【自主レポート】

自治労運動における市民参加と協働
― 武生市市民自治基本条例策定までのプロセスを振り返る ―

福井県本部/武生市職・丹南市民自治研センター・幹事 奥山 茂夫

1. プロローグ

 すべてはここから始まった。1999年2月24日、「つくろう! わがまちの"憲法" ― 自治基本条例の制定を ― 」のキャッチフレーズで、篠原一東京大学名誉教授(当時)を講師に招き講演会を開催した。当時、市職では「市職員採用における国籍条項完全撤廃」に向け、自治労運動を展開していた。
 その運動の一環として、分権市民フォーラムの代表だった篠原教授を招き、「歴史的文脈から見た分権型社会の意味」と題し、「国の施策の忠実な遂行者」から「住民自治の体現者」になろうと、市長をはじめ市の幹部を巻き込んでの講演会となった。
 「市職員採用における国籍条項完全撤廃」はその後の継続した運動が実り、武生市では「完全撤廃」されている。この講演会において提言された「自治基本条例」についても、地元のマスコミにも大きくとりあげられ、市職の方針として、「自治基本条例の制定」が固まった。

2. 丹南市民自治研センター

 市職の自治研活動でどうしても壁にぶつかるものがある。それは、市職のなかま内だけの活動や議論にとどまり、その実現性については、市民不在という点で、どうしても一歩踏み出せない現状があった。
 そこで、私たち市職の自治研活動も市民の中へ打って出ようと、2001年4月1日、丹南地域の自治労のなかまをはじめ、自治体議員やJC、NPO、市民運動で活動している人などさまざまなメンバー約150名で「丹南市民自治研センター」を立ち上げた。センターの代表には、市職の組織内議員(2002年の市議会議員選挙ではトップで5選を果たす)をたて、事務局長は、市職のなかまが担うことになった。(この体制は現在も続いている)
 この「丹南市民自治研センター」は、2001年の立ち上げ以来、さまざまな活動を行ってきた。例えば、定期的な講演会には、これまで、「辛淑玉」「牛山久仁彦」「姫野雅義」「高野孟」「北村春江」「大津山壽久」「天木直人」を招いてきた。
 また、シンポジウムも数多く行ってきた。「市町村合併」「夢のある公民館を考える市民セミナー」「市民立法セミナー」「子どもの今と未来を語るセミナー」等々。そのほかにも、子どもの権利条例を学ぶ川崎スタディツアー(川崎地方自治研究センター、川崎ふれあい館、桜本保育園、しいのく学園)や映画「郡上一揆」の上映会、自治労北信地連地方自治研究集会の企画運営、子どもたちの生活意識調査、地域公共交通機関を考える「電車でGO」などである。
 さらに、丹南市民自治研センターの中に、部会をつくった。「子ども部会」や「市民立法部会」などである。この市民立法部会の目標は、いうまでもなく「自治基本条例の制定」である。2002年2月17日、吉野川可動堰で住民投票を行った姫野雅義さんを招き「条例づくりはまちづくり」と題し、シンポジウムを開催した。ここでは、今立町の「環境保護条例」や鯖江市の「市民参画条例市民案」、武生市の「男女共同参画推進条例市民案」の事例報告等もあわせて行った。
 ここで、特記しておきたいことは、丹南市民自治研センターが行ってきた活動は、常に市民とともに企画し、協働の中で運営してきたということであり、さまざまな事業に多くの市民が参加してきたということである。こういった土壌の中から、「武生市民自治基本条例市民案」は生まれていった。

