【自主レポート】

第38回地方自治研究全国集会
第12分科会 昨日までの働き方…ちょっと立ち止まって考え直してみませんか?

 現在、全国的に公立保育園の民営化・民間委託が進んでおり、津和野町においても例外ではありません。様々な問題を抱える保育職場において、自治研部として何かできることはないだろうかと考えました。「自分たちの保育を知ってもらい、自分たち以外の保育を知る」ことで、そこにあることが当たり前だと思われている保育園について、あらためて考える機会になれば良いなと思い、自主イベントを企画しました。



私たちも頑張ってるんです
―― 自主イベントを通じて、保育園を知ってもらう ――

島根県本部/津和野町職員組合・自治研部

1. はじめに

 現在、津和野町職員における組合組織は、一般職員からなる津和野町職員組合と、学校・保育園給食調理師、公用車運転手、上下水道業務に携わる職員(環境生活課)、公設民営化された病院の運営に携わる職員(医療対策課)、さらには、同じ現場で働く職員という位置づけから加わった保育士等からなる津和野町公企現業職員労働組合で構成されています。2019年現在においての組合員総数は124人となっており、日ごろ業務を行っていく中での問題点や、目の届きにくい職場等における課題、その他、地域活性化につながる内容など、様々な視点から改善すべく、日々取り組みを行っています。今回はその中で、津和野町職員組合および津和野町公企現業職員労働組合の自治研部、保育士部会、調理師部会が中心となって取り組んだ活動の一つについて報告します。

2. 活動報告について

(1) 現在の状況と、取り組みに至るまで
 現在の津和野町は、旧津和野町と旧日原町の2町が合併し、2005年9月に誕生しました。合併時における町内の保育園数は公立保育園が5園、民間保育園が1園でしたが、2019年現在においては一部が民営化され、公立保育園が3園、民間保育園が4園となっています。また昨今、全国的に公立保育園の民営化・民間委託が急速に進んでおり、津和野町においても同様の可能性が懸念されています。
 ある時、昨今の財政状況の悪化や、保育環境ニーズの多様化などが主な理由となってはいるものの、まるで「公立保育園は不要だ」と言われているかのような状況には、正直何とも言えない気持ちになる、といった職員の声を耳にすることがありました。「どうすれば自分たちの仕事を理解してもらい、職場を守ることができるのか?」「公立保育園として、自分たちがアピールできることは何なのか?」答えたくても答えられない。このような想いを聞いたときから、自治研部として何かできることはないだろうか、と考えるようになりました。
 とはいったものの、保育職場に馴染みの無い立場でいくら考えても、良いアイデアは浮かびません。そこで、自治研部として保育士部会、調理師部会に相談をし、自分たちができることについて、話し合いをすることにしました。「自分たちの仕事を理解してもらうにはどうすればいいか」について話し合う中で、そもそもの話として、複数存在する公立・民間保育園における業務やイベントのほとんどは、各々の園単位で行われているため、自分のいる保育園以外がどのような保育を行っているかを知る機会が無いのではないか? といった問題点が上がってきました。またその他にも、普段の業務が保育園という施設の中で行われているため、保育職場や職員と地域住民が関わる機会が少ないことや、保育士・調理師についても同様に、他園の状況を知る機会が少ないことなどがあり、「自分たちの仕事を理解してもらう」ためには、まず「自分たちの保育を知ってもらい、自分たち以外の保育を知る」ことが必要であると考えました。この「自分たち以外の保育を知る」には、他園の状況を知ることだけではなく、それぞれの家庭での保育についても知るという意味合いも含まれています。
 そのためには何をすればいいのか検討していたところ、「保育イベントを開催してみてはどうだろう?」との意見があり、これには、職員たちからも賛同の声が上がりました。しかしながら、具体的な話を進めていくにつれ、保育士の人員不足や日々の業務に追われる状況では、一からイベントを開催することが困難であるといった問題点が浮上したため、調理師部会が毎年行っている、地元のお祭りでの出店の横でイベントを開くくらいならできるのではないか? 子育て支援センターが行っている講演会と関連付けてみてはどうだろうか? など、実現可能と思われる内容について、様々な案を出し合いました。しかし、なかなか「これだ!」といった案は浮かびませんでした。そのような中で、やはり自分たちの保育を知ってもらうためには、自分たちでイベントを企画したいという想いもあったため、業務負担の少ない時期であれば調整が可能ではないか? その時期にやってみよう という結論に至り、6月終わりの時期に向けて、新規の独自イベントを開催することに決定しました。

