【要請レポート】

財政再建団体からの脱却過程と現在の課題

福岡県本部/赤池町職労

1. 赤池町の概況

(1) 位置及び地勢
   福岡県の中部に位置し、北九州市から35km、福岡市から45kmの距離にある。
   周辺を山地に囲まれた盆地で、その中央部を彦山川が還流している。総面積は16.20km、人口は10,000人余りの小さな町である。
   標高901mの福智山の麓は、北九州国定公園上野(あがの)峡があり滝が小渓谷をなしている。さらに、この上野峡の近くには400年の歴史を持つ茶陶上野(あがの)焼窯元が点在し陶芸の里となっている。また、「かもめの水兵さん」「うれしいひなまつり」などでお馴染みの数多くの童謡を作曲した河村光陽氏の生誕地であり、童謡の町「あかいけ」を宣言し、『いい歌、いい町、いい自然』をスローガンにまちづくりを進めている。

(2) 沿 革
   かつて、日本のエネルギーの中心であった石炭を掘り出し、石炭景気に沸いた当町も国の石油へのエネルギー転換により、1951年(昭和26年)には約18,000人いた人口も、炭鉱閉山時の1970年(昭和45年)には半数の9,000人となった。炭鉱閉山後は、失業と地盤沈下、炭鉱跡地問題等々、大きな課題を余儀なくされた。
   国の特別措置法による失業対策事業や鉱害対策事業、住宅改良事業や雇用確保のための工場団地造成事業など多くの公共事業を実施しなくてはならなかった。

(3) 再建団体に至る推移
   1974年度(昭和49年度)から赤字で推移し、再建団体に指定されたのは1992年(平成4年)2月であるが前年度の決算で約4億円の赤字となり実質収支比率は△16.7%で起債制限をうける20%に近づきつつあり、さらに追い討ちをかけることになったのが土地開発公社の不良債務約22億円と町立病院の不良債務約5億円、併せて31億円の赤字(赤字比率△127.7%)を出して、1991年度(平成3年度)から2002年度(平成14年度)までの12年間を再建期間とした準用再建団体となった。
   12年間の計画で31億円の赤字解消からスタートした再建計画も順調に推移し、計画より2年短縮し、2000年度(平成12年度)で終了した。

2. なぜ再建団体に

(1) 財政の収支バランスが崩れ、今後においても赤字財政が続き、このままでは回復できないと判断した。
  ① 再建団体とは
    1955年(昭和30年)に制定された地方財政再建促進特別措置法を準用して、国の指導で財政再建をする地方公共団体。
  ② その目安は
    赤字額が標準財政規模の20%を超えるとき。
  ③ そこで再建団体になると
    総務大臣が再建計画を承認すれば、一時借入金利子に対する特別交付税などが受けられる。しかし、この再建計画が各項目で厳しくチェックされる。つまり、収入については住民負担となる使用料や手数料の増額をするために料金の改定を、歳出については人件費の抑制や住民団体などの助成金のカット、単独事業や新規事業の抑制などを強いられる。

3. 赤字となったその原因は

(1) 1963年(昭和40年)代後半から1975年(昭和50年)代前半に、旧産炭地特有の財政需要に対応するため公共施設(学校、町民会館、保育所、老人福祉センター、各地区集会施設)及び住民の生活環境整備(道路、下排水路、ボタ山防災、がけ崩れ対策、上水道施設整備、公営住宅建設)や失業対策事業(一般失業対策事業、炭鉱労働者失業対策事業)を多額の借金で実施したため借金返済の増加を招いた。1990年(平成2年度)末71億5,300万円程度の借金→類似団体35億円程度。

(2) 失業対策や人口の減少を解消するため工場団地や住宅団地整備のための土地の先行投資を土地開発公社で実施したが、スムースに売却できず保有地も残り(309千m)借入金も返済できず(21億円/坪あたり22,400円)利息支払が多額となったため。(年間1億6,000万円)

(3) 町立病院会計の不良債務解消のため一般会計からの繰り出し金が増大する見込であった。1990年(平成2年)度末の不良債務4億9,000万円、再建入りで一般会計より3億2,600万円を繰り出し、病院会計は1億6,400万円の不良債務解消のため町立病院も同時期に財政再建団体となり4年間で再建した。

(4) 人件費の状況
   ラスパイレス指数の動向
    1975年(S50年)125.1   1990年(H2年)98.2
    2000年(H12年) 87.4(県下最低)
   職員数の動向
    1979年(S54年)142人   1990年(H2年)113人
    2001年(H13年)103人(10年度類団112.6人)

