【自主レポート】
スクールカウンセリングプロジェクト
(SCP)の取り組みについて |
広島県本部/福山市職員労働組合・養護部会
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1. SCPとは何か
(1) SCP配置の経過、背景
市職労養護部会は、小・中学校の保健室で執務する市費養護教諭の部会として、1970年に結成されました。当時、国の養護教諭配置基準は「児童、生徒数1,000人以上の学校に2人配置とする」がありましたが、福山市では市職労養護部会との協議の経過で900人以上の学校に2人配置をしていました。その後、経過措置として生徒数700人以上の中学校、児童数800人以上の小学校が2人配置となり、配置された学校で私たちは子どもたちが元気で学校生活を送れるよう、保健室でやりがいを持って仕事をしていました。しかし、少子化の傾向から配置基準を満たさない学校が年々増えてくる状況に加えて、県の施策による県費養護教諭全県配置事業が順次行われ、市費養護教諭の職場が狭められていくという状況となりました。
また、幼稚園現場では、全国的にも例のない幼稚園への養護教諭配置事業が福山市独自の施策として行われ、1974年には全園に養護教諭が配置されていました。当時は園児数やクラス数も多く、幼稚園における養護教諭の存在意義もありましたが、その後の急激な少子化による園児数の減少に伴い、専門性を生かした仕事ができにくい状況となりました。
(2) 労働組合、養護部会の取り組み経過
児童や生徒が減少したことで養護教諭配置基準を満たさない学校が増えてきたことや園児数減少による幼稚園の業務をどう考えていくのかなど、「私たちはどうなるのか」「どうすればいいのか」部会員の中で不安が広がりました。また、市費養護教諭の配置が年々少なくなり、職場が無くなるというせっぱ詰まった危機感もありました。幼稚園に配置され、私たちは養護教諭としての役割を果たしているのだろうか、専門性を持って働きたい、必要とされているところで働くとはどんなことなのだろうかなどの議論を部会の学習会で何度も重ねました。
中学校現場では、生徒指導が必要な、いわゆる荒れている状況や不登校生徒がいる中学校に、当局との労使協議の中から"課題校配置"という形で数名が中学校に配置されました。配置された部会員はもとより、学校で勤務する部会員はそれぞれ自ら課題を見つけ出すため現場で取り組みを進めました。子どもたちや保護者から求められている新たな仕事を見いだすため、子どもたちの実態や自分たちの実践を交流し、学習会を重ねる中で見えてきたのが、小・中学校における不登校の子どもたちの姿でした。学校に行きたくても行かれなくなり、家で過ごしている子どもたちに関わりたい思いから、部会主催で不登校の学習会も重ねていきました。
その後、幼稚園現場では「養護教諭を幼稚園に配置するだけの仕事は見いだせない」として、当局から全園引き上げの方向が出され年次的に整理されていきました。専門性を生かして働くにはどうしたらいいのか、今、自分たちには何ができるのか、何を求められているのかなど、それぞれの思いを学習会の中で出し合いました。
こうした取り組みの中から、部会と執行部で、教育現場において子どもたちや保護者の願いや思いに応えられる業務についての議論を重ね、その後、当局との労使協議により、労働組合主導で福山市独自の単市施策として、1996年度に全国的にも例のない画期的な「いじめ・不登校にかかわる"スクールカウンセリングプロジェクト"(SCP)」を発足させ、市内の中学校11校に15人を派遣しました。
私たちは派遣された中学校で教職員と連携をしながら不登校の子どもたちに関わることを本務として、不登校の生徒の居場所づくりや生徒や保護者の相談活動などに取り組んできました。SCPが発足した1996年度より、信頼され必要とされるSCPとなるため、「公務労働拡大」の取り組みとして今の教育現場で何が必要かを話し合い、実践を積み上げてきました。現在は市内の配置校を増やしていくことと、福山市全体の不登校の子どもたちへ取り組めるよう、未配置の中学校、小学校への関わりを広げる取り組みをしています。
経 過
1992年度~1993年度 |
教育困難校への養護教諭複数配置
学校の現状から生徒数が基準以下でも配置する。(期間2年) |
1994年度 |
新たな職務の調査研究プロジェクトチーム結成 18人
学校現場から離れての勤務の中で学校における市費養護教諭のあり方の研究するグループと市全体を見渡して新たな仕事を創造し研究する2グループが調査研究にあたる。
課題校配置 4校
配置された中学校で、自ら課題を見つけて取り組む。 |
1995年度 |
課題校配置 6校
これまでの研究・実践の中から不登校生徒を中心に取り組む。 |
1996年度 |
いじめ、不登校にかかわるスクールカウンセリングプロジェクト(SCP)発足
11中学校 15人
12中学校 16人(9月大成館中 新設) |
1997年度… |
13中学校 18人(東朋中 新設) |
1998年度… |
15中学校 22人(東中・鷹取中 新設) |
1999年度… |
17中学校 22人(培遠中・大門中・向丘中 新設) |
2000年度… |
18中学校 24人(中央中 新設) |
2001年度… |
19中学校 23人(駅家南中 新設) |
2002年度… |
20中学校 23人(鳳中 新設) |
2003年度… |
21中学校 23人(加茂中 新設) |
(3) 事業の目的
いじめや不登校の教育相談等の取り組みは、学校・家庭・地域が緊密な連携を図りながら、学校の全教職員体制で取り組む中で、課題克服に努めなければなりません。
