【自主レポート】

第38回地方自治研究全国集会
第11分科会 青森で探る「自治研のカタチ」

 近年、「香害」といわれる化学物質過敏症(以下、CS)で苦しんでいる人が増えています。CSにより学校に通えない子どもたちがいることを知り、子どもたちやその父母にCSを理解してもらおうと2016年から作成に取り組んできた絵本「みんなでつくろう空気のきれいな教室を~『化学物質過敏症』のおともだち~」が2018年11月に完成しました。完成した絵本を活用した化学物質過敏症(CS)の予防・啓発活動の取り組みについて報告します。



絵本を活用した化学物質過敏症(CS)の予防・
啓発活動 ―― 絵本完成後の取り組みについて ――

北海道本部/自治労札幌市役所職員組合連合会

1. はじめに

 2016年から作成に取り組んできた絵本「みんなでつくろう空気のきれいな教室を~『化学物質過敏症』のおともだち~」が2018年11月に完成しました。その間、絵本作成の目的や作成過程について、第37回自治研全国集会や第2回自治研UNDER35全国集会において発表しました。
 絵本は初版として2,000冊作成し、半数以上を市内の小中学校、児童館、図書館、全道の自治労加盟単組、自治労各県本部に寄贈しました。残りについては、主な販売方法として1冊700円で注文販売を行い、完売となりました。また、販売で得た収入により1,000冊を増刷し、現在も販売を継続しています。2020年3月末までの寄贈状況および販売状況については、表1表2のとおりです。
 注文販売の購入者を対象にアンケート調査を実施し、この結果に基づき、CSの予防・啓発活動についての方向性を検討しました。

2. 化学物質過敏症(CS)とは

(1) 化学物質過敏症とはどんな病気?
 普通の人では健康上とくに問題とならないような生活中のごく微量の化学物質に、身体が過敏に反応することで、体調不良を引き起こす病気です。化学物質を一度に大量に体内に取り込んだり、微量でも長期間にわたって化学物質にさらされることにより(日々の飲食物や日用品、呼吸とともに吸い込むものなど)、その人の適応能力の限界を超えると発症します。私たちの体は、入ってきた有害物質を排出しようとしますが、はじめのうちは排出できても、体内へ取り込みが繰り返されると、排出しきれず蓄積されてしまうためです。しかし、その許容量や解毒力には個人差があり、同じ環境にいても発症する人としない人がいます。
 厚生労働省は、2009年に「化学物質過敏症」を病名登録しましたが、この病気の社会的認知は進んでいません。患者数は子どもを含めて全国で700万人以上(2011年調査)と推計されていますが、新たな化学物質が増え続けることから、患者数も増えていくものと思われます。化学物質過敏症を発症すると、さまざまな化学物質に反応するため、合成洗剤、柔軟剤、シャンプー・リンス、制汗剤、消臭除菌スプレーなど、まわりの人が身につけている人工的な香りから体調不良となり、重症化すると"学校に行けない"、"仕事に行けない"、"病院に行けない"と、日常生活を送ることが大変困難になります。しかし周囲からは、「一般的に使われているもの(売られているもの)でなぜ体調を崩すのか理解できない」、「においが嫌いなだけだろう」、「気のせいでは」など、精神的なものと誤解され、なかなか理解を得られないのが実態です。

(2) 症状は広範囲で、個人差が大きいのが特徴
 発症のしくみは、すべて解明されているわけではありませんが、解剖学的には、においを感じる感覚(臭覚)は脳の一部が外に飛び出しているという構造で、においによる嗅覚への刺激は中枢神経への刺激となるため、頭痛、めまい、吐き気などの他に、記憶が飛んだり、思考力が落ちるなどの症状がでます。脳が発育中の乳幼児や子どもは特に注意が必要です。反応する化学物質や、症状は人によってさまざまで、程度も異なりますが、広範囲に症状が現れ、個人差が大きいのが特徴です。
<おもな症状>
 頭痛、めまい、目の乾きやかすみ、鼻血、鼻水、鼻づまり、耳鳴り、咳、喉の痛み、動悸、不整脈、呼吸がしにくい、湿疹、肌のかゆみ、皮下出血、便秘、下痢、筋肉痛、肩や首のこり、音に過敏、光に過敏、全身倦怠感、疲労感、手足の冷え、不眠、不安感、うつ、記憶力や思考力の低下など

