【自主レポート】
市民がつくる葛飾区地域福祉計画
東京都本部/葛飾区地域福祉計画研究会・葛飾区職員労働組合・自治研作業委員会
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1. はじめに
「社会福祉法」(2004年4月施行)では、都道府県に「地域福祉支援計画」を、市区町村には、「地域福祉計画」を策定することを求めている。市区町村地域福祉計画は、市区町村が、地域福祉推進の主体である住民等の参加を得て、地域の要支援者の生活課題とそれに対応する必要なサービスの内容を明らかにし、提供する体制を計画的に整備することを内容としている。計画策定には市民(住民)参加と市民との協働の取り組みが前提となっているのである。
2003年10月、葛飾区地域福祉計画の策定にむけて、①市民・当事者の意見を計画に反映させる、②市民参加で計画を策定する、③市民版葛飾区地域福祉計画をつくる、ことを目的に、葛飾区職労、東京一般労組有志、市民の参加で「葛飾区地域福祉計画研究会」を結成し、地域福祉計画という広範囲な課題にどう取り組むかを議論してきた。地域福祉計画に盛り込むべき課題を明確にするために、児童福祉、高齢者福祉、障がい者福祉の分野で課題となっていることについての学習会に取り組んだ。
2. 研究会の活動経過
第1回研究会
2003.10.31
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「葛飾区の地域福祉計画策定方針をめぐって」
講師 川上鉄夫氏(葛飾区福祉部管理課地域福祉計画担当主査) |
地域福祉推進の理念として、地域住民が主体であること、住民参加の必要性、共に生きる社会作り、男女共同参画、福祉文化の創造が地域福祉推進である。市町村地域福祉計画に盛り込むべき事項として、(ア)地域における福祉サービスの適切な利用の促進に関する事項、(イ)地域における社会福祉を目的とする事業の健全に関する事項、(ウ)地域福祉に関する活動への住民への参加に関する事項がある。住民参加の計画にしていくために、講演会等を多くの地域で計画し、区民との協働の地域福祉計画策定をしていくことを考えたい。 |
第2回研究会
2004.2.18 |
「障がい者が地域で自立して生活していくために必要なこと」
講師 金政玉氏(DPI日本会議・障害者権利擁護センター事務局長) |
障がい当事者の運動が制度の確立や人権意識を作り出してきた。アメリカでの自立生活運動、日本での青い芝の会(脳性麻痺者)の運動が、重度障がい者も社会的サポートを利用して、その人らしく生きていけることを示した。さらに24時間の介助の制度を当事者の運動が作り出してきた。「国際障がい者年」とこれに続く「国連・障がい者の十年」、「アジア太平洋の十年」を通して国際的な繋がりとノーマライゼーションの思想を広めることが必要である。こうした動きが国・自治体の障がい者福祉政策の充実・策定につながるものである。 |
第3回研究会
2004.3.29 |
「医療・保健と福祉の連携はどうあるべきか」
講師 内村逸郎氏(葛飾区医師会) |
地域医療の取り組みとして、准夜勤帯(19時~22時)に小児医の当番医制度を実施した。医師会が地域に力をつけていく改革を行っている。高齢者のケアシステムを支える医者でなくてはならない。かかりつけ医として慢性病等に対して定期的に往診できることが重要である。介護保険では、要支援・要介護1について適切なケアプランが作られていない。リハビリ・予防介護を中心に考えることが必要である。主治医の意見書が不十分である。ケアプランは包括的にとらえたものでなくてはならない。現在は、主治医がケアプランに関わっていない。尾道での「ケアマネタイム」のように、ケアカンファレンスをしっかり行うことが重要である。長期のリハビリシステムを作る必要があり、地域にセンターを作り、通所リハビリやデイサービスを行うシステムが必要である。最後に,保健・医療・福祉の連携には、それぞれが自分以外の領域についての視点を持つことが大切である。 |
第4回研究会
2004.4.22 |
「子どもたちがおかれている現在の状況について」
講師 福島一雄氏(児童養護施設・共生会「希望の家」施設長) |
家庭の養育機能の低下などにより、親による子どもの虐待が増えている。児童虐待防止法(2002年施行、今年度改正)により、国や自治体が、積極的に取り組んだことで、相談・通告が拡大した。児童相談所では、相談・通告の激増などにより、虐待を受けた子どもの早期対応が困難になっている。多くの児童相談所が困難な状況を抱えている。児童養護施設への影響も大きい。ほとんどの施設が定員一杯のため、本来入所して自立支援されるべき子どもが、不適切な環境にある在宅に多数存在することになっている。虐待を受けてきた子どもたちは施設生活においても困難な課題を抱えている。現在、2ヶ所で、家庭的な小人数のグループホームを運営し、子どもの自立に向けてより良い養育への取り組みを行っている。
児童養護問題の早期発見・早期対応・予防が重要である。虐待の予防は、家庭における養育機能低下を背景にするため、要保護児への対応は、一般子育て支援サービスと連続した制度として子育て支援システム全体の改革をすべきである。
課題として、都立施設と市区町村との連携の必要、児童養護施設も地域の子育ての相談窓口として、地域福祉に関わること。児童相談所・子ども家庭支援センター・保育園・児童館等関連諸機関が緊密な連携を図ることが重要である。今までの葛飾区の子育て推進プランでは、子ども虐待の問題が重視されていたとはいえないため、地域福祉計画の中では、子ども虐待問題への視点を持った計画にすることが必要である。 |
第5回研究会
2004.5.28 |
「障がい者の地域生活を支援するために 重度生活寮からの報告」
講師 大竹眞澄氏(社会福祉法人けやきの杜)、
長田うめ子氏(社会福祉法人かがやけ福祉会) |
今後、入所型施設ができない状況の中で知的障がい者の生活寮(グループホーム)は、重度障がい者が地域で生活していく上で大きな役割がある。生活寮での生活から、当事者自身の精神的な自立が明確になってきたことと共に、親の子離れの意味も大きい。また、現在のグループホームの制度では、単独での運営では、人材・財政的には極めて厳しい仕組みである。人材の確保、職員の専門性、職員の労働条件等課題は山積している。しかし、グループホーム単独ではなく、複合的な法人運営、多様なサービスを行うことで、多様なニーズに対応することで、経営的に成り立たせていく必要がある。今後は、それぞれの障がいの特性に応じたグループホームの必要性がある。自閉症の障がい者の受け入れでは、生活のリズムも特性に応じた対応によって運営する必要がある。また、支援費切り下げをさせない運動が必要であり、地域との結びつき・連携が重要であり、グループホーム同士のネットワークも必要である。 |
