時と変わらず雲南市全域にわたり、飯南町・奥出雲町も訪問範囲となっている。
 サービス提供地域はとても広く車での移動で30分前後かかるところが全体の60%程度を占めている。
 訪問地域の割合は大東46%、木次18%、三刀屋12%、加茂8%、掛合9%、吉田7%(平成31年3月時点)

(3) 利用対象者
 訪問看護の対象者は小児から高齢者まですべての年齢。
 医療処置についても胃ろう・吸引・ストーマ・膀胱瘻・褥瘡・在宅酸素・人工呼吸器等多岐にわたる。近年、ALSやパーキンソン病等の難病の利用者やターミナルケアも含め医療依存度の高い状態で地域を療養場所とするケースが増えている。
 また、高齢化に伴い老老介護はもとより、要介護者同士での介護、独居、認知症など利用者の背景も多様化してきている。
① 利用者年齢
 50~59歳5%、60~69歳19%、70~79歳18%、80~89歳41%、90歳以上17%と半数以上が80歳以上の高齢者である。
② 介護度
 要支援 25%、要介護1 7%、要介護2 17%、要介護3 9%、要介護4 9%、要介護5 9%、医療保険 24%。
③ 男女比
 男性53%、女性47%とやや男性が多い結果。

(4) 緊急連絡・訪問体制(緊急時訪問看護)
 開設当時から24時間365日電話相談や必要時訪問実施ができる体制を継続している。
 平成17年からの資料があり、平成17年には電話相談19件・緊急訪問15件であった。その後徐々に相談・訪問ともに増加傾向であり平成27年は電話相談148件・緊急訪問41件、平成29年は電話相談85件・緊急訪問118件となっている。
 医療依存度の高いケースや、老々介護・独居など介護力不足などから緊急対応の増加が考えられる。また、在院日数の短縮で早期退院となり患者・家族の自立が促せないことも要因と考える。


(5) 在宅での看取り
 開設当初より開業医の先生方と連携し、在宅看取りを実施している。国の方針も在宅の方向に向かい住み慣れた我が家で生活を望む方も増えてきている。過去10年間で死後処置を実施した延べ人数は104人となっている。在宅看取りを考えながらも様々な理由で病院や施設となった方も含めると看取りに向けた看護を実施した件数は増加傾向にあるといえる。また、当ステーションでは看取りに向けて関わった利用者の遺族に対してグリフケア(遺族ケア)として訪問を実施している。現在200件程度の訪問実績となっている。


(6) 連携について
 主治医は雲南地域の医療機関・開業医のみならず松江圏域や出雲圏域からも指示を得て訪問を実施している。現在、29の医療機関と連携している。
 また、居宅介護支援事業所約17事業所、訪問介護事業所約9事業所、訪問入浴3事業所、デイサービスやデイケア、福祉用具・院外保険薬局などとも連携。小児や難病の対象者は市や保健所との連携実施。その他、障害や生活保護担当の方など利用者の背景に応じ連携実施している。

3. 現状から考える課題

 
 
(1) 訪問看護師の量的・質的確保
 地域包括ケアの要と言われている訪問看護だが、現状より看護師数は減少傾向にあり人材確保が一つの課題となっている。雲南市の訪問看護事業所はここ数年で3事業所に増加したが職員規模は3~5人程度のステーションである。この3事業所における訪問看護師は約14人であり、当ステーション開設当初の訪問看護師総数と比べても減少している。人材不足より質の充実も図りにくく、質の高い人材育成も課題といえる。

(2) 地域格差
 雲南市はサービス提供地域が広く、遠方になるとサービスが受けにくい状況があり地域格差が課題となる。

(3) 多職種連携・サービスの多様化
 利用者背景が多様化しており、医療面・生活面様々な角度から対応が必要になるため行政も含め多職種連携をスムーズに図ることが求められる。
 また、サービスに対するニーズも多様化しており、専門分野での対応・連携が課題となる。










