【要請レポート】
合併しない選択と財政運営
~自律宣言、合併しないで村づくり~
長野県本部/栄村職員労働組合
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1. はじめに
当村は、長野県の最北端で新潟県との県境に位置し、東西19.1km、南北33.7km、周囲106.0kmにおよぶ271.51km2の広大な面積を有し、実にその95%を山林原野が占めています。地形は、千曲川下流部の塩尻地区の標高256mを最低標高地とし、苗場山(2,145.3m)、佐武流山(2,191.5m)、鳥甲山(2,037.6m)などの2,000m級の山々があり、高低差の激しい中に、中津川と志久見川が南北に流れ、北部を千曲川が西から東へ横断し県境から信濃川とその名を変えて流れています。集落は、これらの川沿いの平坦地を中心に形成され、人口2,638人、930世帯が32の集落に点在しています。特に中津川沿いに点在する秋山地域は、役場から30km以上と、地理的にも時間的にも離れています。
当村は昭和31年に千曲川の左岸の水内村と右岸の堺村が合併してできた村で、当時6,500人いた人口も今では2,600人余りに激減、高齢化率も41%と高く、典型的な過疎の村であります。
村役場は、県庁のある長野市からは、車で約1時間30分、JR飯山線を利用すると長野駅から森宮野原駅まで約2時間。首都東京からは、間越自動車道(塩沢石打I.C)、上越新幹線(越後湯沢駅)を利用し、車で約4時間、電車で約2時間の時間距離にあります。
気候は、四季の変化に富んでおり、特に冬期間には日本海からの季節風が1,000m級の関田山脈の影響により湿った多量の降雪をもたらします。昭和20年2月にはJR沿線では日本最高積雪となる7m85cmの記録があり、全国屈指の積雪豪雪地帯であります。
村では、3つの広域行政組合を形成しています。
名 称 |
構 成 市 町 村 |
業 務 |
北信広域連合
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中野市、飯山市、山ノ内町、木島平村、飯山市、豊田村、栄村
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特別養護老人ホームや介護保険認定業務 |
岳北広域行政組合
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飯山市、木島平村、野沢温泉村、栄村 |
消防業務 |
津南地域衛生施設組合
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津南町、松之山町、中里村(以上新潟県)、栄村 |
ごみ・し尿処理、火葬 |
ご覧のように特に生活に密着した、ごみ・し尿処理、火葬について県を超えて組織しています。また、消防・救急業務についても新潟県津南町と応援協定を結び実施しています。
2. めざすべき自治の姿
村の総合振興計画のテーマは「みどり豊かな 心のやすらぐ村」です。
恵まれた自然を大切に、人と人とが確かな絆で結び合い、安心で希望に満ちた豊かな生き方の創造を目指しています。栄村らしく光り輝くためには、住民と行政との協働による村づくりをすすめ、住民活力を伸ばすことが大切と考えます。地域の課題、問題点を共有化し、その解決方法を住民と共に工夫し実践するという基本的な村づくりの姿勢や考え方を住民意識として定着させることです。
3. 住民との協働の取り組み
(1) 道直し事業
豪雪地帯であることから冬場の生活道路の確保は大変重要な事業であります。モーターリゼーションが進み、冬でも自宅に車を停め、あるいは宅配便の車やデイサービス等の送迎車が玄関先まで乗り入れができることが求められるようになってきました。しかし、支線道路である集落内の生活道路の改良は、補助事業ではほとんど採択されません。そこで、村が職員による直営でこの道路改良工事を行うものであります。
通常、集落内道路の幅員は2m前後が多く、これを機械除雪のできる3.5m~4mに拡幅するもので、集落の要望として主体的に利害関係を調整し、工事に係る費用の一部を負担することが条件となります。
従来から集落内の道路新設・改良については、用地の提供・寄付が主流であり、集落によっては互いに現物も含め負担しあって土地を提供するといった、互助的な関係があったことから負担金を出すことに対し、異論は出ておりません。
住宅や水路等が密集する集落内ですから、施工にあたっては地域住民との綿密な協議と合意のもとに進めるよう心がけています。特に設計図書はありませんので、現地の状況に即し、地域住民の総意に基づく要望に臨機応変に対応しながら施工することができます。
平成5年~15年度まで56路線 9,585m、1m2あたり約10,000円となっています。
(2) 田直し事業
転作や自由化政策によって、農家の米づくりに対する意欲が衰退し、条件の不利な水田から荒廃がすすんでいます。補助事業による圃場整備は、中山間地の棚田では面積要件に合致しなかったり、合致したとしても事業費が膨らみ農家負担は少なくありません。
農家が求める圃場整備は、「2~3枚の棚田を1枚に集約し、機械作業のしやすい水田に改良すること」なのです。この要望をオペレーター付きの機械リース方式で村が実施するもので、農家の意向や土地の状況、概算事業費等について農家・オペレーター・村担当者の3者で協議し、合意のもとに事業をすすめます。
