【要請レポート】
横須賀市における行政評価システムの現状と課題
神奈川県本部/横須賀市職労 吉田 裕一
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1. はじめに
(1) 行政評価導入の背景と取り組み状況
右肩上がりの経済成長が終わり、長期にわたる景気の低迷、厳しい雇用情勢が続くわが国経済の現状は、ここに来て、設備投資の増加、企業収益の改善、輸出・生産の増加や雇用情勢の持直しの動きが見られるなど、全体として回復してきているとされるものの、依然としてデフレが続いており、その克服が大きな課題となっている。
一方、わが国の財政は、平成15年度末の国の借金である国債の残高が459兆円に達し、国・地方を通じた長期債務残高が695兆円と国内総生産(GDP)の139.5%にまで膨らむと見込まれており、平成16年度においても、国・地方を通じて、引き続き歳出全般の見直しを行い、その効率化、削減を強力に推し進めることとされている。また、政府の「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2003」(いわゆる「骨太の方針」第三弾)においては、国・地方を通じた行財政改革を強力かつ一体的に進め、「効率的で小さな政府」を実現するため、三位一体の改革の推進に力点を置いている。
このような状況下、地方自治体は、少子高齢化など、多様化する行政ニーズに対応するとともに、最小の経費で最大の効果を発揮することが求められている。この課題を解決するため、様々な自治体で、新しい公共経営「NPM1」(ニュー・パブリック・マネジメント)の重要性が叫ばれ、それを具現化するシステムツールとして「行政評価システム」がクローズアップされている。
地方自治体における行政評価の取り組みの現状は、2003年12月に公表された総務省自治行政局の調査によると、都道府県では97.9%、指定都市で100%、市区町村で21%が行政評価システムを導入済みあるいは試行中となっている。市区町村においては、まだ比率は低いが、2002年11月の状況と比較すると導入済みが254団体から406団体、試行中が261団体から266団体と多くの市区町村において、行政評価への取り組みが急速にすすみ、その運用への期待がわかる。
本文では、横須賀市における行政評価の導入経緯から、概要及びシステム内容、評価結果の分析、今後の検討課題、発展の方向について述べることとする。
2. 横須賀市における行政評価システム
(1) 横須賀市における行政評価システムの導入経緯・概要
① 総合計画進行管理との関係
横須賀市は、「横須賀はどんな都市をめざし、そのためにどのような戦略で都市づくりを進めるのか」という発想を基に平成7(1995)年度、政策提案型の新しい総合計画の策定作業に入り、平成9(1997)年度の3カ年で策定作業を行った。新しい総合計画は、生活する市民の視点、都市の個性創造の視点、自立型都市の視点、地域連携の視点を踏まえて、平成9(1997)年3月25日「国際海の手文化都市」を都市像とする基本構想を平成10(1998)年1月に基本計画、2月に実施計画をそれぞれ策定している。
その総合計画の策定に当たっては、市民インタビューや1万人市民アンケート、総合計画審議会への公募市民の参画など、広範で多岐に渡る市民参加を行ってきた。その市民参加の手法は、実際の総合計画の運営において発展を遂げ、平成10年10月、総合計画進行管理検討会議から、「進行管理についても市民参加の視点を取り入れ、市民の意見を反映するシステムとすべきである。」との提言が出され、総合計画進行管理手法の検討を市民とともに始めた。
第1次(平成10年度から平成12年度)の実施計画では、市民の評価手段としてまちづくり市民アンケート(市民満足度調査)の実施、まちづくり出前トーク2の呼びかけを行うとともに、基本計画・実施計画進行管理台帳を市民公表することで意見聴取を実施した。さらに、公募による市民委員、団体代表を中心とする「総合計画進行管理委員会」を設置し、市民参画による進行管理評価を実施した。
② 横須賀市における導入経緯
行政評価の導入については、総合計画進行管理委員会より、「市民にわかりやすい新たな行政評価システムの確立」について提言が出され、同様に、事務事業評価制度の導入などが、議会からの要請や職員政策提案制度において出される中、平成13年度に総合計画進行管理委員会を発展的に解消し、行政評価に対応できる外部評価委員会として「まちづくり評価委員会」を設置した。平成13年度は、第1次実施計画の3カ年の総合評価に行政評価手法を一部導入したかたちで進行管理評価を実施した。そして、平成14年度から第2次(平成13年度から平成15年度)実施計画を対象に行政評価システムの運用を開始した。
③ 行政評価システムの構築
