【自主レポート】

第38回地方自治研究全国集会
特別分科会 AI・RPAと自治体 ―― これからの公共サービスのあり方 ――

 尾道市では、全国で3件目(中国地方では初)となる「保育施設AI入所選考システム」を導入することとなりました。年度初めにむけ、市内の保育所や認定こども園などに入所を希望する児童について、保護者の状況や希望する施設等さまざまな条件を検討し、入所可能な施設を選考する業務には、多大な時間や労力が必要でした。このシステムの導入で、どのような効果が期待されるのか、議会における質疑を通じて明らかとなったことを報告します。



尾道市における
保育施設AI入所選考システム導入について

広島県本部/尾道市議会議員 山戸 重治

1. 尾道市の状況

 2019年度の保育施設への入所希望の申請児童数は 2,539人
 受け入れ対象施設は 公立保育所 9所 私立保育所 12所、公立認定こども園 3園 私立認定こども園 9園
 小規模保育事業所 5ヵ所
 合計 38施設

2. 保育施設への入所選考業務について

 入所を希望する児童の申請書に基づき、保護者の状況や希望する施設などさまざまな条件を検討し、入所可能な施設を選考する業務

3. 導入にいたる経過

① 2018年6月 本市への製品の紹介があり検討開始
② 2018年9月 有効性を確認するための実証実験を実施
        効果があると判断し、2019年4月導入にむけて準備
③ 2018年12月 12月定例議会で補正予算を計上
        所管の民生委員会で質疑
        全国で3例目、中国地方では初の導入自治体

4. 期待される効果(削減される時間)について

① 約2,300件余りの申請件数の処理に約240時間のところが30秒で済む
② 例年は、3人の職員が1日あたり4時間程度を20日間かけて行い240時間
③ 実証実験では、4月入所の選考データをAI入所選考システムで選考
④ その結果を突合した結果は、約93%が一致し高い整合率
⑤ 不一致となった7%も原因をすでに検証済み

5. 費用について

 補正予算で計上された委託料        393万7,000円 の内訳
 導入時初期費用でソフトと導入作業経費   388万8,000円
 サポート料と保守料(3カ月分)       4万8,600円
                    合計393万7,000円
 2019年度以降はサポート料と保守料    年間73万7,000円

6. 人員削減にならないよう短縮した時間の活用について

① 時間が短縮されることで、入所選考結果の確認作業をしっかり行うことができて、事務的なミスの削減もできる。
② そうした時間を十分かけ、保護者の気持ちに寄り添った丁寧な対応ができる。
③ 満足度の向上にもつながっていく。
④ 入所が難しい判定が出た場合、ほかの施設への入所調整にも十分時間をかけ、最終的に待機児童削減につながると期待。

7. 2019年12月議会で市長に質問「待機児童解消につながったか?」

① 2019年度の本格実施ではAIによる判定と職員による選考作業を並行実施。
② 整合率は、実証実験よりも、2.8%高く、95.8%。
③ 「市内全域はもとより、地域ごと施設ごとのニーズ量の早期把握や、保育要件申請内容の変更等にも即時に対応することができ、第1希望の施設への入所が難しい場合でも、他の希望施設の選択が容易になったことで、待機児童の解消につながったものと考えている。」と答弁。
④ 2019年度当初は待機児童が発生していない。

8. 2020年4月にむけては、RPAを導入しさらなる効率化をはかる

① 今までは、AIによる一人ひとりの児童の判定結果を手作業で入力。
② RPAの活用で判定結果を自動入力することで時間短縮ができ、人的ミスの削減と事務の効率化をはかることができる。
③ 実証実験では、入力作業の時間が5分の1になった。
 
資料1 保育施設AI入所選考システム導入について
 2018年12月定例議会 民生委員会 質疑(議事録の要約)
 
