【自主レポート】

第38回地方自治研究全国集会
第10分科会 北の地から見つめる平和

 平和や戦争への意識の低下・希薄化や被爆体験の風化が懸念される今、これらを我がこととして受け止め、次世代へ繋いでいくために自治体職員として何ができるのか。本レポートでは、府中町が「非核自治体宣言」を全国に広める先駆けとなった経緯、先人達の平和に対する熱い想いをまとめた2018年度自治研レポート提出後に展開した身近な平和・非核運動への積極的な参加や人と地域を巻き込んだ新たな取り組みを紹介します。



継続した取り組みの先には何があるのか?!
―― 未来の平和を府中町から ――

広島県本部/府中町職員労働組合 三村 正義・近藤 一郎・加計 康敬・末信 彰洋・石内 和也

1. 継続した取り組みの模索

(1) 自治研活動として継続するために
 平和や戦争への意識の低下・希薄化や被爆体験の風化が懸念される今、どのようなことを行えば、それらを自分のこととして共感することができるのだろうか、また、これらを次の世代に引き継ぎ伝えていくことができるのだろうかということについて、執行部そして組合員の中でも議論を深めてきました。
 私たちの町、府中町は、「非核都市宣言」を全国に広める先駆けとなり、戦争の苦しさ、悲しさ、恐ろしさ、醜さ、汚さ、虚しさ、悲惨さ、残酷さを訴えかけてきました。
 恒久平和を祈り黙祷をささげること、一人の国民として、地域に暮らす住民として、自治体で働く職員として、労働組合に結集する組合員として、私たちの周りにあるたくさんの平和・非核活動に積極的に取り組み、原爆や戦争の記憶を繋いでいくべきだということから何ができるのか模索していくことを執行委員会の中で話し合ってきました。
 その結果、2018年度の第32回地方自治研究広島県集会に広島市同様被爆の記憶を持つ府中町の先人達の平和に対する熱い想いとこれからのめざすところを自治研レポートとして提出しました。
 幸いにも当レポートは第37回地方自治研究全国集会(土佐自治研)へノミネートされ、さらに第55回護憲大会(佐賀大会)での発表の機会を得ました。

(2) 世界情勢
① 核兵器禁止条約
 国際社会における核兵器の非人道性に対する認識の広がりや核軍縮の停滞などを背景に、2017年7月7日、「核兵器禁止条約」が国連加盟国の6割を超える122か国の賛成により採択され、多くの国が核兵器廃絶にむけて明確な決意を表明しました。2017年12月には、条約採択への貢献などを理由に「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN)がノーベル平和賞を受賞するなど、世界的に条約に対する関心と期待が高まっています。2017年9月20日から各国による署名が開始されており、50番目の国が批准した90日後に条約が発効する見込みです。(2019年9月26日現在の状況:署名:79 批准:32)
 今後、核保有国や核の傘の下にある国々を含む全ての国の締結をいかに促進するかが、課題となっており、「核兵器のない世界」を実現させるためには、核保有国や核の傘の下にある国々がこの条約を締結することが不可欠です。この条約に対して、日本は参加もせず批准もしないという曖昧な行動をとっています。この日本政府の行動は広島、長崎の原爆の被災地の方々の大きな疑問と憤りになっています。
 よって、「核兵器禁止条約」の早期締結をするべきと考えます。
② 近年の核兵器不拡散条約(NPT)情勢
 「唯一の戦争被爆国」である日本は、核兵器保有国と非保有国の「橋渡し役」を自任していますが、「核の傘」を提供する米国に気を使う姿勢が目立つのが実情です。2019年の準備委員会では多くの加盟国が、最終文書にあたる勧告案に核兵器禁止条約への支持を盛り込むよう要請しました。日本は逆に、保有国の反対意見も盛り込むよう提案しました。条約推進国や国際NGOには失望が広がり、核保有に関して日本の米国への忖度がはっきりしました。

2. 2019年8月6日 府中町原爆死没者慰霊式並びに平和祈念式に組合として参加

(1) 府中町原爆死没者慰霊式並びに平和祈念式
 原爆による凄惨な被害を広島市とともに被った町である府中町においても、引き続き世界恒久平和にむけて、歩みを進めていくため、原子爆弾の犠牲となった多くの御霊のご冥福を祈念するとともに、「平和」への思いを未来へ受け継いでいくため毎年式典が開催されています。この式典には、多くの小中学生や関係団体が多く参列しています。
 当職労として、この式典に対し何ができるか執行部の中で話し合いました。

(2) 府中町原爆死没者慰霊式並びに平和祈念式のための清掃活動の実施
 8月6日の式典に合わせて、原爆死没者慰霊碑周辺の清掃などの作業を組合員に呼びかけ、8月2日業務終了後、組合員による慰霊碑周辺の清掃・草抜き作業を実施しました。その日以外にも、周辺の清掃作業を実施した組合員がいました。