(3) 回復への取り組み
 現在、治療法は確立されておらず、特効薬(治療薬)はありません。基本的な回復方法は、①摂取した有害物質を体外に排出するためビタミン、ミネラルを補給して、免疫力を高めたり、スポーツや入浴などで新陳代謝を活発にする。②原因となっている有害物質を生活環境から取り除いて、体に取り込む化学物質の総量を減らし、化学物質に曝露されないようにする。③中枢神経の安定化(精神的安定)を図る。これまで取り込んだ化学物質を排出し、できるだけ取り込まないようにすることで、症状が軽減されることが多いですが、その後は生活環境に注意しなくてはなりません。

(4) 予防のために、子どもたちのために、できること
 私たちが体に取り込む化学物質は、飲食物から20%程度、残りはほとんど空気からのものです。そのため、長い時間を過ごす自宅や教室などの生活環境を安全に保つことは大変重要です。子どもは大人よりも体重当たりの呼吸量が多く、揮発する化学物質を吸い込みやすいといわれています。また、化学物質に対する許容量も小さく、成長段階であるため、化学物質の影響を受けやすくなるからです。現代は、多くの化学物質がいろいろな形で生活に使用されているため、化学物質の摂取をゼロにすることはできませんが、子どもたちの体に取り込む化学物質の総量を減らすために、香りを控えること、換気を励行すること、教室の床ワックスや校庭の除草剤など学校内の化学物質の使用をできるだけ減らすことなど、生活環境を安全に保つことが発症予防につながります。また同時に、化学物質に負けない抵抗力・免疫力をつけ、食事・運動・休養と規則正しい生活をして、強い体をつくることも必要です。子どもは、自分の体調や症状を上手に伝えることができません。的確な情報把握と細やかな配慮が大人に求められています。
 絵本『みんなでつくろう空気のきれいな教室を』22-23ページ(解説)より引用

3. 絵本について

 小学校を舞台として、学校の教室でいろんな香りに苦しむ女の子「しいちゃん」のために、クラスメートたちが自分たちでできることを考え、シャンプーや洗たく洗剤は香りのしないものを使おう、文房具も香りつきは持ち込まないようにしよう、換気をしようと、どうしたら「しいちゃん」と一緒に過ごせるのかを考えて、みんなで理解・協力して助け合うことを実行していく、思いやりを育むストーリーとなっています。
 アンケート調査の絵本の内容に関する質問では、表3のとおり約9割の購入者が「大変よかった」「よかった」としています。具体的には「内容がわかりやすい」「絵がかわいい・やさしい」という感想がもっとも多く、CSを知ってもらうきっかけづくりの内容となっています。

4. 絵本を活用したCSの予防・啓発活動について

 完成した絵本は、まず、札幌市内の市立小・中学校298校、児童会館203館、図書館・図書室44施設に贈りました。全てではありませんが、貸出図書や校内などでの読み聞かせ図書としての活用が報告されています。
 絵本の発刊について、単組の機関誌により組合員に広く周知し、組合員やその家族から多くの反響がありました。地元の北海道新聞にも掲載され、表4のとおり多様なきっかけで絵本を知っていただき、表5のとおりCSを発症されている方、健康や環境問題に関心のある方、医療関係者や子育て中の方などが購入してくださっています。購入された方は、表6のとおり個人のためだけではなく、友人や保育所、子育て支援団体などに寄贈したり、小児科や歯科などに書架としておくなどしてCSの啓発に活用してくださっています。
 また、環境保護団体などの学習会や集会でも紹介されることがあり、そこから新たな広がりに繋がっています。

5. 今後の展開について

 アンケート調査の職場や学校に望むことに関する質問では、表7のとおりCSについて知って欲しい・合成洗剤や芳香剤などを使わないで欲しいとの意見が大部分を占めました。また、自治体や国に望むことに関する質問では、表8のとおり化学物質の使用を規制して欲しい・CSの啓発活動をして欲しいとの意見が多くを占めました。
 札幌市では「香りのエチケットポスター」を作成し、公共施設に掲示するほか、民間施設や店舗に対しても掲示を促しています。また、市議会の2019年第1回定例会において、「柔軟仕上げ剤等の家庭用品に含まれる香料による健康被害の実態解明を求める意見書」が採択されていますが、化学物質の使用を規制する条例や法令を求めるため、CSをより広く知ってもらう必要があります。
 アンケート調査の結果、絵本はCSの予防・啓発活動に有効であると考えられます。この絵本を通じて一人でも多くCSのことを知っていただくため、この活動を継続していきます。
 最後になりますが、絵本の在庫はまだ500冊程あります。札幌市役所職員組合にて一冊700円(送料別)で販売していますので、興味のある方に紹介するなどして広めていただけたら幸いです。