【自主レポート】

第38回地方自治研究全国集会
第12分科会 昨日までの働き方…ちょっと立ち止まって考え直してみませんか?

 誰もが経験したことのない新型コロナ禍のなかで、労働組合として集まり議論することが制限された。いち早く緊急事態宣言が発令された北海道の公共サービス関連職場で働く女性組合員が「何を思い、何を課題と感じているか」をつかみ、改善にむけた取り組みにつなげるため調査を行った。調査結果からコロナ禍以前からの課題がより一層顕在化した。



新型コロナ禍で改めて見えた女性組合員を取り巻く課題
―― 女性部【緊急】職場・生活実態調査結果から ――

北海道本部/女性部

1. はじめに

 新型コロナウイルスの感染拡大が進むなかで、自治体・公共サービス職場では新型コロナウイルスにかかわる業務、また新年度を迎えたばかりで組合員の業務は繁忙状況にあり、さらには感染防止の観点からも、労働組合として集まり、議論できない状況が想定されました。
 これまで経験したことのない非常事態下で、道本部女性部としても女性組合員の実態を把握するための会議や集会を制限せざるを得ず、単組内においても「集まる場を作り、課題を共有し、改善につなげる」という女性部の活動が展開できないなかで「新型コロナウイルスにより、女性組合員が何を思い、何を課題と感じているか」をつかみ、状況の改善や、今まさに困っている組合員を守る取り組みにつなげるために本実態調査を実施しました。
 また、公共サービスを担う労働者としての課題の実態把握だけでなく、これまで経験した東日本大震災や胆振東部地震などの自然災害下でも顕在化したように、非常事態下だからこそ浮き彫りとなる「差別」や、ジェンダーによる「無意識の偏見」、そして女性労働者の実態についても本調査で把握し、今後の活動に生かすことも目的としました。
 集まり議論することが困難ななかで、少しでも負担にならない形で、実態を集約するため、道本部女性部として初めて、紙媒体での調査と並行してWEBを活用した調査としました。4月17日~5月22日までという短期間での取り組みではありましたが4,411人の女性組合員から回答をいただきました。仕事・生活の繁忙、感染収束が見通せず、感染への不安を抱えるなかにもかかわらず率直な実態をお寄せいただいた、組合員一人ひとりと、周知いただいた地方本部・単組役員の皆様に、心より感謝します。

2. 明らかになった課題

(1) 妊娠中の職員への配慮
 窓口職場で勤務する妊娠中の女性組合員から在宅勤務を求める声が寄せられました。窓口職場は特に町民や出入り業者との接触が多い職場であり、開始される政府の特別定額給付金業務への不安も出されました。
 事業者として妊娠中の職員に対する配慮は当然のことです。妊娠中に肺炎を起こした場合、重篤化する可能性が高いこと、また、妊娠中は医師や薬剤師などに相談した上でなければ薬を服用できないことからも、今まで以上の配慮が必要となります。ただ、最も問題なのは「妊婦だから在宅勤務にしてほしいなんて自分からは言えません」とコメントしているように「言えない、言わせない職場の雰囲気」にあります。
 さらに「(マスクをしない等)妊婦に対しての心遣いが足りないと思います」と自身は妊娠中ではないものの配慮を求めるコメント、妊娠を希望している方からは、「(周りの職員の行動をみて)妊娠をあきらめた方が良いのか、眠れないくらい悩んでいる」とのコメントが寄せられています。
 新型コロナ感染拡大下で母親教室の中止や、ガーゼハンカチが品薄で購入できないなど、社会的に妊産婦への影響が出ていることも報告されています。

