【自主レポート】

第38回地方自治研究全国集会
第11分科会 青森で探る「自治研のカタチ」

 江津市の地域課題である地域医療の問題に対して江津市職員労働組合として、どのように関われるのか、また行政職員としてどう考えるのか、さらに地域住民としてどう行動できるかを考えることが必要です。そこで、自治研活動において、このテーマを取り上げ、活動を活性化しながら、実際の行動にどのようにつなげていくかを意識して行った活動内容と、その考え方、今後の展望についてレポートします。



地域課題に向き合うための自治研活動
―― ワークショップで創る活動の方向性と将来の展望 ――

島根県本部/江津市職員労働組合 植田 紘司

1. はじめに

(1) 江津市の概況
① 市の概要
 現在の江津市は、2004年10月1日に隣接する旧桜江町と1市1町の合併により誕生しました。島根県の中央部よりやや西寄りに位置し、面積は268.24km2のまちです。平均気温が15℃と温暖で、年間降水量1,500mm前後、積雪はほとんどなく温和な気候で、中国地方随一の大河江の川が日本海に注ぎ込む河口に位置しています。古くは江の川河口の港として、江戸時代には北前船の寄港地として栄えました。都野津層と言われる良質な粘土層に恵まれていることから、日本三大瓦の一つ、石州瓦の産地としても知られます。「来待(きまち)色」と呼ばれる赤瓦は1,200度以上で焼成されることで、寒さに強く、耐久性に優れ、全国に流通しています。市内には赤瓦の町並みが広がり、地元のアイデンティティーになっています。万葉歌人・柿本人麻呂ゆかりの地として知られ、人麻呂とその妻「依羅娘子(よさみのおとめ)」にまつわる歌の伝承があります。
 このように往来と商いが盛んなまちだったことが、開放的で来る人をオープンに受け入れる土地柄につながっていると言われています。夏はおよそ6万人の人出でにぎわう山陰屈指の花火大会「江の川祭り」が、秋には勇壮で華麗な「石見神楽」の舞いが地域を沸かせます。
② 市の人口推移
 江津市の人口は、昭和22年(1947年)の国勢調査人口の47,057人をピークに年々減少し、特に昭和35年(1960年)から昭和45年(1970年)の高度経済成長期には国勢調査のたびに10%前後の人口が減少しつづけ、平成22年(2010年)の国勢調査では、島根県内8市の中で最大の減少率でした。
 この結果をうけて、定住対策が市の最重要課題となりました。折しも、過疎地域自立促進特別措置法の改正により江津市が全域過疎地域に指定されたこともあいまって、定住対策を加速させ平成27年(2015年)の国勢調査では人口減少率が△4.78%まで改善しています。
③ 市が抱える課題
 行政としては、江津市ビジネスプランコンテストによる起業人材の誘致や、地域コミュニティの推進など特徴的な地域振興の取り組みとともに、近年の、企業誘致の成果と相まって、人口社会減の傾向が緩やかになるなど、地域の課題解決に資する取り組みに一定の成果もみえてきています。
 一方で、市にある総合病院の赤字問題をはじめ、医師・看護師不足、十分とは言えない救急医療体制。全国的に課題となっている地域包括ケアシステム構築へ向けての諸課題など、地域医療に関する多岐にわたる問題への対応が当市の大きな地域課題となっており、地域の安心・安全を脅かす大きな障壁として横たわっていました。
④ 江津市労働組合の概要
 江津市は職員総数261人、労働組合員数は220人で、例年10月から体制が変わり、賃金確定闘争、春季生活闘争、人員確保闘争を経て、途中で体制を次年度へ引継ぎなら再び賃金確定闘争へと入っていきます。執行委員長を筆頭に、副委員長が2人、書記長1人、書記次長2人、財政部長が5役となります。そして執行委員が10人の計17人の執行体制です。執行委員を組織部、賃金対策部、厚生部、教宣部、自治研部と役割分担し、それぞれ日々の取り組みを行っています。

2. 活動を進めるための考え方

(1) 目標の設定
 江津市労働組合執行部は2019体制での目標を「労働組合の自治研活動を通じ、江津市地域医療課題を主体的に考え、行動し、たくさんの人・組織と交流し、安心して生活できるまちづくりへの一翼を担うこと」としました。このことで、2019体制のなかで力を入れていきたいことを共有し、労働組合発で、地域課題解決へ向けた自治研活動を進めていくことが明確化されました。