SCPはこうした学校体制による取り組みに具体的な支援を行うものであり、取り組みにあたっては、個々の実態にそったより良い対応になるよう、その内容を積極的に創造しています。
(4) 事業の概要
派遣された中学校の相談室に常駐(月曜~金曜 )し、家庭訪問ができる利点を生かして、学校体制の中で教職員と連携しながら生徒や保護者に関わる取り組みをしています。
・相談室に登校できる不登校の生徒への関わり
・家で過ごしている生徒、保護者へ家庭訪問
・適応教室などに通級している関係施設との連携
・生徒(卒業生も含む)・保護者(卒業生も含む)・教職員などの相談活動
・校内での活動
・SCP全体での活動 など
それぞれの派遣校独自の実態に合わせた校内活動・校外活動、校内保護者会の実践を企画したり、SCP全体での活動や行事を行っています。
2. 不登校の実態
文部科学省(以後同省)の学校基本調査によると、2002年度に年間30日以上欠席して「不登校」とされた小中学生は131,211人と前年度から7,511人減少しました。1975年度以来、一貫して増加し続けていた不登校が18年ぶりに減少に転じ、同省は「スクールカウンセラーなどの相談体制や適応指導教室の充実などが成果として表れた」と見ています。年間30日以上の欠席者のうち、病気や経済的理由を除いた不登校は、小学生が2.4%減の25,869人、中学生が6.1%減の105,342人でした。不登校の割合は、小学生では180人に1人、中学生では37人に1人の割合という数字になっています。しかし、「教室に入れない相談室登校や保健室登校などの別室登校者などは出席扱いになっており、不登校の実態を反映していない」と指摘する声も多くあり、今後も減少傾向が続くかどうかは不透明です。
年 度
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小学校
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中学校
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2000
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26,373
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107,913
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2001
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26,511
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112,211
|
2002
|
25,869
|
105,342
|
年 度
|
小学校
|
中学校
|
2000
|
797
|
2,905
|
2001
|
801
|
2,988
|
2002
|
821
|
2,982
|
年 度
|
小学校
|
中学校
|
2001
|
135
|
479
|
2002
|
129
|
483
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3. 国、県の不登校への対応状況
不登校対策として、文部科学省(以下「同省」)は1996年度から5年計画で3学級以上の全中学校にスクールカウンセラー(以後SC)を配置したり、心の教室相談員を配置してきました。2002年度に同省が設置した「不登校問題に関する調査研究協力者会議」(以後、研究者会議)は、「待つばかりでは改善にはならない、子どもの状況に応じた働きかけが重要である」と報告しました。さらに、「研究者会議」は1992年の「研究者会議」での「学校への促しは状況を悪化させる」という報告を「誤った理解をし、働きかけを一切せずにいると学校への復帰の時機を失う」と指摘し、「適切な時機を見極め、登校を促すことが必要である」と11年ぶりに考え方を大きく変えました。
また,教育委員会が子どもたちの学校復帰をめざして設置している適応指導教室の充実や実績のある民間施設との連携も提言しています。今後、同省は学校や児童相談所適応教室などと総合的地域ネットワークとするスクーリング、サポート、ネットワーク(SSN)事業を進めるとしています。
広島県では、2001年からSC配置が国から県の事業へと移行されました。昨年度は県費SCを県内で118校に配置すると共に、不登校を含めた問題行動の半減を目的とした生徒指導重点校を設けています。2004年度は新規事業として県内20校を不登校対策実践指定校とするとしています。同省からの通達による地域支援体制(SSN)の強化の方針で、学校、家庭、関係機関との連携を図るよう、不登校対策の予算が組まれています。さらに、小学校段階からの不登校防止のため、非常勤講師140人を採用し少人数指導に当たらせ、学習の遅れによる学校嫌い解消をめざすとしています。
この事業により、広島県は県費SCを福山市内19校(2003度)に配置するとともに、生徒指導重点校、生徒指導研究推進校を指定し教員を加配するなどの不登校対策をしていますが、単年度毎の事業となっています。
4. 現在のSCPの活動状況
(1) 派遣された中学校で担任や教職員と連携をとりながら
・不登校の生徒や保護者への家庭訪問
・登校はできるが、教室までは行かれない生徒(相談室登校生徒)への対応
・外出することへの抵抗感を少なくしたり、人との関わりやいろいろな体験の場を提供することを目的とした校外や校内活動の計画・実施