3. 市民自治基本条例の制定に向け

 2003年8月5日、丹南市民自治研センターが、多摩市市民自治基本条例をつくる会の大津山壽久会長を武生に招き、多摩市民の自治基本条例づくりの取り組みについて講演会を開催した。
 この講演会において、武生市でも自治基本条例づくりを進めようと呼びかけ、市民自治基本条例の制定に向け、具体的にスタートをきった。当日の講演会や新聞報道等で告知したこの呼びかけに、市民41名の応募があった。条例をつくろうという難しいテーマに対し、自然に市民が参加したのは、これまでの丹南市民自治研センターの活動の成果である。しかし、市職の中だけの自治研活動から、市民の参加と、市民と協働できる自治労運動へと実感できるまでに、1999年2月からこの日まで足掛け4年6カ月の時間を要した。
 一方、これだけの月日をかけ、さまざまな活動を行い、市民と協働できる環境が完全にできていたおかげで、ここからの具体的な条例づくりは、スムーズに進んだ。市民41名で「武生市民自治基本条例をつくる会」を結成し、計11回のワークショップを開催した。ワークショップの日程及び概要は以下のとおりである。
① 第1回ワークショップ 2003年8月18日
  最初に、丹南市民自治研センターからこの「条例をつくる会」にいたった経過を報告。市民自治基本条例の意義や必要性を確認。その後、自己紹介をはじめ、会の運営ルール、スケジュールなどを決定した。
② 第2回ワークショップ 2003年9月24日
  「自治」について自由なグループ討論を行った。議論された内容を大きく分けると、(ア)身近な地域の自治組織、(イ)地域における一人ひとりの役割、(ウ)行政とのかかわり、の三つに分類された。
③ 第3回ワークショップ 2003年10月14日
  第2回のワークショップで議論した「自治」について、三つのテーマ「①身近な地域の自治組織について、②地域における一人ひとりの役割について、③行政とのかかわりについて」に整理し、議論を深めた。
④ 第4回ワークショップ 2003年11月19日
  再度「市民自治基本条例の意義や必要性」を確認したあと、条例の項目(骨組み)をピックアップした。
⑤ 第5回ワークショップ 2003年12月4日
  条例の項目(骨組み)をより具体的に掘り下げ、整理し、条例の枠組みをつくりあげた。
⑥ 第6回ワークショップ 2004年1月14日
  条例の枠組みに基づき、たたき台を作成。
⑦ 第7回ワークショップ 2004年2月5日
  条例のたたき台を議論するうえで、概念図を作成。
⑧ 第8回ワークショップ 2004年2月17日
  条例のたたき台に基づき、条文について議論。
⑨ 第9回ワークショップ 2004年3月1日
  前文や条文について議論。中間報告会について打合せ。
⑩ 第10回ワークショップ 2004年3月16日
  「武生市民自治基本条例をつくる会」の武生市市民自治基本条例(試案)をまとめる。中間報告会パネルディスカッションの打合せを行う。
⑪ 武生市市民自治基本条例(試案)中間報告会 2004年3月24日
  武生市民自治基本条例をつくる会が主催し、武生市の共催を得て、中間報告会を行った。私たち「つくる会」の条例(試案)の提起後、「だれにでもわかる市民自治基本条例」と題し、パネルディスカッションを行った。市民約100名が参加し、条例試案にさまざまな意見が出された。
⑫ 第11回ワークショップ 2004年4月23日
  中間報告会での意見等を包括し、市長提言に向け、武生市市民自治基本条例(試案)をまとめる。
⑬ 武生市長へ提言 2004年5月10日
  「武生市民自治基本条例をつくる会」の武生市市民自治基本条例(試案)を武生市長へ提言する。
 ☆ワークショップに参加できなかった人が、次回のワークショップの議論にスムーズに参加できるよう、また、多くの意見を吸い上げるために、ワークショップ開催後は毎回「かわら版」を発行し、ホームページにも掲載した。

