【自主レポート】

放課後児童クラブのソフト支援
~エンゼルプランの着実な推進に向けて~

群馬県本部/群馬県職労・八ッ場ダム水源地域対策事務所 大村 信義

1. 放課後児童健全育成事業の背景

 核家族化、男女共同参画社会の進展等の社会変化の進むなか、共働き家庭や母子・父子家庭などにおける児童の心身の健全な育成および安全の確保は、社会的責務になりつつあります。しかし、これら家庭における小学生の子ども達の放課後の生活環境は、保育環境の整った未就学児童と大きく異なり、日常の放課後だけでなく、学校の季節長期休業中を子供だけで過ごすことも多く、その生活環境の改善には未だ多くの問題が残されています。
 これら状況に対し各地方自治体においては、児童育成計画の策定に留まらず、独自の取り組みや各団体の支援事業等を展開し、徐々にその成果を上げているところであります。そのうち、平成9年の児童福祉法等関係法令の改正による放課後児童健全育成事業については、各地域において放課後児童クラブ(厚生労働省による呼称)の設立、支援を中心に、放課後児童の健全育成を図っており、現在はその活動、運営の充実を図る時期に差し掛かってきています。

2. 児童クラブの役割

 前記した社会状況の変化等により、労働と子育てを両立したい要求に比例し、放課後に児童を受け入れる施設(以下「児童クラブ」)の設立、拡大を求める声は益々強くなっています。(資料1)これら要求により1997年6月に「児童福祉法等の一部改正に関する法律」が成立し、児童クラブは初めて法制化され、次ぐ1998年4月には児童福祉法と社会福祉事業法に位置付けられる事業となりました。そこで、児童福祉法において児童クラブは、「放課後児童健全育成事業」という名称で、「親の働く権利と家族の生活を守る」だけでなく、「生活等の体験を通し児童の心身の健全な育成を図る」などといった社会的役割を担うことが明記されました。
 この事業の推進に対し、国および自治体は補助、指導、助言など必要な措置をとることが同法により定められているものの、各地域における児童クラブの運営は、必ずしも順調であるとは言えない状況です。その原因の主なものの一つとして、各児童クラブの設立者主体の運営に対する行政的支援が不十分なことが揚げられます。

3. 本県の児童クラブの現状

 ここで、本県における児童クラブの現状を見ることとします。まず、児童クラブへの入所児童数は、平成14年現在、約8,000人で、「放課後児童健全育成事業」の本来対象とする「おおむね10歳未満の児童」でも約6,700人、これは総小学生数の11.3%に該当します。現在の児童クラブの設置状況を考慮すると、児童クラブへの入所を必要とする児童数が、非常に多いことがわかります。
 次に児童クラブの設置についてですが、群馬県においては、平成8年度を初年度とするエンゼルプランを推進させ、平成14年現在の設置率は「小学校数に対する設置率」、「学童保育のある市町村率」についても全国平均を上回っています。しかし、その設置場所についてみると、学校内、児童館内など、公的施設内の設置率は全て全国平均を下回っているばかりか、運営主体別にみても、公立、公営の割合が民営に比べ、極端に低い現状です。(資料2)(資料3)また、同プランにおける平成17年度までの目標学童保育数は、平成14年度数の1.3倍強の270箇所とされており、民営を中心とする運営主体の増加が予想されます。これら現状と、全国的にみた運営主体の変化(資料4)を照合すると、群馬県においては、社会的必要に併せ、設立支援、運営支援を積極的に進め、児童クラブの受入枠を確保し、量的満足度を達成しつつあり、今後はその質的満足度の向上について、計画的に取り組む時期に来ていると思われます。

