【自主レポート】

第38回地方自治研究全国集会
第12分科会 昨日までの働き方…ちょっと立ち止まって考え直してみませんか?

 島根県の少子高齢化の対策として、産学官の連携強化について県がプロジェクトチームを結成したとの新聞記事を見た。私たち県職員も組織の一員ではあるが、関係部署に所属しない限り携わる機会はあまりない。
 昨年度、単組主催による島根の人口減少問題に関する講演会を受講し、少子化対策と子育て環境の整備の必要性について大いに考えさせられた。また、縁結びのボランティアに携わる中で、結婚離れが増えていると言われているが実は若者の多くがいつかは結婚したいと思っていることを知った。かつて結婚は「個人同士の問題」として行政が関与することはなかったが、少子高齢化による「人口減少」という深刻な課題に直面する中、もはや行政にとっても無関心ではいられない課題となっている。
 組合員や島根県民が思い描くライフデザインの実現のために、これまでとは違った視点で組合ができる取り組みを考えてみた。



組合発、人口減少対策
―― 結婚・出産・育児の課題を通じて考える ――

島根県本部/島根県職員連合労働組合 西  陽子

1. 島根の現状を知る~推計人口と合計特殊出生率から

(1) 島根の推計人口
 島根といえば少子高齢化の先進県といっても過言ではない。2018年10月1日現在の推計人口は、前年同期比5,042人減の67万9,626人で、33年連続で減少し、68万人を割ったことは新聞でも取り上げられた。島根県では、高齢化の進展により、死亡者数が出生者数を上回る自然減の拡大は避けられない。一方で、転出者が転入者を上回る社会減は169人で、年齢別では15~24歳の人口流出が多い。若者の進学、就職による転出が主な要因と考えられる。
 一方、島根県の合計特殊出生率は1.72と全国2位ということも新聞で取り上げられた。しかもこの数字に貢献しているのは、結婚・出産ともに早い20代前半の若い女性である。しかしながら、未婚化/晩婚化の傾向はこの島根においても例外ではなく、とりわけ男性において顕著である。厚生労働省の研究機関である国立社会保障・人口問題研究所が公表している2015年の生涯未婚率データによると、50歳で一度も結婚したことのない男性が4人に一人いる。だがそのうちの全員が結婚を希望していなかったわけではない。このことは、出生適齢期の若い女性の人口流出による「結婚・出産のミスマッチ」が原因と考えられる。

2. 専門家から見た島根の特徴

 島根県職連合では、2019年2月18日に開催した第14回定期大会に併せ、ニッセイ基礎研究所の天野馨南子さんを講師に招いて「島根の人口の未来とライフデザインを叶える働き方実現に向けて」と題する講演会を行った。そのときの講演会において指摘のあった、「人口・結婚・出産」に関する島根の特徴について、いくつかまとめてみたい。

(1) 社会減の特徴
 15~24歳の多くの若者が島根県から出て行っている。特に若い女性の流出がメインとなっている状況にある中で、20代後半から30代前半でさらに女性が流出している。特に母親候補である女性の県外流出が顕著である。若い女性の流出は、将来の子どもたちの母親の流出となる。島根の社会人口減少は、圧倒的に女性を中心として生じており、全国ワースト3位という「非常にもったいない状況」が起こっている。社会移動の男女比からみると、島根の男性は「結婚したくても相手がいない・出会いの機会がない」状況におかれているため、未婚化が進むのは必然といえる。

(2) 高低でしかみない出生率の罠
 生まれてくる子どもの数は、母親の数×特殊出生率である。分かりやすく考えるために、全国2位の出生率を誇る島根と全国最下位の東京で比べると、島根は母親(候補)女性6千人×1.75=10,500人の赤ちゃんが生まれているのに対し、東京は母親(候補)女性1万人×1.2=12,000人の赤ちゃんが生まれていることとなる。このことから、特殊出生率の数字だけに満足していても子どもの数は増えないことが分かる。つまり、出生率だけに頼るには限界があるということになる。出生率を上げるより、母親(候補)の女性を増やす方が、子どもの数への貢献度が高いといえる。

(3) 夫婦と子どもの数の関係
 島根県の夫婦の形を全国と比べると「子どもあり夫婦が少なめ、特に専業主婦夫婦で少ない」「専業主婦夫婦より共働き夫婦が多く、共働き夫婦のほうが2子以上持つ率が高い」ことが分かる。このことから、島根における全国2位の特殊出生率に貢献しているのは「早婚の共働き夫婦」であり、中でも結婚・出産がともに早い20代の女性によるところが大きいといえる。
 生まれてくる子どもが減るということは、その世代だけの問題ではなく、将来島根で生まれてくる子どもの数にも大きな影響を与えることとなる。

(4) 若い女性の理想の結婚相手、育児と仕事観
 ㈱ジェーシービーが2018年2月に公表した「イマドキ女性の節約に関する調査」によると、理想の結婚相手の1位は「家事・育児をしてくれる男性」、2位は「浮気と無縁で、自分だけに優しい人」となっており、かつての「3高(高学歴、高収入、高身長)」を望む女性は、今ではかなり少なくなっている。このことは、結婚に関して「より現実的な理想像」を抱いている女性が多いことの表れといえ、特に1位の「家事・育児を『してくれる』(『手伝ってくれる』ではない)」に着目する必要がある。もはや家事・育児は「妻だけの仕事」ではなく、パートナーとの協働で行うことが当然であり、社会の意識改革をさらに進めていく必要がある。

 また、3割以上の女性が結婚後も仕事を変えずに子どもを持つことを、7割以上の女性が仕事を持ちつつ子どもも持つことを希望している。このことは「育児と仕事の両立」を多くの女性が望んでいることの表れであり、そうしたライフスタイル(働き方)の実現が求められる。