10aあたりの事業費は40万円以内を目安とし、農家と村が50%ずつ負担します。
同一所有者の棚田整備であることから、換地を伴う従来の圃場整備とは異なり農家の当事者意識が強く、細かな要望も出し易く、また要望どおり取り入れてもらえることから完成後のトラブルは出ていません。農家の土地勘とオペレーターの技能、そして行政の支援という3者の協働が生かされています。
平成元年~14年度まで1,251枚を450枚に整備、面積36.6ha
(3) げたばきヘルパー
積雪の多い冬期間でも、点在した集落に24時間ヘルパーが安否確認や介護に駆けつけられるよう、非常勤のヘルパーを養成し、そのシステムを構築しました。
資格取得のための養成講座を村が社協に委託して開催、ホームヘルパーとして登録していただき、村内に8つのワーキングチームを編成して活動しています。
介護保険の事業者認定を受けた社協が窓口となり、登録されたヘルパーはサービスの専門性を確保することからその稼動に対し報酬を受け取ります。
ヘルパーは、サービス提供のできる都合のよい時間帯を登録し、これによって社協が1ヶ月間のスケジュールを作成。現在114名の登録があり、本人の都合による変更にも臨機応変な対応が可能となっています。また、介護を受ける側に立った対応や専門家としての自律心を高めるための講習会も毎年実施しています。
近くにヘルパーがいることで、住民や高齢者に精神的な安堵感を与えています。
主な賃金体系: 生活援助 1,000円/時間 身体介護 1,500円/時間
ショートステイ 5,800円/日 その他 725円/時給
サービス内容: デイ・ショート・ホームヘルプ・配食・安心コールなど
活動実績(15年度): 利用者774名 支払総額 1,275万円余り
4. 循環型地域経済の振興
住民と行政の協働活動は、地域雇用の拡大とともに村内循環経済へも波及しています。
村の観光施設の管理運営は、村の寄付行為によって設立された(財)栄村振興公社が行っていますが、4つの温泉宿泊施設や食堂における食材・飲料は村内で調達します。
仕入れにおける村内調達率は約70%となっており、食材の地産地消はもとより飲料など村内の小売店への経済波及効果は大きいものとなっています。
また村内の下水整備は、役場所在の地域を除き個別合併浄化槽によって対応しています。
当該合併浄化槽は、村が事業主体となり一括して設置から管理まで行っています。
合併浄化槽の工事には、土木、管、建築、電気など様々な工種が必要となることやメンテナンスには有資格者が必要となることから、村内の小規模事業者に共同して工事をしてもらうため会社を設立してもらい、この会社に随意契約によって設置と管理を行ってもらっています。これらもまた雇用の場の拡大と地域経済の循環に寄与しています。
5. 栄村将来像モデル
平成15年3月 中学生以上を対象とした住民アンケートを行いました。その結果「合併について話し合うよりも村の将来について話し合うべきだ」との意見が62%を占めたことから、「栄村将来像モデル」を策定することとなりました。
それまで村では独自の財政シミュレーションや長野県との共同プロジェクトによる「自律研究」を行ってきました。この中での将来の財政シミュレーションは10年、20年先までのものとなっていましたが、不確定な長期予想は住民には理解しがたく、特に高齢者にとっては他人事のように思われがちでありました。
そこで将来像モデルでは、目標年次を平成20年頃と設定し、従来の歳入見込みによるシミュレーションとは異なり、昭和60年頃の村の予算規模であった20億円前後を目安とした場合にどうするべきかを研究、事業の見直しをすることとしました。
村の基本的な行政執行の柱が何なのかを研究検討することとしたのです。
見直しの方針としてまず、次の3点を掲げました。
① 受益と負担の原則に立って、できる限り自主財源の確保に努める。
② 保健・医療・福祉・雪害対策・教育を重点に経費の効率化を図る。
③ 住民との協働を通じて現物給付型の機能的な活動を強化して財政の縮減を補完する。
策定の結果、財政規模は22億1千万円となりましたが、職員の人件費15%削減や特別
職の給料削減(30%)並びに収入役の助役兼掌、教育長の非常勤化、議員の定数削減(16名を12名に)、組織機構の見直し、水道料金等受益が限定される負担の見直しなどが盛り込まれています。この「将来像モデル」については、総合振興計画審議会委員、各種団体代表、村民有志からなる百人委員会や集落懇談会を通じて説明、意見聴取を行い、平成16年1月30日 議会の議決を受け、平成17年3月末を期限とする合併特例法による合併はせず、「自律の村づくりを進める」こととしたのです。
モデルの初年度である本年度は、それまでの6課1室1委員会を3課1委員会に再編、議員定数も議会提案により次期改選(平成17年度)より4名減の12名とすることや、水道料・国民健康保険税の引き上げなどが決定実施されています。
国の三位一体の改革が進められている今日、5年後を見通した「将来像モデル」がともすれば数年で現実の姿となるかもしれないという状況に来ています。
今後はより一層国の動向を注視しながら、職員が一丸となって効率的な事務事業の執行に心がけて行くことが不可欠と考えています。
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