4. 指導員・保護者をめぐる現状

 児童クラブにおいて直接子ども達と接し、その社会的役割を形にするのは他ならぬ指導員です。一部公立公営の指導員等を除き、その業務は、日常保育・年間行事から資金管理・物品購入、地域・学校との連携にいたるまで多種多様で、業務量も決して少なくはありません。にも関わらず、その雇用は、明確な規準のない中、不安定な運営状態、高額な利用者負担等に左右され安定しない上に、労働条件も決して恵まれているとはいえません。このことは全国の指導員の半数が4年間で入れ替わっている現状からも推し量れます。また、保育依頼者である保護者は、当然の事ながら労働等の社会参加により、児童を学童保育に託しているため、児童クラブの活動に積極的に参加することは困難です。まして、父母会の設立による児童クラブなど、保護者が実質的な運営の担い手となる団体において、保護者の役割を担いきれず、その運営負担から退所を余儀なくされる保護者もいます。そういった中、保護者、指導員など関係者間に、雇用条件、保育上の事故等の紛争が生じることも少なくなく、その際も調停する機関がないのが現状です。
 これら、運営の混乱が多く見られる中、日常保育のみならず、子供の教育のための様々な取り組みなどが十分に行えず、必ずしも児童クラブが担う社会的役割が十分に発揮されているとは言えない状況です。また、父母会など、保育依頼者と雇用者が同一の児童クラブにおいては、指導員の責任、権限が不明確になりがちで、客観性、継続性に欠ける運営を余儀なくされることもあり、その結果、活動内容が「放課後児童健全育成事業」の主旨から、外れることにも繋がっています。
 それら現状の改善に向け、ここではその児童クラブの支援策の内、組織の運営、日常保育に係るソフト面からの支援策について、本県の児童クラブの現状を加味し、提案します。

5. ソフト支援策

 前述した児童クラブの抱える諸問題の解決には、施設の建設、指導員の資質向上・雇用条件改善だけでなく、その運営にかかる財政支援等が必要となります。本県においても、国において児童クラブが法制化され運営費の助成が充実されるよう働きかけるとともに、県費助成による支援を行い、児童クラブの運営強化並びに活動内容の充実を図っているものの、その量的、質的双方の満足度を達成させるだけの、大規模な財政支援、加えて運営主体の異なる各組織の実情に応じた個別の支援策の早急な提唱は、実現困難な現状です。(資料5)しかしながら、この児童クラブの現状を傍観することも叶わず、児童クラブの直面する問題、今後発生するであろう問題に対し、ソフト面からの支援策を提案することとしました。その目的として今回の提案では「業務の効率化」、「予算の健全化」、「情報の共有化」の3つを揚げることとします。

(1) 運営ガイドラインの作成
   運営が混乱している児童クラブの多くは、事業が法制化される前からの運営方法を踏襲しており、一定の規約等はあるものの、労働基準法に基づく雇用契約や、服務規則、保育記録方法などについて明文化されたものが少ない。加えて、入所希望児童数の増加やニーズの変化に、その運営方法が即応していないことも多く見受けられる。そのため、公設公営による児童クラブの運営を一つの目安とし、各団体の目指す運営目標について、ガイドラインを作成し、運営状況の改善に寄与する。

(2) 基本フォームの作成・提供
   現在、事業に関係する要領、要綱に沿った共通する書類等の整備が遅れているばかりか、中には書面による雇用契約を締結していない団体まで見受けられるなど、これら帳票の未整備、整備不足は、運営指導を図る上でも問題である。そのため、運営ガイドラインを踏まえ、整備すべき契約書、規則、帳票について基本(参考)フォームを作成し、必要とする組織に提供し、業務改善指導に供する。また、労働基本法、児童福祉法等、準拠すべき関係法令について、具体的ケースに伴う留意点をとりまとめ、指導員、保護者の意識啓発を図る。

(3) 講習会の開催
   現在、「放課後児童対策実施要項」に基づき、ケアワーカーの選任に必要な研修を計画的に実施しているところであるが、前記した現状下で研修効果を組織的に波及させることは困難な状況である。そのため、臨時雇用指導員を含め、救急救命法、衛生管理、災害対応などの他、パソコン講習など業務効率の向上に関係するものから、日常保育に関する臨床心理に至るまで、保育に必要な要素についての講習を、指導員、保護者を対象に実施する必要がある。指導員の中には保育士等関係資格を有さない方も少なくなく、その資質向上を図る上でも有効と思われる。