質問 山戸重治委員
 現在、保育所などの入所は、申し込みを受け、さまざまな条件を勘案し、希望する保育所に入れるかどうか一定の基準で調査し、選考しているが、近年は希望者が多く、入所できる条件に適合していても、定員がいっぱいで入れない等の待機児童の問題がある。
 待機児童が発生する状況では、かなり綿密に選考しないと公平・公正な行政が進められないこととなり、入所選考には大変な時間と労力がかかっていた。
 そこで、今回「AI入所選考システムを活用して、入所選考に関わる時間と労力を軽減して、少しでも早く入所決定通知を出すことにした。」という説明を受けた。
 現在、入所選考は、どれくらいの職員が、どの程度の時間をかけているか、今回のAIの入所選考システム導入で、それがどの程度短縮がされるのか。
答弁 参事[少子化対策担当]
 3人の職員が1日当たり4時間程度、20日間かけているので、毎年240時間程度を要しているが、このシステムで同じ作業を行った場合、30秒程度で完了する。
質問 山戸重治委員
 基になるデータの入力作業はどうなるか。
答弁 参事[少子化対策担当]
 入力は別途、3人の職員で合計180時間程度を要し、これは必要となる。
質問 山戸重治委員
 240時間が30秒になるとのことだが、短縮した時間はどう活用するのか
答弁 参事[少子化対策担当]
 時間が短縮されることで、入所選考結果の確認作業をしっかり行うことができ、事務的なミスの削減もできる。そうした時間を十分かけ保護者の気持ちに寄り添った丁寧な対応ができる。満足度の向上にもつながっていく。
 また、入所が難しい判定が出た場合に、ほかの施設への入所調整にも十分時間をかけ、最終的に待機児童削減につながると期待している。
質問 山戸重治委員
 AIによる入所選考は、人と同じような正確な入所の判定ができるか検証したのか。
答弁 参事[少子化対策担当]
 本年(2018年)9月に行った実証実験では、4月入所の選考データを使い、AI入所選考システムで選考をした結果、全体2,300件余りのデータの約93%で結果が一致し、高い整合率だった。
 不一致の7%も、原因をすでに検証済みで対応が可能であり、高い信頼性がある。
 ご心配の、例えば兄弟入所とか個別対応が必要なケースは当然あり、一括ですべてを機械処理するのではなく、こうしたものに関しては手作業で確認して丁寧に対応する。
質問 山戸重治委員
 人工知能は進化すると聞いているが、今までなかった判断や条件を新たに入れれば、どんどん蓄積されて、より精密度の高い判定や入所決定が出るしくみになっているか。
答弁 参事[少子化対策担当]
 AIはさまざまな事例を経験すると蓄積され、ケースを積み重ねる中で、込み入った事例も対応ができ、進化していく内容になっている。
質問 山戸重治委員
 現在の課題の一つは、入所の申し込み後、かなり期間がかからないと決定通知が来ないことだが、AI入所選考システムを利用すると、この期間は短縮が可能なのか。
答弁 参事[少子化対策担当]
 従来は、入所決定通知書の発送を毎年3月の上旬に行っていた。
 2019年度の入所選考は、AI入所選考と従来の作業を並行して行うために、決定通知書の発送時期は、従来どおり変更はないが、2020年度以降は、AI入所選考システム一本で運用を予定しており、少なくとも2週間程度は早まると考えている。
質問 山戸重治委員
 委託料393万7,000円の内訳は。
答弁 参事[少子化対策担当]
 導入時の初期費用がパッケージソフトと導入作業費を合わせて388万8,000円、別途パッケージサポート料と保守料が3カ月分4万8,600円で合計393万7,000円。
 導入後の来年度(2019年度)以降は、サポート料と運用保守料で年間73万7,000円。
質問 山戸重治委員
 今回、尾道市が全国に先駆けて導入することになったきっかけは。
答弁 参事[少子化対策担当]
 2018年11月に発売を開始したばかりの製品で、今年度(2018年度)導入を予定している自治体は、尾道市を含め、全国で2団体のみ。
 本市への製品の紹介が6月頃あり、有効性を確認するための実証実験を9月に行ったところ、非常に高い効果が期待できるということがわかり、2019年4月の入所選考から導入したいと考え、補正予算をお願いした。

資料2 尾道市の待機児童対策とAIの活用について
 2019年12月定例議会 市長への一般質問(議事録の要約)
 