(2) 大切にした考え方
① 活動内容をみんなでつくること
 これまで、労働組合執行部は核となる者が、基本的な活動内容を提案して各決議、確認をしながら活動を進めてきていました。当然、それが執行部の中核を担う者の役目であることは否定されるものではありません。しかしながら、自治研活動の場合には、最終的に各組合員がそれぞれの職場にかえって、または、地域住民の一人として地域の課題に取り組むためには、だれかに指示された取り組みをしていくというやり方では、成果をあげ、やりがいをもって取り組むことが難しくなるのではないでしょうか。そこで、だれもが望めば、活動内容を検討する場に参加できることを大切にしました。
② 当事者意識をつくること
 活動内容をみんなでつくる場では、それぞれの言葉で、地域のあるべき将来像について語り、地域の資源を見つけ、地域にどのような困りごとがあって、どんな生活の不便があるかを考えたうえで、地域の課題にどのように取り組むかを挙げてもらいました。そのことで、課題解決に対する取り組みが自分事になることをねらいました。
 このような手法をとることによって、それぞれが主体性をもって動くための素地をつくっていくことが大切です。当然、一朝一夕にそれぞれの動きが生まれることは難しいですが、繰り返し「動き」を生むような仕掛けを今後もしていくべきと考えています。

3. 活動の経過と今後の展望

(1) 活動の経過
① 江津市労働組合自治研部での検討
 2019体制の江津市労働組合執行部において、どのように自治研活動を進めるか、どのように地域医療課題への取り組みを進めるのかを検討しました。そのなかで、自治研部が中心となってフレームを組み立て、執行委員会において提示し、確認をしました。
 その後、「活動内容をみんなでつくること」「当事者意識をつくること」を大切に考えた結果、ワークショップを用いて、組合員それぞれの思いを引き出して、みんなで活動の方向性を見出そうと考え、2回のワークショップを企画しました。
② 第1回ワークショップの開催
 2018年12月11日の終業後に約1時間を使って、江津市職員会館で第1回の組合員ワークショップを行いました。参加者は、比較的若い組合員が22人集まりました。ワークショップの手法は進行役の出す問いに対して、個人で考えを1つ書きだす時間をとったあと、4~5人のグループの中で考えを共有しました。これを繰り返します。このときの問いは次の通りです。
 問1:最近あったうれしかったこと
 問2:安心して住めるまちの医療体制は
 問3:高齢になっても安心して暮らせるまちに必要なこと
 問4:医療、介護の現状で気になるところ
 問5:江津市の魅力・資源は
③ 第2回ワークショップの開催
 2019年1月15日の終業後に約1時間を使って、江津市職員会館で第2回の組合員ワークショップを行いました。参加者は、前回同様比較的若い組合員が18人集まりました。今回も1回目と同様の手法を取りました。ただし、みなさんの手元には前回のワークショップで出た意見をまとめたワンペーパーを渡していました。このときの問は次の通りです。
 問1:最近あったうれしかったこと
 問2:地域医療の理想を妨げているもの
  →問2で参加者から出された「妨げているもの」をこの後、参加者に投げかけました。
 問3:「医療資源を使いこなせていないこと」に対する解決策は
 問4:「無関心」に対する解決策は
 問5:「守って行こうとする想いが形になっていない」ことに対する解決策は
 問6:「医療従事者が移住してきて住みたいまちではない」ことに対する解決策は
④ 執行委員会・自治研部での検討
 ここまでで、参加者から非常にたくさんの言葉や思いが出されました。それをすべて収集し整理する作業を自治研部が中心になって行い、地域医療をとりまく状況のフレームにはめていきました。そうして、江津市の地域医療課題に対する取り組みの方向性をワンペーパーにまとめました。