行政評価システムの構築経緯は次のとおりである。
平成12年度は、総合計画の体系に基づき、政策・施策評価と事務事業評価に分けて評価を行う基本的な枠組みを整理した。次に、モデル事務事業(53事業)による事務事業評価の試行を行い、政策・施策評価に用いる施策取り組み指標である「まちづくり指標」の素案を作成した。
平成13年度には、政策・施策評価と事務事業評価を統合化する「統合評価」の具体的な方法を策定し、行政評価システム全体の仕組みを整備した。同時に、第2次実施計画全250事業を対象として、事務事業の事前評価(評価指標と目標値の設定)を行った。
また、IT版行政評価システムのプロトタイプ(デモ版)を作成し、次年度の本格的なシステム開発に向けた課題を明確化した。
平成14年度になって実施段階に移り、前年度に目標値を設定した事務事業評価と市民アンケートによる市民満足度とまちづくり指標を用いた政策・施策評価を行い、両評価をあわせ統合評価を行った。また、市民参画による「まちづくり評価委員会」で内部評価の結果を市民の立場から客観的に再評価する外部評価を実施した。さらに、IT版行政評価システムを開発した。
平成15年度には、前年度に生じた課題に対応した仕組みの改善を行った上で、システムをIT版に移行した。また、ホームページを開設し、評価結果から個々の事務事業評価表まで、関連するすべての情報を公開した。
④ 行政評価システムの位置づけ
本市の行政評価システムは、今後の行政経営を見据えたかたちでシステムのフレームを考え、行政経営の中心的なシステムと位置づけている。そして、評価事務を通して、総合計画の策定支援や計画の進行管理、予算編成や執行管理システムにもあわせて活用できるシステムとしている。
市民協働に関しても外部評価の位置づけの中で「協働評価体制」を考え、実行しているところまでが現状の位置づけである。今後は、行財政改革システムとの連携を考え、民間の経営管理的手法の導入により人事・組織や財務・事務マネジメントとの連携ができる行政経営の仕組みの構築を検討する予定である。(図1参照)。
図1 行政経営の仕組みの構築へ向けての中核的な基盤システム
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出所:行政評価プロジェクトチーム(2003)
『横須賀市行政評価システム報告書2003年3月』 |
行政評価システムの定義は、行政活動を評価し、その結果を計画策定、行財政改革、予算編成などに活用する政策立案支援を行い、これらの情報を市民に公表する仕組みとしている。また、導入効果としては、市民が実感できる成果を目標とする「成果重視」の視点に立った行財政運営の推進、評価実務の経験や結果の公表を通じて「成果重視」の視点に立つ職員意識の醸成と政策形成能力の向上、政策・施策および事業の選択・重点化による限りある行政資源の有効配分、評価結果の市民への責任ある公表による行政の透明性の確保をめざしている。
⑤ 行政評価システムの概要
一般に、行政評価システムは、政策・施策についての評価を行う「政策・施策評価」と、事務事業について評価を行う「事務事業評価」とに大別できる。それに対して、本市の行政評価システムは、政策・施策評価と事務事業評価をそれぞれ個別のシステムで評価を行った上で、さらに両者の評価結果を施策単位で評価する「統合評価」の仕組みをもったシステムである(図2参照)。
図2 横須賀方式の行政評価システムの全体像
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出所:行政評価プロジェクトチーム(2004)
『横須賀市行政評価システム報告書2004年3月』を一部修正 |
政策・施策は、市の基本計画に位置づけられているすべての政策・施策を対象とし、事務事業については、政策・施策との関連性が明確な主要事業(主に実施計画事業)を対象としている。なお、今後は、経常的事業、内部管理的事業等に関する評価手法を導入する予定である。
なお、本市の総合計画は、基本計画の大柱(政策)-中柱(政策の目標)-小柱(施策)の階層によって政策・施策および事務事業が体系づけられており、統合評価は、この大柱-中柱-小柱ごとに行うことになっている。
評価ステップは、行政内部における評価だけでなく、外部組織による客観的評価をもって評価結果を確定させるシステムである。行政内部の評価は、担当部局内における担当評価、課評価、部局評価の3段階評価(1次評価)だけでなく、部局横断的組織である行政評価プロジェクトチーム3による評価(2次評価)を行うものとしている。また、外部評価(3次評価)は、有識者と公募市民が参画する「まちづくり評価委員会」が実施するものとしている(図3参照)。
図3 横須賀方式の行政評価システムの評価主体と評価段階 |