(3) 組合として折り鶴の献納
 当職労として平和活動に積極的に参加していくため、組合事務所に折り紙を設置し、また、組合員に折り紙を配布するなどして、折り鶴を折ってもらうことで、少しでも平和について考え、それを願って折ってもらう取り組みを実施しました。
 そして、組合員一人ひとりが折った鶴を千羽鶴として府中町主催で毎年実施している当式典に献納することとしました。組合員の中には、家族で鶴を折るなど積極的な人もいて、当初想定していた数を大幅に上回る2千羽をつくることができ、当式典へ献納することができました。
 式典に継続して折り鶴を献納できるよう組合事務所に常時折り紙を用意し、組合員に協力をお願いしているところです。

3. 前田万葉枢機卿を府中町へ

(1) 前田万葉枢機卿(すうききょう)とは
 長崎県出身の前田万葉枢機卿は被爆2世であり、2011年から14年には広島司教区の司教を務め、現在は大阪大司教区の大司教であり、2018年6月からはローマ・カトリック教会で教皇に次ぐ地位の枢機卿に就任されています。日本人として6人目の枢機卿です。

(2) 前田枢機卿に府中町訪問を依頼するに至った経緯
 府中町は、広島市に周囲を囲まれており、イタリアのローマ市に囲まれたバチカン市国によく例えられます。同国は、人道的立場による平和の提唱が外交の特色と言われており、言うまでもなく国際的な影響力のある都市国家です。何よりも同国は軍事力の不保持を宣言し、実際に持っていません。日本は、憲法において軍事力の不保持を宣言しつつも実際には軍事力を保持しています。
 府中町は、非核都市宣言を通じて、軍事力不保持という憲法の精神と平和への熱い気持ちが潜在している町です。このように地理的にも類似しており、共に平和を希求する両者が姉妹都市提携をすることで連帯をすることができないか、私たちは考えました。
 そんな時、ローマ教皇フランシスコの広島訪問のニュースが飛び込んできました。
 前述の通り、その橋渡しをした前田枢機卿が大阪におられ、広島にゆかりがあるということも知り、一度、府中町の原爆慰霊碑に祈りを捧げていただきたい想いで手紙を書きました。

<手紙の内容>
2019年1月7日
トマス・アクィナス 前田 万葉 大司教 様 
府中町職員労働組合  
執行委員長 三村 正義

府中町へのご訪問のお願いについて

 謹啓 新春の候 前田大司教におかれましては益々ご清祥のことと心からお慶び申し上げます。
 私は、広島県安芸郡府中町に勤務する職員(自治体職員)からなる労働組合で、執行委員長の任にあたっております三村正義と申します。
 このたびは、突然御手紙をお送りするご無礼をお許しください。
 私たちのまち、府中町は、広島県西部に位置し、人口は5万2千人を超える全国で最も人口の多い町です。また、周囲を全て広島市に囲まれた全国的にも特徴的な形態であることから、「広島のバチカン」と言われることもあります。
 さて、私たち府中町職員労働組合は、平和への取り組みの一環として、町の原爆投下時の記憶と、1982年に「非核都市宣言」を議会採択するに至る経緯を題材としたレポートを作成し、昨年10月、私たちと同じく自治体職員等の労働組合の連合体である「全日本自治団体労働組合(自治労)」の研究発表会である「第37回地方自治研究全国集会(土佐自治研)」へ提出をいたしました。
 同年11月には、そのご縁で、「憲法理念の実現をめざす第55回大会(第55回護憲大会)」で当組合の平和への取り組みを発表いたしましたが、当組合の平和への取り組みは端緒を開いたばかりです。
 前田大司教におかれましては、広島に赴任されておられたこともあると聞き及んでおります。また、先月には、ローマ法王フランシスコ様が本年末頃訪日され、被爆地である長崎・広島をお訪ねになるご意向を示されたとの大変喜ばしい報道がございました。
 つきましては、カトリック教会における枢機卿の要職も担われている前田大司教に、バチカン市国に例えられる私たちのまち府中町へご訪問をいただき、当町の原爆慰霊碑に平和と核兵器廃絶の祈りを捧げていただければ、府中町民一同、大変勇気づけられるものと確信しております。ご多用中とは存じますが、ご一考いただければ幸甚でございます。
 なお、前述いたしました拙稿(レポート)および町を紹介したパンフレット類を併せてお送りさせていただきます。お目通しをいただければ幸いに存じます。
 まずは略儀ながら書面をもちましてお願いまで。

 2019年1月10日に手紙を送付したところ、2019年1月14日に大阪大司教区事務局から連絡がありました。最初は、府中町職員労働組合がどのような団体なのかの確認のため町当局(総務課)へ連絡があり、当職労から連絡することとなりました。
 内容は、前田枢機卿は送付した手紙と添付した自治研レポートを読んで深く心を打たれたとのことでした。また、広島に赴任した時には、府中町に原爆慰霊碑があることを知らなかったため、この度の平和への祈りについては、喜んで受けたいとのことでした。日程は、2019年8月6日の夕方、大阪大司教区に属する青年信徒達と訪問したいということでした。枢機卿という高位の聖職者に本当に訪問してもらえるということが実際に決まると参加規模、安全面の配慮について執行部と大司教区事務局との間で何度も協議しました。