第6回研究会
2004.6.24 |
「地域福祉計画に何が求められているか」
講師 上田征三氏(東京福祉大助教授)、
金政玉氏(DPI日本会議・障害者権利擁護センター事務局長) |
第一に「地域福祉計画」は「行動計画」として位置付けされねばならない。理念だけではなく、数値目標を入れた計画でなくてはならない。そのためには、当事者の計画参画を行うことが重要である。第二に、地域の実態把握とニーズ調査が重要である。量的調査と質的調査を組み合わせること。自由筆記を入れることで、潜在的ニーズをつかむことにつながる。また、地域住民の参加がネットワーク形成につながる。第三に、「地域での権利擁護システム計画」作成が必要である。 |
これまで6回の学習会を行い、障がい者の地域生活、地域医療、児童育成支援の分野からの貴重な提言を頂く成果を得ることができた。今後の課題は、①計画に盛り込む内容を学習会から見つけていくのには限界があること、②地域福祉に対して、より多くの市民が感じていること、意見・要求・現行制度への苦情などを集約することが必要であること、③研究会のメンバーを広げていくこと、などである。
3. 葛飾区個別計画への市民参加の現状
葛飾区における個別計画策定に対する市民参加の状況は以下のとおりである。
策定方法
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庁内のみ |
関係団体参加 |
住民参加 |
市民参加 |
進捗管理への
市民参加
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備 考 |
計画年度 |
計画名
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都市マスタープラン |
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住民団体 |
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地区毎に公聴会開催 |
13.7~32 |
緑とオープンスペース基本計画 |
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団体推薦の委員 |
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13.7~32 |
住宅基本計画 |
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団体推薦の委員 |
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13~22 |
東四つ木地区密集市街地整備事業計画 |
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整備委員会に団体推薦の住民参加 |
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10~19 |
立石地区密集市街地整備事業計画 |
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まちづくり協議会に団体推薦の住民参加 |
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15~24 |
立石防災生活圏促進事業計画 |
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検討会に団体推薦の住民参加 |
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9~18 |
子育て支援計画 |
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児童、教育関係、連合 |
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公募委員5 |
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17~26 |
介護保険事業計画 |
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児童、教育関係、連合 |
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公募委員3 |
介護保険事業審議会 |
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12~16 |
地域福祉計画 |
未定 |
未定 |
未定 |
未定 |
未定 |
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18~22(予) |
人にやさしいまちづくり推進計画 |
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障害者団体、連合 |
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11~ |
障害者施策推進計画 |
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障害者団体、連合 |
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公募委員2 |
協議会 |
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11~18 |
環境行動計画 |
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○ |
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11~15、16~18 |
男女平等推進計画 |
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女性団体など |
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公募委員4 |
審議会 |
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14~18 |