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出所:横須賀市(2004)『行政評価結果(内部評価結果)報告』
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⑥ 施策・事業の改善への活用
多様な主体により、段階的に重ねて行われる評価を通じて、政策・施策、事務事業評価の課題、問題点とその要因に関する考察が重ねられる。この考察結果を、次の段階の施策・事業の展開の検討に活用する。具体的には、事務事業では、その継続、拡充ないしは廃止の判断をより的確に行い、継続される事業においては、より高い成果が得られるように事業内容や手法の改善に活用する。施策では、施策を構成する事業の有効性を確認し構成事業の改善を図るとともに、計画改訂時に施策の見直しを行う。また、政策・施策、事務事業の評価に係る情報をすべての職員が共有することにより、施策・事業の改善や新たな事業の立案の質的向上に活用するようにしている。
⑦ 公表による市民の理解促進と市民ニーズに即した行政運営の実施
評価結果の公表は、ホームページ4の活用により、市の行政運営の実態をより分かりやすく詳細に市民に示すことが可能となる。この機能を生かして、市政への市民理解の促進を図り、より市民ニーズに即した行政運営を行っていく。また、評価結果に対する市民意見を積極的に収集し、施策・事業の見直しに反映するものとしている。
(2) 行政評価システムの詳細
① 事務事業評価の仕組み
事務事業評価は、事業への投入量(予算、人員など)やそれに基づく事業の結果や社会的な効果を数値として把握し、評価する。それにより、評価結果にもとづいた改善提案を行うとともに、評価結果を翌々年度の予算編成へ反映させ、計画→実施→評価→改善(新規事業立案を含む)のサイクルを確立するものとしている。
現在、評価対象は、主に予算事業約1,300事業のうちの第2次実施計画事業(250事業)を対象としている。将来的には徐々に主要予算事業に拡大していく予定である。
評価基準は、「事業結果量目標達成率」「実施率(予算執行率)」「事業効率(コスト効率)」「事業効果量目標達成率」の4つの評価基準を用いて評価を行うものとしている。
② 政策・施策評価の仕組み
政策・施策評価は、本市の基本計画に示された政策・施策によって、市民生活にどのような効果がもたらされたか、市内の状況がどのように変化したかを数値として結果を把握し、評価する。それにより、施策の位置づけや施策にもとづく事業内容の点検、改善を行うものとしている。
評価対象は、基本計画における大柱8本(政策)、中柱44本(政策の目標)、小柱95本(施策)を対象としている。評価基準は、市民アンケートによる「市民満足度」および「まちづくり指標」の2つの評価基準を用いて評価を行うものとしている。
③ 統合評価の仕組み
統合評価は、基本計画の大柱、中柱、小柱ごとに、政策・施策評価結果と事務事業評価結果の2つの評価結果を統合化し、目的と手段のズレ等についての差異分析を行う。これにより市民が感じている結果・効果(政策・施策評価)と行政活動の結果・効果(事務事業評価)が統合され、施策単位で判断された行政評価の結果を出すこととしている。
評価対象は、政策・施策評価における対象の政策・施策および事務事業評価における対象事業のすべてを対象としている。評価基準は、「政策・施策評価結果」と「事務事業評価結果」の2つの評価基準を用いて評価を行うものとしている。(図4参照)
図4 統合評価のイメージ例
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出所:行政評価プロジェクトチーム(2004)
『横須賀市行政評価システム報告書2004年3月』 |
④ 各評価方法
政策・施策評価および事務事業評価については、それぞれの評価基準ごとに指標値によって「○(適正)、△(注意)、▲(特に注意)」の3段階で区分し、それらの区分の組み合わせにより、政策・施策評価は「A(適正)、B(推進または減速)」の2段階、事務事業評価は「a(適正)、b(必要に応じて見直し)、c(根本的な見直し)」の3段階で評価結果を出すこととしている。統合評価については、基本計画の大柱-中柱-小柱の単位で政策・施策評価結果および事務事業評価結果を施策単位でとりまとめ(統合化)、それらの評価結果の組み合わせによって「青(適正)、黄(推進または減速)、赤(中止、中断または新規事業の構築)」の3段階で評価結果5を出すこととしている(表1参照)。
事務事業評価 |
A
(適正)
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B
(推進または減速)
「+」 「-」
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a