(5) 公営住宅家賃をはじめ各種使用料が国の基準を下回っていたため町の負担が増大した。

4. 財政再建をどうすすめるか。

(1) まず「歳入あっての歳出である」(家庭と同じ感覚を持つこと)
  ① 赤字の解消(31億7,300万円)
  ② 財政構造をよくする。
    ・経常経費のバランスをよくすることなど
    ・借金を軽くする(利率のたかいものから繰上げ償還など)
  ③ 秩序のルール化
    住民に理解を求め、住民の義務化を明確にする。

(2) そのためには(上杉鷹山に学ぶ)
  ① 制度の壁
  ② 物理的な壁(経費の抑制)
  ③ 心の壁(過去のしがらみなど)
   を改革していく。その最終目標は、住民に1年でも早く他市町村以上の行政サービスができるようにすること。

5. 再建団体のメリット、デメリット

(1) メリット
  ① 予算が少ないため、最小の経費で最大の効果を考える。
  ② 単独事業が抑制される。
  ③ 住民の過大な権利主張がなくなる。
  ④ 住民のボランティアが活発化した。

(2) デメリット
  ① 住民や議会の要望にすぐに対応できない。
  ② 補正予算など町で処理できない。突発的な事項でも国、県との協議が必要である。
  ③ 福祉行政の運営が他町村なみにすぐ対応できない。

6. 人件費について

(1) 行政組織の統廃合   15課1室→12課1室

(2) 職員数の削減(普通会計)
   1991(H 3) 4.1現在  113人
   2001(H13) 4.1現在  101人  △12人

(3) 常勤的臨時職員の整理  24人→10人  △14人

(4) 給与水準の改正
  ① 国の基準どおりに実施    行一→7級  行二→5級
  ② 定期昇給の12月延伸
  ③ 諸手当ての改正
    ・特殊勤務手当の廃止
    ・時間外手当の抑制   3%(初年度)→4%→5%
    ・調整手当  国の改定に準じ廃止  3%、2%、1%、0
    ・役職加算  1992(H4)~1994(H6) なし
    ・級別職務分類及び級別定数の実施。在級年数の内規(4級で係長になって10年在級して5級になど)
  ④ 特別職報酬
    類団を下回っていたが据え置きし、1996年(平成8年)度7%、1998年(平成10年)度9.7%アップを実施。首長は県下最下位。

 
H3~7
H8~9
H10~12
 
町   長
570千円
(全国最下位)
610千円
(県下最下位)
669千円
(県下最下位)
(10類団786千円)
助   役
470千円
503千円
544千円
(10類団637千円)
収 入 役
449千円
481千円
517千円
(10類団599千円)
教 育 長
430千円
460千円
500千円
(10類団573千円)
議   長
225千円
241千円
262千円
(10類団307千円)
副 議 長
199千円
213千円
230千円
(10類団249千円)
議   員
185千円
198千円
213千円
(10類団228千円)


7. 現在の課題

(1) 依然厳しい財政構造
  ① 再建団体の10年間、再建計画に基づく行政運営の中、新規事業は原則認められず、住民サービスは低下となった。とりわけ、高齢者問題については介護保険制度の導入など、支援サービスなど拡大されたが、介護支援センターや保健センターなどの施設建設もできず、また、支援サービスも充分な体制が確立できていない。
  ② 公共施設の老朽化が進み、補修や改修を迫られている。
  ③ 職員については、賃金改善は年次計画の中で改善されているが、年配者は退職までに充分な改善は望めず、厳しい中、退職を余儀なくされる。

(2) 地方交付税に頼った財政運営

地方交付税の推移
単位 百万円
 
00年度(12)
01年度(13)
02年度(14)
03年度(15)
歳 入 合 計
5,221
6,592
4,777
5,214
うち地方交付税
(構成比)
2,487
(46.70%)
2,331
(35.40%)
2,161
(45.30%)
1,918
(36.70%)
交付税 00年度-01年度=△156   01年度-02年度=△170
    02年度-03年度=△243   3年で合計5億6,900万円の減額

   三位一体改革の議論があるが、地方交付税に依存を余儀なくされる当町では再建を果たしたとはいえ、以前厳しい状況にある。しっかりした交付税制度の確立と税源委譲による地方分権の確立が必要である。
   現在、近隣の2町との合併協議会が発足し、2006年(平成18年)3月合併の確認がなされ、合併に向け協議が進んでいる。2町とも、以前「再建団体」を経験した町である。二度と再建団体にはなれない。歳入あっての歳出である。予算編成プロセスの工夫、予算消化から予算を残す努力、緊急度の高い事業の選択などなど。
   首長や議員は4年が任期、われわれは、定年までがんばる。私使う人では許されない。責任が問われる。
   再建団体の説明会で、住民いわく「私は、税金はしっかり払ってきた。あなたたち職員の方は、何をしていたのですか。」言葉が出なかった。

 

赤池町財政再建の今日まで概要

普通会計財政指数調