【自主レポート】

第38回地方自治研究全国集会
第10分科会 北の地から見つめる平和

 日本の安全保障政策の重点が南西方面へシフトする中、長崎県内の軍事施設(米軍・自衛隊)の一体化や機能強化が進められています。その現況を把握・分析するとともに、自治体や住民との関わりを研究しました。自治体の平和力を高める観点から、県内軍事マップを添付したブックレットを発行し、自治体および「無関心」だと言われる若い人へ提言することをめざしました。



長崎県内の軍事基地と自治体・住民
―― 自治体の平和力を高めるブックレット発行を通して ――

長崎県本部/自治労長崎県職員連合労働組合 生越 義幸

1. はじめに

 長崎県には、米軍原子力空母が入港する佐世保米軍基地および自衛隊基地(施設)が佐世保市、大村市、東彼杵町、対馬市、五島市、壱岐市、西海市に展開しています。近年、安全保障政策が北方方面から南西方面へとシフトし、2015年に新安保法制が成立されて以降、米軍および自衛隊の装備、任務に大きな変化が出ています。長崎県地方自治研究センターは、これらの変質が自治体および地域住民にもたらす影響を分析し、自治体の平和力を発揮する方策を探ることとしました。
 また、長崎県は被爆県であることから、「平和教育が盛ん」と言われ、一般的には若い人も平和への関心が高いと思われています。「非核・平和都市宣言」は県内全21自治体(長崎県も)で決議されていますし、平和首長会議にも20自治体(除く佐世保市)が参加しています。とは言え、自治体の平和力が十分に発揮されているかと言うと疑問であると言わざるを得ません。そういう中で、組合員の平和への関心も薄らいでいるような状況です。

2. 研究の経過

(1) ブックレット①の発行
 「戦争法」の成立を受け、長崎県地方自治研究センターは「岐路に立つ自治体の平和力」と題したブックレットを2017年に発表し、地方自治体の業務と国の政策との関係について様々な課題について論考しました。その中で、長崎県地方自治研究センターは、この法制が地方自治体の持つ平和力を侵食し、憲法や様々な法律で保障されている地方自治体の権限を国家のもとに従わせるもの、と批判しました。

(2) 研究の目的など
 今回の研究と実践にあたり、まず研究の目的を以下のとおり整理しました。
 新安保法制では自衛隊の海外派遣と併せ、米軍との共同作戦が現実のものになってきたことから、県内の自衛隊と米軍基地の実態を整理し、それぞれの自治体(行政当局、職員、住民)にとってどのようなかかわりが出てくるのか、ということを明らかにする。単に「実態・現状報告」に終わらせず、長崎地方自治研究センターがまとめた「岐路に立つ自治体の平和力」の続編の位置づけで研究する。

 そして、研究対象を以下のとおりとしました。

1. アジアの安全保障環境と県内の基地
 朝鮮半島情勢や中国との尖閣列島や海底ガス田開発などをめぐる緊張が盛んに主張されている中、日本を取り巻く安全保障上の懸念について整理する。とりわけ、日本・韓国・米国のそれぞれの立場について言及する中、県内の軍事施設の関係を総括的にまとめる。
2. 県内の軍事基地の一覧
 県内の自治体ごとの軍事施設のデータを示す。~マップを作成し、わかりやすくする。
3. 基地および自衛隊の活動状況
 軍事訓練の状況や自衛隊の機能(災害、救急、搬送等)
4. 基地と地域経済
 軍事基地の地域経済への影響(地域GDPに占める軍事関連経費)、基地交付金等の自衛隊関連予算
5. 若い世代の意識
6. 今後の課題
 ・佐世保市に新設・駐屯する陸上自衛隊水陸機動団
 ・大村航空基地と米軍輸送機オスプレイ
 また、研究メンバーについては、自治研推進委員の活動の場を創ることを目的の一つとし、自治研推進委員を中心に以下の研究委員で進めることにしました。
 <研究員>
  篠崎 正人(長崎県地方自治研究センター研究講師・リムピース編集委員)
  生越 義幸(長崎県地方自治研究センター理事・長崎県職員連合労働組合)
  小辻 敬三(長崎県本部自治研推進委員・西海市職員組合)
  筬島 鋭治(長崎県本部自治研推進委員・佐世保市職員労働組合)
  小川 太喜(長崎県本部自治研推進委員・平戸市職員組合)
  浦瀬 俊美(長崎県本部制作局長)
  本田恵美子(長崎県地方自治研究センター事務局長)
  川原 重信(長崎県地方自治研究センター理事)
 併せて、長崎県の地理的な状況を勘案して「事務局会議」を開催して研究の方向性等を点検・協議していくことにしました。

(3) 研究の経過
2018年 7月14日 第1回研究会
2018年 9月19日 第2回研究会……収集資料の分析、検討項目の整理
 ○米軍や自衛隊の基地があることによって経済的にプラスになることばかりでなく、負の面をとらえることが必要。沖縄では米軍基地は経済振興の最大の阻害要因となっている。米軍、自衛隊員による事件、事故も市民生活に与える影響として看過できない。
2018年 10月1日 第1回事務局会議……自衛隊を経験した県職員の話を聞く機会を設ける。
2018年 11月27日 第3回研究会
 ○基地に関する国の交付金・補助金の分析、基地の機能・役割の学習
2019年 1月19日 座談会