(適正)
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青
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黄
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b
(見直し)
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青
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黄
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c
(根本的な見直し)
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黄
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赤
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出所:横須賀市(2004)『行政評価結果(内部評価結果)報告』
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なお、各区分および評価結果は、客観的な評価基準に照らして自動判定を行った上で、評価者がさらに様々な要因を考慮し、最終的な結果を確定することとなっている(評価者による変更を可とし、変更する場合には、その理由を評価表の所定欄に明記し、評価の妥当性と責任の明確化を図っている)。
(3) 外部評価
本市の行政評価システムでは、庁内において「内部評価」を行った上で、その結果を庁外の市民等により構成している「まちづくり評価委員会」で「外部評価」を行い、評価結果を確定させる2段階の評価ステップとなっている(図3参照)。
また、上記の外部評価のように直接的に評価作業に市民等の第3者が参加するほかにも、政策・施策評価の重要な評価指標として市民アンケートによる市民満足度を取り入れることやまちづくり市民コメンテーターの活用を入れることで、市民全体の意向を評価に反映させていることも間接的な市民参加と捉えることができ、市民協働型の評価システムとなっている。
まちづくり評価委員会は、効率的で質の高い行政を実現するため、第3者の視点から内部評価の再評価を行い、また、行政評価システムの仕組みや黄評価施策等への改善策を提案する。委員構成は、学識経験者(5人)、団体代表者(5人)、公募市民(6人)の計16人であり、審議にあたっては、市役所内部による各事業の評価結果、市民アンケート結果、まちづくり指標、まちづくり市民コメンテーターからの意見などを参考に審議している。
まちづくり市民コメンテーターは、まちづくり評価委員会が行う評価に対して、まちづくりの状況報告を行い審議に反映させるもので、平成16年度は、市内在住・在勤・在学の中学生以上、合計16人が参加している。活動内容は、施策に沿った市民アンケートの設問について、アンケートでは捉えられないまちづくりの状況の報告や、日常生活から感じられることをもとに、まちづくりの状況をより良くするためのアイデアの提供を行うものとしている。
(4) ITの活用
行政評価システム構築の成果を最大限に発揮させるためには、行政評価実務に係る職員の事務負担を軽減するとともに、評価を通じて蓄積された情報を有効に活用し、事務事業評価と政策・施策評価の円滑な連携を図る必要がある。このためには、評価に係る情報を電子データとして管理し、LAN上ですべての職員が共有できる環境(Web仕様のIT版行政評価システム)を構築することが必要である。
IT版のシステム導入により、ホームページを通じた「市民とのコミュニケーションの活性化」、評価に関する情報を一元的データベース化することによる「庁内のデータ共有・連携の促進」、さらに、庁内LANを利用した「職員に対する政策立案支援機能の拡充」などへの活用が可能となる。
(5) 評価実務の研修
行政評価の実施をスムーズに行い、成果を上げていくには、制度の確立、ITの活用だけでなく、常に、行政評価の意義を職員に周知させ、仕組みの重要性を浸透させることが重要である。本市では、平成12年度の検討・試行段階から毎年度、全庁的な取り組みとして段階に応じた研修を継続して行っている。平成16年度では、行政評価システムの活用方法や、事務事業評価表の作成方法について理解を深めることなどを目的として、担当者、課長、部長の階層別に24回の説明会を開催し、延べ354人が出席し、評価実務の修得にあたった。