質問 山戸重治議員
 尾道市では、今年度(2019年度)から保育所などの入所判定において、全国に先駆けてAI(人工知能)による入所選考システムを活用している。
 2018年12月定例会で、この事業の補正予算が計上された時の質問では「実証実験では、職員が行った選考結果とAIによる選考結果では93%の結果が一致し、信頼性が高い。」と答弁した。その後、2019年度の入所選考から「AI入所選考システム」を活用しているが、実証実験と同じように高い整合率だったか。
 尾道市ではこれまで待機児童を出さない努力を重ね、少なくとも2013年度から5年間は、年度当初では待機児童がゼロだった。
 しかし、待機児童の定義の変更などから、2018年度は待機児童が24人となった。2019年度当初では、待機児童はどのような状況か。
 また、「AI入所選考システム」が、待機児童の解消に役立ったと思うか。
 尾道市では、「AI入所選考システム」によって出た一人ひとりの児童の判定結果を手作業で入力していたが、RPAを活用すれば、時間短縮ができ、人的ミスの削減と事務の効率化がはかれることから導入を計画している。この作業の実証実験の結果はどうか。
 例年、入所決定通知の発送は3月上旬で、その結果、入所が難しい場合は新たな施設を探す必要もある。4月の入所まであまり時間がないため、一日でも早い入所決定の発送が求められていた。
 これまでの答弁で、「AI入所選考システムを本格的に活用する2020年度の入所からは、入所決定の発送が2週間程度早まる」とのことだが、あわせてRPAを活用した場合には、さらに早く発送することが可能となるか。
 最後に、来年度(2020年度)待機児童を出さない対策について、市長の考えを聞く。
答弁 平谷裕宏市長
 2019年度はAIによる判定と職員による選考作業を並行し、整合率は実証実験の時より2.8%高い95.8%で、残りの4.2%も検証し、確実に対応できている。
 2019年度当初は、待機児童は発生していない。
 「AI入所選考システム」の活用で、市内全域はもとより、地域ごと、施設ごとのニーズ量の早期把握や、保育要件、申請内容の変更等にも即時に対応することができ、第1希望の施設への入所が難しい場合でも、他の希望施設の選択が容易になったことで、待機児童の解消につながったものと考えている。
 また、RPAの実証実験では、手入力と比較し1件あたりの入力時間が5分の1程度に短縮され、作業時間の削減効果が見込まれる。
 導入初年度(2019年度)は入力結果に対する十分な確認が必要となるが、来年度(2020年度)以降は、AIとRPAの活用で入所決定時期を一定程度早めることができる。
 待機児童対策は、AIとRPAの活用とあわせ、保育士就労奨励金事業、保育士早期復職サポート事業、保育現場見学、体験事業等の実施により引き続き保育士の確保に努め、待機児童が生じないよう全力で取り組む。
再質問 山戸重治議員
 国などは、「幼児教育・保育の無償化」によって、保育を希望する子どもが増え、待機児童もさらに増えるとの懸念を持っているが、尾道市ではどうか。
答弁 参事[少子化対策担当]
 無償化と入所希望との因果関係は定かでないが、4月以降の年度中途での入所希望者数が、例年100人前後であったが、今年度(2019年度)はさらに50人程度多い結果だった。この結果から、影響は50人程度かと推測している。
再質問 山戸重治議員
 4月へむけ今、保育所などへの入所希望の募集をしているが、無償化により希望する子どもがふえることについては何か対策を考えているか。
答弁 参事[少子化対策担当]
 需要の増加に対応するためには、まず保育士の確保が先決で、今年度(2019年度)新たに、今までの対策にプラスし「保育士早期復職サポート事業」を創設した。
 市長答弁でも述べたさまざまな保育士確保策を講じて、一定程度保育士も確保でき、需要増に対応ができたと考えている。
再質問 山戸重治議員
 2020年4月には、公立の保育所3所と公立の幼稚園2園を統合して新たに民間運営の(仮称)中央認定こども園を設置する。5カ所の公立施設を統廃合し、民間施設1カ所の開設では、当然、全体の受け入れ定数は少なくなると思うが、どうなるか。
答弁 参事[少子化対策担当]
 統合対象の公立5施設の現在の定員総数が435人で、新たに設置をする民間の認定こども園の定員数は300人を予定し、総定員が135人減少する。
再質問 山戸重治議員
 ここ数年、国は、乳児の保育希望がふえて受け皿が足りないという試算をして、全国的にその受け皿をつくる取り組みをしてきた。
 尾道市もこれを受けて、私立や無認可施設の認可化を進めて、認定こども園を設置し、ある程度の受け皿をつくって来た中で、今年、無償化が始まって初めての4月を迎えるが、定員数が135人減少しても十分な受け皿はあるか。
答弁 参事[少子化対策担当]
 2020年4月1日の尾道市全体の保育認定児童の定員総数が2,750人になり、2019年4月の利用申込者数が、2,263人で、定員数全体ではまだ500人程度余裕がある。保育士が確実に配置をできれば待機児童は発生しない見通しでいる。
 
※2019年度においては、一部(教育認定の235件分)のみRPAを活用し、これまで20時間かかっていた作業が4時間となった。
※入所決定通知の発送は、例年よりも2週間早くできた。
(2018年度は3月2日→2019年度は2月17日)