① 佐々木さんの体験談(1999年から8年間海上自衛隊で勤務)
 テロ特措法に基づきインド洋派遣に。甲板で小銃を構えて警備に当たっていた同僚が上司に「偽装漁船からテロ襲撃を受けたら小銃の引金をひいてよいか」と尋ねたところ、上司は「銃を抱えて立っていることが抑止力になる」とだけ返事。現場では交戦していいのかどうかの判断さえつかない状況。このままでは必ず戦死者が出る。自衛隊員の命を守るのも政治の責任。
② 座談会の発言より
 ○軍事施設があることで地域社会にどのような問題がもたらされるか等
  ・戦争と民間企業、経済についても考えると、仕事が忙しすぎて毎日の仕事に追われていて、人としての心をなくすこと、ロボット化され、何も考えられなくされている、自治体職員もそうされる恐れがあるのではないかと思うことがある。
  ・佐世保港について、83%の制限水域が存在している。これについては漁民等に弊害がでている。佐世保市議会でも制限水域を減らすように国に要望を出している。
 ○人口減少対策としての自衛隊誘致
  ・自衛隊誘致によって若い隊員がやってきて地域が潤うように感じるかもしれないが、定住するのではなく、国策によっていつでも移動する可能性がある(例:北海道に配置された戦車部隊など)のだから人口減少対策にはならない。
 ○地域経済への影響
  ・米軍は大きな工事も分割して地元業者を優先して発注するが、自衛隊では、6割を県外の大手に発注しており、地元業者は下請けに回される。その現実を見ておくべき。
  ・自治体への交付金については、やはり現状としては依存をしてしまっている。現在、佐世保は観光に力を入れているが、それにも米軍基地が妨げになっている。
 ○米軍、自衛隊の必要性
  ・「今存在するから」という発想ではなく、グアムへ移転するという話も出てきているので、どう縮小していくかという論議が必要だ。

2019年 2月1日 第2回事務局会議……座談会の内容検討、研究の方向性について協議
 ○日米地位協定や人口減対策としての軍事基地等誘致の問題も取りあげるべき。
2019年 2月28日 第4回研究会
 ○今後の研究会の進め方と役割分担
 パンフレットは資料集的なものとする
2019年 3月20日 第3回事務局会議……編集方針・スケジュールの検討
 ○記載内容を充実させるべき~編集方針の再検討と役割分担
2019年 6月25日 第4回事務局会議……原稿の読み合わせ
2019年 7月31日 第5回事務局会議……編集内容について協議
2019年 8月19日 第5回研究会
 ○研究会のまとめ、パンフレットの内容の確認
 

3. 研究のまとめ

(1) ブックレット②の内容
 自治体の平和的な発展のための議論が活性化する一助とするために、最終的にどういう形でブックレットにしたらいいのか議論した結果、以下の内容とすることになりました。
 はじめに    長崎県の自衛隊と自治体・住民
 第1章     自衛隊と地域経済
 第2章     自衛隊の災害・民生協力活動
 第3章     日米地位協定の問題
 結びにかえて  九州・沖縄各地で進む自衛隊基地建設

 資料1     長崎自衛隊MAP
         長崎県の海上自衛隊・陸上自衛隊・航空自衛隊
 資料2     「軍事基地」についてのアンケート結果
 資料3     長崎県内の軍事基地に関する座談会

(2) まとめにかえて
 県本部青年部・女性部代表者会議で「軍事基地アンケート」を実施しました。概要は以下のとおりです。
■長崎県の基地について
  知っている 30人    知らない 6人(県北・県南・長崎市・県央・不明)
■基地について知りたいことがありますか
  ・日ごろ、基地では何が行われているのか。
  ・軍事基地についての知識が皆無で、今のところ興味もあまりない。
■軍需産業について
  知っている 13人    知らない 23人
■基地問題等、思うことがありましたら自由に記載ください
  ・災害時に自衛隊が活躍している映像が報道されると基地反対と言いづらい。
  ・自分の住んでいる地域に基地が無いと身近に感じない(何が問題なのかわからない)。
  ・米軍による犯罪が増えないか心配。 ・国防のためにはある程度必要なものだと思う。
  ・異動による転入(出)があるとはいえ、人口が増えるのはよいと思う。
 このような組合員がどのように変容したのか検証していませんが、今回のパンフレットは組合員が「知る」ことからはじめることによって、学習につながり、そして行動につながることを期待しています。私たちは、高校生1万人署名活動のメンバーの合言葉である「ビリョクであるがムリョクではない」に学びながら、継続して平和運動に取り組んでいきたいと思います。
 さいごに、県本部・松田委員長がパンフレットで「結びにかえて」で寄稿していますので引用します。
 政府が進める自衛隊基地建設については、人口減少の中で、地域の活性化策としての積極的な自衛隊の誘致といったものを含めて、また、錦の御旗として地方自治体では防衛・外交等国策には、口を出せない。といった自治体の姿勢と東日本大震災、古くは雲仙普賢岳噴火災害等日本列島で毎年起きる地震・津波・集中豪雨・台風といった自然災害での国民の救助・救出、復旧作業等自衛隊員の目覚ましい活動に対する国民の感情の中で、基地建設に反対する声は広がりを欠いています。
 今回、改めて長崎県内に存在する自衛隊施設を調査いたしました。自衛隊の基地に対する肯定・否定の意見もあると思いますが、まず足元の県内の状況を確認していただければ、と思います。
 我々の立場としては、「自衛隊はあくまでも専守防衛」に徹し、他国への挑発・威嚇ととられるような先制攻撃的な武器の保有や活動は厳に慎むこと、日本政府として、その基本原則を遵守することを強く求めていきたいと思います。