(2) 今後の展望
① 市長・執行部への提案
 今後、ワークショップ成果物として作成した、江津市の地域医療課題に対する取り組みのワンペーパーを持って、市長と市執行部へ提案をしていきたいと考えています。この成果物には、一つの取り組み内容が記載されているのでなく、様々な取り組みを一つの方向性で示しており、労働組合だけでも、行政だけでも行えるものではなく、江津市全体としてさまざまな主体が協働して進められるものです。その第一歩として、まずは市長や市執行部の認識を確認し、行政にできる取り組みの推進に労働組合が働きかけを行うものです。
② 市民への働きかけと行政職員の動きがけ
 つぎに、労働組合として地域住民へのアプローチを進めていく必要があります。江津市の地域医療課題は、医療機関のサービスを向上していくことはもとより、地域住民が地域の医療を支えていく視点がなければ、課題解決への道筋を見出せません。今後、講演会やワークショップ、情報交換会などを労働組合発で行っていくこととしています。
③ 医療機関や地域活動団体等への波及
 そして、行政や地域の支えのもと、医療機関はもとより、地域活動団体、NPO法人、地域コミュニティ組織などのネットワークを構築して、課題解決への取り組みを進めていくための体制を構築することが必要となってきます。そのために、情報交換の場の設定や、よりたくさんの所属からの参加がある研修会等の実施が必要になります。さらに、その研修の場で生まれる新しい動きに対する支援策を提案していくことも重要です。
④ 労働組合へのフィードバック
 最後に、こうした取り組みは息の長い活動にしていくことが何よりも重要です。そのために、最初に行った組合員ワークショップなどを用いて、現状の報告とともに、取り組みを進めていくうえで次々と浮かび上がってくるであろう問題の共有や、それに対する取り組みの方策を組合員が考え続けていく場をつくります。そのことは、取り組みの停滞を避けるだけでなく、行政職員としての資質を高めることと、地域住民として、地域の課題に関わる姿勢を育てることにもつながると信じています。

4. ワークショップの設計と進行の方法について

 ここでは、今回の取り組みで行ったワークショップをどのように設計して、何に気を付けて進行したのかを出来るだけ具体に記載します。

(1) ワークショップのプロセスデザイン
① ワークショップの目的は何か
 ワークショップをどのように進めるかを予め設計しておくことをプロセスデザインと呼んでいます。そのなかで、最も重要だと考えていることが目的を明らかにしておくことです。この目的には二つの側面があります。一つ目はワークショップを通じて、最後に何を残したいかです。これは成果物(ワークショップの後に残る模造紙など)のことです。ワークショップをした後に、見える形を残してそれをみなさんへ還元したり、つぎの行動へつなげたりすることで、ただやっただけのワークショップを避けることができます。
 二つ目に、参加者にどのような行動変容をつくるかです。今回のワークショップで言うと、一つ目でいう目標を「地域医療の理想と現実を見える化する」として、第一回目のワークショップでテーマとして参加者へ提示しています。二つ目の目的は、「地域医療の理想像と現状を共有して、今後の活動の動機づけを行う。」としています。これは、参加者へは提示せず、進行役が特に気を付けておく目的となります。そのため、この後の目的を達するために必要な材料を考える際の「ものさし」として使います。
② 目的を達するために必要な材料は何か
 ワークショップを具体化するために次に検討しておくことが、目的を達するために、ワークショップの中にどのような仕掛けを入れておくべきかです。それをここでは「材料」と表現しています。ワークショップがどのような場であればいいのか、盛り込まれていないと目的を達することができない要素は何かを念頭に検討しておきます。
 今回のワークショップでは次の三つを挙げました。
 材料1:当事者意識を持ってもらうために、参加者がフラットに意見を出し合える場
 材料2:取り組みの目標となる理想像をみんなで考えて、参加者の意見を可視化すること
 材料3:取り組みのスタート地点となる現状をみんなで考えて、参加者の意見を可視化すること
③ 目的に沿った進め方を選択する
 ワークショップにおいて必要不可欠な構成は、次の通りです。
 ■そのワークショップの目的(テーマ)を進行役が提示する
 ■ワークショップを進める際のマナーや約束事を参加者で確認する
 ■雰囲気を和らげる配慮がなされている
 ■意見が出やすい小グループを基本単位に意見交換する(4~6人くらいが適当です)
 ■一人で考える時間(個人作業)が確保されている
 ■それぞれの考えを可視化(紙に書いて)して作業したり、意見交換したりする
 ■グループ内で意見を述べられる時間は平等になるように配慮されている
 ■グループ内で出た意見はなんらかの形で全体へ共有される
 ■最後に、進行役がワークショップ全体のまとめを行う
 今回のワークショップにおいては、出来るだけみなさんが楽しく意見交換できるように、そして出てきた意見は、きちんとあとでまとめられるように配慮された設計を行っています。手順は次の通りです。
 手順1:進行役がお題を出す
 手順2:個人でお題に対する自分の考えをA4用紙に短く記入(1問1答方式です)
 手順3:グループ内でそれぞれの考えを紹介する
 手順4:進行役はグループの中で特に話題となったものを聞き出してホワイトボードに記載し、全体へ共有する
 手順5:以降、手順1から手順4を繰り返す。
 手順6:参加者の意見をホワイトボード上でフレームにはめて、ワークショップのまとめとする
 最終的に、参加者の意見をフレームへはめてまとめるためには、事前に参加者から出てくる意見を想定しておいてフレームを検討しておくことが大切です。しかし、この作業は目的を明らかにし、材料を考えておくことで比較的容易にできます。

