【自主レポート】

第38回地方自治研究全国集会
第12分科会 昨日までの働き方…ちょっと立ち止まって考え直してみませんか?

 名古屋市は「技能労務職は退職不補充」とし、学校の用務員・調理員は2008年の新規採用を最後に10年間採用がありませんでした。しかし、自治労名古屋本部とともにと交渉を重ね、名古屋市総務局を動かし、2019年度新規採用を再開させました。それまでの経緯と、正規職員が必要だと認めさせた自治労名古屋学校支部が一丸となり取り組んだ闘いの報告をします。



待ちに待った新規採用再開までの道のり


愛知県本部/自治労名古屋市労働組合・学校支部 森田 里美

1. はじめに

 国は骨太方針のもと現業に対し、委託・嘱託化、削減あるいは廃止の方向性を示し、国のあり方と地方を比較し圧力をかけ続けました。他の政令指定都市でも、用務は廃止、あるいはシルバー人材の導入、給食は委託導入を余儀なくされています。
 名古屋市当局は「技能労務職は退職不補充」とし、学校職場の用務員・調理員も2008年の新規採用を最後に10年採用がありませんでした。しかし、自治労名古屋本部とともに「一律に退職不補充はおかしい。必要な職場には新規採用をするべき」と要求し続けました。
 その結果、2015年3月、名古屋市は「平成29年度(2017年度)以降の技能労務職員の業務執行体制の在り方の中で必要な業務には新規採用する」という要求通りの方向性を示しました。その中で学校用務員・給食調理員とも「市が直接に実施主体となる必要性がある業務」と認めさせたことで新規採用獲得の実現が強くなりました。
 2017年の交渉で新規採用の再開を実現するために将来的な最小体制「用務は正規87人」「調理員は551食以上を民間委託」を受け入れ、「2020年度から新規採用の再開」を確約させました。しかし、現場は10年に渡る退職不補充で疲弊を極めており、2018年度には一年でも早い新規採用再開の実現に向け、4月から教育委員会交渉を始めました。そして10月、教育委員会から「前倒し採用する」と回答を引き出しました。交渉団の中には涙ぐんでいるものもあるほど待ちに待った新規採用であり、不可能かと思われた「2019年4月新規採用前倒し」が実現しました。

2. 民間委託に対する取り組み

(1) 自校直営の推進・民間委託阻止の取り組み
① 民間委託提案が初めて浮上
2003年 10月24日、突然教育委員会は民間委託提案を出してきましたが、支部は受け取りを拒否しました。支部一丸となり、庁舎内で座り込みとビラまき、500人を超える団結集会など全力で委託反対の闘争を繰り広げました。
2004年4月 退職による欠員を若年嘱託職員で補充しつつ、2年かけて教育委員会と話し合いを続けました。
2005年11月 その結果、民間委託を阻止することができました。しかし、嘱託化を受け入れざるを得なかったものの、以下の事を約束させました。(ア)新規採用 調理員5人 用務員1人、(イ)改善員、技術リーダー制度、(ウ)代替え校の拡大 32校から42校へ
2006年4月 新たな嘱託制度(業務員制度)を導入。嘱託化の新配置基準に変更。
2009年 河村市政になり、2010年から新規採用が凍結。
2011年 新配置基準に到達。
② やむなく民間委託試行導入
 新配置基準到達後も、新規採用は凍結されたまま、退職による欠員を給食は毎年度毎年度、配置を見直し、何とか民間委託導入を阻止してきました。
2015年 7月6日、教育委員会より一方的な民間委託提案に対し怒り、受け取りを拒否、すぐさま団体交渉を構えました。7月9日、教育長より「民間委託を含めた2016年度の配置見直し」の提案がありました。教育長からの提案を拒否した場合、民間委託に関する協議が困難となり、最悪の場合、一方的に民間委託導入されることを考え、提案を持ち帰り協議することとしました。
 交渉を重ね、再度教育委員会より「民間委託を試行導入」という再提案を出させました。
 非常に大きな提案であるため、組合員全員で取り組むべきとし、緊急に拡大評議員会を開催し、みんなで議論しました。支部の考え方を以下のように示しました。

1. 欠員以上の見直しは許さない。
2. 配置の見直しをしてもなお欠員が生じるため、2016年度、民間委託の受け入れはやむを得ない。しかし、委託校数はできるだけ少なくする。
3. 暫定的に配置の下がるところについては、業務員の加配を強く要求する。

 この方針をもって交渉に臨み、業務員の加配を認めさせ、「名古屋市の方針が決定すれば新規採用もあり得る」との回答を引き出し、断腸の思いで民間委託提案の妥結通告をしました。