また、まちづくり評価委員会の開催にあたっては、特に公募市民を対象とした市の総合計画や行政評価の仕組み等についての事前勉強会を開催し、また、それでも不明な点などは、事前ヒアリングで情報共有をしてから、外部評価を実施している。良い議論や審議をするためには、行政側と第3者側の情報共有の公平さが外部評価の成功を握る鍵(信頼関係の樹立)である。
3. 評価結果の分析と予算への反映状況
(1) 評価結果の分析
平成15年度の行政評価結果であるが、内部評価・外部評価を経た最終結果は、表2のとおりである。まず、事務事業評価(平成14年度実施計画事業
226事業)の評価結果はa評価84.1%(190事業)、b評価13.3%(30事業)、c評価2.2%(5事業)となった。ちなみに、行政評価プロジェクトチームによる、2次評価での評価変更事業数は、14事業(6.1%)であった。このように内部評価の精査をすることで、外部評価での変更はなかった。
次に、政策・施策評価、統合評価結果は、この内、外部評価では、政策・施策評価で1中柱と1小柱の評価をAからBへ、また統合評価において1中柱と1小柱の評価を青から黄へ、それぞれ内部評価結果を変更すべきであるとの判断がなされた。なお、大柱の変更はなかった。
表2 平成15年度行政評価結果
□統合評価結果(施策単位) |
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大 柱
|
中 柱
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小 柱
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青 評 価
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8
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34
|
67
|
黄 評 価
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0
|
9
|
22
|
赤 評 価
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0
|
0
|
0
|
判定不能
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0
|
1
|
6
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合 計
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8
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44
|
95
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大 柱
|
中 柱
|
小 柱
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A 評 価
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8
|
34
|
67
|
B 評 価
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0
|
9
|
22
|
判定不能
|
0
|
1
|
6
|
合 計
|
8
|
44
|
95
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大 柱
|
中 柱
|
小 柱
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事業数
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a 評 価
|
7
|
34
|
53
|
190
|
b 評 価
|
0
|
3
|
9
|
30
|
c 評 価
|
0
|
0
|
0
|
5
|
判定不能
|
1
|
7
|
33
|
1
|
合 計
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8
|
44
|
95
|
226
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出所:横須賀市まちづくり評価委員会(2003)
『横須賀市まちづくり評価委員会報告書2004年3月19日』
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(2) 評価結果の平成16年度予算への反映状況