架空線地中化整備計画 |
庁内 |
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9~28 |
高齢者保健福祉事業 |
庁内 |
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15~19 |
保健医療計画 |
庁内 |
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11~15、16~20 |
一般廃棄物処理基本計画 |
庁内 |
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12~23 |
分別収集計画 |
庁内 |
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15~19 |
環境基本計画 |
庁内 |
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8~27 |
教育振興ビジョン |
庁内 |
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16~20 |
図書館基本計画 |
庁内 |
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15~24 |
生涯学習推進計画 |
庁内 |
○ |
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13~18 |
策定委員に市民を公募しているのは4計画のみである。策定に当事者あるいは団体を入れているのは7計画である。庁内のみでの作成は8計画である。市民が計画策定に参加できる機会は極めて限定されており、市民の意見は反映されにくい構造になっている。市民参加が実質的には保障されていない。葛飾区地域福祉計画策定では、本来の意味での市民参加を実現することが必要である。
ここで、労働組合の取り組みについてふれたい。葛飾区職労、連合葛飾では、「葛飾区障がい者施策推進計画」「葛飾区介護保険事業計画」「葛飾区男女共同参画計画」などの計画策定に、労働団体代表委員として参画している。ところが、政策課題についての知識が不十分、政策形成能力が不十分、であることなどから、策定委員会の場で、当局が作成する事務局原案に対置できる市民的対案を提案することができず、事務局案の修正要求に終わってしまうことが多くあった。労働組合には、計画策定に参加し、労働条件の維持、公立施設の直営維持を図りたいという期待があるが、それのみを追求することは現状では困難である。市民とともに政策を形成・提案していくことをめざすべきである。その合意を組合の中でつくり出す必要がある。
4. 葛飾区地域福祉計画策定をめぐる現状と問題点
葛飾区地域福祉計画策定をめぐる現状と問題点は以下のとおりである。
(1) 葛飾区地域福祉計画の策定については現在検討中で、04年度末まで結論を出すことになっている。所管する福祉管理課では、策定について決定をしていない。場合によっては、従来の地域福祉計画の焼き直しに終わることもありうる。
(2) 従来の各種計画の策定には市民参加、当事者参加が不十分である。障がい者施策推進計画では市民委員2名、介護保険事業計画では市民委員3人、男女平等推進計画では市民委員4人、次世代育成支援地域行動計画では市民委員5人の参加にとどまっている。
(3) 策定過程では、事務局(区役所)が先導する形での策定になっている。ほとんどの場合、計画の原案は、区役所の所管課が事務局となって作成し、策定委員会で検討する形をとる。策定委員会の場で、一から積み上げていくのではなく、事前にある程度の原案が用意されているのが一般的である。策定委員会では事務局原案を一部修正する役割しか果たせない場合が多い。策定委員会の議論が低調であれば、原案通り策定されることになる。
(4) 計画策定後の実施段階での進捗管理に市民・当事者が参加できていない。策定委員会は計画策定後に解散されてしまうため、策定後、計画の進捗状況についての管理は、市民参加がなく、行政だけが行うことになる。計画実施中に、再評価(モニタリング)をして、不都合があれば、計画を練り直すということもできない。
(5) 計画そのものについての情報公開が不十分である。各種の計画について、多くの市民はその存在を知らない。
5. 葛飾区地域福祉計画研究会のこれからの課題
葛飾区地域福祉計画策定にあたって、最大の問題は、第一に地域福祉計画の存在を多くの市民が知らないことである。第二に葛飾区が計画策定への市民参加に消極的であること、第三に市民の側に市民参加による計画策定・政策形成の経験がないことである。
この問題を解決するためには、①地域福祉計画の存在を広報する、②市民・当事者が感じている意見、要望、苦情、不満などを集約し、地域福祉計画に盛り込むべき内容を知ること、③福祉関係者だけによるのではなく、多くの市民・当事者の参加で作成すること、④地域福祉計画の内容に提案をするためには、市民・労働組合の側も知識と政策形成能力を身につけること、などが必要になる。
葛飾区地域福祉計画研究会のこれからの課題には、以下のように考えられる。
(1) 葛飾区地域福祉計画の策定を働きかける。
(2) 市民と行政の協働で計画策定を行う。
① 計画策定への市民参加システムづくりをめざす。
② 計画策定への当事者参加システムづくりをめざす。子ども、障がい者、高齢者が当事者として策定に参加できる仕組みを考える。
③ 策定委員への市民委員の参加に制限を設けない。
④ 市民がワーキングチームをつくり調査などを行う。
⑤ 一からの積み上げ方式で内容を決定していく。区役所職員のみによる事務局原案の作成は行わず、事務局運営にも市民が参加する。
⑥ 計画策定後の、計画の進捗状況の管理も市民参加で行う。
「事務局が原案を提案する」というやり方を変えるだけでも、葛飾区では画期的な出来事である。まずやらなければならないことは、葛飾区が地域福祉計画策定を行うように働きかけることである。
葛飾区において計画策定が決定された場合には(05年度策定、06年度実施)、市民参加の仕組みを構築していくことが課題となる。市民参加なしの従来の地域福祉計画の焼き直しの方向となった場合においても、「市民版葛飾区地域福祉計画」を作成し、市民・労働組合の側からの提案をしていきたい。2005年秋に開催予定の都本部自治研集会において「市民版葛飾区地域福祉計画」の素案が提案できるように取り組んでいきたい。
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