(2) 名古屋の学校給食の水準を守るため
 2015年の交渉で民間委託をやむなく受け入れたが、委託とはいえ直営校と同等の安全で安心な給食提供を担保するために、同時に検証委員会の立ち上げを要求しました。
支部から民間委託の試行導入についての申し入れを提出

1. 民間委託試行導入後、民間委託会社による調理業務や衛生管理や労働災害を起こさない作業等、給食に関わるすべてに対し、当該校において充分な検証をすること
2. 検証にあたっては、現場の調理員の意見を反映させること
3. 検証にあたる調理員は、調理業務改善員・献立作成委員・労働安全衛生調理所分科会構成員・施設設備検討員からそれぞれ選出すること
4. 詳細については支部と協議すること

教育委員会より回答

1. 民間委託導入については、調理業務改善員・学校給食実施協議会委員・労働安全衛生調理所分科会構成員・施設設備検討員等、豊富な知識、経験を有した調理員からの意見を聴取しつつ、その試行状況を十分に検証するものとする
2. 詳細については支部と協議する

(3) 民間委託の状況
2016年 民間委託3校でスタート
 *委託導入校の検証……5月・12月(資料1)
   指摘事項を教育委員会・検証委員より委託業者に提出
   改善案を委託業者より教育委員会・検証委員会に提出
 *給食調理業務委託についての検討会議……7月(資料2)
2017年 民間委託5校
 *夏期期間、正規調理員による、委託業者への研修を実施……機器の使い方
 *委託導入校の検証……6月・12月
2018年 民間委託7校
 *4月、新委託校での正規調理員による、委託業者への研修を実施……機器の使い方
 *委託導入校の検証……5月・10月
2019年  民間委託7校
 *4月、新委託校での正規調理員による、委託業者への研修を実施……機器の使い方
 *委託導入校の検証……5月・9月

3. 新規採用再開へ

(1) 最小体制の提案出る
 2010年以降、新規採用凍結されても、学校支部は教委(教育委員会)との交渉で正規の用務員・調理員の必要性を訴え、粘り強く新規採用を要求し続けました。2015年名古屋市当局に「学校用務業務・学校給食調理業務については市が主体となる必要性がある業務」と認めさせました。これはこの間、支部が正規職員としての責任と誇りを持った取り組みの中で、正規職員の必要性を事あるごとに教委に訴え、またその必要性を教委が認めた結果です。
 しかし、「最小限の人員体制を検討するとともに、国との技能労務職員に係る人件費との均衡をはかるものとする」と一文を付帯してきました。
 2017年1月、技能労務職の給与の見直しが決着したのを受け、2017年5月「学校用務業務及び学校給食調理業務体制について」を提案してきました。ようやく示された必要な最小限の数は非常に厳しいものでした。支部は重要な提案であり、交渉で教委から詳しく説明をさせるべきと判断し、教委交渉を構えました。
 その交渉の中で教委は「一定の数の正規職員を確保するため努力してきた。また、学校教育活動の一環として献立作成等正規職員の積極的な参画が必要である」と回答しました。

《最小体制の提案内容》
1. 550食以下の小学校と特別支援学校は直営で実施し、551食以上の学校は民間委託で実施する
2. 代替え校は25校とし、代替職員(正規)を加配する。
3. 将来的な最小体制は正規職員370人・嘱託職員153人
●正規職員が果たすべき役割
 各学校において嘱託職員の指導等を行い調理場の責任者として業務を遂行する

 支部は、最小限の体制について追及し、さらに新規採用の必要性も強く要求しました。しかし、教委は「この最小体制を妥結しない限り名古屋市の総務局に新規採用の話ができない」と繰り返すのみでした。

(2) 新規採用再開のため「最小体制妥結」を選択
 7月の交渉では、①費用対効果の根拠を示せ、②民間委託の拡大は大規模校・男性配置校を残すことを重点とし、新規採用についても要求しました。交渉団は勢いで圧倒し、教委より「新規採用の再開に向け、奪い取るぐらいの気持ちで頑張る」と明言させました。
 「これ以上の配置の見直しはできない」と決断し、欠員を埋めるために苦渋の選択で2016年4月より小学校給食に民間委託を導入したにもかかわらず、2018年度の委託導入予定校数が7校と示されました。7校ではすべての欠員を埋めることができないと判断し、9月の交渉で支部は「7校の民間委託で来年度の欠員が埋まるのか」「これ以上配置を下げろというのか」と教委に詰め寄りました。
 教委は「委託費の予算が7校分しか確保できなくて申し訳ない。しかしそのかわり2020年度から新規採用再開の確約を取ってきた」と頭を下げ、理解を求めました。支部は委託7校分では納得できないが、新規採用再開を含めた再提案を持ち帰ることとしました。
 すぐさま、組合員に支部の方針を示し、16区で分会討議をお願いしました。