(5) 島根に必要なライフデザインの支援
 日本では婚外子はほとんどいないことから考えると、まず結婚することが大前提となる。結婚の機会を増やすためには、若い女性が島根に留まる、あるいは移住してくることが当然求められる。先ほどふれたとおり、「働きながらの子育て」に対する女性のニーズは高いことから、女性のワーク・ライフ・バランスや、出産後の女性の仕事の地位を大きく改善するための大胆な「働き方改革」が、これからの島根には求められる。20代の女性の人口確保と30代前半の出産力低下を阻止することで、次世代人口を増やすことにつなげる施策の展開が必要である。

3. 組合としてできること~「結婚・出産・育児」の課題への取り組み

 これまでの組合は、「男女平等闘争」などを通じて、さまざまな制度の充実、拡充に取り組んできた。この島根における「人口減少を食い止める」という視点から、これからの組合は「結婚・出産・育児」の課題にどう携わればいいのか、いくつかまとめてみたい。

(1) 学習会の開催~出産・育児を男女でともに考える
 育児休業制度等の学習会は平素から行われているが、視点を変えて「出産・育児」を通じて自らのライフデザインを考えるような学習の機会を設定してはどうか。
① 生殖適齢期について
 結婚する、しない、子どもを持つ、持たないは自由だが、知識として妊孕力や出産にまつわる正しい知識を知ったうえで選択し、自分のライフデザインを考えるきっかけをつくる。
 ・いつでも結婚できるし子どもも授かると思っている人
  →35歳以降は女性の妊娠する確率が3割減少し、年齢が原因の不妊症になる可能性が高い。さらに、生まれてくる子どもに様々な疾患、障害のリスクが高まる。
 ・不妊は女性だけの問題で男性には原因がないと思っている人
  →男性も加齢が原因で不妊になる。さらに、ADHDや精神障害などの発症リスクが高まる。
② 家事育児から学べるスキルについて
 家事からは段取り力、育児からはコミュニケーション力など、さまざまなスキルが無料で付くチャンス。身近な人の体験談を有効活用する。

(2) 地域での活動~地元に貢献するボランティア等を通じた出会いの場を設定する
 最近は組合活動というと、積極的に参加してくれない若手組合員も多い。そうした層を呼び込み、組合の運動に関心を持ってもらうために、ユース部の交流の取り組みの一環として、県が関わっている「縁結びサポートセンター」と協力して、イベントを行ってはどうか。ただ、婚活イベントが全面に出ると抵抗感を抱く人が多いため「組合が取り組む地域貢献活動(ボランティア)」として呼びかけを行い、積極的かつ気軽に参加できる機会を提供する。公民館やNPOなどが行っている地域活動(草刈り、配食サービス、買い物支援など)で人手が欲しい事業はないか、組織内議員等にも協力を得て情報収集し、ボランティアを通じての、男女の出会いのイベントを行う。

(3) 組合版「パパママ教室」~育休取得者の不安解消と家事育児の体験の場を作る
① 料理教室の開催
 現業職場の調理員などを講師として数回シリーズで企画し、料理初心者を中心に徐々に内容・レベルを上げていく。最終的には献立も考えて取り組む。希望によっては離乳食教室、親子で作るデザート教室なども開催?
② 育児体験
 育休取得経験のある組合員に聞くと、「育休明けの職場復帰」への不安の声が多い。そうした不安を和らげるため、育休取得中の組合員に声掛けをして、「赤ちゃん登庁日」を企画する。育休取得組合員に職場復帰のイメージを掴んでもらう一方で、託児で赤ちゃんを預かり、若年層組合員を中心に赤ちゃんへの接し方を体験する機会を設ける。その中で愛おしさや赤ちゃんのいる生活をイメージしつつ、親の役割と自覚を感じるきっかけとする。
 また、出産後の育児に対する不安対応や子育てについて、組合が窓口となって相談できる場を設ける。核家族化が進む中で、心配ごとや困りごとがあっても一人で抱え込んでしまう傾向があるため、組合がそうした役割を担えるよう、子育ての知り合いをつくり、相談しやすい人をつくる。

(4) 組合から進める「結婚・出産・育児」のための働き方改革
① 男性が家事・育児を当たり前にできる働き方を求めて。
 厚生労働省の雇用均等基本調査によると、男性の育児休業取得率は過去最高とはいえ6.16%にとどまり、依然低調である。このことはやはり、「家事や育児は女性の役割。男は仕事」という風土に加えて、「育児休業が昇給に影響するのではないか」という心配が根底にあるからだと思う。男性や職場、家族が育児や家事は女性のものという意識を変える取り組みを引き続き男女がともに行いながら、育児休業を取得しても昇進・昇格・昇給に影響しない(むしろ好評価される、くらいの)制度を求めて、要求・交渉を積み重ねていく。
② 若いうちに仕事を頑張って激務をこなすのではなく、若いうちから仕事以外のことに時間を使えるようなワーク・ライフ・バランスが求められる。そのためにはやはり、人員の確保と業務のスクラップを引き続き訴えていくことが不可欠であり、私たち自身も業務改善の視点を持って業務にあたる意識改革が必要である。
③ 育児休業の普及や労働時間の短縮と育児休業から安心して職場復帰ができる体制づくり。
 休業期間が長ければ長いほど職場復帰への不安は大きいので、安心して復帰するための環境をつくるために当事者のニーズを聴き、改善につなげる。
④ これまでの交渉によって、休暇を始めさまざまな制度・権利を勝ち取ってきたが、私たちもそれらの権利を十分活用できていない面があるのではないか。制度についての学習や、より使いやすくなるように実態に合った方法を皆で討議しながら考えていく機会も必要である。