(4) 資金貸し付け業務
   多くの児童クラブでは、単年度予算による運営や、保育料の個別徴収を行っているなどの理由から、年度当初の運営費用や、施設改修などの備品購入費用の確保が一時的に困難になることも少なくない。また、本県においては公設民営の団体が多く、設備拡充に対する要求は、通常行政機関に対し行われ、購入備品等の選択は運営主体に中心で行われる。そのため、運営主体により執行される、これら資金に対する貸付を、市町村等を窓口として行い、併せて業務改善、購入備品審査を実施する。

(5) 保育料徴収業務支援
   標準的な40名程度規模の児童クラブにおける予算は、年間1千万円規模にも及び、その保育料の徴収、資金管理に対する指導員等の負担は非常に大きいものである。そのため、行事活動費等、臨時徴収費を除く基本保育料の徴収業務を、一般公共料金と同等に扱えることとし、運営主体からの代行委託により、行政機関から保育料を補助金と併せて運営主体に振り込むなどの支援を行う。

(6) 指導員雇用支援
   上記(5)の支援に併せ、雇用・依頼関係の混乱している団体においては、運営に見合った行政機関で指導員を受託雇用し、指導員給与の支給業務を行い、保育の委託、指導員の雇用の分離を図り、指導員、保護者双方の責任、権限を明確にする。

(7) 活動支援ネットワークの設立
   指導員間での保育に関する学習会等は開かれているものの、活動の研究、情報提供・活用は未だ不足している。そのため、活動支援ネットワークを設立し、各児童クラブでの活動内容等を常時共有するとともに、遊びや読み聞かせなどの体験についてのボランティア情報等を受配信する。運営については、県のみならずNPOなどの機関を活用し、設立後は主旨に則り、柔軟な情報交換を行うこととする。

(8) 実際のメニュー策定について
   各支援メニューの策定は、児童クラブの実質的な運営状況の改善に向けた支援である必要があることから、群馬県教育委員会および学童保育連絡協議会などの関係機関との協議、各児童クラブ代表者等によるパネルディスカッション等、複数関係者の異なった視点から検討する事が望ましい。

6. 最後に

 児童クラブに通う子ども達は、そこを生活を営む場所として学校から「ただいま」と帰ってきます。児童クラブでは、家庭で過ごすのと同じように、休息したり、おやつを食べたり、友達とも遊びます。宿題や掃除をしたり、学童保育から学校や公園、中には塾に行く子もいます。必要とする子ども達にとって児童クラブは「放課後の生活の場」そのものなのです。 小学生期という人格形成上重要な時期に、子ども達がこの「生活の場」において毎日どのような時間を過ごし、経験を重ねるのか。学校が終わり親が迎えに来るまでの間、雨風をしのぎ、空腹を満たし、大人の目の届く所にまとめて置いておくだけでは、良いはずがありません。
 また、「放課後児童健全育成事業」は、必要とされている事業規模および子ども達の自己管理能力の双方を考慮し「おおむね10歳未満の児童」を対象とすることとしています。つまり、児童クラブを出た10歳以上の児童は、基本的には自己管理の元、子どもだけで過ごすことになり、児童クラブはその事を熟慮し、受け入れた子ども達の心身ともに健やかな成長を促すことが社会的にも求められます。
 「子どもを育てるなら群馬県」を県政の目標の一つとしてあげる本県において、児童クラブの質的向上に対し、如何に現状に即した支援策を打ち出すことが望まれるのでしょう。ゆとりを持ち、親と色々な体験を重ねることのできる子ども達だけでなく、すべての子ども達に「よりよく生きる」ことについて、行政の手をより一層差し延べることが、今まで以上に求められるのではないかと思います。


資料1

法制化に伴う児童クラブ(学童保育)の急激な伸び

2002年5月現在の全国学童保育総数      12,825箇所
 (対前年度比       8.4%増)
 (法制化された1997年比 42.1%増)

2002年5月現在の全国学童保育国庫補助総額 6,880,000千円
 (対前年度比       14.9%増)
 (法制化された1997年比 463.2%増)