 《支部方針》
1. 新規採用について
 退職者の数がゼロならば、給食の委託化のスピードは遅れ、最小体制への到達も先送りされる。最小体制を受け入れ、2020年度の新規採用再開の実現に向け取り組んでいくことが第一優先。その上で、一年でも早い新規採用再開を訴えていく
2. 将来的な最小体制について
 新規採用再開は将来的な最小体制が前提とされており、新規採用の再開の実現のため受け入れはやむを得ないと考える
3. 欠員を埋めるため委託7校導入の受け入れはやむを得ない

 10月の評議員会では、多くの分会から「新規採用再開を歓迎し、身分保障された」と喜びの声が上がりました。その反面「教委は信用ならない。文書で残すべきだ」との意見も多くありました。
 全区で新規採用再開の実現のため「将来的な最小体制」「委託7校導入」の受け入れをやむを得ないと決定しました。

(3) 最小体制及び新規採用の覚書を交わす
 10月の交渉で「将来的な最小体制」「7校の委託導入」の提案に対し以下の再確認をし、妥結通告しました。

確認事項
1. 新規採用について
① 覚書を交わすこと
② 2020年度は欠員がいなくても、見込みを含め必ず採用すること
2. 将来的な最小体制について
 給食の委託は欠員分のみとし、委託校については大規模校・ドライ校・男性配置校をある程度残しつつ、決定していくこと
3. 2018年度の配置
① 民間委託7校で欠員が埋まらない場合は、速やかに支部に連絡し、協議すること
② 2019年度は、欠員が確実に埋められる校数の委託費を確保すること
 新規採用再開は将来的な最小体制が前提とされており、新規採用の再開の実現のため受け入れはやむを得ないと考える
4. 欠員を埋めるため委託7校導入の受け入れはやむを得ない

 12月15日、支部は将来的な体制について教育委員会と「覚書」を交わしました。再度内容を確認の上、教育長と支部長の押印で交わしました。「覚書」には「学校用務業務及び学校給食調理業務の将来的な最小体制」「新規採用再開」について記載させました。
 さらに、退職者数に退職見込み数を加え、新規採用をゼロにしないことも、改めて確認しました。これで2020年4月の新規採用の確約が取れました。

4. 2019年に新規採用を前倒し

 2017年秋の交渉で、やむなく最小体制を受け入れ、2020年度から新規採用の再開を確約しました。喜びもつかの間、2017年度末に想定以上の正規職員の退職や転任等で、給食は委託導入しても欠員が埋まらない状況になりました。2018年4月に、正規加配の代替校数が29校から最小体制の25校になり、そのため、嘱託職員(業務員)を加配した代替え校を1校、1,051食以上は定数内代替とし、2018年度を乗り切ることにしました。
 この状況を打開するため、「2020年度を待つことなく、2019年度に新規採用すること」を申し入れ、早急に交渉をすることを決定しました。給食調理はこれまでも配置を見直すことで欠員補充してきた経緯があります。配置を見直したところ、減らした代替え校、欠員は退職者だけではありません。
 「2019年度の欠員は委託を導入して埋め、2018年度減った代替え校は新規採用で埋めるべき」また「十分な委託費を出せない(確保できない)なら、新規採用は20年度を待たずに19年度採用すること」を2018年4月の交渉で強く要求しました。7月の交渉でも状況は変わらず、8月の行財政改革推進室交渉では、人員を決定する部署に対し、本部とともに現場が困窮している現状を訴え、2019年度に新規採用することを強く要求しました。
 そして9月の交渉で「2019年4月、用務員・調理員ともに若干名の新規採用をする」と教委に明言させました。交渉会場からは歓喜の拍手が沸き起こりました。2019年4月、用務員1人・調理員2人採用になりました。

5. まとめ

 河村市政10年目にして、ついに新規採用を勝ち取ることができました。給食はこれまで献立作成委員・労働安全衛生委員・施設設備検討員として正規職員のスキルアップのための研修を企画・立案し実践してきたこと、さらに嘱託職員(業務員)と業務の職域を設け正規職員としての責任を明確にしてきたことが、名古屋市総務局に対し、正規の必要性を認めさせたのです。
 そして、支部に結集した組合員の全勢力を受け、最後まで粘り強く交渉した結果、名古屋市総務局と教育委員会を動かし新規採用を実現させることができました。これは組合員全員で導き出した大きな成果です。