(2) 非正規職員の処遇
 5月8日の北海道新聞朝刊で上川管内の学校給食センターで働く非正規調理職員へのインタビュー記事が掲載されました。一斉休校により「無給の長期待機中」を強いられているとの内容で、女性部実態調査にも上川管内から収入の減少や金銭の不安のコメントが多く寄せられ、なかには「放り投げられている気持ち」と率直なコメントもいただいています。報道は上川管内についてのみの記載でしたが、アンケートでは他地域の学校給食職場から収入減少による補償を求めるコメントも寄せられており、一部の地域に限った話ではなく、全道どこででも起きている課題とみる必要があります。また、放課後児童クラブを休館している自治体からは「2~3月まで仕事がなかった。パートという立場上仕方ないとはいえ、常勤の職員との落差がありすぎて転職を考えた。ふだんは忙しい所も大変な所も担っているのに。もちろん補償的なものはなく、現在もパート時間をかなり少なくされています」というコメントも寄せられました。その他にも児童館や図書館など多くの公共施設が休業を余儀なくされていますが、そこで働いているほとんどの方が非正規職員で、日給制の方も多くいます。無給の長期休暇は生活に直結します。休暇制度の拡充や休業補償など早急に当局に求めることが重要です。
 地方公共団体で働く非正規職員のうち75%(2016年総務省調査)が女性です。北海道新聞の記事の中では「稼ぎ主は男性という役割分担意識は根深く、女性の仕事は男性の補完的労働とみなされる。コロナ禍で真っ先に追い込まれるのは雇用の調整弁にされた非正規。その多くが女性たちだ」と指摘されています。
 この間、非正規職員の処遇改善にむけ、地方公務員法・地方自治法の改正、2020年4月からスタートした会計年度任用職員への制度移行と、様々な取り組みを自治労として取り組んできました。しかし、制度設計し、任用を行う自治体職場には記事で指摘されているような「稼ぎ主は男性」という「無意識の偏見」があることも明らかになりました。直面する収入減少への対応は緊急の課題としてありますが、制度そのものの改善、正規・非正規の格差解消に取り組み、無意識の偏見を取り除く取り組みが求められます。

(3) 学校休校による影響・家庭への不安
 一斉休校や保育所の登園自粛による、子どもの昼食や学習への不安、それにともなう休暇の取得にかかわるコメントが多く寄せられました。毎年実施している職場改善実態調査や各種集会における分散会においても業務と家事・育児の負担が大きな課題となっていますが、新型コロナウイルスによりさらに育児負担が女性にのしかかり、長期化していることから心身共に疲労困憊になっている姿が見えてきます。
 また、子の面倒をみるために特別休暇を取得することに「申し訳ない」と感じていることも寄せられています。さらに、これまでは親や祖父母など身内に預けることができましたが、高齢者の感染リスクから預けることができず、1人で抱え込んでしまっている方もいました。
 非常時であることから、男性も女性も関係なく多忙になっていますが、育児に関する休暇制度は男性も取得することが可能です。日頃から男性も育児に関わる環境づくりが重要と考えます。
 また、シングルマザーなど1人で子育てをしている女性にとってはさらなる負担がかかっています。子どもだけで留守番させ、気にしながら仕事をしている方もいます。それぞれの置かれている状況を考えながら、支え合う職場づくりが急務となります。

(4) 職場内での感染防止対策の遅れ
 新型コロナウイルス感染拡大下でも止めることが出来ない公共サービスは多く、感染の不安を抱えながらも勤務を続けなければならない実態が報告されています。
 特にマスクの不足は顕著で医療職場・福祉職場でのマスク・消毒液の不足は報道されているところですが、窓口業務など多くの住民の方と接する職場でもマスクは個人で用意しなくてはならない、マスク着用が義務化されても購入は個人まかせといった声がありました。また、3密でもマスクを着用せず、さらには「マスクを持っていても周りがつけていないからつけづらい」という職場もありました。保健師や保育士、ケアマネージャーなど、日頃から感染症対策に携わっている職種には女性組合員が多く、今回のコロナ禍でも職場の消毒や対応策に関わっていますが、上司や他の部署にはなかなか浸透せず、意識の違いに不満を抱いている回答が多くありました。
 GW前後から時差出勤や在宅勤務の導入が徐々に広がっていますが、個人情報を扱う業務が多くそもそも在宅勤務にそぐわない職場、時差出勤が徹底されない、上司によって指示がばらつく職場など、危機管理が徹底されていないことに対する不満が集約されました。中には、年次有給休暇を強制的に取得させられる事態も発生しています。また、3密を気にしすぎて、仕事で必要な打ち合わせや会議を行うことができず、業務を1人で抱えているという声もあります。各種事業等を中止や延期するなど、新型コロナウイルスによる通常業務の停滞が後々、自身に降りかかることを危惧するコメントもありました。
 このような中、5月に入ってからは特別定額給付金などの申請事務が始まり、連休を返上して対応している自治体も多くありますが、本調査でも5月以降の回答には「問い合わせの電話対応が増えた」「時間外が急増した」「土日も返上して仕事をしているので疲労がたまっている」という声が増えています。
 多くの公共サービス職場の現状は、人も物資も不足し、当局や管理職に対応するノウハウがない・機能しないなか、労働者の命と健康・生活を犠牲にして非常事態を乗り切ろうという実態が見えてきました。