資料2

表1  都道府県別の学童保育数と設置率

全国学童保育連絡協議会調査(表2~5)
都道府県 学童保育数
 箇所
小学校数
 校
小学校数比設置率 市区町村数
 (A)
学童保育のある市区町村数
 (B)
市区町村設置率
(B/A)
学童保育数の前年比 学童保育のある市区町村数前年比
群馬県
207
355
58.3%
70
55
78.6%
17
10
全 国
12,825
23,964
53.5%
3,241
2,147
66.2%
995
211
(注1)小学校数は2001年5月1日現在。国立・私立含む。本校・分校含む。「文部統計要覧」より。
(注2)市区町村数は2002年4月1日現在。


資料3

表2 設置場所別の児童クラブ数

設置場所
全 国
群馬県
区 分
内 訳
箇所数
 (箇所)
割合
 (%)
箇所数
 (箇所)
割合
 (%)
学 校 内
(小計)
専用施設
余裕教室等
(5,557)
2,109
3,448
(43.3)
16.4
26.9
(66)
32
34
(31.9)
15.5
16.4
児童館内
児童センター等
2,399
18.7
28
13.5
その他公的な施設内
(小計)
公有地専用施設
民有地専用施設
幼稚園
保育所
団地集会室等
(3,268)
1,009
119
148
838
1,154
 
(25.5)
7.9
0.9
1.2
6.5
9.0
(79)
25
20

22

(38.2)
12.1
9.7
1.5
10.6
4.3

民 家 等
民家・アパート
1,179
9.2
29
14.0
そ の 他
神社等
422
3.3
2.4
合  計
12,825
100.0
207
100.0


表3 運営主体別の児童クラブ数

実施形態
全 国
群馬県
箇所数
 (箇所)
割合
 (%)
箇所数
 (箇所)
割合
 (%)
公立公営
公立民営
民立民営
6,262
6,244
319
48.8
48.7
2.5
44
158
21.3
76.3
2.4
合 計
12,825
100.0
207
100.0


資料4

表5 運営主体の変化

運営主体
1997
1998
1999
2000
2001
2002
公 営
公 社 等
運営委員会
父 母 会
法人・個人
そ の 他
50.2
8.3
17.7
15.5
6.4
1.8
50.7
8.1
17.6
14.6
7.2
1.8
50.6
9.6
16.9
14.5
6.9
1.5
48.6
11.6
16.7
13.1
8.5
1.5
49.4
11.5
15.7
12.8
8.7
1.9
48.8
12.1
16.0
11.9
10.1
1.0
合 計
100.0
100.0
100.0
100.0
100.0
100.0

(年)

(%)


資料5

群馬県エンゼルプラン中間年度見直し計画 ~抜粋~

《見直しの視点(詳説)》
(1) 緊急に整備を進める事業(緊急保育対策等事業)の見直しと一層の整備推進
   ●緊急保育対策等事業の整備目標の見直しについて
第4 整備目標の見直しについて
2 各事業ごとの整備目標
5) 放課後児童クラブ設置(学童保育事業)

●現状と課題
  ◇実施クラブ数
    平成7年度 クラブ数  93クラブ → 平成12年度 クラブ数 171クラブ
  ◇課 題
  放課後児童クラブは概ね計画通りに整備されており、これからも事業の実施主体である市町村への働きかけを行います。

●事業目標量
 ◇当初目標
  ・平成12年度末(5か年) 180クラブ(中学校区に1か所程度)
  ・平成17年度末(10か年) 270クラブ(小学校区の4か所に3か所程度)
 →◎見直し目標 (※変更なし)
     270クラブ(小学校区の4か所に3か所程度)
   *なお、最終的には小学校区毎に1クラブ程度を目標とします。

●事業実施上の推進方策
◎ 地域に根ざした運営が図られるよう、小規模クラブへの助成や放課後児童指導員の複数配置、長時間開設加算、賠償責任保険加入等の運営費の助成措置について、一層の充実を進めます。
◎ 施設の新設や公的施設の改修費等に助成するほか、他の補助制度の活用も図りながら施設整備を促進します。
◎ 学校の余裕教室の活用については、学校・教育委員会等との連携を密にします。
◎ 障害児の受入れについての助成措置をさらに充実していくとともに、障害者福祉施策等との連携を図ります。
◎ 児童館、保育所等地域の既存資源を有効に活用し、整備を進めます。
◎ 施設の運営水準の向上のため、放課後児童指導員研修を実施します。