【自主レポート】

東京における児童虐待問題
~児童相談所の取り組み~

東京都本部/児童相談センター分会・児童福祉司 上田 修一

1. はじめに

 児童虐待の問題について社会の関心が広まり、「平成12年」5月に児童福祉法の特別法として、「児童虐待の防止等に関する法律」が議員立法により制定された。
 制定に当たっては、短時間で制定されたこともあって、附則で施行後3年を目途に施行状況等を勘案して検討を加えるとしており、今年の2月に改正され、10月から施行される予定である。
 「平成15年度」に全国の児童相談所で相談処理した虐待件数は、26,573件にのぼっており、児童虐待防止法の施行後も、依然として厳しく保護者や養育者からの虐待が跡を絶ちません。
 児童虐待は、子どもの健やかな心身の発育、発達に深刻な影響を及ぼし、子どもの人権を著しく侵害しています。
 児童虐待の多くは、家庭内で起きており、周囲に気づかれにくいために救済が間に合わず、悲惨な事態になることがしばしばあります。
 虐待ケースの対応で、児童相談所の職権による一時保護や立入調査、及び保護者の意に反する児童福祉施設への入所を家庭裁判所へ申し立てる28条件数も増加、「平成14年度」全国117件、都15件の申し立てをするなど、質的にも困難なケースが増えていることが指摘されている。

2. 児童虐待の現状

(1) 相談件数の推移
   「平成15年度」に全国の児童相談所で処理した児童虐待相談件数は、全国で26,573件で前年度に比べると、伸び率が鈍化したものの、若干増加している。
   東京都においても、「平成15年度」2,206件と前年度に比べて増加している。

(2) 最近の特徴
   身体的虐待が大半を占めていますが、最近は「養育の放棄及び怠慢(ネグレクト)」が増えている。身体的と心理的とかネグレクト等が重なっている事例も多い。
   全国、都での主たる虐待者は、実の父母によるものが8割近い。最近の特色として、精神疾患の疑いがある親による虐待が増加している。
   虐待ケースは他の相談とは違い、虐待の内容、親子どもの状況等で、対応方法が異なる場合が多く、児相のみでは、対応が困難なため、関係機関とネットワークをつくり、情報の共有化を図りながら役割分担をして対処することが必要である。

3. 児童相談所の児童虐待ケースへの取り組み状況

(1) 児童相談所における児童虐待対応の仕組み(資料参照)

(2) 緊急受理会議の招集(所長・児福・心理・相談係長3名以上で構成)協議
  ・子どもの状況把握をするための調査方法と緊急性の有無について検討。
  ・限られた情報のなかで児相がどのような動きをするか?
   (関係機関へ連絡・または訪問して情報の収集・確認等)
  ・すぐに家庭訪問をすべきか、子どもを強制的に保護すべきかの検討

(3) 緊急受理会議後に調査した結果、所内協議
  ・子どもの確認が取れない
   →子どもの安全確認をするための検討
  ・親が児相の訪問、面会を拒否し家庭内の実態がわからない
   → 親にコンタクトが取れる人がいないかどうか再確認
  ・立入調査が必要かどうかの判断

(4) 立入調査が決定されると
   立入の日時等、予想される展開をいくつか想定して立入の執行手順を役割分担を決め、関係者が多い時は、関係者会議をもち周知を図っておく。
   虐待防止法10条による警察官の援助を求める時は、事前に警察に説明し、協力要請をしておく等、立入実施に当たり綿密な準備が大切である。

4. 児童相談所改革

(1) 児童相談所の機能を強化
  ・チーム制の導入、組織的な対応
  ・都内の全児童相談所に虐待対策班の設置
  ・虐待相談等のための窓口の通年開所(児相センターに管理職1名 司3名 心理1名 事務1名の体制)

(2) 地域の中の総合的な相談・支援のしくみの充実強化
  ・区市町村における子ども家庭支援センター、虐待防止ネットワークの設置を促進し、地域の対応力が向上
  ・児童福祉法の改正も見据え、区市町村が一義的相談窓口として十分機能し、児童虐待にも対応できる力量がアップするように支援

(3) 先駆型子ども家庭支援センターの拡充
  ・従来型……49ヶ所(16.4.1現在)
   事業内容
   ① 相談
   ② 在宅サービルの提供(ショートスティ等)
   ③ サービス調整(関係機関との連携と調整)
   ④ 地域組織化(グループ活動の支援、ボランティア育成・活用)
  ・先駆型……3ヶ所(今年度は5~6ヶ所プラス予定)
   従来型の①~④と
   ⑤ 虐待家庭の見守りサポート
   ⑥ 未然に虐待防止するための支援訪問 
   ⑦ 区市町村での養育家庭の啓蒙・普及等の活動
  ◎ 非常勤弁護士の全所配置
   今年度の4月から法的観点から、児童相談所の職員へ助言、指導を行い、必要に応じて対外的な対応等を行う。

≪児童虐待防止法の改正について≫
 ・第1条 「児童の人権侵害である」と明記された。
 ・第2条 親権者でない同居者による虐待を親権者が放置することでネグレクトととらえ、またDVも心理的虐待と定義
 ・第4条 予防発見、子どもの自立支援だけでなく、保護者の指導支援がはいった。また、「民間団体の支援」という言葉もはいった。
 ・第5条 早期発見努力義務の規定で、「関係者」だけでなく「関係団体」つまり学校、病院も義務を負う。
 ・第8条 市町村の義務(安全確認)と児童相談所の義務(安全確認、一時保護)に書き分けた。
 ・第10条 安全確認、一時保護、立入調査等の場合の警察官への援助を規定していた、警察に新たな権限を定めたものではない。ただ、従来の警察権限でやれる範囲ですが、積極的に応ずる形になる。
 ・第11条 保護者指導は第4条と同様に家族再統合だけに限らない。
 ・第12条 面会通信の制限が、28条入所だけでなく、同意入所にも適用。
 ・第13条 児童の支援で、必要があれば保育所等への入所に優先順位を配慮する。

資料1 相談の流れ(虐待の場合)

資料2 虐待相談処理等の全国と東京都の比較

資料3 児童虐待の防止等に関する法律の一部を改正する法律案(概要)

資料4 児童福祉法の一部を改正する法律案(概要)