(5) 対住民サービスの最前線の声
 今回の調査により浮かび上がってきたことは女性が多く関わる保育所や幼稚園、保健師職場(保健所含む)、介護職場、病院・診療所で働く方たちの現状でした。どの職場も3密が避けられない状況で感染の恐れを抱えながらも、子どもたちや利用者、患者に対し、これまでどおりの対応を続けてきています。そして、自分たちが「感染する不安」と同時に「相手に感染させてしまう不安」を抱えながら業務を行っていることが改めてわかりました。だからこそ、利用する方たちを受け入れるべきかどうか悩んでいる姿が見えてきます。
 また、マスク不足はどの職場でも大きな課題となっていますが、介護職場では1日1枚のマスクしか支給されず、1枚のマスクで食事と排泄物処理を行うことになってしまうため、インターネットで高額のマスクを個人で購入しているという声もありました。
 これらの職場は行政サービスの「効率性」を強く求められてきた職場です。特に今回のコロナ禍で最前線に立つことになった公立病院や保健所職場では、設備が整備されず防護服やマスクなども不足し、人員が少ない中で業務を行っていることがわかりました。実際に感染者が出た地域においては、少ない人数で昼夜問わず、休みもなく対応し、疲弊していることがわかりました。人員も病床も医療器材も「効率性」が追求され続けてきた結果です。
 また、コメントから見えてきたのは、国の対策が遅れることで、各自治体の対応も日々変わり、現場には後になってから伝わってくるといった情報共有の遅れと、職場長や管理職が状況を理解せず、全て現場任せにしてしまっているというものでした。
 職場での方針が見えない中、これらの職場で働いている方たちは、感染の不安とたたかいながらも個々の専門的な知識と経験をもとに、現場で対応している実態が見えてきました。

3. まとめ

(1) 希薄な職場での人間関係
 職場では感染に対する意識の差が職種や世代、役職で相違していることに対する不満や苛立ち、世界的に危機的状況になっているにもかかわらず危機管理ができていない当局や管理職に対する不安への回答が多くありました。また、子どもの休校により休暇の配慮をするよう通知があるにもかかわらず、休暇を取得することなく、子どもに留守番をさせて出勤しているといった声や、自宅で介護を担っている方から「デイケアやショートステイが休止となり、負担が増えたが休みづらい」といった声もありました。2020年4月に採用された方からは、本来の業務がわからないまま、仲間づくりもできず日々を過ごしているという声もありました。
 毎年実施している職場改善実態調査では、職場のストレスとして4割以上の方が「人間関係」をあげています。女性部主催の各種集会でも、業務量が多く、家庭の負担もある中、仲間と話をする暇もない中仕事をしていることで、職場内でのコミュニケーションがうまく取れないとの声があります。また、生理休暇や有給休暇を取得しない理由の一つに「言いづらい」という回答もあります。病気休暇についても「知られたくないから」といった理由から年次有給休暇で取っている方もいます。
 つまり、もともと職場での関係性が築けていないなか、今回のコロナ禍により、その状況がより一層濃くなったと考えられます。今まで以上に特殊な状況であること、特に今回は飛沫感染の可能性があるウイルスでもあることから、隣同士で話をすることすらも躊躇し、昼休みの休憩も無言で食事をするなど、それぞれの悩みや不安を口にすることなく、1人で抱えている状況が見えてきました。
 妊娠している方の「自分から言えない」とのコメントや、子どもだけで留守番させながら仕事をしているといった回答からも、職場のなかで「妊娠」や「子育て」「介護」が重要視されていないこと、また、その方たちに声をかける方もいないなど、職場の仲間がどういう現状なのかわからない、職場での支え合いが希薄であることが読み取れます。男女雇用機会均等法や育児・介護休業法、次世代育成推進法により、妊娠中の女性や育児・介護中の職員が安心して働ける職場環境が推進されているにもかかわらず、職場内では浸透していないということの表れです。