・相談室独自のたよりの作成・配布(生徒用、職員用 毎月配布 )
・全生徒・保護者を対象にした一般相談
(2) SCP派遣校21校全体では
年間を通して、キャンプ、ボウリング、芋掘り、調理活動、スポーツなど様々な活動や講演会、座談会、保護者会などを行っています。
(3) 福山市全体に関わるために
現在、SCPが配置されている21中学校にとどまらず、福山市内の不登校の子どもに関わりを広げる取り組みとして、市内全小学校、中学校の教職員にSCPの広報であるSCPだよりを年4回配布しています。それぞれの学校への担当SCPが未配置の学校を訪問し、学校を通じて不登校生徒への家庭にもSCPの情報が届くよう配布もお願いしています。管理職や不登校担当者にSCPの説明をする中で、不登校の子どもへの関わりにつながっています。
(4) SCPの専門性や力量を高めるための研修を積み重ねています。
(5) 不登校の生徒が元気に学校復帰をするため、市職労の関係部会・支部と連携し、福山市行政内の各部門との横のつながりを密にするネットワークづくりをめざしています。昨年度は、市職労福祉児童支部との連携により、生活福祉課のケースワーカーと交流し、子どもたちへの取り組みがよりスムーズにいくようになりました。
以上のようなことを日々、実践する中で、「家に閉じこもっていた生徒が外出するようになった」「相談室に登校し始めた」「教室で授業が受けられるようになった」など子どもたちが元気になってきました。保護者からは、「不登校の子どもの親の気持ちを聞いてもらえ、気持ちが楽になる」「気持ちが安定して子どもへの接し方が変わった」「学校に行けるようになりうれしい」「SCPが常駐なので安心、学校に安心してすごせる場所がある」などの声が聞かれるようになりました。
また、小学校や未配置中学校の保護者や教職員からの相談や全体行事への参加も増えてきました。こうした取り組みを積み上げる中で、年々、配置校が増えてきており、私たちは、市費養護教諭・SCPとして、専門的に不登校の子どもたちに取り組んでいこうという使命感を持って日々がんばっています。
年度
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取り組み件数
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何らかの形で登校し始めた生徒数
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復帰率(%)
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1999
|
249
|
164
|
65.9
|
2000
|
258
|
168
|
65.1
|
2001
|
283
|
204
|
72.1
|
2002
|
274
|
198
|
72.3
|
1999年度
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2000年度
|
2001年度
|
2002年度
|
2,930回
|
2,766回
|
2,671回
|
2,484回
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5. SCP事業の課題
SCP事業が発足した当時の職名(養護教諭)のまま現在も勤務しており、職名と職務内容が一致していない状況があります。利用する保護者や教職員などの立場に立ってみると、専門性を持って取り組んでもらえるのか、どういう立場の職員なのだろうかという印象を与えるのではないかと考えます。専門性を持って取り組んでいるというアピールのためにも職名と職務内容の確立を23人の部会員が部会として要求し続けています。
6. 今後の活動方針
福山市内の不登校の子どもたちに関わりたいという思いで、配置校はもとより配置校以外の学校にも取り組みを広げています。子どもたちのために何ができるか、相談したいと思っている人に安心して利用してもらえるようにするためにはどのようにすればいいのか、利用する子どもたち・保護者の立場に立って考え、誰からも相談しやすいSCPの組織でありたいと考えて日々取り組んでいます。
年々、不登校の子どもたちの様子も多様化してきています。それに加えて、グレーゾーンと言われる気になる子どもたちも含め、子どもたちの状況に対応していくため、専門的な研修を積み上げ、SCPの特色である、学校に常駐・家で過ごす生徒には家庭訪問をすることも継続していきながら、SCPのさらなる組織の充実にむけて取り組んでいかなければなりません。
さらに、福山市職労の労働運動としての組織の中で、他部会・支部との横のつながりを広げ、相談内容によっては、専門職やスケールメリットを生かし、より良い相談場所の紹介や情報を提供し、安心して相談できるシステムやネットワークづくりも始めています。
養護部会の活動方針の中にある、「一人ひとりが生き生きと働き続けられるよう、支え合える部会である」と共に、「みんなで課題を出し合い、結束を持って子どもたちのために行動する」ことを全員で確認しています。
今後も、私たち福山市職労養護部会は、SCPスタート当初に労働運動として議論し、実践を積み上げた原点を忘れず、子どもや保護者、教職員から必要とされる職員であり続けるため、「公務労働拡大の視点で、何が求められているのか」「福山市の公務サービスとして行政にどう位置付いていくのか」を見据えながら現場実践を積み重ねていきます。
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