4. 課題に対して現在の取り組み

 地域包括ケアの推進に伴い、在宅において看護師の確保・育成・質の向上は全国的にも課題となっている。日本看護協会でも重点政策事業として「訪問看護師倍増対策」が打ち出されている。島根県でも平成30年より訪問看護出向事業として病院看護師が自院に在籍したまま一定期間地域の訪問看護ステーションに出向し訪問看護に従事しながら在宅療養支援能力などの向上を図る取り組みがなされている。
 当ステーションでも人材育成という形で人材確保に取り組んでいる。10年以上前より医大生や研修医、看護学生の受け入れを行っている。近年は、高校生、地域枠推薦の高校生、看護学校の教員、他の訪問看護ステーション(コミケア)の事業立ち上げ前の研修・新人育成、認知症認定看護師などの研修受け入れも行っている。スタッフ数は減少しており普段の業務に加え研修を受け入れることはかなりの負担になっているが「一人でも多くの人に訪問看護を知ってもらいたい。地域での看護師の役割・必要性を理解してもらいたい。ひいては訪問看護師として仲間になってもらいたい。」といった気持ちで実習を受け入れている。
 成果が出るには時間がかかる取り組みだが、実習した学生が当ステーションで働きたいと当院へ就職するケースも出てきている。
 訪問看護師の人員が確保できれば地域の受け皿としてもっと多くの在宅希望者へ対応も可能となり、地域格差の問題にも対応できると考える。また、訪問看護の質の向上・多機能化といった面でも人員確保は不可欠である。
 東京都では地域包括ケアの中心的役割を担う訪問看護師の確保・育成・定着を支援するために「訪問看護教育ステーション」事業も実施されている。
 当ステーションの特徴としては設置主体が雲南市であること、雲南市立病院に付属していることがあげられる。この特徴を生かして市・病院・ステーションが連携・協力し合っていくことで、訪問看護を希望する新卒者の育成や訪問看護出向事業など教育による人材確保にも対応していけるのではないかと考える。地域で働く看護師を地域で育てていくことができれば人員確保だけでなく、定着化にもつながるのではないか。
 また、病院には医療の専門スタッフがそろっており、専門的知識を持ったスタッフが地域へ出かけていけるシステム作りができれば多様化するニーズにこたえることができると考える。実際、地域へリハビリスタッフの訪問が始まると依頼も多く、近年では薬剤師の訪問も始まり利用者だけでなく訪問看護としてもとても頼りになる存在となっている。
 訪問看護自体も多様化するニーズにこたえ、安定した経営に向けて、日本看護協会でも訪問看護の大規模化・機能強化に向けた経営管理も検討されている。
 雲南地域は小規模ステーションであり看護協会が考える大規模ステーションの役割を果たせるところは現状ない状況。これについても公的要素のある当ステーションとしては住民のニーズにこたえていけるように今後検討していくべき課題であると考える。そして、安定した経営を実現するためにも働きやすい職場作りが必要である。
 職場環境については以下のような取り組みを行っている。
 2017年に人員確保、臨時・非常勤闘争においては人員確保も含め訪問看護ステーションの処遇について組合を通じ交渉している。
 確認書では「近年増えてきた民間の訪問看護ステーションを基軸とした事業内容の機能分化、連携をすすめる」というビジョンが提示された。現状でも述べたがステーション数は増えたが小規模なステーションであり民間のステーションの限界もあると考える。その為、公的機関のステーションとして地域住民に安心した在宅生活が提供できるよう地域包括ケアについて現場の声をしっかり反映させた対策をとっていく必要があると思われる。
 働き方改革では令和2年度、会計年度任用職員制度がスタートする。現在の職員構成は正規職員3人・非常勤(フルタイム)3人の計6人で非常勤職員も日々の訪問に加え待機業務も担っている。その為、職員の半数がその対象となり短時間勤務へ移行すれば訪問件数や待機業務の継続にも大きな影響が出ると懸念される。安定したサービス提供が維持できるよう対策が必要と考える。

5. 結 び

 地域包括ケアを推進するにあたり地域資源の一つである訪問看護師の確保は重要な課題として取り上げられている。人員を確保していくことでサービスの範囲も広がり、質の向上にも繋がっていく。また、安定したサービス提供を実施していくことで住民の生活に安心も生まれ、住みやすい地域作りにもつながると考える。
 そのためにも現在継続している教育的働きかけを継続するとともに公的病院に付属している利点を生かし市とも連携をとりながら訪問看護師の確保・育成・定着に働きかけていく必要がある。