(3) 町職労主催の8月7日府中町平和祈念式典
 カトリック大阪大司教区大司教の前田万葉枢機卿(70)が、広島県府中町の原爆慰霊碑前であった平和の集いに参列し、犠牲者へ祈りをささげられました。11月に広島と長崎を訪問する見通しのローマ法王フランシスコに「核兵器廃絶の機運が世界に広がるよう、強いメッセージを発信してほしい」と望まれました。
 集いを主催した町職員労働組合の招きで訪れた佐藤信治町長や職員、信者たち約70人を前に、前田枢機卿は「犠牲者の無念を胸にともに平和をつくり、核兵器を拒絶していかなければならない」と訴えられました。


【2019年8月7日中国新聞】

【榎川河川敷に建てられた原爆慰霊碑】

【慰霊碑を前に集合写真】

【参加者】約70人
・前田万葉枢機卿 少年少女
・自治労広島県本部 山﨑中央執行委員長、玉井財政局長
・高田県議会議員、児玉町議会議員
・佐藤信治町長、末平副町長
・高校生平和大使 共同代表 小早川 健
・第22代高校生平和大使 牟田 悠一郎
・府中町職員労働組合

4. 核兵器廃絶にむけた取り組み

(1) 核兵器廃絶にむけて
 ノーモア・ヒロシマ、ノーモア・ナガサキ、ノーモア・ヒバクシャ。この訴えは、核兵器廃絶と恒久平和を願う被爆国・日本国民の心からの叫びです。しかし、核弾頭は未だに世界に約14,450発(2018年6月現在)も存在し、核兵器の脅威から今なお人類は解放されていません。
 核兵器不拡散条約(NPT)とは、核兵器の開発、製造、保有を規制し、核兵器保有国の増加を防ぐことを主な目的とした条約であり、核兵器の不拡散、核軍縮の促進、原子力の平和利用をめざしています。
 連合、原水禁、KAKKINは、5年に1度開催されるNPT再検討会議にあわせて、核兵器廃絶を求める署名活動を行い、世界で唯一の戦争被爆国である私たちの願いを、日本政府と国連に届けます。
 核兵器廃絶と恒久平和の実現をめざして、「核兵器廃絶1000万署名」へのご協力をお願いします。


(2) 府中町職労の取り組み 核兵器廃絶1000万署名100%をめざして
 府中町職員労働組合は、いろいろな署名がくるが集まらない状況でした。皆が我が事として思っていない。高齢者社会が進む中、いろいろな意味で我が事・丸ごとは重要な考え方です。
 組合として、署名について100%をめざして取り組むことを執行委員会で意思決定しました。執行部の中にも否定的な意見が出ましたが、一人ひとり丁寧に訴えかけて取り組むことにしました。声かけ、個人ごとにメール便で送付したり、町内の他団体への協力、街頭署名活動を行い、150%を達成することができました。これこそ、草の根運動であり、ここから大きなうねりが出てくるものと思います。

(3) 高校生平和大使への支援活動
 核兵器の廃絶と平和を願う被爆地の願いを世界に伝えることを目的に、若い世代の平和活動育成も兼ねて、市民のカンパで高校生平和大使の国連派遣への取り組みをはじめました。これまで数多くの高校生平和大使が、「高校生1万人署名」などの活動成果を携えて国連を訪問し、国連では「ヒロシマ・ナガサキ・ピースメッセンジャー」に高い評価と期待感を示しています。また、国内外での活動を評価され、昨年はノーベル平和賞の候補にもなりました。この署名活動は広島においても実施されています。地理的に近い府中町職労は、何かできないかと考え、夏場に飲み物などを提供し、活動を見守ること、機関紙を通じてこの取り組みを組合員へ周知しました。
 また、上記の府中町職労主催の平和祈念式典へも高校生平和大使にきていただき、スピーチを行ってもらいました。

5. 結びにかえて

 このレポート報告を行うにあたり、前回のレポートから府中町職員として何かできないか、執行部そして組合員の中でも議論を重ねてきました。
 私たち現代を生きる者の義務として、戦争の苦しさ、悲しさ、恐ろしさ、醜さ、汚さ、虚しさ、悲惨さ、残酷さを知り、そしてそれを次世代に伝える必要があります。
 そして、これから組合員として、自治体職員としてできるのは、「平和」や「核」といった言葉に常にアンテナを張り、平和・非核運動に地域を巻き込んで積極的に取り組むことにより、核兵器絶対反対が国民全体の意思であるということを、共有していくことだと思います。
 それこそが、微力ではあるにせよ、戦争や核兵器で命をなくされた方へ私たちができる贈り物ではないでしょうか。
 人の思いをつないでいくことが、平和活動にも、組合活動にも非常に重要なことであると改めて感じるとともに、これからの地道な活動につなげていきたいと思います。