4. 武生市市民自治基本条例(試案)について

(1) 武生市市民自治基本条例(試案)の基本理念
   なぜ今「自治基本条例」が必要なのか。一つには、2000年4月の地方分権一括法の施行である。国の関与が縮小されたという事情が影響している。ただし、この分権改革は「団体」自治に関わる国の関与の改革が主であり、自治のもう一つの側面「住民」自治の側面には手をつけていない。地方自治は、憲法で保障されている。それは地方自治の本旨に基づくとされ、具体的には「団体自治」と「住民自治」から構成されるとされている。すなわち団体(市役所)が国から独立した存在であるということと、その運営は住民(市民)が自ら参画して行うものとされている。
   団体としては不十分ながら以前から比べれば格段に「自立」した立場となったが、拡大された権限を持ったその団体の運営をどうするのか、もう少し言えば地域をどう運営していくのかは住民自治の領域として残された。
   一方、国の統制、関与が弱まることが、団体が「何をやってもいい」ということにはならず、逆に失敗したら自己責任を求められる。折りしも財政状況は危機に瀕しているから、より一層「自己統制」「自己規律」が求められてきた。
   さらには、国の指導が無くなって、いままでのマニュアル的な一律的なまちづくりはその時代を去り、住民の創意と総意に基づく判断が唯一の拠り所となってきた。結局、分権改革は自治体には与えられた可能性であるとともに、最終的には住民とともに充実する責務も負ったことになり、そのための基本ルールが求められたことが自治基本条例の背景だ。
   また、住民意識の変化もともなった。公的サービスの提供を行政から一方的に受けるのではなく、自らが主体となって公的サービスに関わろう、自分たちが住むまちは自分たちでつくっていこうという高まりがあり、こうした住民の活動意欲を受け止める仕組みづくりや役割分担のルールづくりが求められてきたのである。
   武生市市民自治基本条例策定では、この住民自治の側面からのアプローチを行った。今回、他市の自治基本条例と大きく視点を変えているのは、さまざまな「自治活動」を自治の担い手と把握し、団体=市役所を相対化したことである。
   行政(市役所)と市民との関係を前提に、その役割や責務などを論じているのが一般的であるが、自治の担い手は何も行政(市役所)だけではない。むしろ地域自治活動やNPO、各種団体、もっと言えば家庭や個人のネットワークも、その重要性を増しているという認識があったからである。(例えば、買い物袋を持参する運動は個人=各消費者の活動であるが、市民が自発的に一斉に行うことがネットワークとなり総合的に環境に配慮しようという市民自治活動となる。従来の組織に着目する条例では、これらの活動をカバーすることはできない)
   実際、私たちの「作る会」もそのメンバー構成はさまざまだった。メンバーの活動経験は、例えば町内会やNPO、消費者グループ、近隣住民との活動、公民館活動、家庭での協働などさまざまだった。もちろん行政も含まれていた。私たちはこれらの『多様な公益を担う活動に通じる「活動原理」』を共有しよう、各主体が互いに認め合い、「協働していく仕組み」そのものが重要ではないかと考えた。それが武生市民の自治(市民自治)につながると考えたのである。この基本理念のもと、全14条の試案を作成した。
[資料として、条例(試案)と別添図解あり]

5. 終わりに

 私たち「武生市民自治基本条例をつくる会」の条例(試案)提言後、武生市は、市民公募を含め18名からなる「武生市自治基本条例策定市民懇話会」を立ち上げた。この懇話会には、私たち「つくる会」のメンバー3名も参加している。
 懇話会では、私たち「つくる会」の条例試案を参考に策定作業が進められ、8月11日に市長へ提言された。この提言には、私たちが提言した概念が多く盛り込まれている。例えば、条例の骨格として「市民自治活動」という市民が自治活動を行う際のルールを定め、「市民自治推進委員会」を設置し、市民自治を推進することとしている。今後、9月議会に上程され、「ぐんま自治研」が開催される10月には、武生市においても自治基本条例が県内で初めて制定されていることと思う。
 結果として、どのような条例ができようとも、私たちが求めて運動してきたことはすでに成し遂げている。私たちが求めてきたことは、このプロセスであり、私たちの自治労運動にすでに市民が参加し、協働しているという事実である。いや、市民の運動に私たち自治労運動がともに歩んでいると言えるかもしれない。いずれにせよ、今後も、武生市職ならびに丹南市民自治研センターにおいて、継続した自治労運動を展開し、市民とともに歩み続けたいと思う。

武生市市民自治基本条例(試案)

図解