(2) イベント開催へ向けて
 独自のイベントを開催するにあたって、最初にイベント開催の目的を設定することにしました。これについては、前段の話し合いで出た「自分たちの保育を知ってもらい、自分たち以外の保育を知る」をメインテーマとし、さらにはサブテーマとして、参加者はもちろん、主催側も一緒になって楽しめるイベントとなることを目標としました。これには、職員側にとって業務的な負担とならないように、という意味合いもありましたが、その他にも、参加者、主催者ともに、保育について楽しく前向きな気持ちで考えられる機会になってほしい、という想いもありました。
 次に、内容についての検討を行いました。目的である「自分たちの保育を知ってもらう」ためには、自分たちが普段どんな保育を行っているか、また、どういうところに力を入れているかについて、自分たち自身が再認識する必要があります。普段から当たり前のように行っている業務の中だからこそ、他ではあまり行っていないような取り組みであったり、強みとなる取り組みが隠れていたりするものです。また「自分たち以外の保育を知る」ことについても同様に、他の保育職場や、家庭、地域等で、どういった保育を行っているかを知る必要があります。そのため、いろいろな意見を交わしながら、自分たちの保育について客観的な視点から話し合うことにしました。
 ここでは、思った以上に様々な意見が出てきました。「保育園ごとに立地条件が違うので、環境を活かした保育に力を入れている」「地元住民の方にご協力頂いて、野菜作りや田植えを行っている」といった保育士部会からの意見や、「独自で地産地消の給食作りに取り組んでいる」「おいしいアレルギー対応食にはこだわっている」といった、調理師部会からの意見、その他にも「子育てや子どもの遊ばせ方などについて、保護者の相談に乗る機会を設けている」などがありました。これらの意見全てを網羅することは不可能であるため、イベントとして実現可能かつ、皆に楽しんでもらえるものとして、「おもちゃづくりとあそび」「子どもからの人気が高い人形劇」が挙げられ、それ以外に力を入れている活動や、知ってほしい活動については、各保育園のアピールパネルとして掲示することにしました。また、昼食には調理師部会がこだわっているアレルギー対応食を、お弁当として提供することにしました。
 内容が決まったところで、さっそく準備が始まりました。開催日まで時間があまりない中で、保育士部会は、当日のイベント内容を担当し、調理師部会はお弁当の担当、自治研部としては日程調整や企画、告知、予算決算や関係機関との調整等を、それぞれ担当して進めていきます。「おもちゃづくりとあそび」については、身近にあるものを使えば、家庭に帰っても同じことができるといった意見から、箸や牛乳パック等を使ったものに決定しました。また、作ったものを使って親子で遊べるスペースがあるといいといった意見や、危なくないもの、揉め事にならないもの、といった観点から、内容を考えていきました。お弁当の内容についても、手軽に食べられるもの、衛生上傷みやすくないもの、アレルギー対応食のなかでも、特に園児からの評判が良かったものといった観点から、唐揚げ弁当を提供することにしました。チラシの配布や当日の会場(駐車場)の手配については、津和野町に共催という形でお願いをし、また、イベントの趣旨に賛同して頂いた臨時・嘱託職員の方や、自分も手伝いたいと言ってくれた高校生ボランティアの方にもご協力をいただきました。普段こういったイベントを企画・開催する経験がなかったため、手探りな状態でありながらも、皆と協力し合い、開催日に向けて準備を進めていきました。

