【自主レポート】
賃金カット提案をする前に「やることはたくさんある」
香川県本部/自治研推進委員会 小島 重俊
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1. はじめに
自治労香川県本部の自治研推進委員会の中に、公共事業専門委員会を立ち上げて3年半、県民アピールを始めて5年が経過しました。「とくしま自治研」に、公共事業執行に係る制度矛盾や「急がない公共事業」を切り口とした取り組み紹介などのレポートを提出し、その後も香川県における医療・福祉の切捨て提案などに対抗させてきました。「公共事業予算との比較をして、どちらを優先すれば良いか」県民に問いかけようとする取り組みです。
結果として、県当局に対する一定のプレッシャーにはなっていますが、縦割り行政や補助金行政の続く現状の中では、地方自治体独自での具体的な改善の成果はほとんど見えません。そればかりか、「三位一体改革」による地方交付税削減などの影響が、各地方公共団体の財政に予想以上の大きな負担としてのしかかってきています。「予算が組めずどうしょうもない」とした理由から、独自の賃金カットや昇給停止などが強行されるだけでなく、指定管理者制度での議会承認をちらつかせながら医療・福祉分野での独立採算性の追求や、大きくは市町村合併議論促進の引き金にもなってきているところです。
本県でも、本年度当初予算で500億円もの財源不足が生じることとなり、賃金カットを含めた合理化提案も予測され、本レポートの表題のとおり「やることはたくさんある」として、春闘時での取り組み強化を図ってきました。5年前から訴えている公共事業執行のあり方を中心に、政策部や土木部に対する要求交渉を徹底し、県財政健全化に向けた大規模公共事業の休止や廃止、また、天下り人事の改善などを求め続けています。
そして、公務員バッシングの続く世論の中ではありますが、「仕方がない」とするのでなく、県民に知らせていく取り組みを目指しているところです。そして、今回も「大規模公共事業の実態を知っていますか」「急ぐ必要があると思いますか」と、別添チラシ6万部を職場や地域に配布しました。「土木部職員が諸悪の根源みたいに取られんかのー」などと議論しながら、粘り強く公共事業専門委員会の活動を続けています。
チラシ「変えなきゃ香川県」
2. 国に振り回されている地方財政
私たち地方公務員の立場なら、誰でも実感している現状ですが、県民の多くは知り得ません。国の補助・負担金を削減したものの、地方に対する税源移譲が不十分であり「地方切捨て」と言われている「三位一体改革」の問題も、実態をキチッと県民に知らせる体制がないため、まったくの無関心です。そして、香川県の借金が7,000億円を超え、年間予算の1.5倍とか、県民一人当たり70万円の負担が必要と訴えても、なかなか反応は返ってきません。「何をしとるんや」「お前たちが責任を取れ」となるでしょう。
また、これまでも指摘してきたことですが、国から金がでるのであれば「補助事業をやらなければ損」とか「今やっておかなければできなくなる」とした地域エゴが蔓延しています。言い過ぎかも知れませんが、現在のシステムでは施設の必要性の議論より、財政支援があるから整備するといった逆転現象も生まれています。
3. 相変わらずの重点要望と国直轄事業
一方で財政が厳しく、人件費の削減は避けて通れないと言いながら、一方では相変わらずの国直轄事業や補助事業予算配分に対する重点要望を続けています。バブル期に事業の必要性を訴え、地域に推進団体を作り、首長などが陳情した補助事業を休止・廃止するとは言えないのかも知れませんが、職員の賃金カットや県民医療・福祉の切捨てまで提案しようとする中で、あまりにも無責任な対応だと言えます。ちょうど3年前になりますが、本県独自の老人医療費補助制度を廃止した際に、反対する陳情団が帰った後、「年寄りに金を使っても何にも残らないが、公共事業に使えば施設が残る」と、当局の責任者がうそぶいたと言うことが現実味を帯びてきます。
また、国直轄事業は、各地方自治体にとって人件費がかからないとか事業費負担が少なくてすむなどの利点があり、その採択を求めてきているところです。そして、いったん事業が動き出すと、地方議会も関与できないシステムの中で事業が推進されます。これまで、「事業内容の説明責任」や「一方的な負担金請求」などを指摘してきたところですが、本県の農林事業において新たな問題が生じています。
農林事業は、その種別により5~40%程度の受益者負担を徴収することから、一般的に地元申請事業と言われています。この受益者負担の制度は、農林業が衰退している中では徴収に苦労するだけでなく、その施設自体が防災機能や地下水の涵養・水辺環境の保全なども担っており、賛否両論があるところです。しかし、あれもこれもとした地域の整備要望を抑えるだけでなく、事業予算に関心をもたせ、行政側と地域が一体となって知恵を出すなどの効果も発揮しており、長年の制度運用で定着していました。
ところが、本県において国営総合農地防災事業が実施されることとなり、受益者負担なしで「約200箇所のため池」や「水路」改修に国が乗り出してきました。隣接する「ため池」で対応が変わっており、他事業で負担をさせられた受益者は堪ったものでありません。行政に対する不信感だけでなく、水利組合の役員にまで不満がぶつけられている実態があります。けっして国でなければできない事業でもありませんし、必要な予算さえ確保できれば、地方自治体にまかすべき業務だったと言えます。
4. 高すぎる公共事業
県立病院の統廃合問題にあわせた事前協議で、新築病院にPFI制度導入を含めた提案がなされました。その理由として、私たちが訴え続けてきた「高すぎる公共事業」が焦点となっています。民間が発注することにより、病院の新築経費が大幅に削減されると言うものでしたが、すべての公共事業に対応させるべきとした要求に答えきれず、現状では保留の状態です。
検討委員会の委員より、県の発表した予算計画に対し、直近の民間病院新築経費と比べて3~4割高いと指摘されている訳ですが、県の直接発注という形態を取るなら、設計単価や歩掛は国の決めた基準に従って積算しなければならず、単独で変更することはできません。まさに、県当局も認めざるを得ない実態であり、国への改善を求めるべきです。
そして今、人件費や材料費の調査を徹底し、それぞれに単価は下がってきていますが、国の示す基準の中では必要とされる人数が増やされるなど、公共事業の「ウマミ」を残そうとする動きが目に付いてしまいます。政治献金してくれる仕組みを壊したくないのでしょう。また、現場では事業量が減り競争が激化してくるに従い、赤字覚悟で材料価格の設定をする業者も現れ始めており、設計価格への反映は困難となっています。安心・安全の公共事業執行を担保するには、公正労働基準を守らせ、支払いを監視する制度がますます重要になっていると言えます。
5. 私たちは訴え続ける
公共事業執行に関する様々な制度矛盾を指摘しても、これまでの利権構造にぶつかってしまい、改善には程遠い実態があります。「補助金漬けの縦割り行政をぶち壊さない限り変わらないだろうな」と言いつつも、訴え続けるしかありません。20年後には、土木公共施設の維持修繕費用が倍増するとも言われており、建設優先でない制度設計も必要でしょう。そして、公共事業予算の抑制が続く中で、事業量が減少していくのはまちがいなく、地場中小業者の存続を展望した時、公共事業一辺倒でない経営を支援していく必要もあります。
地方財政の健全化と利益誘導型公共事業の改革には、補助・負担金の廃止と地方への税源移譲が絶対要件です。そして、今こそ、公共事業専門委員会の踏ん張り時だと信じて、粘り強く取り組んでいきます。
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