(2) 不安の要素(定まらない政治政策、無意識の偏見)
 感染に対する不安と同時に、「今後私たちの生活がどう変わるのか?」「仕事の状況がどう変わるのか」といったものや、報道やSNSなどの情報により振り回されているといった不安を抱えている実態がありました。
 「不安」は「対象のない恐れの感情」と定義されています。つまり、私たちが今後どうすべきか「方向性」が見えないことで不安を感じていると捉えることができます。これらの不安の要因は何か。「政治・政策」がはっきりと見えないことだと考えます。ストレスの要因に16%の方が「政治・政策」をあげています。自治労では以前から「政治に無関心でいられても、無関係ではいられない」と言ってきましたが、今回のコロナ禍でも、法的根拠のない道の「緊急事態宣言(お願い)」や突発的な「一斉休校」、線引きが曖昧な外出の自粛「要請」、布マスクの配布、補償のない商店への休業要請、PCR検査実施の有無、特別定額給付金についても二転三転するなど、「緊急事態」にもかかわらず国の方向性が定まらないことで私たちの職場や生活は大きく翻弄されました。当局の危機管理意識の低さにより、混乱が生じている職場もありました。
 また、この状況の中で、家庭的負担の多くを女性が担っていることのひずみ、妊娠している方への配慮、非正規職員に対する無給の自宅待機(民間企業では非正規社員や派遣社員の解雇や雇止め)といった社会問題が浮かび上がりましたが、本調査も同様の回答となっています。これらは今までも女性部として取り組んできた「差別」やジェンダーによる「無意識の偏見」が目に見える形になって表れたと考えています。
 仕事の仕方、妊娠、出産、育児、介護、そしてプライベートなことは「個人的なこと」と捉えられがちですが、コロナ禍で「個人的なこと」が大きな課題となりました。つまり「個人的なことは政治的なこと」だと考えます。
 政治というと非常に難しいことと思っているかもしれませんが、政治は私たちの生活に直結していることを私たちは忘れてはなりません。

(3) 今、私たちにできること。
 職場のこと、政治のこと、今まで「自治労」として取り組んできた運動です。日ごろの運動がこの非常時にも大きく左右したと考えます。回答のなかに「子育て中だが、職場の仲間の協力で優先的に休暇を取らせてもらえる」といった感謝の声もありました。コロナ以前からもこの方の職場では仲間で支え合うことを日常的に行っていたと推測されます。これが本来の職場の在り方ではないでしょうか。
 この状況のなか、今すぐ「集まる場を作り、改善につなげよう」「政治について学習会をしよう」とはなりませんが、不安や悩みを抱えている仲間は皆さんの職場に、地域に大勢います。不安に思っている人は「1人じゃない」ということが本調査から見えてきました。
 また、本調査により、女性組合員全体の課題とともに各職種における課題も見えてきました。
 ここから先、道本部女性部としても皆さんの声を青年部、基本組織だけではなく、自治労本部や連合、組織内議員とともに職場や社会を改善させるために繋げていきますが、皆さんも単組・総支部・地方本部の中で工夫し、仲間と情報を共有する場をつくり、お互いを助け合う職場環境を作ってほしいと考えます。
 一気に改善することは難しいです。ただ、自分たちで声をあげなければ、その声を集めなければ改善にはつながりません。今回のコロナ禍で浮かび上がった課題から、日々の職場改善につなげていきましょう。