(3) 子育てイベント『手づくりおもちゃであそぼう』
 そうこうしているうちに、あっという間にイベント当日となりました。休日でも負担なく参加しやすい時間ということで、イベント時間を10時から12時までに設定したため、イベント内容に対する時間配分には特に気を配りました。当日のスタッフについては、事前に会場準備を行い、内容の再確認をしながら、開始時間を待ちます。しばらくすると、元気な声とともに、少しずつ参加者が集まってきました。事前予約制でのイベントではありましたが、当日の飛び入りや欠席等も考慮し、人数にはある程度余裕を設けていましたが、参加者数は53人と、ほぼ当初の予定通りの人数となりました。
 受付を済ませ、さっそくおもちゃ作りのコーナーへ向かう子どもたち。作り方についてレクチャーを受けながら、親子そろっておもちゃを作っていきます。その後は、作ったおもちゃで遊ぶ親子や、一緒にアピールパネルを見る親子、保育士と話したり遊んだりする親子と、各々が楽しんでいたように思えます。その後、お昼の時間が近づき、調理師部会が用意したアレルギー対応食のお弁当を皆で食べて、イベントは終了となりました。普段は控えめな子が、イベント中は楽しそうに遊んでいたり、普段野菜を食べない子がこの日はお弁当の野菜を食べていたりと、いつもと違う雰囲気の中で子どもたちも楽しめたのではないかと感じました。各保育園のアピールパネルを見た保護者の方からは、「他の保育園はこんなことをやってるんだね」「うちでもやったら楽しそう」といったお声を頂いたり、また「普段、家庭ではこんな風に遊ばせると楽しんでるよ」といった意見なども頂き、有意義な交流になったと思います。普段子どもや保護者の方々と関わる機会の少ない自分から見ても、参加された皆さんがとても楽しそうにしている様子を見ることができ、また、遊びのスペースを設けたことで、保育士や親子が一緒になって楽しんでもらうことができたため、イベントを開催できてよかったと思えました。
 最後に、参加者の方に書いていただいたアンケートでは「とても楽しいイベントだった」「人数もこれぐらいで、ゆっくりできた」「人形劇が楽しかった」「唐揚げがおいしかった」「このようなイベントだったらまた参加したい」など、嬉しい言葉をたくさんいただくことができました。イベントスタッフのメンバーからも「やってよかったね」「疲れたけど楽しかった」といった声が自然と上がり、サブテーマである「主催側も楽しめるイベント」も達成できたように思えます。

 
     
 

(4) 感想と課題

 イベントを終え、まず初めに思ったことは「開催できてよかった」ということでした。普段の業務や生活を行っていくうえで、新しくイベントを企画・実行するという経験があまりない中、同じ組合員や仲間、地域住民の方々、その他関係機関の方々と話し合い、お互いの意見を伝えながら、イベント開催まで持って行けたことは、大きな経験になったと思います。また、このイベントを通じて、普段あまり知ることのない職場の実態や、職員・参加者それぞれの想いについても身近に感じることができ、非常に充実した取り組みになったと感じました。イベントの目的である「自分たちの保育を知ってもらい、自分たち以外の保育を知る」も、100%とはいかないまでも、達成できたのではないかな、と思いました。またなによりも、イベントに参加された方々に楽しんでいただけたことについては、職員皆にとっての励みになりました。
 一方で、初めての試みだったということもあり、改善点や課題も多く残されています。調理師部会についてはお弁当作りが忙しく、肝心の住民・職員との交流に時間が取れなかったことや、休日開催のイベントであったために、雇用体系の違いなどの理由から正規職員が主体の取り組みになってしまったこと、また、今回の取り組みは、津和野町職員組合および津和野町公企現業職員労働組合によるものであり、民間保育園と協力して行うことができなかったことなどが課題として挙げられます。その他にも、日々の業務に追われる中で、並行して企画・準備を行っていくことの難しさや、各人ごとに取り組みへの温度差があることなど、まだまだ考えなければならないことが多くあります。しかしながら、最初にイベントを企画しようと考えた原因である、自分たちの保育のアピールについては一定の成果があったと感じましたし、今後もこういった取り組みを続けていくことで、さらなる保育職場のアピールにもつながり、さらには、日々の業務にやりがいを見出せたり、自分たちの職場を守ることにもつながると考えています。

3. おわりに

 今回紹介したものについては、あくまで自治研部、保育士部会・調理師部会による一部の取り組みでしかありません。これら保育職場に関する取り組みだけでなく、津和野町職員組合、津和野町公企現業職員労働組合として、立場や枠組みを超えた自治研活動をもっと広げていくことが重要であると考えますが、なかなかそうはならないのが実情です。しかしながら、自分たちが住む地域や環境を良くしていきたいという想いは、皆が持っている共通のものだと思います。日々の業務に追われ、見えにくくなってしまっている自治研活動の意義について、あらためて、組合員に理解してもらうことが大切です。そのためには、今後もこのような取り組みを継続していき、今まで以上に自治研活動に触れる機会を増やしていく必要があると考えます。
 自治研活動は、組合において非常に重要な活動です。地域住民にとってより良い環境を作り、自治体職員自身もやりがいのある仕事ができるようになるため、今後も活動を継続していこうと思います。