行政評価結果の活用は、第3次実施計画(平成16年度~平成18年度)および平成16年度予算編成への活用が明記された。平成14年度事務事業評価結果は各課にフィードバックされ、第3次実施計画策定および平成16年度予算編成の検討材料として活用された。
その結果、事務事業評価結果c評価の5事業のうち事業が完了した2事業を除いた3事業が廃止された。一方、評価結果b評価の30事業のうち6事業は事業が完了した。残りの24事業では、平成14年度実績の評価を行う以前の平成15年度予算の検討時点で既に見直しが行われているものも含め、23事業が予算の内容の具体的な改善・見直しを行っている。このうち2事業は事業が廃止されている。また、4事業については、予算の内容は変更していないものの、運用面で改善・努力強化するものとなった。
統合評価については、平成13年度外部評価および平成14年度内部評価で「黄評価」となった施策が28施策(小柱)ある。第3次実施計画、平成16年度予算(運用面での見直しを含む)では、このうち約7割の施策で、施策の推進を図る取り組みの強化や見直しなどが行われた。
4. 今後の検討課題と発展の方向性
(1) 評価実務担当者の意識と実態から見た検討課題
本市では、平成15年度、評価終了後に実務担当者(課長を含む)207名に、行政評価実務や結果の活用などについてアンケート調査を行っている。結果、作業負荷の面では、「特に問題はない」と考えている評価表作成担当者は27%であり、72%の担当者が「やや負担である」「負担である」と考えている。また、具体的には、「評価表の内容が複雑で難しい」、「入力項目が多い」といった点を指摘する意見が多くなっている。このため、評価表の見直しや評価実務の研修と啓発を継続して行う必要性があると認識した。
次に評価結果の活用では、平成16年度予算要求に何らかの形で反映されているとの回答が70%となっている。大部分の担当者は活用したとしているが、29%の担当者は反映していないとしており、更なる活用の促進が必要であると感じている。
(2) 評価手順に係る課題
① 政策・施策評価の課題
これは、市民満足度指標とまちづくり指標の2つが挙げられる。
まず、市民満足度指標の課題については、まちづくり評価委員会から、市民アンケートの設問が該当する施策の市民満足度を適切に把握できるものか疑義があるケースや、当該分野の行政サービスの受益者でなければ適切な評価ができないケースがあるとの指摘がなされている。このことについては、まちづくり市民コメンテーターに受益者を配置し、審議において、報告内容を参考にすることや、庁内で別途検討している(仮称)行政サービス評価や、各課で実施する個別調査のデータなども活用しつつ、市民満足度のデータを補完していくことで対応することを予定している。
また、まちづくり指標の課題については、その指標が施策を代表するものかどうか、といった検討も多く、指標精度の強化が課題となっている。また、指標値を経年で前年度と比較した場合、様々な社会・経済・環境要因により、経年の数値が変動し、指標独自の価値を失う状況が発生するケースが課題としてあり、まちづくり指標による評価の仕方は、今後も指標の見直しとともに検討する必要があると考えている。
これらは、まちづくり評価委員会からの意見等をふまえ、継続的な点検と見直しを行っていくこととしている。
② 事務事業評価の課題
これには、事務事業評価で一番重要とされる目的達成のための事業結果量指標、事業効果量指標の選定および目標値の設定に大きな課題が多くあった。これらの課題の1点目は、事業を的確に示す定量的指標を選定しえないものが多くあったことと、正確な目標値を設定できなかったことである。2点目は、事業結果と事業効果の因果関係のストーリー性がないものがあったことである。両者とも、評価精度を著しく低下させる要因となった。これらの解決方法は、継続的な指標の見直しと職員研修の充実を図ることで解決されていくと考えている。3点目は評価者に関する問題である。職員が「評価」することに力が入り過ぎ、気づきの論理からの本来の政策立案論議を醸し出すはずの仕組みが、「評価」に対する自己弁護の手段となる傾向が多く現れた。今後、職員の意識改革をどのように展開していくかがポイントであると考えている。これら以外の仕組みに関して細部にわたる課題を含め、解決策を検討してシステムの改善につなげていく予定である。
(3) 評価結果の活用に関する課題と今後の方向性
行政経営の時代をむかえ、より一層の行政評価の活用が重要となってきた。評価することで終わるのではなく、評価結果をいかに活用していくかが今後のシステムの発展に大きく寄与するものと考える。