(2) ワークショップのファシリテート
① ファシリテートという考え方
 ファシリテーターという言葉を最近はよく見聞きします。地域づくり活動やワークショップ、合意形成が必要な会議の進行をする際のコーディネーターのような動きをする人のことを指すイメージです。言葉の意味からいうと、水先案内人や、ものごとを容易にする人、集団による課題解決能力を向上させる人といった意味があります。
 今回のワークショップや、今後の地域医療課題解決への取り組みを考えたときに、なくてはならない存在であると言えます。ただ、注意したいのが、答えを提示する人でないということです。参加者の合意形成を支援する立場にあるのがファシリテーターであり、その立ち居振る舞いや、そこまでの準備を総称してファシリテートと解しています。
② ファシリテートに臨むための準備
 ファシリテートしようとする場の設計を事前にしておくことが何より重要です。前述のプロセスデザインや、参加者のリアクションの想定を行い、その会の最終的なゴールをイメージしておくことが必要です。
 次に、その会の目的に応じた会議の内容や手法を選択することです。どのような会議やワークショップの進め方や結論なら、そのあとの動きにつながるのか、目的をより達しやすいやり方はほかにないかを検討します。この際に、主催者や関係者と協議し、取り扱う内容を専門家へ相談するなどしておくことも大切です。
 この準備の段階で、当日に行き当たりで進め方を考えることが無いように準備を怠らないことがファシリテートの出来を左右します。
③ ファシリテート中に注意したいこと
 ワークショップがはじまれば、円滑な進行につとめることがファシリテーターの役割となります。準備を信じて進行を行いますが、このときに次のことに注意します。
 注意1:参加者が話しやすく、意見を出しやすい雰囲気をつくること
 注意2:「約束」「ねらい」「ながれ」を参加者に伝えること
 注意3:意見や行動の位置づけ・価値づけを行うこと
 注意4:臨機応変な対応や終わり方を再検討すること
 注意5:準備したものにこだわりすぎないこと
 注意6:自分らしさを出すこと
④ ファシリテート後のファシリテート
 出てきた意見を集約していく際には、やはり理解しやすく、簡潔にまとめていくことが重要です。可視化するという言葉が、よく使われていますが、一目見てワークショップの成果がわかるようにまとめて提示することが、参加者の行動への後押しになります。あわせて、ワークショップの成果を説明する際にも、相手に伝わる内容になるので、ワークショップの価値づけにもつながります。

5. まとめ

 労働組合は、要求・交渉によって組合員の処遇改善を実現していくことは重要なことであり、存在意義でもあります。そして、要求・交渉の年間のスケジュールもかなりタイトなものです。その中で自治研活動は、ダイレクトに組合員の処遇改善に影響するものではありません。
 しかしながら、公務職場を担うわれわれ組合員は、担当業務に限らず地域の問題を知り、地域の理想を考え、それを大なり小なり担当業務へ反映させていくことは大切なことだと思います。
 その意味で、当事者意識を持ってもらうための仕掛けや、自発的な行動を促すための仕掛けを自治研活動へ取り入れた今回の取り組みは至極、当然のものだと思っています。ただ、これまでの江津市職員労働組合でワークショップを主催したことは無く、今回のチャレンジをみなさんへ報告して是非、こうした取り組みを、取り組みの考え方を共有したいとの思いでレポートします。