本市の事務事業評価については、評価作業の一貫として、a評価(適正)であっても評価結果を踏まえた次年度以降の事業の改善方向についても定めることとしている。しかし、この方向性に沿った取り組みの実行を担保するルールやインセンティブなどは設定されていない。このため、必ずしも全ての事務事業において、方向性に沿った事務事業の改善が実行されているわけではなく、また何らかの対応がなされている事務事業についても、対応の内容をチェックする仕組みが確立されていない。
また、統合評価については、評価結果とともに、まちづくり評価委員会から、施策の実施内容に係る改善提案がなされている。しかし、政策・施策の所管部局、課が明確にされていないなど責任の所在が不明確であるため、行政評価結果を活用して政策・施策の内容の見直しや推進手法などを改善していくには至っていないのが現状である。
さらに、まちづくり評価委員会から、行政評価に基づく戦略的な行政運営の仕組みを構築し、評価結果を、計画や予算、組織の改善に導き、政策・施策の内容の再検討につなげるため、市民満足度だけでなく、施策の重要度や優先度などを取り入れ、戦略的な資源配分を行う必要があるとの指摘がされた。これについては、平成16年度から、市民アンケートに施策優先度の設問を設け、評価審議へ活用している。
また、行政評価結果の実効性を確保するための制度的な課題として、予算編成・予算査定への有効活用がある。本市においても、内部評価結果を予算編成にいち早く活用できるように、評価時期を早めて対応した。しかし、実効性を十分に担保する結果には至らなかった。やはり実効性を高める仕組みをさらに考えていく必要がある。内部評価結果だけでなく外部評価結果の活用も同様である。本市の外部評価結果はあくまでも提言にとどまっていることもあるが、やはり実効性を高めるには、制度化(条例化など)を図っていく必要があると考えている。
もう一つは、議会での活用である。これも評価精度の向上と評価実務の制度化が図られれば、活用が推進されるものと考えている。
今後の取り組みの方向性としては、事務事業評価におけるbc評価事業以外のa評価事業の改善の仕組みの確立や統合評価のさらなる活用に向けた、施策単位の責任者制度の確立、行政評価システムをさらにより良く活用するための組織目標管理制度などとの連携を検討して、行政経営の仕組みへ発展させていきたいと考えている。
また、効率的な執行が行われ、効果の少ない事業を中断・中止することは、職員の事務の負担軽減にもつながり、顧客第一主義であるとともに、職員第一主義のシステムでもあるのではないかと考えている。
1 NPM(ニュー・パブリック・マネジメント New Public Management)は、「今後の経済財政運営及び経済社会の構造改革に関する基本方針(2001.06.26骨太方針)」においては、「公共部門においても企業的経営的手法を導入し、より効率的で質の高いサービスの提供を目指すという革新的な行政運営の考え方である。その理論は、①徹底した競争原理の導入、②業績/成果による評価、③政策の企画立案と実施執行の分離という概念に基づいている」と定義されている。
2 市民の要望に応じて、様々な案件の説明を職員が出向いて、市民と膝を交えて話し合い、意見を聴取して、一緒にまちづくりを行っていこうという趣旨の制度。
3 庁内横断評価組織で、各部局の代表者(主に総務、計画担当)からなる課長以下の職員17名で構成されている。役割は、事務事業1次評価の再評価、政策・施策評価、統合評価などである。
4 横須賀市では、行政評価結果について「横須賀市のまちづくり成績表」というウェブサイトにて評価表から全てを公表している。URLは、http://www.yokosuka-seiseki.jp
5 統合評価における「黄」評価・「赤」評価、及び、政策・施策評価における「B」評価について、施策推進の必要がある場合は「+黄」「+赤」「+B」、また、減速(「赤」評価の場合のみ中止・中断)の必要がある場合は「-黄」「-赤」「-B」と表記している。
<参考文献>
行政評価プロジェクトチーム(2003)『横須賀市行政評価システム報告書2003年3月』
行政評価プロジェクトチーム(2004)『横須賀市行政評価システム報告書2004年3月』
総務省(2002、2003)『地方公共団体における行政評価の取組状況』
ホームページよりhttp://www.soumu.go.jp/click/jyokyo_2003.html
野間俊行(2003)「行政評価と行政経営」第7章/金安岩男・横須賀市都市政策研究所/編『自治体の政策形成とその実践-横須賀市の挑戦』ぎょうせい
横須賀市(1998)『横須賀市基本構想・基本計画書』
横須賀市(2004)『行政評価結果(内部評価結果)報告』
横須賀市行政評価研究会(2001)『行政評価研究会報告書2001年1月16日』
横須賀市まちづくり評価委員会(2003)『横須賀市まちづくり評価委員会報告書2004年3月19日』
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